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第1回:十十 / jitto

第1回:十十 / jitto

シームレスにデータをやり取りする

続けて、VFX 制作者の理想型となる環境を支えているネットワークや使用ツールを見ていく。フィニッシングにも対応できるように基幹となる部分は 8 Gbps の ファイバーチャネル を利用し、シームレスにデータのやり取りができるようにと、NAS を複数ぶら下げたりするのではなく、全て制作データを一カ所にまとめる仕様にしているのが画期的だ。「従来のポスプロ的な考えでは、CG 制作とオンライン編集ではデータを別々に管理していましたが、少人数で、フットワークよく作業を行うにはこのように1つにまとめた方が効率的だと考えました。実際に、この環境は CG デザイナーにもエディターにも好評ですよ」(定岡氏)。十十では、半数のスタッフがオンライン・エディターだが、仕事の特性として社外の編集室を使うことも多いので、当面は1チェーンで問題ないとのこと。「オンライン編集については、合成の難易度が高かったりして作業日数が比較的長めのプロジェクトを社内で行うことが多いですね。そうした案件では、Flare を重宝しています。Flare は Flame と同じバッチモジュールが使えるので、ロトスコープなどの下処理したデータをダイレクトに読み込めるので、その後の微調整が手軽に行えますね」(定岡氏)。

十十ネットワーク構成図

十十のネットワーク構成図(2011年4月20日現在)。ストレージは 27TB(SAS 10TB、SATA 17TB)、レンダーファームは 48CPU(@2.93GHz )と、10名弱のスタジオとしては充実している。また、StorNext による SAN ネットワークを構築することで、Linux、Windows、Mac 環境を共存させシームレスなデータのやり取りを実現した
 

十十サーバルーム

photo by Mitsuru Hirota
マシンルーム。ミーティングスペースの直ぐ横に置かれているのだが、鉄製の厚い扉で仕切っているため、ノイズはまったく聞こえてこない

使用ツールについては、高度な R&D ノウハウを保有しているわけではないので、特殊なものは使っていないと謙遜する。しかし、スタッフが必要だと判断すれば、ケチらずにしっかりと用意することも心掛けている。主な使用ツールについては、下表にまとめてあるので参考にしてもらえればと思う。「自分たちのデモリール制作やロケハン資料の取りまとめ用途で、Final Cut Studioを入れているのですが、将来的にはオフライン・エディターにも十十へ参加してもらえると、より有意義なパイプラインが構築できるのではないかと考えています。既に、ご自身でオフライン編集をされるディレクターさんには社内の Final Cut Pro を利用してもらっているのですが、チャンスがあったら、ぜひ実現させたいですね」(定岡氏)。ツール面の拡充という意味では、今後の案件やスタッフ増加に備えて、アーカイブやスケジュールを管理するためのツールの導入も視野に入れているそうだ。

十十主要ソフト・プラグイン一覧

現在、十十で利用している主なソフトウェアとプラグイン一覧。Flame 向けの Primatte や Max の Fume FX など、業界必須ツールをしっかりと抑えておきつつ、トラッキング作業には高いコストパフォーマンスに定評ある SynthEyes を利用するといった具合に、ツボを押さえたラインナップだ
 

最後に今後の目標について尋ねてみた。「僕らは、CM や MV を中心に活動してきたスタッフばかり。ですので、まずはお世話になったそのフィールドで、何も後ろ盾がない状態であっても、今までやれていたことをちゃんと実践できるのかが当面の課題ですね。それができた上で、初めて次のステージに進めると思っています」と、定岡氏。精神論を振りかざすわけではないが、どんなにハイエンドの機材があっても、最終的にはそれを扱うクリエイターがその能力をどれだけ引き出せるかどうか、ひいてはクライアントからのオーダーに沿いつつも、彼らの期待を上回る表現を作り出せるかにかかっている。要は "人間力" なわけだ。それゆえに十十では、スタッフがその才能をいかんなく発揮できるために、そんな彼らが円滑なコミュニケーションを図れるように、といった具合に一貫して人ありきでパイプラインを構築したと言えよう。「この業界では、ある程度、キャリアを重ねると『○○さんにお願いしたい』『××さんなら何とかしてくれるはず』といった形で指名での仕事が増えて来ます。これこそクライアントさんの方が具体的な技術ではなく、人で判断していることの証だと思うんですよね。もちろん、僕らが良いなと思うものを作るというのはありますが、それが独りよがりにならないようにするためにはコミュニケーションが欠かせないと思います」(定岡氏)。

実は、"次のステージ"も既に見えつつある。「現在、石井克人監督の映画『(仮題)スマグラー』 の VFX 制作をリードさせて頂いています。神田が VFX スーパーバイザーとして全体を取りまとめ、CG・VFX制作には外部のプロダクションさんに協力してもらっています」(土屋氏)。本プロジェクトでは、外部プロダクションの協力を仰ぐ一方で、全カットの最終的な調整も十十が手掛けることで、分業で起こりがちなシーンやカット単位でのクオリティのバラツキの排除を目指しているとのこと。今後も十十のさらなる活躍に期待がかかる。

蛇足 〜 本連載が目指すもの

第1回目の「プロダクション探訪」いかがだっただろうか? ぜひ、忌憚のない感想をお寄せ頂ければと思う。
この夏に地デジへの完全移行を目前に控え、映像制作においては HD フォーマットが定着したと言える今日。さらには、S3D や 4K といった新たな仕様での制作も求められるようになり、映像技術はまさに日進月歩だ。そうした中、日本のCG・映像制作現場で数年前から話題に上る機会が増えてきたのが、"プロダクション・パイプライン"。すなわち、どのような制作規模で、どのような環境を構築し、どのような作業フローを実践するのか、いわば制作スタイルの見直しに迫られているわけだ。

より良いパイプラインの構築を考える上で、例えばハリウッドに倣うというのは、アナログ時代からのひとつの方策にちがいない。しかし、バジェットや期間はもちろん、文化的な背景も大きく異なる彼らの手法を単純に採り入れても絵に描いた餅に陥りがちだったのもまた事実。あらゆる意味でパラダイムシフトに直面している、我が国のVFX産業にとっては、今一度 "日本ならではの制作手法" について、本気で議論するべきではないだろうか。この連載では、日本の制作現場の実情を踏まえ、自分たちなりに新たな手法を実践しているプロダクションに協力して頂き、彼らの取り組みについてできるだけ具体的に解説していく予定である。

TEXT_沼倉有人(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充

十十スタッフ

十十スタッフ

写真後列左から時計回りに、藤井久子氏(オンライン・エディター)、神田剛志氏(オンライン・エディター、VFX スーパーバイザー)、定岡雅人氏(オンライン・エディター、VFX スーパーバイザー、代表取締役)、尹 剛志氏(CG デザイナー)、土屋真治氏(プロデューサー)、西沢竜太氏(CG デザイナー)、吉田共美氏(CG デザイナー)、塚本時彦氏(プロデューサー)、坂巻亜樹夫氏(オンライン・エディター、VFX スーパーバイザー)

十十ロゴ

▼ About Company

株式会社十十
20 年以上にわたって、TVCM や MV を中心に活躍してきたオンライン・エディター・定岡雅人氏が 2010 年9月に設立。全スタッフがキャリア 10 年以上を誇り第一線で活躍中という、少数精鋭を掲げる "新世代のVFX工房" である。
http://www.jitto.jp/
TEL:03-3585-5510

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今回、紹介した十十にて、CGデザイナーとして活躍中の尹 剛志氏へのインタビュー記事を下記サイトにて公開中です。ぜひ、ご覧ください。
 
CG-ARTSリポート「プロダクション探訪~第一線で活躍する先輩からのメッセージ~」

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