>   >  日本にフルCGアニメは根付くのか?:第 3 回:大口孝之(映像ジャーナリスト)
第 3 回:大口孝之(映像ジャーナリスト)

第 3 回:大口孝之(映像ジャーナリスト)

日本におけるフルCGアニメーション制作への理解と振興を目指す本連載。今回は、映像制作現場出身で立体映画にも造詣の深い、ジャーナリスト 大口孝之氏にフルCG映画に対する思いを率直に語ってもらった。

【聞き手:野口光一(東映アニメーション)】
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Takayuki Oguchi
1959年岐阜市生まれ。映像ジャーナリスト。日本エフェクトセンターにてオプチカル技師、日本初の CG プロダクション JCGL にてディレクターなどのキャリアを経て、CG、特撮映画、大型映像、博物館・博覧会の展示、テーマパーク、テレビ科学番組などの企画・演出・評論等の活動を多角的に行なう。代表作は、EXPO '90富士通パビリオン『ユニバース 2~太陽の響~』。NHK スペシャル『生命・40億年はるかな旅』(エミー賞受賞)など。立体映像(S3D)に関する造詣の深さでも知られている。2009年に、「コンピュータ・グラフィックスの歴史 3DCG というイマジネーション」(フィルムアート社) を出版。

"ブランド志向" という壁

東映アニメーション/野口光一氏(以下、野口):今日はよろしくお願いします。僕たちは今、国産の 3DCG アニメーションを盛り上げようとこうした連載に取り組んでいたりするのですが、長年にわたり国内外の CG・VFX 動向をウォッチし続けている大口さん的に、近ごろの 3DCG アニメーションについてどのようにお考えでしょうか?

大口孝之氏(以下、大口):フル CG については、まずリアル系と非リアル(デフォルメ)系に大別されますよね。そして、後者についてはシンガポールやインド、中国、韓国といった地域の成長が著しいです。アジア勢と戦っていく上では、まともに戦うとコスト面で分が悪い。何らかの日本独自の強みが必要になってくるわけですが、それが何なのかみんなで模索している状況ではないでしょうか。

野口:僕も制作現場の 1 人として、その脅威は身にしみて感じています(苦笑)。現在放送中の 『あらしのよるに 〜ひみつのともだち〜』 のように、企画・原作が日本発でも、アニメーション制作はシンガポール(Sparky Animation が担当)といった座組みのプロジェクトも増えてくると思うのでなおさらですね。

大口:日本独自の CG 表現として、よく話題に上るのが、トゥーンシェーディング、特に "輪郭線" を付けたフルCGアニメーションですよね。

野口:先入観のない子どもはさておき、漫画や作画アニメーションに慣れ親しんだある程度年齢を重ねた人たちは輪郭線がはっきりしたルックを好む傾向にあるのではないかと僕も感じています。

大口:そうですよね。だけど実は、僕個人はそうしたルックの好み以前に根本的な問題があると感じているのです。

野口:と言いますと?

大口:要は、ブランド志向の問題です。アニメに限らず、日本人はその傾向が強いと言われていますが、国産の劇場アニメーションの興収を調べてみるとスタジオ・ジブリの作品だけが突出していますよね。

大口氏ポートレイト1

 

野口:なるほど。

大口:フル CG 作品についても、ピクサー作品以外は、興収10億を超えることは稀です。意地悪な物言いに聞こえるかもしれませんが(苦笑)、具体的な劇場興収としても如実に表れてしまっているので。

野口:うーん(苦笑)。

大口:先日、『映画遺産ぴあ』 というムック企画に参加させて頂きました。その際、後世に遺したいフル CG アニメーションとして、僕は 映画『ヒックとドラゴン』 に一票投じました。すると他の選者さんたちからも票が集まっていたようで、「パラマウント・ピクチャーズ ベスト100」に見事ランクインしていました。年度単位ではなく、映画史上全体でのベスト100ですから大したものだと思います。だけど、日本における一般的な認知度はほとんどありません(※1)。

※1=『ヒックとドラゴン』の日本劇場興収は約554万米ドル(=約4.8億円、Box Office Mojo 調べ)。同年に公開された『借り暮らしのアリエッティ』(スタジオ・ジブリ)は92.5億円、『カールじいさんの空飛ぶ家』(ピクサー)は50億円であった(日本映画製作者連盟発表資料より)

野口:『ヒックとドラゴン』は素晴らしい作品だったので、もっと多くの人に観てもらいたかったですね。

大口:もちろん、ジブリだって最初から大ヒットを飛ばしていたわけではありません。興業面でも成功を収めるようになったのは、4作目の 『魔女の宅急便』(1989) からです(※2)。つまり、ジブリの前身であるトップクラフトが 『風の谷のナウシカ』(1984) を制作してから約 5 年を費やして、口コミでジワジワと評判が浸透していったことにより、ようやくジブリブランドが確立されました。フル CG でも同様に、良い作品を継続して作ることができればブランドが確立される可能性は大いにあるでしょう。

※2=『魔女の宅急便』は21.5億円で1989年邦画興収1位を獲得(日本映画製作者連盟発表資料より)。それ以前の4作品(トップクラフト制作『風の谷のナウシカ』(1984)を含めて)は10億円未満(5〜8億円前後)であった

野口:そうだとしたら、日本のフル CG の場合、今はようやく表現と技術が両立できるようになってきたところなのかもしれませんね。現状は、CG マニアとか同業者の一部が、その良さを認知しているだけですが、5〜10年後に「あの作品は良かったね」と語り草になる過程というか。

大口:そうかもしれませんね。ちなみに、ひとつの作品に限っても口コミ効果はあります。例えば、『塔の上のラプンツェル』(2011) は、久しぶりのピクサーブランド以外でヒットしたフル CG 作品でした(※3)。実は、この作品は、公開第 1 週よりも 2〜4 週目の方がスクリーン数も週間興収も好成績を収めました(※4)。こうした事例が増えることを願っています。

※3=興収25.6億円で、2011年の洋画興収第7位(日本映画製作者連盟発表資料より)
※4=公開1週目は370スクリーン&興収約174万米ドルだったのに対して、第2週は412スクリーン&興収約216万米ドル、第3週は531スクリーン&約257万米ドルと拡大公開された(Box Office Mojo 調べ

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