>   >  どこに行けば、キャラクターをつくれますか?:No.10(前編)>>バンダイナムコスタジオ
No.10(前編)>>バンダイナムコスタジオ

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モーションキャプチャを使いつつ全フレームの動きを調整

C:モーションキャプチャの頻度はどのくらいですか?

吉武:「コミュニケーションパート」は2∼3ヶ月に1回、「ダンスパート」は月1回のペースでやっており、どちらも複数モーションをまとめて収録します。「ダンスパート」の場合はダンスとそれに付随するスペシャルアピール(※3)をセットで収録します。収録作業とその後の処理はモーションキャプチャの専門スタッフがやってくれますが、アクターさんやダンサーさんに対するディレクションと、当日の進行管理、後日のアニメーション制作はわれわれの仕事です。

※3 リズムゲーム中、フルコンボ状態でスペシャル音符をタッチすると再生されるアニメーションのこと。MVには入っておらず、リズムゲームをプレイした場合にのみ見ることができる。

遠藤:モーションキャプチャは収録前のキャリブレーションなどの準備に1時間ほどかかりますが、ダンスの尺は長いものでも3分未満なので、順調にいけば1曲あたり1∼2テイク、10分程度で終わります。

C:吉武さん、遠藤さん以外のアニメーターも、モーションキャプチャに立ち合うのでしょうか?

吉武:アクターさんやダンサーさんに対するディレクションは、主に遠藤と自分が行なっています。ただしモーションキャプチャ当日は、担当アニメーターも同席する場合が多いです。収録にはお手伝いしてくれる人手が必要ですし、後で自分がアニメーション制作をするにあたり「こうやっていただいた方が都合がいい」といった意見は積極的に言ってもらうようにしています。

遠藤:ダンサーさん、アクターさんの動きをデータだけで見るよりも、実際の動きを収録時に見ておいた方が、何を表現するべきなのかをしっかり判断できます。「これはまずいから、収録段階で解決しておこう」といった判断や提案が先行してできるようになることも、アニメーターとしての強みになると思います。特にモーションキャプチャに関わるようになると、アニメーションのテクニックに加え、アクターさんやダンサーさんに伝える力が成功を左右するように思います。

C:先ほど、『ミリシタ』にはアイドルひとりに対し、10着以上の衣装が用意されているとお話していましたが、衣装が変わればめり込み範囲も変わりますよね。それにともなうディレクションやアニメーション制作の苦労はありますか?

遠藤:相当あります(苦笑)。おっしゃる通り、同じアイドルでも衣装が変わればめり込み範囲も変わります。加えて、ひとつのダンスアニメーションを複数のアイドルに適用するケースも多々あるので、髪の短いアイドルなら問題ないけれど、髪の長いアイドルに適用するとめり込んでしまうといったこともよく起こります。それらの起こり得る問題を事前に把握し、モーションキャプチャの段階で解決しておいた方が、後のアニメーション制作が楽にはなります。

吉武:とはいえ「52人全員に適用しても破綻しない動き」を最初から目指してしまうとすごく制限が大きくなるので、ある程度は気にしてもらいつつも、いったんは自由に動いてもらうようにしています。めり込みに関しては衣装をデザインする段階から考えられていて、破綻しやすい衣装はあまりつくらない方針になっています。

遠藤:基本的にはダンスとして良いものを踊っていただき、後でアニメーターががんばってブラッシュアップするというながれになっています。

吉武:その点は「コミュニケーションパート」も同様ですね。芝居としていい動きをしていただき、破綻している部分はアニメーターが後で直します。

▲「スペシャルアピール」のアニメーションを制作中のMayaの画面


▲MV「Melty Fantasia」のアニメーション。左はモーションキャプチャの収録データ(ポスト処理済み)を流し込んだもの。右は前述の収録データを遠藤氏がブラッシュアップしたもの。モーションキャプチャでは指先の動きを収録していないため、当日撮影した参考映像(正面と側面の2方向から撮影)とディレクション時の記憶を基に、遠藤氏が手付けしている。そのほかにも全身の関節の角度や向き、重心の位置、動きのタイミング、頭に対する手のめり込み、床に対する足の接地などが細かく調整されている点に注目してほしい


C:本当にがんばって調整なさっていますね。どのフレームで止めて見ても、右と左とではどこかがちがっていて、なおかつ右の方が画になるポージングになっている点に驚きます。動きのタイミングも、右の方がメリハリがあるので見ていて気持ちがいいですね。アニメーションを制作する中で、モーションキャプチャの収録内容と全然ちがう動きに変えてしまうことはあるのでしょうか?

遠藤:ありますね。手の位置を変える程度の変更であれば、日常的にやっています。「ゲームの中に入れてみたら、思ったより地味だった」、「アイドルに適用してみたら、思ったよりバランスが悪かった」などの理由で変更することが多いです。あまりに大がかりな変更の場合はその部分だけモーションキャプチャをやり直しますが、ちょっとした変更であれば手付けで直します。

吉武:先ほども申し上げたように、現実世界の人間と『ミリシタ』のアイドルとではプロポーションがかなりちがうので、全部のフレームで万遍なくバランス調整をやっています。伸びやかな動き、キレのある動きといったモーションキャプチャのうまみは残しつつ、手を加えていくことが重要です。

遠藤:リハーサル、モーションキャプチャ、アニメーション制作という工程を経ながら、頭の中で思い描いた理想のアニメーションへと段階的に近付けていくことがわれわれの仕事です。それと併行して、めり込みなどの破綻が起きていないかのチェックもしていきます。

吉武:とはいえ『ミリシタ』の場合はアイドルも衣装も数が多いので、全てのチェックをアニメーターだけで行う余裕はありません。破綻が起きやすいアイドルや衣装は絞られているので、最低限のチェックはアニメーター自身で行い、それ以外のチェックはテスターさんにお願いしています。

C:膨大な組み合わせの破綻チェックを、テスターさんたちがしらみつぶしになさっているのでしょうか?

吉武:はい。細かい所まで丁寧に確認してくださっています。

遠藤:「いける」と思ってテスターさんにお渡ししても「この部分で手が刺さっています」といった報告が返ってくることもよくあります。

C:髪や衣装などの揺れ物、リップシンク(楽曲や音声に合わせた口パク)、フェイシャルアニメーション(喜怒哀楽の表情付け)は別の方が担当するのでしょうか?

吉武:そうです。『アイマス』シリーズの場合は、身体と手、揺れ物、リップシンク、フェイシャルアニメーションをそれぞれ別のチームが担当しています。タイトルによっては、1人のアニメーターが全部を担当する場合もあります。

C:もし担当するタイトルが変わったら、吉武さんや遠藤さんも身体と手以外のアニメーションも付けることになるのでしょうか?

吉武:その可能性はあります。ただ、揺れ物は物理シミュレーションで制御する場合が多いので、アニメーターが全部を手付けするケースは少ないです。物理シミュレーションだけでは思うような表現ができない場合には、部分的にアニメーターが手付けして、両者を混ぜて使います。例えば動物の尻尾の動きなどはアニメーターが手直しすることが多いですね。

C:指先のアニメーションは特にアニメーターの技量が問われるように思いますが、いい動きを付けるために気を付けていることはありますか?

遠藤:細かい仕草はリハーサルやモーションキャプチャのときによく見るようにしています。動きが速すぎてよくわからない場合は、ダンスのモーションキャプチャの後で手の動きだけゆっくり再現してもらい、それをビデオで撮影して参考にしたりもします。さらに動きの構造を理解するため、自分の手で再現してみることもあります。アニメーターの仕事はダンサーの動きを完全にコピーすることではないので、動きの意図と構造を理解して、それが伝わるように指の表情やタイミングを調整することを心がけています。

吉武:余談になりますが、日常芝居や格闘ゲームのアニメーションの場合は、アニメーター自らがアクターになってモーションキャプチャをすることもあります。仕様やアニメーションのことを理解しているので、意外といい動きを収録できます。実際、『ミリシタ』の開発初期にはアニメーターのひとりがアクターになり、テスト用のアニメーションを収録しました。

カメラワークも意識して、アイドルが最高に輝く動きを追求

C:「ダンスパート」のカメラワークも別チームの担当ですか?

吉武:はい。映像開発課という演出に特化したプロフェッショナル集団が担当します。ダンスのアニメーションがある程度できたら、そのデータを映像開発課に渡し、カメラワークを付けてもらいます。そのカメラワークを踏まえ、さらにアニメーションをブラッシュアップします。アニメーションとカメラワークは密接に関係しているので、両チームが小まめに相談しながらつくるよう心がけています。

▲前述のMV「Melty Fantasia」の制作途中のアニメーションにカメラワークを付けたもの。このカメラワークを踏まえ、さらにアニメーションがブラッシュアップされる。併行してリップシンク、フェイシャルアニメーションなども制作され、「ダンスパート」が仕上げられていく


▲MV「Melty Fantasia」の完成映像。3体の「ミリシタモーション作成用標準モデル(通称あかねちゃん)」が、本楽曲を歌う3人のアイドル(「白石紬」、「真壁瑞希」、「北沢志保」)に置き換えられている


遠藤:家庭用ゲームの『アイマス』シリーズでは「プロデューサー」が比較的自由にカメラを制御できるので、どのカメラで映してもアイドルがかわいく見えるようチェックしていました。『ミリシタ』の場合は家庭用ゲームよりはカメラの位置や数が制限されていますが、どこから見てもおかしくない動きになるよう心がけています。『ミリシタ』ではスマホを縦画面にしてお気に入りのアイドルひとりにフォーカスする「ソロライブ」という機能があって、この機能を使うと高頻度でアイドルの全身が映されるので、常に気が抜けません(笑)。

吉武:確実にクロースアップで映されることがわかっている「スペシャルアピール」のアニメーションでは、カメラワークを意識した調整をいつも以上に厳密にやります。アイドルが最高に輝く動きにするため「顔がちゃんと映るよう手をずらす」「一番かわいく見える角度になるよう顎を引く」といった調整をやっています。

遠藤:同じ楽曲の「スペシャルアピール」でも、縦画面の場合と横画面の場合ではカメラに映る範囲がちがうので、どちらで見てもバランスよく画面に収まるようチェックすることも大切です。

C:カメラに合わせてアニメーションを調整する場合もあれば、アニメーションに合わせてカメラを調整する場合もあるのでしょうか?

吉武:はい。どちらを調整するのが最適か、最高確認会で相談しながら決めていきます。

C:「最高確認会」とは何ですか?

吉武:『ミリシタ』のライブ表現が「最高」であることを「確認」するための「会」です。

遠藤:より「最高」を目指すことを「確認」するための「会」でもあります。

C:............意気込みが伝わるネーミングですね。



前編は以上です。後編では最高確認会の全容や、13人ライブをはじめとする『ミリシタ』のこだわりをお伝えします。ぜひお付き合いください。
(後編の公開は、2018年7月31日(火)を予定しております)

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