>   >  IMAX 3Dに対抗する新たな上映システムが世界中で続々と登場! 今、劇的に変わりつつある映画館
IMAX 3Dに対抗する新たな上映システムが世界中で続々と登場! 今、劇的に変わりつつある映画館

IMAX 3Dに対抗する新たな上映システムが世界中で続々と登場! 今、劇的に変わりつつある映画館

<4>画質の改善

映像の質という面において、どうしても4Kや8Kといった解像度に注目が集まりやすい。だが、改良すべき点は他にもたくさんある。その代表が、ダイナミックレンジやフレームレートの問題で、ようやくこういった要素にもメスが入り始めた。

4−1.ドルビーシネマ(Dolby Cinema)

ドルビーラボラトリーズが2015年に発表した次世代映画館システム。画面のピーク輝度やコントラスト、色域などを大幅に拡大した高画質化技術"ドルビービジョン"(Dolby Vision)と、音響のドルビーアトモスを組み合わせている。また、壁や入口、座席、スクリーンなど、劇場トータルのデザインも同社が手がけた。
ドルビーシネマに対応するコンテンツは、これまでに『トゥモローランド』『インサイド・ヘッド』『カリフォルニア・ダウン』『ピクセル』『ミッション: インポッシブル/ローグ・ネイション』『エベレスト』『ハンガー・ゲームFINAL:レボリューション』『The Perfect Guy』『メイズ・ランナー2: 砂漠の迷宮』『オデッセイ』『PAN ~ネバーランド、夢のはじまり~』『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』『白鯨との闘い』などがある。

今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

ドルビーシネマのシアター

まずこのシステムは、米国の興行チェーンであるAMC Theatersに採用され、同社の最上級PLFである「DOLBY CINEMA at AMC PRIME」として10館で稼働している。
またオランダの「JT Hilversum」「JT Eindhoven」、スペイン・バルセロナの「Cinesa La Maquinista」、オーストリア・リンツの「Cineplexx Linz」などでも導入されている。

4−2.ハイフレームレート(HFR)

映画フィルムのフレームレートは、サイレント時代は"ほぼ16fps"というアバウトなものだったが、ウエスタン・エレクトリック(Western Electric)社のスタンリー・ワトキンス(Stanley Watkins)は、映写機と蓄音機を同期運転させるサウンド・オン・ディスク方式のトーキー・システム「ヴァイタフォン」(Vitaphone)のために、映写速度の厳密な規格化が必要だと感じ、1926年に従来の1.5倍のフレーム数となる24fpsを基準値に定めた。

ちなみにフィルム式の映画カメラに用いられるロータリーシャッターは、半円形の2枚の板を重ねたものを機械的に回転させている。この2枚の成す角度によって開口部の面積が変化し、開角度を狭くすれば光量を必要とするが、スチルカメラのシャッタースピードを速くしたように動く被写体もシャープに撮れる。
しかしこれを映写して見た場合、速く動く腕などが複数本に見えるストロビング(Strobing)という現象が発生したり、ジャダー(Judder)と呼ばれるギクシャクした動きが生じてしまう。逆に開角度を広くすれば、少ない光量にも対応でき、動きは滑らかになるものの、今度はモーション・ブラー(Motion Blur)というブレが目立つようになり、画面のシャープさが失われてしまう。

そこで、映画監督/VFXスーパーバイザーのダグラス・トランブル(Douglas Trumbull)は、1974年に撮影速度を様々に変えたフィルムを用意し、被験者の脳波、心電図、筋電図、皮膚反応などを測定。その結果を基に、70mm 5Pフィルムを60fpsで撮影・映写する「ショースキャン」(SHOWSCAN)システム【図11】を開発した。そしてこれをビジネス化するため、1985年にショースキャン・フィルム・コーポレーション(Showscan Film Corporation)を設立し、博覧会映像やシミュレーション・ライドに活用していく。だが劇映画に用いると、観客の心理をフィクションの世界に留めていたイリュージョンが消えてしまい、過剰に生っぽく見えるのである。そのためセットはセットに、カツラはカツラに、メイクはメイクにしか見えなくなり、造り物の不自然さを際立たせてしまう結果となった。そしてトランブルは、1989年にこの分野から撤退してしまう。

  • 今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム
  • 「ショースキャン」システムを国内で初めて導入した、『科学万博‐つくば'85』・「東芝館」のパンフレット


1992年には、加IMAX社が『セビリア万博』・「カナダ館」の『Momentum』向けに、48fpsで撮影・映写を行うIMAX HDシステムを開発した。だが制作・運営のコストが大きいため、全部で3作品にしか採用されなかった。
そして20年後にピーター・ジャクソン(Peter Jackson)監督が、『ホビット 思いがけない冒険』(2012)、『ホビット 決戦のゆくえ』(2014)、『ホビット 竜に奪われた王国』(2013)の三部作を、S3Dの48fpsでデジタル撮影した。
これらは、HFR対応のインテグレーテッド・メディア・ブロック(IMB)を導入した劇場において、48fpsのS3D上映が行われている。だが観客の多くが、「スタジオ収録したTVドラマみたい」という感想を抱いたようだ。つまり、ショースキャンと同様に過剰なリアリティによって、逆にお芝居感が強調されてしまったのである。だが筆者は、通常モーション・ブラーで不明瞭になってしまうような素早く移動しながらのモブシーンでも、1人1人がきちんと見分けられることに感心した。また被写体の輪郭が鮮明になった分、立体視も容易になっている。

4−3.120fps

その後トランブルは、2010年より再びHFR技術に取り組み始め「ショースキャン・デジタル」(Showscan Digital)という名前で研究を開始した。現在は「MAGI」(発音はマジャイ)という名称になっている。基本的に4K、120fpsのデジタルS3D映像をベースに、48fpsや60fps、120fpsの映像を作り出すというもの。
動きの質感に関しては、ショットごとに被写体を分析し、24〜120fpsの間で自由にフレームレートを変える手法で対応する。さらに同一画面中でも、激しく動く物体だけHFR化する方法も検討されている。この技術を用いた最初の作品は、トランブルの監督による短編『UFOTOG』(2014)である。

『UFOTOG』トレイラー

このMAGIと同じシステムかどうかは不明だが、アン・リー監督が制作中のイラク戦争を風刺した中国・アメリカ・イギリス合作映画『Billy Lynn's Long Halftime Walk』では、4K、ネイティブS3Dに加えて120fpsのデジタル撮影が行われている。カメラはSony CineAlta F65が用いられており、米国公開は2016年11月11日の予定になっている。

またニコラス・ウィンディング・レフン監督による、フランス・アメリカ・デンマーク合作のホラー映画『The Neon Demon』(2016)では、60fpsが用いられるという情報がある。さらに現在、ジェームズ・キャメロン監督が取り組んでいる『アバター2』(2017年後期公開予定)でもHFR 3Dの採用を検討中ということで、効果次第では爆発的な普及が期待できる。

機材的には、クリスティから120fps(120Hz)対応の4Kプロジェクタ「Mirage 304K」「Mirage 4K35」「Mirage 4K25」が発売されている。そしてテレビの世界においても、現在NHKが研究開発を進めているスーパーハイビジョンでは、59.94pや60pに加え、120pというフレームレートも規格化されている。
しかしHFR化は、フレーム数が増えた分だけ、データ管理やVFXの手間、CGのレンダリング時間も増加する。これはロトスコープを必要とする合成や、2D/3D変換の手作業の工程では大きな問題となる。したがって現在は、ある程度は予算の大きな作品でない限り、おいそれと手が出ない手法であることは間違いない。だがいずれは、コンピュータの速度向上やストレージの容量アップによって、徐々に当たり前のことになっていくのかもしれない。

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<5>プレミアム・ラージ・フォーマット(Premium Large Format: PLF)

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