>   >  重要なのは「何を伝えたいのか」、「どうやったら伝わるか」Pixarの監督から学んだストーリーボードアーティストの心構え
重要なのは「何を伝えたいのか」、「どうやったら伝わるか」Pixarの監督から学んだストーリーボードアーティストの心構え

重要なのは「何を伝えたいのか」、「どうやったら伝わるか」Pixarの監督から学んだストーリーボードアーティストの心構え

<3>真にユニバーサルな作品はジェスチャーだけでストーリーを伝えられる

──ユニバーサルな作品をつくる上では、そうした文化の差異を乗り越える表現をしていく必要があるわけですね。

栗田:そう。だからこそディズニーは強いんです。あそこほどグローバルに受け容れられることを意識している会社はありませんね。言葉が通じなくても、ジェスチャーでこのキャラクターが何を考えどういう行動をするのかを全て読み取れるようにつくっていて、だからこそ世界中から愛されているんです。比較するわけではありませんが、日本のアニメーションはまだ「伝わる人にしか伝わっていない」表現だと思うんです。もちろん昔に比べれば漫符を理解できるような人はずっと増えましたが、世界中で大人も子どもも見て楽しめるものをつくるのであれば、それに頼らずにストーリーを伝えなくてはいけないと、アメリカに来て強く感じました。


──ユニバーサルな展開を見せる点では、マーベルも同様かと思います。そこでお仕事をされた感触はいかがでしたか?

栗田:マーベルの、キャラクターに対する考えを学べたのは大きかったです。Blizzardでは「お前たちの好きなことをやれ!」と言われて、「これどうですか?」、「それ、いいやんけ!」という社風だったのですが、マーベルはやっぱりキャラクターというものをものすごく大事にしている会社で、これを壊してはならないというのが第一にありました。スクリプトがあったらその通りにキッチリ描かなくてはいけないという文化でした。

──まさに企業文化のちがいというか、Blizzardのようなスタイルばかりではないんですね。

栗田:僕が知っている限りではTV作品もそうですね。2Dの作品だとストーリーボードの段階でアニメーターの仕事を取るくらいきちんとアクティングをして、アニメーションもキーとなるポーズや表情まで描いてくれと言われます。今はツールとしてStoryboard Proが主流になっていて、カメラワークやタイミングまでコントロールできる。するとエディターの仕事まで取るくらいになってきています。

──それに関連した質問をさせて下さい。ストーリーボードで描く内容についてカメラワークやアクティングなどがとても細かく描かれていますが、日本のアニメの絵コンテでは、描きこみすぎるとかえってアニメーターの自由度を奪うのであまりよくないと言われるケースもあるようです。とりわけ分業が進んでいるアメリカにおいてはそのあたり、栗田さんがご経験されたなかではいかがでしたでしょうか?

栗田:僕の印象で言うと、他人の仕事を取るくらいまでベストを尽くす方が、むしろ好まれるという感じですね。みんなの目標にあるのは良い作品を生み出すことだけなので、「俺の仕事を取るな」という競争ではありません。「それだけの材料をくれてありがとう。あとはまかせろ」と。だから、ストーリーボードの段階で、できることは100%ベストを尽くすのが良いと思います。ただ、描くときはただ単にきれいに描くよりもどんな動きをしているかを示すパネルを増やす方が大事です。クオリティよりもクオンティティ、質より量というわけです。もちろん、何をやりたいのかが伝わらない絵では意味がありませんが、大事なのは何をしたいかです。


栗田:マークが口を酸っぱくして言っていたのは"What are you trying to say?""What's the best way to show it?"です。つまり、「何を伝えたいのか」、「どうやったら伝わるか」。この2つを常に考えろ、とずっと言われていました。むしろそれだけで十分です。自分たちはこのプロジェクトで、このワンショットで何を伝えようとして、それはどうすれば伝わるか。意外かもしれませんが、何を伝えようとしているのかすら自分でわかっていない人もいるんです。「このショットで何を伝えたいの?」と言われて「何となく......」では0点です。まず"何を伝えたいのか"がない限りレビューのしようもない。

ただ、そこでひとつでも伝えたいことがあれば、「そういうことを伝えたかったんだね。でもここではそれが上手く機能していないから、こうするとベストなストーリーテリングになるよ」とアドバイスもできる。Pixarにフランス人のストーリーアーティストがいるのですが、彼はすごく寡黙な方なんです。でも描くボードは素晴らしいの一言。絵が上手いのはもちろんストーリーテリングもすごく丁寧です。大事なのは言葉で話すことではなく、伝えたいことがあるかどうかです。絵や言葉のスキルは関係なく、伝えたい信念があって伝えることができれば誰でもストーリーボードアーティストになれるチャンスはあります。

──栗田さんは現在オンラインのアニメーションスクールAnimation Aidで講師をされているそうですが、そこではどんな内容を教えられているのでしょうか?

栗田:今は基礎のジェスチャードローイングを教えています。それこそディズニーのように、ジェスチャーだけでキャラクターが何を考えてどんな行動をしているかが全部伝わるし、それだけでストーリーテリングができると僕は信じています。それは絵を描く人だけではなく、3Dアニメーションに携わる人たちにも通用する内容です。

Blizzardのアニメーター・小池洋平さんも絵を描くし、それは単に好きなだけでなく、描くことが勉強になると信じてやっている。同じくAnimation Aidで講師をされている若杉 遼さん藤原淳雄さん中村俊博さんもそう。絵が上手くなることが目標なのではなく、インプットしたものをいかにアウトプットできるかというところが大切だったりするので、このながれが掴めるようになればレイアウトでも何でもスムーズにできると僕は信じていて、そういうカリキュラムでつくっています。

いずれはストーリーボードの講座もやりたいですね。僕の知っていることがすごく特別だとは思いませんが、驚かれることも多々あるし、せっかく異国で経験したことなので独り占めしてはもったいないと思って。もしアメリカに行きたいけれども行けなかったり語学的に不安な方がいたとして、そういう人に向けて日本語で向こうのメソッドを教えることができたらと思ってやっています。興味のある方はぜひアクセスしてみて下さい。


Profileプロフィール

栗田 唯/Yui Kurita(ストーリーボードアーティスト)

栗田 唯/Yui Kurita(ストーリーボードアーティスト)

高知県出身。2012年にサンフランシスコ・Academy of Artの大学院に入学。Blizzard Entertainmentにてストーリーボードアーティストとしてキャリアをスタートし『オーバーウォッチ』(2016)や『ハースストーン』(2014)などの短編作品に携わる。その他マーベル・スタジオのTVシリーズに参加し、現在もなお海外に向けて活動中。
yui-kurita.blogspot.jp

スペシャルインタビュー