<2>セル調CGは"停滞"に近づいている?
――「このままじゃイカンな」とは、どういうことでしょうか?
松浦:お客さんの反応が真っ二つであるということから、今のセル調CGの方向性には価値がある反面、それは"完成"、ひいてはそれが"停滞"に近づいているのではないかと。であれば早く新しい画づくりに取りかからないといけない。もちろん、セル調CGが作画アニメのように見えることはまだまだ重要だし、僕らは現時点ではセル調でつくるのが最も得意なわけですが、セル調・リミテッドアニメーションではない、より新たな画づくりを開発しないといけないと確信しました。
もちろん、セル調は今後もずっと続けていこうと思いますが、今後フラッグシップというか、CGのアニメーションに慣れた新しいお客さんに対して、僕らが育てていく新しいジャンルといえるような作品を開発しなければいけない。さりげない質感とかさりげない動きとかですね。それでいて、観ていて飽きないもの。ピクサーは、3DCGというまったく新しいジャンルを創り出しましたが、そういう意味で僕らも新しいアニメのジャンルを創り上げる必要があります。
- さらに今後、色々なところがCGアニメをつくると思いますが、そうするとお客さんもどんどんこのルックに慣れてくると思うんです。僕らは確かに手描きアニメっぽさをねらっているし、リスペクトもしているけれども、お客さんにとっては、良いものであればセル調に必ずしもこだわらなくてもいいという考えに至ると思います。そこにまたチャンスがあるはずなので、僕らがそこをちゃんと開拓していかないと。今のやり方は10年ももたないですから、やがて転換期がくるのかなと思っています。
――また一方で、松浦社長が社内で推進している2Dデジタル作画という取り組みもありますが、これについての見通しをお聞かせいただけますか?
松浦:デジタル作画は放っておいても増えていきますよ。良し悪しではなく、そうとしかならないでしょうね。サンジゲンのデジタル作画スタッフには「どんどんガラパゴス化してください」と言っています。どこの会社とも合わせる必要なく自由なイマジネーションでやってほしい。そして現在もデジタル作画のスタッフを集めています。そこで重要なのはこれまでの経験値ではなく、デジタルで描くことに抵抗がない人。つまり、自分で原画とか動画とか色を付けることとかの作業にセクショナリズムを設けない人。この考えって、3DCGアニメーター的なんですよ。だからサンジゲンみたいな組織に合うんですよね。
――デジタル作画のメリットについてもう少し詳しく聞かせていただけますか?
松浦:まず3DCGアニメーションとのデータの親和性があります。スキャンをする必要なく、描いた画がすぐにサーバに上がって全スタッフで共有できます。このあたりは3DCGでの工程と同じになってきています。
アニメーター側の話では、サンジゲンのデジタル作画チームは4人だけで『うーさーのその日暮らし 夢幻編』の第12話をつくり上げ、彼らは大きな自信をつけました。自分たちでスタッフとしての価値も高めました。これは大きいですよ。さらにギャランティについても、動画マンにとっては平均の3~4倍の額になります。これだけでもデジタル作画に移行する理由になるでしょう。ただ、こうやってたくさん人を採ろうとするながれもそんなに長続きはしないはずなので、移動するなら早くした方がいいと思います。さらにサンジゲンのデジタル作画スタッフはどんどんメンバーも増やしていきますし、外のプロダクションにも出向してもらい、サンジゲンで培った技術を広めています。
▲CGWORLD(vol.209)でもサンジゲンのデジタル作画部を取材(詳細はこちら)
――今後は3DCGを使っていた方でも、デジタル作画を駆使する人が出てくるかもしれませんね。
松浦:ええ、どんどん使えばいいと思いますよ。特に僕らはセル調やっているわけですから、自由に使って自分のカットを成立させればいいと思います。アセットはCGで作成した方が効率的なので、それをわざわざ全部描くのはナンセンスですけど、エフェクトだってつくるわけですから、自分で描いた方が効率が良いのであれば自由に描けばいいと思います。CGを使ってデジタルで描いて、コンポジットまでやって、大きなタイトルで多くの人が見てくれる作品に関われる方が、クリエイターとして楽しいですよね。
――サンジゲンはこれまでの作品において作画アニメ出身の監督を招聘されてきましたが、今後はデジタル作画育ちの監督というかたちも念頭に置いていますか?
松浦:そうですね。でもまずはCGアニメのディレクターが演出作業もできるようにしていこうと思っています。そうすることでチェック工程がひとつ減りますし、他のプロダクションやCGをやっている人とも差別化もできます。「サンジゲンのCGディレクターは演出もできるんだ!」と言われるようにしていきたいですね。
今、制作する中で学んでいると思いますが、今後の作品も含めて演出も勉強させていこうと考えています。そうした人的な投資やキャリアパスの形成というのも会社という組織形態だからできることです。フリーランスだとそうはいきませんから。これまで手描きの方は、ほとんどがフリーランスのスタッフなので、監督もフリーランスでよかった。だけど、僕ら3DCGは組織的につくっているから全部内製の方が効率がいいし、そういう傾向になっていくと思います。
もちろん競争率は高いです。売れるものをつくる才能も必要です。そこにジレンマもありますけど、CGをやっている人の中から監督が出てきてほしいしデザイナーも出てきてもらいたいですね。
――ずっと中にいればコミュニケーションの積み重ねもあり、それが制作に反映されるでしょうし。
松浦:そう。何が得意で何が不得意か、人のクセ(趣味嗜好)というのもわかります。アニメ制作って単に人がいればできるというものでもないですから。もちろん不得意な人にも挑戦させて徐々に底上げしていきますが、強引にやっても上手くいかないし、現状においては気長に待っています。それに、まだまだ社外に素晴らしい監督もいらっしゃるので。
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