<2>大型スクリーン
ここからは、大型スクリーンという切り口から、現在の主流に加えて、新たに登場した注目システムを紹介していく。
2−1.IMAX
現在、世界の映画館システムにおける最大のスターは、IMAXと呼んで過言はないだろう。1970年の日本万国博・富士グループ館用に、70mm 15パーフォレーション(フィルムの送り穴の数。この数字が大きいほどフィルム面積も大きくなり、解像度や粒状性が向上する。以下Pと省略)という、通常の映画の10倍以上の面積のフィルム(下図)を使用し、巨大なフラットスクリーンに2D投影する「IMAXシステム」を開発した。カナダのマルチスクリーン社は、社名をIMAXシステムズ・コーポレーション(現在は、IMAXコーポレーション)と改め、その後も全世界の博覧会やテーマパーク、公共教育施設向けに、システムとコンテンツを提供し続けた。
フィルムサイズの比較。通常の映画は35mm 4-perf。IMAXは70mm 15-perf(画像提供:日本大型映像協会/IMAGICA)
さらに1973年には、魚眼レンズでドームスクリーンに2D投影する"OMNIMAX"(現在の名称はIMAX DOME)が登場。続けて1985年のつくば博・富士通パビリオンには、アナグリフ方式による立体3D映像"OMNIMAX 3D"。1986年のカナダ・交通博・カナダパビリオンには、フラットスクリーンと直線偏光メガネによる大型3D映像"IMAX 3D"。1990年の大阪・花の万博には、富士通パビリオンにフルカラーの立体3D映像"IMAX SOLIDO"と、三和みどり館に前面と床下面の2面スクリーンに2D投影する"IMAX Magic Carpet"。1991年にはオーランドのユニバーサル・スタジオにOMNIMAXとモーションベースを組み合わせた"IMAX Simulator Ride"。1992年のセビリア万博・カナダ館には、通常の倍の48fpsで2D撮影・映写を行う"IMAX HD"など、様々なバリエーションが設置された。
現在は日本では稼働していない、フィルム式IMAX 3Dプロジェクタ(サントリー・ミュージアム【天保山】にて撮影)
90年代後半に入り、シネマコンプレックスにIMAXシアターが導入されるケースが増えていく。だが70mm 15Pフィルムでは、作品の製作費が莫大にかかる上、上映館側にとってもプリント代、フィルムの輸送と保管の費用、劇場運営の手間などに反映される。長編映画1本のIMAXフィルムのプリント代は、2万~2万5,000ドルで、IMAX 3D作品ともなるとL/R2本のプリントを必要とするため4万5000ドルにもなる。そのため、35mm作品のように頻繁に新作のフィルムを掛けるわけにはいかず、同じソフトがいつまでも上映されているといった形になりがちだった。
その後、日本国内ではシネコン併設のIMAX館が全て閉鎖になり、現在も70mm 15Pフィルムの上映設備を用いている施設は、「所沢航空発祥記念館」(IMAX 2D)、「さいたま市宇宙劇場」(IMAX DOME)、「浜岡原子力館」(IMAX DOME)、「名古屋港水族館」(IMAX 2D)、「鹿児島市立科学館」といった公共館と、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン『バック・トゥ・ザ・フューチャー・ザ・ライド』(IMAX Simulator Ride)と、スペースワールド『ギャラクシーシアター』(IMAX 2D)のテーマパーク・アトラクションだけになってしまった。
2−2.IMAXデジタルシアター
IMAX社は、シネコン併設IMAX館からの要求に応えて、これまでの短編ドキュメンタリーのみというコンテンツ形態を改め、通常の劇映画をIMAXプロジェクタで投影する試みに挑戦した。そして35mmフィルムを8Kでスキャンニングし、デジタル・エンハンス処理(グレインの消去、シャープネスの向上、カラーコレクション、傷やゴミの除去など)を施し、65mm(プリントは70mmになる)15Pのネガにレコーディングすれば、初めからIMAXカメラで撮影したのと同等の画質が得られることを2002年に実証し、この技術にIMAX DMR(Digital re-Masterd Release)という名称を与えた。
さらに2008年には、IMAXデジタルシアター・システムを発表した。従来の70mm 15Pフィルムに代わり、2台のDLP Cinemaプロジェクタを用いるもので、画質をある程度維持しつつ、大幅なコストダウンを実現させた。そしてこのシステムは、3D上映時に大きな強みを持つ。2台のプロジェクタがLRの映像をそれぞれ専門に受け持ち、常に同時発光している。そのためLRを切り替え発光する、アクティブステレオのシングル・プロジェクタ式3Dシステムと比較して倍以上画面が明るくなる。スクリーンは、3D上映を基本としているためシルバースクリーンが用いられ、メガネのフィルタは直線偏光を採用している。
IMAXデジタルシアター・システム
このIMAXデジタルシアターは、国内では2009年より導入が始まり、現在「ユナイテッド・シネマ札幌」、「シネマサンシャイン土浦」、「109シネマズ菖蒲」、「ユナイテッド・シネマ浦和」、「109シネマズグランベリーモール」、「ユナイテッド・シネマとしまえん」、「TOHOシネマズ新宿」、「109シネマズ木場」、「109シネマズ二子玉川」、「109シネマズ湘南」、「109シネマズ川崎」、「ユナイテッド・シネマ豊橋18」、「109シネマズ名古屋」、「109シネマズ箕面」、「ユナイテッド・シネマ岸和田」、「シネマサンシャイン大和郡山」、「福山エーガル8シネマズ」、「シネマサンシャイン衣山」、「ユナイテッド・シネマキャナルシティ13」、「TOHOシネマズ二条」などが稼働中で、さらにTOHOシネマズの9館への導入が決定している。これらは基本的にシネコン内に組み込まれている。ただし「成田HUMAXシネマズ」は、IMAXデジタルシアター専用の建物を作っている。
2−3.次世代IMAX(IMAX with Laser)
IMAXデジタルシアターの多くは、既設シネコンを改造する形式を採っていた関係で、小さなスクリーンサイズしか確保できないケースが少なくなかった。また2KのDLP Cinemaプロジェクタを用いていた関係で、70mm 15Pフィルム式に比べ解像度に限界もある。そのため米国では"Liemax"(偽IMAXの意味)と揶揄する声もあった。
IMAX社はこの問題に対処するため、コダックが持つレーザー・プロジェクタの120以上の特許を2011年に買い上げ、バルコ社と共に2015年に次世代IMAXシステムを完成させた。解像度は4Kのため大型スクリーンに対応でき、レーザーの欠点であったスペックルノイズ(ツブ状のギラつき)も、まったく感じられない。またRGBのレーザー光源ならではのコントラストや、コッテリした色彩を実現させている。将来的に、UHD(4K/8K)の国際規格となっている広色域の表色系ITU-R勧告BT.2020に準ずる予定で、ディズニーの『ザ・ジャングル・ブック』(2016)から使用される予定だということである。
当然S3Dにも対応しているが、ツイン・プロジェクタ式であるため、3Dメガネを掛けていても、裸眼状態とほぼ同等の明るさが実現された。これだけ画面が明るいと、不思議と3Dメガネの存在が気にならなくなるし、邪魔なクロストークも一切感じられず、同じ視差量の映像でも立体感がより明確に感じられる。
ちなみにDCI(Digital Cinema Initiatives)が推奨しているスクリーン輝度は14フートランバートだが、現在S3D映写の多くは3~4フートランバートで行われており、理想的なシアターでも5~6フートランバートほどしかない。したがってS3D映写でも14フートランバートで映写できれば、従来のS3D映画のような見辛さや、立体感の不足を払拭できると考えられる。次世代IMAXシステムでは、ピーク輝度22フートランバートを実現させた。
次世代IMAXシステムの第1号機は、2015年3月よりシネプレックス社が運営するトロントの「Scotiabank Toronto & IMAX」で公開された。その後「TCL Chinese Theatres IMAX」、「Boeing IMAX, Pacific Science Center」、「Airbus IMAX, Stephen F. Udvar-Hazy Center」、「Sunbrella IMAX 3D Theater, Jordan's Furniture Reading」、「Empire Leicester Square IMAX」、「VOX Cinemas & IMAX」などで運営されており、世界71カ所に導入される事が決定している。国内では、大阪府吹田市で2015年11月19日(木)に開業した「109シネマズ大阪エキスポシティ」でお目見えとなった。スクリーンは横26m×縦18mと、フィルムのIMAXシアター並みのサイズになっている。また、2017年にオープン予定の「東池袋1丁目新シネマコンプレックスプロジェクト(仮称)」にも導入予定である。
「東池袋1丁目新シネマコンプレックスプロジェクト(仮称)」の次世代IMAXシアター