>   >  日本にフルCGアニメは根付くのか?:第 1 回:氷川竜介(アニメ・特撮 評論家)
第 1 回:氷川竜介(アニメ・特撮 評論家)

第 1 回:氷川竜介(アニメ・特撮 評論家)

まずは、CG アニメーションを同時多発で量産すること

野口:最後に、日本にフル CG アニメを根付かせるためのアドバイスを頂けますか?

氷川:まず「量」です。とにかくフル CG アニメ作品を同時多発的に制作していくことでしょう。良いものができれば、観客は必ずついてきますから、それには様々な現場で量産されることが大前提でしょう。「選択と集中」も大事 ですから、先ほどの "CG の強み" を活用し、浮いたリソースを企画や演出などクリエイションの集中に回してほしいです。それが CG クリエイター発になれば、ベストですよね。

野口:お話を聞いていて、演出さんや作画アニメーターさん側と、CG 制作側の相互理解をより深めていくことも重要だと思いました。CG のジレンマとして、"動かさないと人形みたいで気持ち悪い" というものがありますが、2D レタッチの効率を上げていく、作画ライクな CG アニメーションのノウハウを積み重ねる、その他にも CG に合った演出や動きがあるはずなので。

氷川:CG 時代を前提とした演出の開発は、重要な課題でしょう。観客の意識をどこに集中して向けさせるかという 視線誘導 ひとつとっても、作業効率と仕上がりを大きく左右するので。CG では手描きでは容易に調整できる格好悪いアングルが出てしまうとも聞きますので、そんな部位を見えなくする魔法のフィルタや、不自然なディテールを自動補正してくれるプラグインなどの開発も良いかもしれません(笑)。

野口:あはは(笑)。

氷川:もうひとつは、定評のある演出さんやアニメーターさんに 「CG のどこが気に入らないか」を徹底的にリサーチして分析する ことも有効でしょう。いわゆる "不気味の谷" が存在するのか、それがどこに起因するのか、そうしたことを把握した上で、大胆なカメラワークなど、手描きでは困難な CG ならではの強みを強調することで、気持ちの悪いところに視線や意識を向けさせなくする......。こうした演出技法の研磨の果てに、日本独自の CG アニメ表現が芽生え、やがて大きく育っていくはずだと思います。

氷川竜介ポートレイト4

 

野口:その積み重ねを、様々な制作現場で続けていくことで、CG アニメーションに "見慣れる" ようになると。

氷川:また、日本のアニメーション表現の根底には、"タメとツメ" 、すなわち静と動のコンビネーションがあります。動いて、止めて(止まって)、また動くといったリズムを付ける際、3 コマ打ちの動きと 2 コマ打ち、1 コマ打ちをどう入れるかで、時間の連続と断続が音楽的なリズムに昇華するのです。こうしたタメとツメ、さらに "トメ" も交えた妙技は、音楽や舞踊などに通じる快楽をもたらすものですし、文楽や歌舞伎など日本の古典芸能にも通じるものです。その表現は CG でも変わらないので、日本なりのツボというか、極め方もあると思うのです。現場の方々が、そうしたことに興味をもち、アニメーションに共通性をもつ "時間芸術の粋" を習得されることも、大切なことだと思います。

野口:なるほど。確かに、作画のアニメーターさんは タイムシート を通じて、そうしたタメツメのリズムを会得されていますよね。CG ソフトのアニメーション UI では、情報が多すぎるので、かえって "動きの肝" が把握しづらいのかもしれません。

氷川:映像表現は時間軸の表現なので、"動き" という時間をともなった情報を、タイムシートという二次元情報に集約することで、そのエッセンスを見出すことも可能になると思います。音楽に譜面があるように "鉄則となるリズム" を踏まえた上で、それをシートとして視覚化し、設計することが、良い表現を描く上で欠かせないと思うのです。カット割りや尺、さらにはレイアウトなど、アニメを構成するあらゆる要素にも、同じことが言えると思います。CG の場合、これまでデザインがなくてもセットアップできてしまうので、譜面のない音楽になることもあったのではないでしょうか。そうなると、フリージャズのように個人の才能に依存しすぎる部分が増えてしまうと思います。

野口:まったくその通りですね。

氷川:素人考えもあると思いますが、やはりこういう分析で 「アニメの楽しさの本質」 が浮き彫りになってくると思います。CG は技術習得が大変ですが、表現者へと進めた先にはアニメーションならではの面白さや驚き、楽しさが必ず待っています。その楽しさをもっと伝えていく必要もあるでしょう。若い方には、CG アニメの分野には今までスターがいなかったならば、自分がなれる可能性が非常に大きい、そのための勉強や努力も楽しいですよということを、申しあげたいので、ぜひこれを励みにしていただければと。

野口:本日は、いろいろと貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。

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INTERVIEWER_野口光一(東映アニメーション
EDIT_沼倉有人(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充
LOCATION_ENGAWA

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シリーズ企画「日本にフル CG アニメは根付くのか?」は、 "日本におけるフル CG アニメーションの振興を目指す" というコンセプトで東映アニメーションがプロデュースする Enhanced Endorphin(通称:EE) との共同企画である。EE では、フル CG アニメーションの制作工程などを分かりやすく紹介するオリジナルコンテンツなども用意されているので、ぜひアクセスしてもらいたい。

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