<6>S3D上映システム
ひと頃の勢いも収まり、落ち着いてきたように思われがちなS3D(立体視)だが、ここでも新しい技術が生まれようとしている。
6−1.RealD
2003年に米国で創業したRealD社は、S3D技術によるビジネスを目指した。そして2005年に、この分野で数多くの特許をもつステレオグラフィックス(Stereo Graphics)を買収する。
ステレオグラフィックスが持っていた技術のひとつに、「Zスクリーン」がある。これは高速スイッチングが可能な液晶を、直線偏光板と1/4波長版によって挟んだ構造をしており、通過した光を右回り円偏光か、左回り円偏光に切り替えることを可能にしていた。これをDLPシネマ・プロジェクタと組み合わせることで、プロジェクタ1台での映画館向けのS3D映写システムが可能になる。スイッチング周波数は144Hzとし、24fpsのフレームを3回ずつ左右交互に映写するトリプルフラッシュ式にしたことで、フリッカーはほとんど知覚できないレベルとなった。光効率は15%ほどになる。
Zスクリーンを取り付けたDLP Cinemaプロジェクタ
RealDのシステムは順調に普及していき、2009年の『アバター』では世界の約5,000スクリーンがRealD方式でS3D上映していた。現在は、世界26,500スクリーンにも達し、最も普及したS3Dシステムとなっている。
国内では「イオンシネマ」の83館、「ユナイテッド・シネマ」の22館、「コロナシネマワールド」の6館、「TOHOシネマズ」の3館、「フォーラム八戸」、「シネマックスちはら台」、「シネシティザート」、「シネプラザ サントムーン」、「シネマイクスピアリ」、「品川プリンスシネマ」などに用いられている。
そして同社は、PLFなどの大型スクリーンでも十分な輝度を実現させるため、2011年に「RealD XL」システムを発表した。
これはZスクリーンを2つ用い、ビームをプライマリパスと、排除された光(従来は熱として放出)を再利用したセカンダリパスに分けることで、光効率を28%に改善したものである。これによって、従来は幅スクリーン13.7mが限界だったものを、20m以上でも可能にした。
RealD XLシステム
国内では「ユナイテッド・シネマ豊洲」や「シネマックスつくば」に導入されている。
また同年に、RealD XLで2台映写する「RealD XLW」システムも発表しており、「ヘイスティングズ自然・文化史博物館(Hastings Museum of Natural and Cultural History)、「ピンク・パレス博物館」(Pink Palace Family of Museums)などが導入した。
さらに劇場全体の設計も手がけるLUXEや、画質改善ソフトウェアTrueImageなども開発している。同社は2015年11月に投資ファンドRizvi Traverse Managementに買収されたが、CEOはRealD創業者のマイケル・V・ルイス(Michael V. Lewis)がひき続き務めている。
6−2.Sony Digital Cinema 3D
ソニーの、反射式液晶デバイスSXRD(Silicon X-tal Reflective Display)を用いた1台の4Kプロジェクタ「SRX-R515P」または「SRX-R320」と、RealDが提供する円偏光フィルタを装着した3Dプロジェクションレンズユニットを組み合わせたシステム。4K液晶を上下に分割して、それに左右の映像を割り当てるトップ・アンド・ボトム方式によって、それぞれを2K(2048×858画素)で投影する仕組み。アクティブステレオのような左右の切り替えは不要なため、フリッカーは発生しない。
国内では、「TOHOシネマズ」の15館、「109シネマズ」の3館、「札幌シネマフロンティア」などに用いられている。
6−3.Master Image
韓国のマスターイメージとKDC情報通信社が2006年に開発したシステム。1台のDLP Cinemaプロジェクタのレンズ前で、機械的に毎分4,320回転する円偏光フィルタを通し、駆動周波数144Hzのアクティブステレオをパッシブステレオに変換して、シルバースクリーンに投影する仕組み。
まず韓国CJ CGVの14館に採用された他、香港、台湾、インド、フィリピンなどアジア地域に広まり、2009年から拠点を米国に移して全世界に普及が始まった。
現在は、100カ国、8,200スクリーン以上で稼働しており、国内では「TOHOシネマズ」の47館、「109シネマズ」の14館、「品川プリンスシネマ」、「シネマサンシャイン池袋」、「シネマサンシャイン大和郡山」、「シネマサンシャイン大街道」、「ディノスシネマズ旭川」、「フォーラム盛岡」、「中央映画劇場」、「山形フォーラム・ソラリス」、「チネチッタ」、「シネックスマーゴ」、「ジストシネマ和歌山」などに用いられている。
同社は現在、液晶偏光モジュレータを用いる「MI-WAVE3D」を主力商品としている。これは、RealDのZスクリーンと同様の技術によるものだが、光効率は19%とより高効率を謳っている。また「MI-HORIZON3D」と呼ばれるシステムは、RealD XLと同様に液晶偏光モジュレーターで捨てられていた光を再利用するものだが、光路を3つに分けるトリプルビーム光学系を用いて光効率を34%に改善し、大型スクリーンに対応させている。また、これを2台用いる「MI-HORIZON3D DUAL」では、光効率67%を実現させた。
Master Imageのトリプルビーム式液晶偏光モジュレータ「MI-HORIZON3D」
6−4.XPAND
スロベニアの金融大手KDグループのエンターテインメント部門であるKolosej社と、米エドワード・テクノロジーズ(Edwards Technologies)社の合弁会社として設立されたX6D社は、2005年にXPANDブランドを立ち上げ、産業分野向けに液晶シャッターメガネ「NuVision」を提供してきた米マクノートン(MacNaughton)社の技術を買収し、3Dデジタルシネマ事業に進出した。
通常のホワイトスクリーンがそのまま利用でき、設置にあたっては駆動周波数144Hzの同期パルスを放射する赤外線エミッターと、シンクディストリビューションモジュールを取り付けるだけなので、集客状態に合わせてサイズの異なるスクリーンに移動する際もすみやかに対応できる。しかし、液晶シャッターメガネ内に電子回路や電池を内蔵しているため、初期モデルの「X101」は71gと多少重く、液晶の透過率も35%で、それ自体に薄く色が付いていた。だが、2012年に発売された改良型のX103cシリーズでは、重量が56g(子供用は39g)まで軽量化され、液晶も透過率が37%、コントラストが300:1から700:1まで向上し、ほぼ無色になった。最新モデルの「X105」シリーズでは、37gとさらに軽量化され、充電式、透過率38%、コントラスト1100:1、駆動周波数を最大240Hzから320Hzに高めた。
(左)XPAND初期モデル「X101」/(右)XPAND最新モデル「X105-IR-C1」
また2013年に同社は、パッシブステレオ式劇場システム「XPAND Passive 3D Polarization Modulator MS110C2」を市場に投入。2014年には改良された「XPAND Passive Polarization Modulator Gen2 MS210C2」も発売している。これはRealDのZスクリーンと同様に、プロジェクタのレンズ前に液晶偏光モジュレーターを設置してシルバースクリーンに投影するもので、光効率は16%。観客は15.4g(子供用は8.7g)の円偏光メガネを掛けて鑑賞する仕組み。さらに大型スクリーン用に、光効率28%のトリプルビーム偏光モジュレータ「Trinity 3D Superlight Polarizer」も提供している。
XPAND Passive Polarization Modulator Gen2 MS210C2
国内では、「シネプレックス」の11館、「松竹マルチプレックスシアターズ」の24館、「新宿バルト9」、「梅田ブルク7」、「横浜ブルク13」、「T・ジョイ蘇我」、「こうのすシネマ」、「広島バルト11」、「T・ジョイパークプレイス大分」、「鹿児島ミッテ10」、「シネマサンシャイン平和島」、「シネマサンシャイン土浦」、「シネマサンシャイン沼津」、「シネマサンシャインかほく」、「シネマサンシャイン下関」、「シネマサンシャイン衣山」、「シネマサンシャイン重信」、「シネマサンシャインエミフルMASAKI」、「シネマサンシャイン大州」、「シネマサンシャイン北島」、「ディノスシネマズ苫小牧」、「ディノスシネマズ室蘭」、「ミッドランドスクウェアシネマ」、「ミッドランドシネマ名古屋空港」、「シネマ・リオーネ古川」、「プレビ劇場ISESAKI CINEMA」、「渋谷シネパレス」、「シネティアラ21」、「サンモールシネマ」、「岡谷スカラ座」、「なんばパークスシネマ」、「OSシネマズ ミント神戸」、「OSシネマズ神戸ハーバーランド」、「姫路OS」、「佐世保シネマボックス太陽」などに導入されている。
XPAND Trinity 3D Superlight Polarizer
6−5.Dolby 3D
独ダイムラーの研究所で自動車のVR設計用に開発された技術をベースに、そこから独立した独インフィテック(Infitec)社が開発した特殊フィルタを用いる、ドルビーラボラトリーズのS3D方式。
3Dメガネには50層を超える干渉膜がコーティングしてあり、プロジェクタの光源をRの高/低、Gの高/低、Bの高/低の6波長域に分割し、交互に左右に振り分けることで立体視を実現させる。映写時は、DLP Cinemaプロジェクタのランプハウスと光学エンジンの間にフィルタ・ホイールを設置し、144Hzのトリプルフラッシュとなる速度で機械的に回転させる。
国内では、「T・ジョイ大泉」、「T・ジョイ新潟万代」、「T・ジョイ長岡」、「T・ジョイ京都」、「T・ジョイ東広島」、「T・ジョイ出雲」、「T・ジョイ博多」、「T・ジョイ リバーウォーク北九州」、「鹿児島ミッテ10」などに導入されている。
またテーマパークの3Dアトラクション用や、ホワイトスクリーンが使用できることから、映画配給会社の試写室に広く用いられている。今後は、ドルビーシネマの普及に伴い、映画館への導入例を増えるかもしれない。
6−6.6P(6原色)レーザー3D
バルコ社が4Kレーザー光源プロジェクタ「DP4K-60L」「DP4K-45L」「DP4K-30L」「DP4K-22L」の機能として、2014年に導入した3D方式のひとつ。Dolby 3Dのように、ランプハウスと光学エンジンの間に回転するフィルタ・ホイールを設置するのではなく、最初からRGBと、20nmずつずれたR'G'B'という6原色のレーザーを光源とする。
バルコ「DP4K-60L」
S3Dメガネは、インフィテック社のフィルタを用いるが、Dolby 3Dと互換性はなく、Color3D(Barco Laser3D)方式にチューニングされたものを使用。輝度が最大60,000ルーメンの「DP4K-60L」は、観客が3Dメガネをかけた状態で、標準的な裸眼の2D上映並みの明るさ(1.8ゲインの幅24mスクリーンで7フートランバート以上。幅17mスクリーンで14フートランバート以上)が得られる。
またクロストークが一切なく、スペックルノイズも感じられない。さらに2500:1という非常に高いコントラストと、深みのある色彩も特徴である。
そしてクリスティ社も、同様の機能を持つレーザー・プロジェクタ「Mirage 4KLH」を2014年より発売しており、最大120HzのHFRにも対応している。
また、イタリアの映写機メーカーであるシネメカニカ(Cinemeccanica)が提供しているレーザー光源「Cinecloud Lux」は、任意のDLP Cinemaプロジェクタに装着できる製品で、20,000~60,000ルーメンまで9種類のモデルがあり、デュアル構成で115,000ルーメンまで対応可能。やはり6Pレーザー3Dの機能を持っており、XPAND社と戦略的パートナーシップを結んでいる。
シネメカニカ「Cinecloud Lux」の広告
6−7.ネストリ3D (Nestri 3D)
韓国のNestri社が開発した、液晶シャッターメガネを用いる3Dシステム。充電式で電池交換が不要。重量はバッテリー込みで47gと軽量。液晶も透過率40%、コントラスト500:1で、ほぼ無色である。国内では「大阪ステーションシティシネマ」、「ディノスシネマズ苫小牧」、「シネマ太陽帯広」、「シネマ太陽函館」、「MOVIX亀有」などが採用している。
ネストリ3D