自分のエゴを突きつけても、せっかくの感性をつぶしてしまう
C:デザイン画や3Dモデルが上がってきた後で、「ここを直してほしい」といったリテイクを出すことはありましたか?
林:キャラクターデザインに関しては、あまりリテイクを出しませんでした。作品のコンセプトから外れていなければ基本的にはOKとして、アーティストの感性を最大限に活かしたいと思っていました。僕はアートディレクターではないので、自分のエゴを突きつけても、せっかくの感性をつぶしてしまうだけです。企画書に書いたコンセプトが反映されていれば、あとはアーティストたちに委ねることを心がけました。
C:作品のコンセプトは、どうやって共有したのでしょうか?
林:基本的には企画書で伝えました。作品のテーマに加え、キャラクターごとの行動理念やゲーム内での役割、各キャラクターを象徴する宝石や、守護者を象徴する動物を伝え、それを基にデザインしていただきました。例えば主人公の零の場合は、泣いて強くなるキャラクターなので、庇護(ひご)欲を駆り立てられる要素がほしいとお願いしました。ほかに、一見すると弱々しいけど、芯は強いから目はらんらんと輝いている。ゴシックな雰囲気で、象徴する宝石はアクアマリン、動物はユニコーンといったことも伝えました。そうしたら、リウイチさんは白髪が好きだから「白髪ですね」とおっしゃり、僕は「どうぞ」とうなずきました。
C:そこは「リウイチ・ブランド」が入ってきたわけですね。
林:はい。「爪の色は黒くしたいです」「どうぞ」というやり取りもありました。
C:おもいしろい(笑)。そういった林さん、リウイチさん、ntnyさんらの化学反応を経て、ヒロインたちのデザインが決まっていったわけですね。
▲ntny氏によって描かれた不動寺 小衣のデザイン画。画像内の左は私服、中央と右はバトル用のコスチューム
▲【左】同じく、小衣のデザイン画/【左】前述のデザイン画を基に制作された小衣の3Dモデル
▲小衣の3Dモデルのターンテーブル
林:インタビューの最初でも言いましたが、作品を通してユーザーに提供したい体験が担保されており、各キャラクターがその役割を全うできるのであれば、餅は餅屋に、キャラクターデザインはキャラクターデザイナーにお任せして、高いモチベーションでもって、その美意識を活かしていただくことを重視しています。エネミーキャラクターの大半と、零の愛犬のセレマ、DLC(ダウンロードコンテンツ)の水着(零と千)などのデザインはジェムドロップのアーティストの方々に依頼しましたが、本作のコンセプトや世界観とすごく親和性の高いものを提案してくださいました。だから僕は「すごいですね。素敵ですね」って言い続けるだけで仕事が終わりました(笑)。
C:コンセプトに対する理解力のあるデザイナーに依頼できれば、以後の開発はスムースに進むというわけですね。お話いただき、ありがとうございました。
前編は以上です。後編では、本作の開発を担当したジェムドロップへの取材の模様をお届けします。ぜひお付き合いください。
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