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    今回は、アメリカの大手ゲーム会社でシネマティック(宣伝用のショートムービー)のキャラクター・アニメーターとして活躍中の小池洋平氏を紹介しよう。アメリカに留学して初めてアートの基礎を学んだという小池氏。アニメーターという仕事も「学んでいくうちに興味をもった」のだという。そこから、どのようにプロの現場で働くことようになったのだろうか。さっそく、お話を伺っていこう。

    TEXT_鍋 潤太郎 / Jyuntaro Nabe
    ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
    著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
    公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」


    EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

    Artist's Profile

    小池洋平/Youhei Koike(Blizzard Entertainment / Character Animation Artist)
    神奈川県出身。2013年、Academy of Art University卒業後、サンフランシスコのPolygon Entertainmentにてキャリアをスタート。その後、2K Gemesでのインターンを経てBlizzard Entertainmentに移籍し、現在にいたる。シネマティック アニメーターとして『オーバーウォッチ』を始め、『World of Warcraft』などのショートムービー制作に携わる。
    twitter.com/YoheiKoike

    <1>ミュージシャン志望から一転、3DCG業界に飛び込む

    ーー日本では、どんな学生時代を過ごされたのですか?

    城西国際大学のメディア文化学部に所属していました。当時は、将来の行く末もまだハッキリとせず、ミュージシャンを目指してバンド活動を行なっていました。大学卒業後はバンド活動を本格化しようと就職せず、バイト生活を始めました。幸いケーブルテレビ局のアルバイトで営業職を任されたために、収入は働き始める以前に想定していたのよりもだいぶ良く、仕事も肌に合い、精神的にも仕事的にも楽でした。この頃、バンド活動が難航し、初めて自身のお金で余裕ができたこともあり、学生時代あまり遊ばなかった反動でバイク、スーボードなどの趣味に一時的に走りました。そのように一歩引いて自分の人生を客観視し始めたころ、恩師に言われたことを思い出したんです。

    それは城西国際大学でPovRayを学んでいたとき、プログラムコードを書いてばかりの難しいソフトを皆が嫌がる中、自分だけが楽しそうしているのを見た恩師から「君は3DCGの道に行くべきだよ」と言われたことでした。

    当時、営業職を通じて「仕事」は相手を幸せにした対価としてお金をいただくものであり、自分のためだけにしたいものが「趣味」だと気づき、「憧れを追うのではなく、他人が自分にして欲しいと思うことをしよう!」と決めました。そこでその恩師の言葉を思い出し、それなら......と3DCG業界に飛び込む決意を固めました。そして「3DCGならハリウッドだ!」と思い立ち、留学したわけです。

    ーー留学されたときの話を聞かせてください。

    もともと絵を描くのは好きでしたが、ちょっと上手いといった程度でした。実際に美術の基礎を学んだのは留学先のAcademy of Art University(以下、アカデミー)が初めてです。そのため、留学した際は「とにかく3DCGに関係のありそうなもの全てに触ってみよう!」と、粘土をこねるスカルプチャー・クラスや、ヌードモデルをデッサンするクラス、木炭で写実的に絵を描くクラスなど、手当たり次第に授業をとっていきました。その中で、紙に鉛筆で描きこむ2Dアニメーションのクラスが一番しっくりきたため、アニメーターになる道を選びました。過去に音楽の夢を諦めていたこともあり、周りのリアクションを元に新しく「自分がすべきこと」を導き出す作業は楽しかったです。

    ーー海外の映像業界での就職活動はいかがでしたか? 

    アカデミーでは、城西国際大学でとった一般教養の単位をトランスファー(編入校での履修単位とする)したため、2年間という短い時間で卒業する特別コースを受講することができました。普通4年かかるところを半分の時間で卒業するため、一度にこなす課題の量は、時に膨大になりました。

    その結果、卒業までの2年間で多くを学べたのですが、就職活動をするためのデモリールを用意する時間がありませんでした。なので、就職活動を始める前に卒業してから1年ほどしゃぶしゃぶ屋で週3のアルバイトをし、残りの4日は丸々アニメーション作業という日々を約9ヵ月間続けました(※在学中にすでに仮グリーンカードを取得していた)。

    「人に求められることをする」という動機から3DCGを始めたこともあり気負いがなく、就職先が決まらなくても「良い作品さえつくれば、必ず仕事は来るだろう」と、だいぶ楽観的でした。今振り返ると、週4日間、こもってアニメーションだけしていれば良かったあの日々は、ある意味天国でしたね。

    その後、サンフランシスコのPolygon Entertainmentという小さなスタジオに就職し、そこが閉鎖される直前に2K Gemesに移り、ゲーム制作に携わりました。その後、欧米では最大規模のアーティスト向けイベントCTN animation eXpoBlizzard Entertainment(以下、Blizzard)のブースを発見し、リクルーターへデモリールを見せたことがキッカケで契約社員のポジションをいただくことになりました。アニメーターとしてBlizzardで働き始めた後、「正社員になれるチャンスは、ほとんどない」と社内で噂されていたのを聞いたのですが、働き始めてから8ヵ月ほど経ったころ、正社員のオファーをいただくことができました。

    オフィスに呼ばれたときは何の話か見当がつかず、部屋に入るなり人事のトップも居たのでただごとではない雰囲気でした。いつも開けっ放しのドアを「閉めてくれ」と言われ「良い知らせか、よほど悪い知らせのどちらかだ......」と悟り、恐る恐る椅子に座りました。その際に「予想していなかったけど、1つだけフルタイムの空ポジションを得ることができたんだ。そこでヨーヘイに正社員のオファーをしたい」と話され、あまりに予想外の嬉しい知らせだったので、夢かと思ったほどです。

    自分以外にもディズニーやピクサー、ドリームワークスなど大手出身の契約社員も在籍していたので、どんなに背伸びをしても自分が一番上手いわけがないことは明らかでした。なぜ自分が選ばれたのか良くわからず混乱していると「ヨーヘイは自分の意見をよく言ってくれるし、一番集中して仕事をしていたよ」と言われたのが、今でも印象に残っています。実力はもちろんある程度必要なのは間違いありませんが、人柄を大切にしてくれていたからこそ、選んでもらえたのだと思っています。


    左から、ハンター・グラント氏、小池洋平氏、リカルド・ビリバ氏  

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    <2>大手ゲーム会社Blizzardのシネマティック部門で活躍中

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    <2>大手ゲーム会社Blizzardのシネマティック部門で活躍中

    ーー現在の勤務先はどんな会社でしょうか。

    Blizzardは、今よりも良い環境の職場を想像できないほど、素晴らしい会社です。現在、Irvine本社だけで社員2700人以上が在籍し、26年間もゲーム業界の第一線を走り続けてきているモンスターサイズの会社なのですが、始まりは少数のゲームオタクで構成された小さな会社でした。

    設立当初から続いている「社員を大切にする文化」が現在も続き、5年勤続でソード、10年勤続でシールド、15年勤続で高価なリングが贈られるという制度もあります。最初は「奇抜なことをする会社だなぁ」とくらいしか思っていませんでしたが(笑)、これが「優秀な人材が離れていかないように、働く社員が会社を愛し、情熱をもって働けるように」というビジネス的な戦略でもあるということに後から気がつきました。

    こういった、目の前の利益だけを追わない姿勢があるからこそ、直接はお金を生まないシネマティックを専門につくる部署が社内に存在していられるのだと思います。シネマティックは売り物ではなく、あくまでゲームの宣伝、そしてファンを変わらず興奮させ続けるためのものです。直接利益につながらず、膨大なコストばかりかかるシネマティック部門を「それでもファンを魅了することが、結果利益を生んでいる」と信じているブリザードは、情熱の塊のような会社です。

    小池氏が制作に参加した『オーバーウォッチ』の短編アニメーション『The Last Bastion』

    ーー現在の仕事の面白いところは何でしょうか。 

    Blizzardには"Every Voice Matters"という「全ての意見に意味がある」、「素晴らしいアイディアはどこからでもやってくる」という社訓があります。さらに英語独特の上下関係を感じさせない会話環境があるため、上司とも同じ目線で会話でき、自分の意見をいつでも伝えることができます。遠慮することなく意見を言い合える環境は、結果、素晴らしい作品のアイディアへとつながります。そうして練り上げられたアニメーションは、自力だけではけっしてたどり着けないクオリティとなります。それが、そのまま作品となり、みなさんに提供できるのは大きな喜びです。

    ーー英語や英会話のスキル習得はどのようにされましたか?

    バカバカしく聞こえるかもしれませんが、最も効果があるのは「ネイティブ・スピーカーと、お付き合いをすること」です。短時間で格段にレベルアップしますよ(笑)。「アメリカに3年間留学した青年が、現地で中国人の彼女をつくり、母国に帰って来たとき英語はまったくなのに中国語がペラペラになっていたという実話があるくらいです(笑)。

    ーー将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。 

    永住であれ一時的であれ、日本国外に出て異文化に触れながら生活をすると、それまでは見えなかった世界がたくさん見えてきます。自分が常識だと思っていたことが、どれだけ他人によってつくられたものかを知り、自分が本当に求めている物が何なのかを見つけるということは、人生においてとても大きな財産となります。それは時として、異文化の中でこそ見えてきたりするものです。

    自分は「筋金入りの英語嫌い」でしたが、赤ん坊になったつもりで会話を繰り返して、なんとか喋れるようになりました。みなさんも飛び出せるチャンスと場所があるなら、ぜひチャレンジしてみてください!


    キャラクター・アニメーション・チームの集合写真。2016年に撮影  

    【ビザ取得のキーワード】

    1.Academy of Art University在学中グリーンカード申請
    2.卒業前に2年の仮グリーンカードを受理し2K Gemesに就職
    3.Blizzard Entertainmentに移籍
    4.同社在籍中にグリーンカードを取得

    info.

    • 【PDF版】海外で働く映像クリエーター

      ーーハリウッドを支える日本人 CGWORLDで掲載された、海外で働くクリエイターの活躍を収めた記ことを見やすく再編集しました。「ワークス オンラインブックストア」ほかにて購入ができるので、興味のある方はぜひ!
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      総ページ数:369ページ
      発行・発売:ボーンデジタル
      www.borndigital.co.jp/book/648.html



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