制作期間は3ヶ月。中学生だけでハイクオリティなフルCGムービーを作る時代に突入した。3月15日にX(旧 Twitter)でリリースされたカーチェイス動画『LIMIT BREAK』を作り上げたのは「ese-club」(イーエスイークラブ)。中学校のパソコン部が母体となったクラブだ。

聞けば、クラブに顧問はいるがCGについては「全くの門外漢」とのことで、CG技術については、自分たちで探求しこのレベルまで到達したとのこと。2020年前後、SNSを通じて集まった若手のCGアーティスト集団「UNDEFINED」の登場は業界を驚かせたが、プレイヤーの低年齢化は更に進行している。

CGWORLDはese-clubの運営方法や学習リソースについて、チームを代表してリーダーの久野恵吾さんとクラブ顧問である久野孝光さんにお話を伺った。

記事の目次

    もはや「CG歴」だけでは語れない!? 中学生たちがBlenderで生み出す驚愕の作品クオリティ

    CGWORLD(以下、CGW):まずは皆さん、高校受験お疲れ様でした!受験期間中はBlenderも我慢していたみたいですね。

    久野恵吾(以下、久野):久しぶりのBlenderは本当に楽しいです。

    CGW:受験が終わって『LIMIT BREAK』の制作も一気に加速したみたいですね。完成作品は本当に見事で、カメラワークやカット割りなど映像演出がハイレベルで度肝を抜かれました。

    久野:ありがとうございます!

    CGW:では、自己紹介をお願いします。

    久野:僕は中学3年生で、ese-clubのリーダーです。Blenderを2年ほど、After Effectsを3年ほど触って、車や人物などのアニメーションをX(旧Twitter)などに投稿してきました。今は「未来中学」という長編アニメーションを作成しています。

    CGW:ese-clubが出来上がった経緯をお聞かせください。

    久野父:もともとコンピューター部があった中学だったんですが、学校全体で部活動を減らしていくという流れの中で、一度なくなっちゃったんです。ただ、コンピューターをやりたい生徒はいたので、校外での課外活動として集まって部を作ろうということで、今のese-clubができたんです。「ese-club」は「映像創作演劇クラブ」の略称です。

    ▲写真右から、深谷倫平さん(3Dモデリング,BGM制作)、村山巧さん(3Dモデリング)
    久野友護さん(3Dモデリング)、久野恵吾さん(3Dモデリング・アニメーション,VFX,クラブリーダー)、笠松真大さん(3Dモデリング)さん、石井明都さん(3Dモデリング,ゲーム制作)
    広瀬晄一さん(3Dモデリング・アニメーション)、久野孝光さん(クラブ顧問)。
    他、 大宮瑠已さん(3Dモデリング)、なべ子さん (音楽制作担当)、江端さん(キャラクターデザイン)を加えた計10名のメンバーと顧問が所属している。

    「大人の鑑賞にも堪えうるもの」を目標に、YouTubeで学ぶ。

    久野父:最初はBlenderだけじゃなく、ゲームを作ってみんなで遊ぶのが楽しいよねということで始まったんですが、Blenderがすごく面白いと生徒たちが言い出して、今のような活動になっていきました。テクニックが身に付いていくと、今度は公開する場がないと面白くないということで、YouTubeなどで作品を発表していったという流れです。私自身はBlenderは全く使えないんですが。

    CGW:顧問がBlenderを使えない上で、どのようにして生徒たちを導いていったんでしょうか?

    久野父導くというより、楽しいことをやろうねということからやっていきました。来られる子は来ればいいし、来られない子はそれでもいいし。月に一回はゲーム大会をやったり、受験前には早押しクイズなんかもやっていました。とにかくコンピューターを使って楽しもうというところが発端だったので。

    CGW:そもそも生徒さんがBlenderを使い始めた切っ掛けは何だったんでしょう?

    久野父:文化祭で映像を作るという話が出たときに、生徒の顔を映像中に出したらNGと言われてしまったそうで、その時に私がCGを使ってやってみたらと言ったのが始まりです。学校の教室をCGで作って、文化祭用に映像を作ったんです。二年の文化祭に「横中未来」というタイトルで出しました。今はテレビ番組を作る感覚で、23分枠の映像を作れたら面白いなと。ただ23分の長さのものを作るのには相当労力がかかるので、まずは5分くらいの短編映像を定期的に作っていこうということになっています。

    CGW:クラブ運営はどのように行っているのですか?特に機材面について気になっています。

    久野父:中学2年までは定期的に週1で市の施設に集まって活動していました。ハイスペックなノートPCを持っている子は持参してもらって、持ってない子は私がコンピュータの会社を運営しているのでボランティアでPCを無償で貸し出しています。市の施設は市の教育委員会に許可を頂き電源とネットワークは無償で提供して頂いていたので、クラブの運営ができていました。貸出機器が5台しか無かったので、たくさんのお子さんを入会させることができません。また、街全体のレンダリング作業となると、ノートPCだけで完結するのは難しいので、息子がデータを持ち帰り、私の会社で使っているハイスペックなPCでムービーにして作業をしておりました。

    https://twitter.com/club_ese/status/1751144054413516836

    CGW:CGを作る上での環境面の壁はそのように突破したんですね。メンバーはどのようにして集まってきたんでしょう?

    久野父:文化祭での映像を見た子たちが、自分もやりたいと集まってきてくれたようです。

    CGW:中学生が作ったとは思えないほどクオリティの高い映像でした。

    久野父大人の鑑賞にも堪えうるものを作りなさいということは言っていました。YouTubeで学ぶという考え方が生徒たちにフィットしたようで、すごい勢いで技術を追求していましたね。真剣に取り組んで、面白いことをやろうという思いさえあれば、大人であろうが子供であろうが、やろうと思えばやれるものだと思います。意欲があった上で文化祭という締め切りがあって、そこまでに仕上げようとみんなが集中して調べていったからできたんだと思います。

    CGW:YouTubeで学んだというお話が出ましたが、実際にどんな動画を参考にされてきたんでしょうか?

    久野:「ChuckCG」、「3D Bibi」、「Rozi 3D」といったアカウントをよく見ていました。

    CGW:クラブ活動として、どれくらいの頻度で集まっているんですか?

    久野:実際に集まるのは月に二、三回です。その間に、それぞれの家庭でYouTubeで学んだり、PCを持っていない人にはPCを貸し出して作業してもらったりしています。メンバー間の連絡はDiscordで取り合っています。

    CGW:中学生のクラブ活動だと、プロのクリエイターのように仕事としてCGを作ってお金をもらえるわけではないですよね。作品作りのモチベーションは何なのでしょうか?

    久野:みんなで協力して作り上げた作品を投稿して、「いいね」をもらったりして評価してもらえるとモチベーションが上がります。

    CGW:皆さんが現在注目しているアーティストや目標にしている方はいますか?

    久野:主にXで活動されている「Roa.」さんというCGクリエイターがいるんですが、その人を目標にしています。美しくて幻想的な世界な世界観を作っているんですよ。Xでも声を掛けてもらって、やり取りをして、作品にアドバイスをもらったりもしています。

    クオリティアップのコツは「とにかく楽しむこと」。 どんな作品を作るにしても、楽しくないと続けられない

    CGW:今後、クラブとして何か目標としていることはありますか?

    久野父:現在、部員が三年生のこの子達しかいないんですね。この子達はese-clubとして第一期生になるんですが、彼らは今年で卒業していくので、基本的にはここで終わりなんです。ただ、知人の子供が一年生として入学してくるそうなので、その子を誘って新たにまた二期生として募集しようと思って動いているところです。実際にBlenderをやるかどうかはまだわかりませんが、まずはAfter Effectsで映像を作って遊んでもらえればと思います。そこから、彼らがBlenderをやりたいと言ってくれればBlenderを始めさせるつもりです。CGを学ぶクラブというよりは、まずコンピューターを楽しんでもらうというのが、このクラブの活動だと考えていますので。

    CGW:それでは、ese-clubが実際に制作した作品の解説をお願いします。

    久野:『横中未来』という、文化祭で公開した映像を紹介します。これはクラブ初の作品になります。教室や黒板、鉛筆などをみんなでモデリングして、それを合わせてアニメーションを作りました。制作期間は四ヶ月くらいです。

    久野:続いて作ったのがランボルギーニのアニメーションです。こちらは車体のモデリングはしていないんですが、リグを作って、アニメーションを付けていきました。

    CGW:こちらの作品はどんなこだわりを持って作られたのでしょうか?

    久野:リアルな質感にこだわりました。ランボルギーニの車体自体もそうなんですが、その背景になっている森などにもリアル感を出そうとこだわりました。

    CGW:こちらは制作時にコンテは切ってあるんですか?

    久野:いえ、コンテは作らず、自分の頭の中に浮かんだ映像をそのままBlenderで作りました。

    CGW:これらの作品にはUnreal Engineは使われていますか?

    久野:全てBlenderで制作しています。未来中学』では、背景の人物などはアセットを使用しています。背景の建物の中でも、マンションや駅など特徴的なものに関しては、クラブのメンバーが制作しました。

    CGW:爆発のシミュレーションは何を使っているのでしょうか?

    久野:これは2Dの爆発の映像素材をAfter Effectsで合成しました。煙の部分は動画素材で、瓦礫などの破壊された部分はBlenderで作っています。

    久野父:ただ、実際にモデルがある建物を爆発している映像を学校で流すのはまずいということになって、爆発バージョンはボツになったんですよ、実際にクラブのメンバーでここに住んでいる子もいたりしたので(笑)

    久野:そしてこの後、冒頭で紹介した『LIMIT BREAK』を集大成として制作しました。Xで少しづつ進捗を発表していましたが、皆さんの反応がモチベーションにとてもつながりました。特にカメラワークについて褒めていただくことが多いのですが、カメラのブレやカメラワークに関しては、YouTubeに上がっている色んな人の3DCG作品や映像作品を見て参考にしました。この作品や「未来中学」のように少し長い作品の場合は、自分で絵コンテを描いたりもしています。

    CGW:自動車の表現に関して気を付けているポイントはありますか?

    久野:たとえば自動車でドリフトとかブレーキをかけるときは少し車体が傾くんですが、そういうところを再現するようにしています。あとはカメラワークでも、あまり車よりも上にカメラを置かず、横や下のほうから撮ることで、車を大きく、スピード感があるように見せるようにしています。

    CGW:車を題材にされているのは、やっぱり車が好きだからですか?

    久野:はい、小さな頃から車が好きで、トミカをたくさん買ったり、レースの動画を見たり、自動車レースを題材にしたゲームや映画が好きです。

    CGW:自動車が変形していますが、これもアセットに入っているんですか?

    久野:自動車はアセットですが、変形する部分は自分でモデリングもしています。

    CGW:エフェクトに関しては何を使っているんでしょうか? 

    久野:エフェクトもBlenderで作りました。

    CGW:このブーストの炎はどうやって作ったんでしょう?

    久野:実際の炎の動画を3Dの円柱に貼り付けることで立体的な炎を表現しています。

    CGW:『LIMIT BREAK』の制作期間はどれくらいですか?

    久野:大体三ヶ月くらいです。

    CGW:レンダラーは何を使っているんでしょうか?

    久野:Cyclesを使いました。

    CGW:有料のアドオンは使うことはありますか?

    久野:たとえば「Botaniq」という、木や自然を作ってくれる素材集のアドオンを使いました。車についてはリグが付いたライブラリ「Traffiq Library」というアドオンを使っています。それから「Auto-Rig Pro」も使っていますね。

    CGW:CGを頑張っている同世代の中学生、高校生に向けてアドバイスをお願いします。

    久野:とにかく楽しむことですね。どんな作品を作るにしても、楽しくないと続けられないので。Xでいいねをもらったりとか、色んな人に認められるということが、CGを作るためのやる気になっていくので。

    CGW:今後の活動や展望としては、どのようにお考えですか?

    久野父:この一期生は今年で中学を卒業してしまうんですが、構想として、eseスタジオというものを作って、そこで卒業した一期生たち高校生を受け容れていこうと考えています。そこでは作ったモデルを販売して、どういう流れでお金になっていくのかを勉強してもらうつもりです。情熱を込めて作ったものはお金に替わるよ、経済というのはこういう風に回っていくんだよと学んでもらうことが、大人へのステップとしていいのかなと。

    久野:いつか将来、自宅をスタジオにしていきたいですね。

    CGW:今回はありがとうございました。

    TEXT_オムライス駆
    INTERVIEW_池田大樹(CGWORLD)