INTERVIEW_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numarkua(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

『009 RE:CYBORG』、『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』と、アニメCG(3DCGによるセル調の表現)を磨き上げ、一般のアニメファンからも熱い視線を浴びるサンジゲンのオリジナルTVアニメ『ブブキ・ブランキ』が現在放送中だ。

▲「ブブキ・ブランキ」プロモーションビデオ | 2016年1月9日(土)より放送開始 @bbkbrnk #ブブキ

そのキレ味鋭く作画と見まごうばかりの映像表現が毎週、まさに現在進行形で展開している。その制作にまつわるお話について松浦裕暁代表取締役社長に伺ったところ、ルック表現の意識から世界に向けてのビジネス展開、そしてデジタル作画時代のアニメーター像まで、広い視座での発言が飛び出した。

<1>念願だった自社オリジナル企画

――1月から放送開始された『ブブキ・ブランキ』(以下、『ブブキ』)は、サンジゲン創立10周年を記念した初のオリジナルアニメ企画になりますね。オリジナル企画には以前から関心がありましたか?

松浦裕暁氏(以下、松浦):はい。考えていました。やはり企業としては自社のIP(Intellectual Property/知的財産)を持ちたいという思いはありました。この規模で人材を抱えていくには、下請けとして仕事を待つのではなく、仕事をつくれる立場にならないと長く続けるのは難しい。同じ仕事をするのであれば自社のIPを持つ仕事を選んだというわけです。

サンジゲンという集団は数人で始めて下請けの仕事を通じて、キャラクターアニメーションというアイデンティティを出してきました。そうした積み上げが『009 RE:CYBORG』(2012)、『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』(2013)(以下、『アルペジオ』)というチャンスになったわけです。いわば自分たちでチャンスをつくった自作自演な部分はあります。こうなったらいいなと積み上げて結果的に今回オリジナル作品をつくったのは絶妙なタイミングではありますが、そこはチャンスがきたらいつでも挑戦できるよう、積極的にねらってきた結果なのだと思います。

――『ブブキ』の企画はどのようにして成立したのでしょうか?

松浦:実は『ブブキ』は自発的に生まれた企画ではないんです。この作品でアニメーションプロデューサーを務める平澤(直)が当時、別の会社にいて、そこで小松田(大全)監督とメディアファクトリーの田中信作さんらと企画をつくっていたんです。ただ、作画のアニメで成立させるのが難しそうで、3DCGという選択肢を考えたいと相談されたので、僕らも企画開発から参加させてもらうことになりました。しかも当時、小松田さんから『アルペジオ』を観て感激したという、手書きのお手紙までいただいたんですよ。

――熱いお話ですね! そして『ブブキ』も小松田監督らしさを打ち出してつくっていこうと。

松浦:そうですね。過去をふり返ってみると、20年以上生き残っているアニメってほとんどロボットものなんですよね。でも一方で『ガンダム』シリーズ以外はあまり売れてないという現実もあり、そこは悩ましいところではありましたが、オリジナルでやるならやっぱりロボットアニメをやりたかった。もちろん小松田さんのやりたいことを僕らも聞きながら制作していきました。

――サンジゲンは『アルペジオ』でTVシリーズアニメの制作経験がありますが、そこからの積み上げは?

松浦:もちろんあります。当時スタッフに言ったのは「初めてだし、どうせ僕らはスマートにつくれないんだから失敗してもいいし、転がりながらゴールすればいいんだよ」と。結果的には擦り傷だらけで、現場はすごく大変でしたが(苦笑)。ただ、制作中に放送された話数に対する反応をリアルタイムに見ていたことで、良い物をつくるとお客さんの反応が良いのだと肌感覚でわかったのは、スタッフにとっても大きな経験になったと思います。

それとチームワークですね。ひとりがどんなに良いアニメーションをつくれたとしても、TVシリーズはつくれないとわかったこと。そして、世の中にインパクトを与えるにはやっぱりTVシリーズが一番いいです。それを実現するには組織でつくる必要があり、その過程では、若手のサポートも行なってみんなでつくり上げる必要があります。そうした『アルペジオ』での経験は『ブブキ』にも活きていると思います。

© Quadrangle / BBKBRNK Partners

――『アルペジオ』以降、世間ではセル調3DCGの認知度がどんどん高まっている現状もあります。自分たちがつくっているものがどのように見られているか、世間的な時流といったものは何か感じていますか?

松浦:サンジゲン以外の会社がつくっているセル調3DCGを見ると、大変そうだなぁと思います。会社間も仲が良いので、どのくらいの人数でどんな予算でつくっているかがわかるんですよね。逆に自分の会社の方が見えていなかったりして(笑)。僕らはセルアニメの(アナログの作画的な)ルックでつくっているのですが、これは従来のアニメファンに訴えるルックというだけでなく、リアル系のCGに比べてライティングとかのコストを削減することにも繋がっているんです。そして、その分を造形やアニメーションに費やしているわけです。

現在つくられているスタジオはどこも素晴らしいと思いますが、本当に大変なのはこれからセル調3DCGに参入してくるところでしょう。その会社は否が応でもお客さんから、サンジゲンや『シドニアの騎士』をつくったポリゴン・ピクチュアズと比べられることになります。もし僕に今この状況で新規参入組織をつくれと言われたら尻尾を巻いて逃げちゃいますよ(笑)。そのくらいプレッシャーのかかる状況だと思います。

でも、もしCGでTVシリーズをつくるのであればサンジゲンと一緒にやる方が効率がいいと思います。そこで培うノウハウというものはサンジゲンだけで独占できるというものではありませんから、お互いにメリットはあると思いますよ。

――ポリゴン・ピクチュアズ(以下、PPI)はNetflix(ネットフリックス)を通じて海外市場に向けた配信を行なっていますが、こうした海外の市場についてはどのような考えをお持ちでしょうか。

松浦:海外市場はもちろん重要だと考えています。クリエイティブな話をすると、日本のアニメは世界に評価されているので、日本で売れる作品=世界で勝負できる作品と考えています。すでに海外配信も行なっているので、事実上、僕らは日本市場に向けてつくり、それを輸出しているという状態です。

一方で別の問題として世界市場に向けてつくるかどうかということがあります。例えば『アナと雪の女王』(2014)のように、世界中の一般的なお客さん(ファミリー層など)に向けてつくる作品とういう方向性もあるでしょう。でもそれが最も難しいんです。

サンジゲンのスタッフがアメリカのスタッフに聞いたところによると、世界で観ている『ブブキ』の視聴者も日本のユーザーと同じように、「CGでこんな画面をつくるのがすごい」と「なぜ作画っぽい画づくりをわざわざCGでやるのか」といった意見に二分されているんだそうです。そう考えると僕らのセル調へのこだわりは武器でもあり、それに偏りすぎてもよくないのかもしれないのかもなと。"このままじゃイカンな"と肌感覚で思ったんですよ。

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<2>セル調CGは"停滞"に近づいている?

――「このままじゃイカンな」とは、どういうことでしょうか?

松浦:お客さんの反応が真っ二つであるということから、今のセル調CGの方向性には価値がある反面、それは"完成"、ひいてはそれが"停滞"に近づいているのではないかと。であれば早く新しい画づくりに取りかからないといけない。もちろん、セル調CGが作画アニメのように見えることはまだまだ重要だし、僕らは現時点ではセル調でつくるのが最も得意なわけですが、セル調・リミテッドアニメーションではない、より新たな画づくりを開発しないといけないと確信しました。

もちろん、セル調は今後もずっと続けていこうと思いますが、今後フラッグシップというか、CGのアニメーションに慣れた新しいお客さんに対して、僕らが育てていく新しいジャンルといえるような作品を開発しなければいけない。さりげない質感とかさりげない動きとかですね。それでいて、観ていて飽きないもの。ピクサーは、3DCGというまったく新しいジャンルを創り出しましたが、そういう意味で僕らも新しいアニメのジャンルを創り上げる必要があります。

  • さらに今後、色々なところがCGアニメをつくると思いますが、そうするとお客さんもどんどんこのルックに慣れてくると思うんです。僕らは確かに手描きアニメっぽさをねらっているし、リスペクトもしているけれども、お客さんにとっては、良いものであればセル調に必ずしもこだわらなくてもいいという考えに至ると思います。そこにまたチャンスがあるはずなので、僕らがそこをちゃんと開拓していかないと。今のやり方は10年ももたないですから、やがて転換期がくるのかなと思っています。

――また一方で、松浦社長が社内で推進している2Dデジタル作画という取り組みもありますが、これについての見通しをお聞かせいただけますか?

松浦:デジタル作画は放っておいても増えていきますよ。良し悪しではなく、そうとしかならないでしょうね。サンジゲンのデジタル作画スタッフには「どんどんガラパゴス化してください」と言っています。どこの会社とも合わせる必要なく自由なイマジネーションでやってほしい。そして現在もデジタル作画のスタッフを集めています。そこで重要なのはこれまでの経験値ではなく、デジタルで描くことに抵抗がない人。つまり、自分で原画とか動画とか色を付けることとかの作業にセクショナリズムを設けない人。この考えって、3DCGアニメーター的なんですよ。だからサンジゲンみたいな組織に合うんですよね。

――デジタル作画のメリットについてもう少し詳しく聞かせていただけますか?

松浦:まず3DCGアニメーションとのデータの親和性があります。スキャンをする必要なく、描いた画がすぐにサーバに上がって全スタッフで共有できます。このあたりは3DCGでの工程と同じになってきています。

アニメーター側の話では、サンジゲンのデジタル作画チームは4人だけで『うーさーのその日暮らし 夢幻編』の第12話をつくり上げ、彼らは大きな自信をつけました。自分たちでスタッフとしての価値も高めました。これは大きいですよ。さらにギャランティについても、動画マンにとっては平均の3~4倍の額になります。これだけでもデジタル作画に移行する理由になるでしょう。ただ、こうやってたくさん人を採ろうとするながれもそんなに長続きはしないはずなので、移動するなら早くした方がいいと思います。さらにサンジゲンのデジタル作画スタッフはどんどんメンバーも増やしていきますし、外のプロダクションにも出向してもらい、サンジゲンで培った技術を広めています。

▲CGWORLD(vol.209)でもサンジゲンのデジタル作画部を取材(詳細はこちら

――今後は3DCGを使っていた方でも、デジタル作画を駆使する人が出てくるかもしれませんね。

松浦:ええ、どんどん使えばいいと思いますよ。特に僕らはセル調やっているわけですから、自由に使って自分のカットを成立させればいいと思います。アセットはCGで作成した方が効率的なので、それをわざわざ全部描くのはナンセンスですけど、エフェクトだってつくるわけですから、自分で描いた方が効率が良いのであれば自由に描けばいいと思います。CGを使ってデジタルで描いて、コンポジットまでやって、大きなタイトルで多くの人が見てくれる作品に関われる方が、クリエイターとして楽しいですよね。

――サンジゲンはこれまでの作品において作画アニメ出身の監督を招聘されてきましたが、今後はデジタル作画育ちの監督というかたちも念頭に置いていますか?

松浦:そうですね。でもまずはCGアニメのディレクターが演出作業もできるようにしていこうと思っています。そうすることでチェック工程がひとつ減りますし、他のプロダクションやCGをやっている人とも差別化もできます。「サンジゲンのCGディレクターは演出もできるんだ!」と言われるようにしていきたいですね。

今、制作する中で学んでいると思いますが、今後の作品も含めて演出も勉強させていこうと考えています。そうした人的な投資やキャリアパスの形成というのも会社という組織形態だからできることです。フリーランスだとそうはいきませんから。これまで手描きの方は、ほとんどがフリーランスのスタッフなので、監督もフリーランスでよかった。だけど、僕ら3DCGは組織的につくっているから全部内製の方が効率がいいし、そういう傾向になっていくと思います。

もちろん競争率は高いです。売れるものをつくる才能も必要です。そこにジレンマもありますけど、CGをやっている人の中から監督が出てきてほしいしデザイナーも出てきてもらいたいですね。

――ずっと中にいればコミュニケーションの積み重ねもあり、それが制作に反映されるでしょうし。

松浦:そう。何が得意で何が不得意か、人のクセ(趣味嗜好)というのもわかります。アニメ制作って単に人がいればできるというものでもないですから。もちろん不得意な人にも挑戦させて徐々に底上げしていきますが、強引にやっても上手くいかないし、現状においては気長に待っています。それに、まだまだ社外に素晴らしい監督もいらっしゃるので。

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<3>創立10周年から次なる5年は、世界市場に向けて

――昨年にはサンジゲン福岡スタジオを開設されましたが、福岡という場所を選んだ理由は?

松浦:まず、福岡を選んだのは単純に若年層が多いという、人口比率に依るものです。

――ゲーム会社が多い地域ですから、そのあたりも関係してくるのかなと思いました。

松浦:いえ、ゲーム会社があると、何か表現をしたいと燻っている若者もゲーム会社に流れてしまうので、そうはならないんですよ(苦笑)。こと人集めは根気ですね。

――そして、すでに京都スタジオも存在しますが、こちらを含めサテライトスタジオ体制を推し進める目的についてお聞かせいただけますか。

松浦:京都スタジオがそろそろ単独で1話分を制作できそうなんですよ。福岡スタジオも似たような感じにして、東京の一班としてできるといいなと思います。演出家が東京にいるのでハードルはありますけど、やがて地方スタジオとしてグロス受けできるようになって、行く末は1タイトルまるごとできるようになってほしいですね。

僕たちにとってはデジタルネットワークは当たり前のことで、地方で展開するのは単純に全国から優秀な人材を集めたいだけなんです。東京に来られない人もいますから。サンジゲンのスタッフも将来は実家の近くで働きたい人もいますし、そういう人は地方にスタジオがないと辞めてしまうので、そんなもったいないことはしたくない。海外でも準備は進めていますが、日本人をまず集めたいですね。

――海外展開でお話できることはありますか?

松浦:まだちょっと話せる段階にはありませんが、今年は進めていく考えです。

――2016年のアニメ業界において注目している事柄についてお聞かせ下さい。

松浦:今年だけではないかもしれませんが、ビデオパッケージが売れなくなってきているのは明らかですから、これまでとコンテンツの売り方が変わるのはまちがいないでしょうね。ただアニメ映像を制作するというだけではおそらく済まなくなるし、ただつくるだけではますます過酷になってくるんじゃないかなと思います。

特にフリーランスで仕事をするのは非常に難しくなるでしょう。僕ら自身も『009 RE:CYBORG』の頃と比べてシステム(ワークフローならびに技法)は全然ちがうし、これからも独自に進んでいくでしょう。そうした状況で途中からフリーランスで関わろうとしても、覚えることが多すぎる。ついていくには、ひとりでできる作業量をとっくに超えているので難しいと思います。

しかも、ビデオパッケージ向けのアニメのつくり方とは変わってきているんです。だから僕は投資も含めて、そうした取り組みをいち早くやっている会社に入って、みんなでより大きな、世界で戦うような作品をつくっていきたいという希望があります。目の前で見えるものだけではなく、より大きな仕事を、重要な位置に行くために早くつくってもらいたい。2016年は僕らがその一歩を踏み出すのかもしれないし、何かが変わる年になるんじゃないかなと思います。

――今年サンジゲンは10周年を迎えますが、現在の状況は10年前にどのくらい見通されていましたか?

松浦:見通しはありました。むしろちょっと遅かったなと思っているくらいです。5年で3DCGのTVシリーズを出したかったんですよ。実際は6年目に『009 RE:CYBORG』、7年目に『アルペジオ』、10年目に『ブブキ』ですから。そして作品をつくれるようになったら、次はヒット作を出さなければならない。それを出すまでバッターボックスに何回立つかという話でもあり、今はようやくその入口に立っているという状況です。ちょっと遅かったなと思いますが、10年で立たせてもらっているのはありがたいとも感じています。

――この次の10年はどんな風に考えていますか?

松浦:全然ちがうことをやっているかも(笑)。とにかく世界ですよ!今も出ているといえば出ているけど、僕のイメージする世界ではありません。世界市場に向けて、世界と一緒につくるというのが次の10年、できれば5年で達成したいですね。そのためにウルトラスーパーピクチャーズ(USP)というグループもあります。

映像はもちろん出していきたいと思っていますが、アニメは映像を売るだけのビジネスではないと思っているので、USPも含めてIPを持つことを考え、徐々にそれをつくっていかなければいけないなと思っています。


【作品紹介】

TVシリーズ『ブブキ・ブランキ』
毎週土曜22:00からTOKYO MX / AT-Xほかにて放送中!

<STAFF>
原作:Quadrangle
監督:小松田大全
キャラクターデザイン:コザキユースケ
ブランキデザイン:吉川達哉
ブブキデザイン:あさぎり
シリーズ構成・脚本:イシイジロウ, 北島行徳
メカニックデザイン:高倉武史
プロップデザイン:岩永悦宜
サブキャラクターデザイン:尾崎智美
ビジュアルデザイン:有馬トモユキ, 瀬島卓也
CGスーパーバイザー:鈴木大介
モデリングディレクター:足立博志
テクニカルディレクター:金田剛久, 小嶋理子
アニメーションディレクター:植高正典, 石川真平, 三村厚史, 中村基樹
美術監督・設定:金子雄司
色彩設計:垣田由紀子
撮影監督:池田新助
編集:廣瀬清志
音響監督:明田川 仁
音楽:横山克
音楽制作:KADOKAWA
制作:サンジゲン
製作:BBKBRNK Partners

© Quadrangle / BBKBRNK Partners

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