>   >  重要なのは「何を伝えたいのか」、「どうやったら伝わるか」Pixarの監督から学んだストーリーボードアーティストの心構え
重要なのは「何を伝えたいのか」、「どうやったら伝わるか」Pixarの監督から学んだストーリーボードアーティストの心構え

重要なのは「何を伝えたいのか」、「どうやったら伝わるか」Pixarの監督から学んだストーリーボードアーティストの心構え

<2>ストーリーボードアーティストとしての道を決定づけた2つの出会い

──いろんな人が相乗りしていく中で、自分が得意な部分をアピールしていくんですね。

栗田:そうですね。簡単に言うと大喜利みたいな感じです。 ひとつのお題があって、「俺の方が面白い!」と手を挙げて面白かったら採用、みたいな(笑)。でもそれは競い合いというわけではなく、ただ自分が面白いと思うことを出し合って、それを上の人が選んでいくというだけのこと。Blizzardのディレクターはそのなかからベストなアイデアを選ぶのが仕事なんです。


日本の監督は「俺について来い!」というタイプの方が多くて、それはそれで宮崎 駿監督や今 敏監督のように誰にも真似できない独創的なものを描くことができるというメリットはあると思います。それに対して、アメリカはみんなの力を出し合ってつくり、ディレクターは責任をもって選ぶという重大な役割を担っている。つまり、アイデアをどれだけ上手く引き出すかが仕事なんです。だからこそ僕のアイデアも拾ってくれました。それはたくさんあればあるほど良くて、僕らは選びきれないほど面白いアイデアを出してディレクターを困らせるのが仕事なんです。

「ストーリーピッチ」という自分が描いたものを監督に見せる際、短編の場合はデスクでやるのですが、長編だとスクリーンがあるような大きな会議室で行うんです。それがまた自分で一生懸命描いたからこそ、「1枚ずつきちんと説明しなくちゃ」と緊張するんですよ。そうすると「お前はそんな感じでストーリーを見るのか?」とリードにツッコまれるんです。

彼らは本当にお話を語るかのようにピッチをやるんです。会社の作品なのに、あたかも自分がイチから考えたかのように「俺の面白い話を聞いてくれ!」と、身振り手振りもするし口で効果音も発して、抑揚をつけて間もたっぷり取って、映像を見せるかのように伝えていくんです。そうすると聞いている方も引き込まれるんですよね。それは実際の映像と同じです。大事なことはどれだけオーディエンスを引き込むか


彼らは普通の会話も面白いんです。「昨日こんなことあったんだよ」から、話をセットアップして展開していって、「で、どうなったと思う? こうなんです!」ドッカーン!と(笑)。他にも60歳くらいのシニアのストーリーボードアーティストが「俺の昔のころはな......」と話し出すと、やっぱりめちゃくちゃ面白いんですよ。おまけに僕の英語力でもわかる言葉選びをしてくれる。それってすごく技術がいることなんですよね。それはストーリーボードを描くことにも通じることだと思っていて、つまり、子どもにも伝わるように丁寧に表現を選んで伝えていくことなんだなと思いました。その点はすごく勉強になって、『オーバーウォッチ』の際にはいかに面白くプレゼンするかにトライしました。


栗田氏の学生時代のストーリーボード

──こういったことは、学校では教わらないのでしょうか?

栗田:僕が通っていたAcademy of Artでは学ばなかったことですね。Academy of Artはどちらかというとアニメーションが強いと学校で、ストーリーに強いのはジョン・ラセターが出たCalArts(カリフォルニア芸術大学)やArtCenter(アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン)です。もともと自分が何をしたいかわからないまま入って自分の道に悩んでいたときに、Academy of ArtでVisual Developmentを教えている伊藤頼子さんに出会ってポートフォリオを見せたところ「あなたはストーリーボードをやったら?」とさらっと言われたんです。そこから興味をもち始めて、ネットでCalArtsの学生やPixarのインターンシップに行くような人たちのポートフォリオを見て勉強していきました。今の僕があるのは頼子さんのおかげなので、とても感謝しています。

勉強を進めるなかでラッキーだったのは「ANIMATION Collaborative」というワークショップを見つけられたことでした。Pixar本社の目の前に構えていて、そこでPixarの仕事を終えたスタッフが夜7時くらいからコンセプトアートやストーリーボードのクラスをもってくれるんです。僕が受講したクラスは『メリダとおそろしの森』のマーク・アンドリュース監督が直に教えてくれるという、何とも贅沢なもので、1回3時間・週1のクラスで12週間だけでしたが、今僕が話していることはそこで教わったことばかりです。そのときに思ったのは、学校だけに留まっていてはいけないんだなと。学校でやるのは当たり前で、そこからもう2、3歩出ないと価値観としても人脈としても広がっていかないんですよね。


過去のANIMATION Collaborativeでのマーク・アンドリュース/Mark Andrews氏の講座「Advanced Visual Storytelling

僕はそのあとワークショップ以外にもウォルト・ディズニー・ファミリー・ミュージアムというところで行われるPixarの方たちの講演を聴きに行ったり、毎年11月にバーバンクで開かれるCTN animation eXpoに参加したりして学んでいきました。CTN animation eXpoはディズニーやPixar、DreamWorksなどのアニメーション制作会社や個人のアーティストが様々なブースを出展するイベントなのですが、僕はそこでプロに直接会ってポートフォリオレビューを何度も何度もやってもらいました。人に伝えるストーリーボードを描くには、本当に人に伝わっているかを確かめる必要があります。自分のボードをプロに見てもらってフィードバックをもらえたことが、ストーリーボードアーティストになるための強い力になりました。

──海外に出て苦労したことや、日本では考えもしなかったけれども大事だと気付いたことは何でしたか?

栗田文化というものに対する考え方、ですね。僕は日本で産まれて育ってきて、向こうからすると外国人なわけです。つまり自分にとって当たり前のことでも、そのまま描いたのではまったく通用しないんです。絵のスタイルにおいても日本のマンガやアニメのルール、例えば後頭部に汗を描くとか、怒りの漫符といったものは通じませんでしたね(笑)。逆に向こうではアメリカ人なら誰もが見ている映画やTV番組というのがあって、会議で「例えばあの映画の」というときに自分がまったく知らないと、そこで僕への説明のために会議を止めてしまうことになるんです。それがすごく悔しくて。そういう意味で、僕らにとっての当たり前は通じないし、勉強しなくてはいけないことが山ほどあるなと強く感じましたね。

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<3>真にユニバーサルな作品はジェスチャーだけでストーリーを伝えられる

Profileプロフィール

栗田 唯/Yui Kurita(ストーリーボードアーティスト)

栗田 唯/Yui Kurita(ストーリーボードアーティスト)

高知県出身。2012年にサンフランシスコ・Academy of Artの大学院に入学。Blizzard Entertainmentにてストーリーボードアーティストとしてキャリアをスタートし『オーバーウォッチ』(2016)や『ハースストーン』(2014)などの短編作品に携わる。その他マーベル・スタジオのTVシリーズに参加し、現在もなお海外に向けて活動中。
yui-kurita.blogspot.jp

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