>   >  映画への愛と3DCGエキスパートとしての絶妙なバランス感を武器に、日本のCGアニメーションを新たなステージへ 〜映画『GANTZ:O』川村 泰監督〜
映画への愛と3DCGエキスパートとしての絶妙なバランス感を武器に、日本のCGアニメーションを新たなステージへ 〜映画『GANTZ:O』川村 泰監督〜

映画への愛と3DCGエキスパートとしての絶妙なバランス感を武器に、日本のCGアニメーションを新たなステージへ 〜映画『GANTZ:O』川村 泰監督〜

<4>CGディレクターから映画監督へ

ーー今回、初めての長編監督をやってみて実感したことはありますか?

川村:そうですね......。やっぱり不安で仕方がなかったです。本当に終わるんだろうかとか、工数を気にしすぎていないかとか、逆に演出に神経をもっていかれ過ぎていないかとか。ある程度の客観性を保とうと意識を働かせていました。そのバランスを保つのがCGの実作業ではメインになってきます。プリプロでは脚本、ストーリーの芯になる部分や、どんな気持ちになるのかを掘り下げていかなければならないので、頭の中で考えるしかありません。それが見えてきたら脚本上のアイデアがより具体的に生まれていく。

ーーなるほど。

川村:もちろん中には間違ったアイデアもあって、冷静になって考えたらこれはダメだろうと気づいたり......。そうした試行錯誤をくり返すほかなかったです。そのときは、映像というよりは抽象概念として構成していく感じでした。ちょっと言葉では表現しようがないですね。ですが、それがカラースプリクトとして具体化されると、フェイク(仮)であっても確かなよりどころになるんです。それにより、何が足りないのか明確になるといったことも多くありました。監督のコツはまだつかめていません(苦笑)。でも、「多分こうだろう」と考えたことが、ちゃんと合っていたんだなと思える部分もあったので、それは良かったですね。

――CGにかぎらず、監督が様々なことを決断するのは常に「孤独との戦い」だと聞きます。

川村:そうですね。先頭を歩いていって「こっちだよ」と指示しなければいけない。たまには教えてもらいたいこともあるんですよ(笑)。「どうしよう。わからないよ」と、悩むこともありました。そんなときも自分で調べまくるしかない。スタッフに助言を求めることもあるのですが、その前提についてはある程度自分で考えるしかないので。

映画への愛と3DCGエキスパートとしての絶妙なバランス感が創り出した、新世代のCGアニメーション〜映画『GANTZ:O』川村 泰監督〜

© 奥浩哉/集英社・「GANTZ:O」製作委員会

――各工程ごとに、監督として、アーティストとして、はたまた観客としてなど視点を変える必要があったと思うのですが、大変だったのでは?

川村:そうなんですよ。頭のモードを切り替えないといけなくて、それはすごく意識しました。例えば、モデルチェックを終えた翌日からアニメーションのチェックがはじまるときなど、最初のうちはフワフワしてしまった。1週間ぐらい経つとようやく頭がアニメーションのモードに切り替わるんです。コンポジットも最初の1週間はなかなか色味に対して鋭敏にはなれないんですが、これもまた1週間ほど経つと把握できるようになってくる。だから最初の頃はオーソドックスな(根本的な)ダメ出しに留めておいて、頭が切り替えられてから、より細かな部分のジャッジを行うようにしました。今回はそうした切り替え(チューニング)の期間が必須でしたね。やはり頭の中で使う部分が異なるのかもしれません。実は、こうした思いはCGディレクターを務めるときから抱いてきました。モデルをチェックした後にアニメーションをチェック、その逆の場合も最初は判断が鈍ってしまう瞬間がありました。もしかしたら3DCGアニメーション特有のことかもしれませんね。2Dアニメの場合は、各工程がより明確に分業されているように感じるので、監督や演出の立場の方も客観的にジャッジできるのではないかと。ですが、CGディレクターの場合はそうはいきません。さらに監督としての視点が加わると、よけいにややこしくなってしまう。ですが、『GANTZ:O』では各工程でスーパーバイザーが立ってくれていたので、先ほどもお話したようにまかせられるところは安心してまかせることができました。

――改めて本プロジェクトの感想を聞かせてください。

川村:CGディレクターは半分監督のような役職なので、これまでの経験を存分に活かすことができたと思っています。ですが、脚本やプリプロダクションについては、新たな視点も求められたので実際にやってみないとわからないことだらけでした。スポーツと少し似ているというか、例えばサッカーなら実際にボールを蹴ってみないことにはコツはつかめませんよね? やればやるほど無駄なパフォーマンスが減って洗練されていく、みたいな。監督になりたいのだったら監督をやってみないことには何もはじまらない、と言うと矛盾になりますが(笑)。なにはともあれ、映画好きが嵩じて勉強したり、思い描いてきたものを確かな成果として示すことができたと自負しています。

――仕事柄CG作品を観る機会も多いのですが、ひとりの観客として映画として楽しめましたよ。

川村:ありがとうございます。そうした感想が一番嬉しいです。日本でも3DCGアニメーションがもっとメジャーになってほしいという気持ちをずっと抱きつづけてきました。特に日本ではフォトリアル系の表現はまだまだ知る人ぞ知るのニッチなジャンルだと思うので。本作のようなビジュアルでも、より多くの方に気軽に観てもらえる機会が増えればと願っています。加藤のCVを務めてくださった小野大輔さんも「新しいジャンルが誕生しちゃったかもしれない」とおっしゃってくださいました。同様のご意見を多く聞くことができているので、ぜひ多くの方に観ていただき、3DCGの可能性を感じていただければと思います。

映画への愛と3DCGエキスパートとしての絶妙なバランス感が創り出した、新世代のCGアニメーション〜映画『GANTZ:O』川村 泰監督〜

映画への愛と3DCGエキスパートとしての絶妙なバランス感が創り出した、新世代のCGアニメーション〜映画『GANTZ:O』川村 泰監督〜

© 奥浩哉/集英社・「GANTZ:O」製作委員会

info.

  • 映画への愛と3DCGエキスパートとしての絶妙なバランス感が創り出した、新世代のCGアニメーション〜映画『GANTZ:O』川村 泰監督〜
  • 劇場アニメーション長編『GANTZ:O』
    好評公開中

    原作:奥 浩哉
    総監督:さとうけいいち
    監督:川村 泰
    脚本:黒岩 勉
    音楽:池頼広
    制作:デジタル・フロンティア
    配給:東宝映像事業部
    製作:「GANTZ:O」製作委員会
    © 奥浩哉/集英社・「GANTZ:O」製作委員会

    gantzo.jp

  • CGWORLD vol.219(2016年11月号)
  • 月刊CGWORLD + digital video vol.219(2016年11月号)

    第1特集 映画『GANTZ:O』
    第2特集 エフェクト進化論
    定価:1,512円(税込) 判型:A4ワイド 総ページ数:144 発売日:2016年10月8日(土)
    ASIN:B01LBFWPG4

Profileプロフィール

川村 泰/Yasushi Kawamura(デジタル・フロンティア/DIGIATL FRONTIER)

川村 泰/Yasushi Kawamura(デジタル・フロンティア/DIGIATL FRONTIER)

1974年、神奈川県生まれ。デジタル・フロンティア所属。『APPLESEED』(2004)のアニメーション・ディレクター、ゲームシネマティクスなど数多くのプロジェクトにおけるCGディレクターを経て、『GANTZ:O』(2016)で映画監督デビュー。SFを得意とする。

DIGIATL FRONTIER 公式サイト

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