>   >  山口県で生まれ育った少年がエフェクトスペシャリストになるまで~ステルスワークス米岡 馨に聞くCGアーティスト人生(前編)
山口県で生まれ育った少年がエフェクトスペシャリストになるまで~ステルスワークス米岡 馨に聞くCGアーティスト人生(前編)

山口県で生まれ育った少年がエフェクトスペシャリストになるまで~ステルスワークス米岡 馨に聞くCGアーティスト人生(前編)

<3>ガンプラからミリタリー、そしてゲームセンターへ

CGW:ちなみに、ここまで伺っても今の米岡さんを形成したコンテンツの話がほとんど出てこないんですが......

米岡:そうですね。じゃあ、その話をしましょうか。まずは世代的に『機動戦士ガンダム』ですね。初代ガンダムの再放送から入って、ちょうど漫画『プラモ狂四郎』が流行って、ガンプラブームの真っ只中でした。自分もいろいろ作りましたね。中学生になるとミリタリーに興味が移行して、戦車はタミヤ、飛行機はハセガワという。

CGW:王道ですね。

米岡:そういえば、母方の祖母がガンプラを買ってくれたことがありました。ところが兄にはザクレロで、自分にはアッザムでした(笑)。その思い出は、いまだに残っていますね。ガンダムとかザクとかじゃないんだという。今思えば通な渋い選択なんですが(笑)。

CGW:それはまた、玄人志向でしたね。

米岡:それなりに頑張って作りましたよ。筆塗りでしたけど、戦闘機であればスミ入れをしたりとか。ものすごく小さいデカールを苦労して貼ったりだとか。その頃からディテールに対するこだわりや、追い込みの意識はありました。戦車なら自衛隊の90式や、西ドイツのレオパルト1A4だとか。戦闘機なら米軍のF-14ですね。そこからロシア系に移って、Su-27とか。

CGW:ああ、ペレストロイカで情報規制が緩和されて、旧ソ連軍の戦闘機のプラモデルが出始めた頃でしたね。

米岡:そうですね。はじめてSu-27でプガチョフ・コブラを見たときは衝撃を受けましたね。その一方で、高校の頃からゲームセンターに通うようになり、大学生時代に『機動戦士ガンダム 連邦vs.ジオン』(2001)にハマりました。自分がゲームをしていたのは新宿スポーツランドの本館で、都内から強者が集まってきていたんです。

CGW:おお、新宿スポランといえば格闘ゲームの聖地ですね。

米岡:自分は昔からスーパーファミコンじゃなくてメガドライブ的な、ちょっと王道を外れたがる癖がたまにあって、『連邦vs.ジオン』でもゴッグとガンタンクをよく選択していたんです。周りは誰も使っていませんでしたが、自分はそこにポテンシャルを見出して、戦術などを極めました。同じように新宿スポランに来ていた、めちゃくちゃ上手いシャア専用ゲルググ使いと組んで、70連勝以上したことがありましたね。1時間以上座りっぱなしで、どんどん挑戦者を撃破していって。

CGW:突き詰め方が半端ないですね。

米岡:自分は広く浅くではなく、ものすごく狭い点を突き詰めるタイプなんです。そうなると、だんだん噂が広まっていきました。東京中の上手い奴らが集まってきて、彼らとゲームをすると、感覚が研ぎ澄まされていく感じがありました。今、ここに相手がいて、こういう状態だから、次はこう動くだろうな、というのが瞬時にわかるという。ニュータイプってこういうことかと思ったこともありましたよ。模試で全国1位になったときが人生最大のピークだったとしたら、2番めはこの『連邦vs.ジオン』時代でした。

CGW:今だったらそのままeスポーツの選手になっていたかもしれませんね。

米岡:そうかもしれませんね。それで、仲間のゲーマーと情報交換しているときに「自分のもっている情報は惜しみなく出したほうが良い」と思ったんです。これは今でも常々言っていることで、自分から良質な情報を発信していれば、周りにすごい人が集まってきて、もっとすごい情報が手に入り、自分がさらに成長できるという。自分の手の内を明かすことは、巡り巡って自分も得をするということですね。最近は「信用経済」という言われ方もしますよね。それに近いというか。あいつの言うことなら信用しようという。

CGW:それは1970年代生まれだからではないでしょうか? 1960年代生まれは、なぜか手の内を隠したがるんです。『ドルアーガの塔』(1984)で攻略法を隠して遊んでいたプレイヤーは、その典型例で。

米岡:ははは(笑)。ただ、最近CG業界でカンファレンスが増えたり、SNSやブログで情報を発信している人が増えているのは、逆にCGが複雑になりすぎて、1人ではどうにもならなくなっている現状があると思うんですよ。だからこそ、情報をどんどん出すことで、逆に他の情報を入手して、補っているんじゃないかなと。自分も2010年代になって、リニアワークフローが流行りだした頃、ゼネラリストはきついんじゃないかと感じるようになりました。

CGW:なるほど。

米岡:今はシェーダもテクスチャも物理的に正しいことが求められますよね。そうなると適当に「良い感じ」にやることが許容されづらい。いまCGを始めた人は、ソフトがものすごく充実している反面、覚えることが増えていて、気の毒だなと思いますね。自分がCGを始めた頃は、ものごとがシンプルでしたから。

CGW:モデリングして、テクスチャを貼って終わり、みたいな。

米岡:極論するとそんな感じですね。それだけで評価されていたので、今は大変だなと思いますね。

CGW:余談ですが、今のCGゼネラリストというと、現場上がりでひと通り全部のことがわかっている方々だと思うんですが、これから業界に入ってくる若い人たちは、将来的にゼネラリストになれるんでしょうか?

米岡:入る会社によってもちがうでしょうね。例えばCMメインのスタジオなら、否が応でも全工程を1人でやらないといけないですから。モデリングして、簡単なアニメーションをつけて、ライティングも自分で......といった具合です。

CGW:ゲームは無理かもしれませんね。もはや、全部の工程を見られませんから。それにともなって、人材育成が大きな課題となっています。

米岡:そうなんでしょうね。ちょっと話が前後しますが、例えば海外で働くとするじゃないですか。最初は「ハリウッドの仕事ができて楽しい」という状態だと思うんです。自分も行く前はそうでした。ただ、海外で働いて、すごく疲れたんですね。制作フローが分割されすぎていて、自分が作業をする範囲が非常に細分化されている上に、裁量がほとんどないという。それでも物量が多いので、決められた制作フローに従って作らないと、プロジェクトがぐちゃぐちゃになる。そういった映像制作に、自分は疲弊したところがありました。

CGW:ああ、そうなんですね。

米岡:これって、すごく皮肉な話ですよね。ハリウッドの品質を出すにはどうしたら良いか知りたくて海外に出たのに、途中で「これをずっと続けるのは大変だぞ」となったわけで。実際、モチベーションを保つのが大変だなと思いました。

CGW:ただ、だからこそ残業や徹夜が抑えられる面もあります。日本のゲーム業界も大手から順に、ずいぶんホワイトな職場になりました。

米岡:そこは分業の良いところなんです。責任の範囲が明確になるので、「これだけやったから、終わり」と言いやすい。そういう意味では自分も今、エフェクト専門の会社をやっているので、コンポジットは他にお任せしています。そのため傍目では、ものすごくヘビーなエフェクトをやっているように見られていますが、実際はスタッフには週末は休んでもらっていますし、平日も早く帰れる日は率先して帰ってもらっています。それは分業でしか成し得ないんですよ。

CGW:そこは米岡さんがベテランだからですよね。若手のキャリアという意味では今後も考えていかなければいけない話ですね。

米岡:そのとおりですね。

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<4>デジハリに通って自分の適性を知る

Profileプロフィール

米岡 馨/Kei Yoneoka

米岡 馨/Kei Yoneoka

2002~2011年にかけて、アニマ(旧笹原組)、アニマロイドデジタル・メディア・ラボオムニバス・ジャパンOXYBOTなど、複数の国内プロダクションでCG制作に携わる。2011年、エフェクトアーティストとして、PIXOMONDOのベルリンスタジオへ移籍。2012年、ScanlineVFXのバンクーバースタジオへ移籍。両社で学んだハリウッドクオリティのエフェクト制作を日本で実現するため、帰国を決意。2014年、帰国。2015年、エフェクト専門プロダクションのステルスワークスを設立。 『evangelion : Another Impact(Confidential)』、『シン・ゴジラ』、『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』、『鋼の錬金術師』などの多くの著名タイトルのヒーローショットを担当。2017年中目黒オフィスを起ち上げ事業拡大中
https://twitter.com/keiyoneoka
https://vimeo.com/stealthworks

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