>   >  日本にフルCGアニメは根付くのか?:第 6 回:山本 寛(監督・演出家)
第 6 回:山本 寛(監督・演出家)

第 6 回:山本 寛(監督・演出家)

日本におけるフルCG アニメーション制作への理解と振興を目指す本連載。今回の語り手は、"ヤマカン" の通称で知られる、アニメーション監督・演出家の山本 寛(ゆたか)氏だ。京都アニメーション、デジタル撮影部からキャリアをスタートした山本氏は、『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006)のエンディング 『ハレ晴レユカイ』 のダンス演出で、多くのファンの心を掴んだ。その後も様々なアニメ作品の監督や演出を務め、2010 年には実写映画も手がけた山本氏に、作画アニメとCG アニメ、さらに実写における表現の可能性について語ってもらった。

【聞き手:野口光一(東映アニメーション)】
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山本 寛ポートレイト(メイン)

Yutaka Yamamoto
1974 年生まれ。大阪府出身の監督・演出家。京都大学文学部を卒業後、京都アニメーションに入社。その後、アニメーションDo に移籍。『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006) のシリーズ演出などを務めた後、『らき☆すた』(2007) で初監督に就任。フリーを経て、2008 年に制作会社 Ordet(オース) を設立。『かんなぎ』(2008 〜2009) にて監督、『私の優しくない先輩』(2010) では実写映画の監督を務める。最近の代表作は 『フラクタル』(2011) 監督、『blossom』(2012) 監督など。

僕の感覚では、絵や色はデジタルに置き換えられない

山本 寛氏(以下、山本):僕は大学卒業後に 京都アニメーション に入社して、起ち上げ直後のデジタル撮影部(デジタル映像開発室)に配属されたので CGWORLD は読んでましたよ。わからないなりに、「あ〜こうやるのか〜」って思いながら眺めてました。結局 3DCG はやらなかったけど、2D の記事(ノンリニア編集や2Dベースの合成処理に関するTIPSやメイキングなど)は役に立ちましたね。

東映アニメーション/野口光一氏(以下、野口):すばらしい(笑)。日本の 3DCG アニメの可能性をどのように感じているか、今日は山本さんに語ってもらいたいと思っています。よろしくお願いします。山本さんが京都アニメーションに入社したのは、デジタル黎明期の頃でしょうか?

山本:ちょうど、セル画からデジタルへの移行期でしたね。だからギリギリ、セル画での制作も経験してるんですよ。最初に撮影をやって、それから演出助手になりました。撮影は誰よりも早く最終形態がみえるポジションなので、勉強になりましたね。セル画の入った重い袋を運んで、撮出し(※1)もやりましたよ。その後デジタルに移行して、デジタルの恩恵をさんざん受けてきました。

※1:撮出し
仕上げ(彩色)まで終了したセル画と背景を集め、撮影に渡す直前に演出家や演出助手が行う最終チェック。素材の抜けがないか確認したり、フレーム位置を決め込んだりする。デジタル化によって、この工程は省略される場合が多くなっている。

野口:これからのアニメは、ますますデジタルで制作しないと立ちゆかないと考えています。でも一方で山本さんは、2008 年の 杉井ギサブロー さんとの対談(※2)で「シナリオをワープロで書くようになって、情緒がなくなった」という主旨の話をされてましたよね。

※2:杉井ギサブローさんとの対談
アニメージュ 2008 年 7 月号(2008年 6 月10日発売)に掲載された、杉井ギサブロー氏と山本氏の対談のこと。

山本:いまだに絵コンテは手描きですね。手で描くものをパソコンで描けるとはどうしても思えなくて、ペンタブレットは使えません。描いた気になれなくて納得いかない。でも脚本とか小説などはパソコンで打ちます。テキストというのは、僕の中では非常にデジタル化されているんですが、それ以外の絵や色といった要素はデジタルに置き換えられないんですよ。ほんと感覚的なものなんですけど。

野口:となると、CG アニメっていうのは山本さんにとって違和感があるんですか?

山本:それは感じますね。日本の 3DCG ってなんであんなに違和感があるんでしょうね(笑)。日本人の美意識に合わないのかな。海外の作品だと、素直に「凄いな〜」って感じるものもありますよ。最近だと、アンドリュー・スタントン監督(※3) の作品は好きです。特に 『ウォーリー』(2008)前半での、地球の描写は凄くリアル。大気中の砂煙やホコリまで全部拾いあげて、ディテールを積み上げて、荒野になった地球を表現していた。その中をウォーリーが 1 台だけ彷徨っているのが感動的で、冒頭 30 分は凄く泣けたんですよ。後半はどうでもよくなっちゃったけど(笑)。

※3:アンドリュー・スタントン監督
映画監督、脚本家、プロデューサー。代表作は 『ファインディング・ニモ』(2003) 監督、『ウォーリー』(2008) 監督。『ジョン・カーター』(2012) では、実写映画監督も務めている。

野口:スタントン監督は、アニメも実写もやってもますよね。彼以外にも ブラッド・バード監督(※4) や、日本だと 曽利文彦監督(※5) など。山本さんも 『私の優しくない先輩』(2010) で実写映画監督をやっています。デジタルを経験している人は、アニメも実写もできるっていう評論を聞くんですが、そういうものなんでしょうか?

※4:ブラッド・バード監督
映画監督、脚本家、アニメーション作家。代表作は 『Mr.インクレディブル』(2004) 監督、『レミーのおいしいレストラン』(2007) 監督。『ミッション: インポッシブル / ゴースト・プロトコル』(2011) では、実写映画監督も務めている。

※5:曽利文彦(そり ふみひこ)監督
映画監督、CG 監督、映像クリエイター。映画 『ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer』(2000年) など、多くの映画のVFX スーパーバイザーを務めた後、『ピンポン』(2002) で映画監督デビュー。『ICHI』(2008)『あしたのジョー』(2011)、フル CG アニメ長編では 『ベクシル 2077日本鎖国』(2007)『ドラゴンエイジ -ブラッドメイジの聖戦-』(2012) の監督を務める。

山本:いやいや(笑)。アニメと実写に境はないって言う人もいるけど、ありますよ。ないって考えるからおかしくなっちゃう。感覚として違う。根っこにあるイメージは同じでも、アウトプットする時に手で描かないと表現できない、ペンタブレットやマウスだと違うものになっちゃうっていう先ほどの話と同じです。表現としては一緒だけれど、ツールは違う。

山本 寛ポートレイト1

 

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