<2>CGとアルバイトと麻雀にハマった学生時代
米岡:正直、受験でまたまた燃え尽きてしまって、勉強は何でも良かったんです。都内で大学生活を楽しめればそれで良いという、典型的な文系の学生でした。しばらくのらりくらりしていましたが、1年生のとき「メディアアート」という授業がありました。そこでPhotoshopで写真を加工したり、ちょっとしたCGを作ってみるといった演習があり、写真にエンボス加工をしたり、レンズフレアを入れたりしたら、格好良いものができた。そこで、「俺はアートのセンスがあるかも」、という謎の勘違いをしたんです。昔からそういう、自分にわけのわからない暗示をかけて追い込んでいくところがありました。
CGW:若者の特権ですね(笑)。
米岡:正直それで、上手くいったり、いかなかったりしました。受験も「オレは早稲田・慶應に行かなければダメだ」なんて自己暗示をかけて失敗したわけで。そろそろ自己暗示作戦の限界を感じ始めた時期だったので、メディアアートの授業を受けてCGって面白いなと思いつつも、これを突き詰めるべきか疑問もあったんですね。これって結局いつもの自己暗示パターンじゃないか、とか。後になって、実は向いていなかったことがわかるんじゃないかとか。
CGW:なるほど。
米岡:ただ、他に選択肢が思い浮かびませんでした。まっとうに就職して生きていくことは、もうその頃には考えていなかったので。それで、自分はCGで行こうと決意しました。そんな頃、たまたま大学の友人が「LightWaveという面白いソフトがあるよ」と教えてくれたんですね。学生版を買っていじってみたら、2Dとは全然ちがう面白さがあったんです。併せてPCも購入しました。少なくない出費をしたこともあって、もう後には引けない、絶対に元を取ってやると勉強を始めました。
CGW:その頃、Windows 95はもう出ていましたか?
米岡:はい、映画『トイ・ストーリー』(1996)も公開されて、注目を集めていました。自分もLightWaveの本を買ったり、「CGWORLD」をはじめ、いろんなCG雑誌を買ったりもしました。授業中は、そういった本を読んでいるだけでしたね。
CGW:いきなりLightWaveってすごいですね。六角大王とかではなく。
米岡:あの頃はLightWaveがキラキラしていたんですよ。自分が勉強し始めて、しばらくすると「テライユキ」をはじめとした美少女CGブームが起きました。元ナムコで『リッジレーサー』シリーズに登場するCGキャラクター「永瀬麗子」を作られた、由水 桂さん(現・株式会社ケイカ代表)に憧れました。それに触発されて、キャラクターモデルをやってみたこともありましたね。当時はそういう時代でした。
CGW:永瀬麗子は良かったですね。本人が好きで作っている感じがしましたよね。また、そうでなければ、可愛くならないんですよね。
米岡:まったくそうですね。
CGW:アルバイトなどはされましたか?
米岡:いろいろやったあげく、最終的に業務用エアコン清掃に落ち着きました。JR駅構内のエアコンを分解して、汚水などを業務用の掃除機できれいにして、また組み立てて撤収するというものです。自分は第二文学部で授業が夜間だったので、昼も夜もアルバイトを入れていました。授業は18時〜21時の2コマだけだったので、昼間はアルバイトをして、授業が終わってからも夜勤を入れました。あっという間に経験値が溜まって、気がついたらバイト長になっていました。そこで仕事のいろはも学びましたね。
業務用エアコンの清掃アルバイト時代
CGW:具体的にはどんなことを?
米岡:ただ働くだけだとつまらないので、仕事のモチベーションをいかにつくるかということですね。そのひとつに、夜勤明けに麻雀をやるというのがありました。だいたい夜の12時くらいに仕事が終わって事務所に戻ってきて、始発を待つまでの数時間が暇なので、みんなで近くの雀荘に行って麻雀を打っていたんですね。1分でも長く麻雀を打ちたかったので、どうやったら時間を捻出できるか考えて、仕事のワークフローを徹底的に洗い出したんです。そうするといろんな無駄が出てきました。
CGW:なるほど。
米岡:具体的には仕事が終わった後、清掃器具を片付けて撤収するまでの業務を徹底的に効率化しました。そうしたら、自分が入っているときだけ1時間くらい早く作業が終わったんです。バイト長だったので、メンバーのシフトを調整して、麻雀が打てるメンバーを固めたりもしましたね。
CGW:ワークフローの改善が今に活きていますね。
米岡:そうなんですよ。実際バイトをすると、いつもワークフローが気になっていました。飲食店でアルバイトをすると、汚れものがシンクに溜まりますよね。何も考えていないアルバイトだと、ただシンクに溜まるだけ。自分はそうならないように、あらかじめ皿の大きさを揃えてシンクに浸けたりだとか。冷静に考えれば当たり前のことなんですが、あまりそこを意識しているアルバイトはいませんでしたね。
CGW:そもそも、それってアルバイトの仕事じゃない、という考えの人が多かったかもしれませんね。
米岡:そうそう。それって社員の仕事だよね、とか。でも、自分はさっき言ったように、出たがりな性格だったので、こういう風にした方が良いじゃん、と。アルバイトをやることで、仕事の有効な進め方を学びました。
CGW:良いアルバイト経験でしたね。
米岡:今も仕事や職場に不満をもっている人に「完成されていない組織ほど、自分が介入できるチャンスがあるから、ラッキーなんだよ」と言っています。エアコン清掃のアルバイトも、フローが完成されていなかったからこそ、自分の存在感を出せて、バイト長になれて、人事権を掌握できて、麻雀の時間も増やせました。