>   >  日本にフルCGアニメは根付くのか?:第 7 回:石井朋彦(プロデューサー)
第 7 回:石井朋彦(プロデューサー)

第 7 回:石井朋彦(プロデューサー)

日本におけるフルCG アニメーション制作への理解と振興を目指す本連載。今回登場するのは、プロダクション・アイジー(以下、プロダクションI.G)の石井朋彦氏だ。1999 年にスタジオジブリへ入社した石井氏は、鈴木敏夫氏の下でプロデューサーとしての仕事のあり方を吸収した。2006 年にプロダクションI.Gへ移った後は、神山健治監督とタッグを組み一連の『東のエデン』作品(2009)、『攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY3D』(2011)などの話題作を世に送り出してきた。今回は、最新作『009 RE:CYBORG』の公開を目前に控えた 8 月某日、石井氏が考える日本の 3DCG アニメーションの未来像を語ってもらった。

【聞き手:野口光一(東映アニメーション)】
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Tomohiko Ishii
1977 年生まれ。東京都出身のプロデューサー。1999 年にスタジオジブリへ入社し、鈴木敏夫氏の下でプロデュースを学ぶ。『千と千尋の神隠し』(2001)『猫の恩返し』(2002)『ハウルの動く城』(2004) でプロデューサー補、『ゲド戦記』(2006) で制作を担当。2006 年にプロダクションI.G へ移り、押井 守監督の 『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(2008)、神山健治監督の TVシリーズ&劇場版 『東のエデン』(2009)『攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D』(2011)などをプロデュース。最新作の 『009 RE:CYBORG』 は、2012 年10月27日(土)より全国公開。

ちゃんと商売になる "しくみ" をつくるのが僕の仕事

東映アニメーション/野口光一(以下、野口):日本ではフル 3DCG アニメーションがアメリカほど普及していません。その理由を知りたいと思ったのが、このシリーズを始めたきっかけです。これまで6回にわたり、「なぜ日本では CG アニメーションが根付かないのか」を探ってきました。そこからわかってきたのは、第一に予算をかけすぎ第二に技術に依存しすぎ第三に各社が独自の体制でバラバラに制作しているから、というのが僕なりのここまでの総括です。そして今回からは、CG アニメを世に送り出している側、つまり石井さんのような方々が何を考えていらっしゃるのか、伺っていきたいと思っています。

プロダクションI.G/石井朋彦(以下、石井)『009 RE:CYBORG』 は、なぜ日本では 3DCG を使うことが厳しいのか、どこに可能性があるのかも含めて、体系立てて整理することから生まれた企画です。その辺のお話から始めた方が良いと思います。ただ、CG が上手くいくかどうかを議論する前に、日本でアニメを作る場合の2種類の典型的なパターンを整理しておきましょう。ひとつは "原作中心主義" です。

野口『ワンピース』『ドラゴンボール』『銀河鉄道999』 など、うちが得意としてきたやり方ですね。

石井:そう。当然ながら、マンガはアニメになりやすいですよね。固定ファンが付いている人気マンガを TV シリーズや劇場長編に仕上げて、ファンを増やしていくというのが一番の王道パターンです。東映アニメーションは、このやり方で大成功なさっている。ディズニーなども同様で、基本的にはアメリカ型のビジネスモデルだと思います。そして、これとは別のパターンとして、"監督中心主義" があります。

野口:そちらは、宮崎 駿 監督 や、細田 守 監督、石井さんがタッグを組んでいらっしゃる神山健治監督のように、監督主体で企画を具現化していくやり方と言えるのではないでしょうか。

石井:ええ。日本のセルアニメは、長年にわたり大量の作品が世に送り出されてきました。良い面と悪い面、両方あったと思いますが、そのおかげで作り手のすそ野が広がり、才能ある監督が多数登場してきました。ただ、批判する意図はないのですが宮崎監督の存在があまりにも大きかったので、「絵が描けなければ監督ではない」 という、アニメーター中心の時代が80〜90年代にかけて続いてしまった。この価値観が、長らく日本のアニメ界でブレイクスルーが生まれなかった要因のひとつになったのではと感じています。

野口:宮崎監督のように、絵コンテやイメージボードが描けて、作画もできる。さらにマンガまで描けなければ監督は務まらないぞと(苦笑)。

石井:そうそう。でも実際には、そんなことができるのは限られた天才だけです。監督の基本的な仕事は、企画を起ち上げて、それがどの時代に合うかを考えて、物語をつくるために脚本家と組んで、最終的に劇場長編あるいは TV シリーズといったフォーマットに則した作品に仕上げることです。重要なのは演出の力であって、絵が上手いか下手かではない。アニメーター出身の監督で、すごくトリッキーな映像や魅力的なアニメーションをつくる方々は沢山いらっしゃいますが、必ずしもそれが観る側の好みに結び付かない時代が続きました。そうした中で、着々と企画やシナリオ、キャラクターを中心に据えてやってきたのが、東映アニメーションぴえろ でしょう。その後に現れた 京都アニメーションシャフト 等もそうですね。アニメを好きな人がちゃんと喜ぶ作品をつくったプロダクションが、市場を広げていきました。

石井朋彦ポートレイト1

 

野口:一方で プロダクションI.G は監督中心主義を選択し、押井監督作品などを世に送り出してきました。

石井:そうですね。監督というのは育てられてバカバカ生まれるものではありません。その方の人となりが作品そのものになりますから。そして、監督がつくる作品をサポートする人間も当然必要になってくる。それが僕らプロデューサーの仕事なのだろうと思っています。

野口:今日では監督に加えて、プロデューサーという存在も注目されていると感じます。神山監督は確かにすごいですけど、神山監督と石井さんをセットでみている方々もいる。宮崎監督と 鈴木敏夫 さん、あるいは細田監督と 齋藤優一郎 さん(※1)のように、監督中心主義と言いながらも両者は対の関係にある。プロデューサーの果たす役割も大きいですよね。

※1:齋藤優一郎さん
スタジオ地図代表取締役/プロデューサーの齋藤優一郎氏のこと。『時をかける少女』(2006) から 『おおかみこどもの雨と雪』(2012) まで、一連の細田 守監督作品のプロデュースを手がけている。

石井:ちゃんと商売になるしくみを構築する人が必要なんですよ。監督は日々現場に出てクリエイティブワークをコントロールしなければならない。そのための資金を集めて、世に出して、回収するのはプロデューサーの仕事です。鈴木さんは天才的なひらめき型のプロデューサーだと思われがちですが、実は非常に緻密な戦略でビジネスをしている方です。本来プロデューサーがやるべきことを、アニメ界ではトップを走って、しかも監督中心主義でやってきた。この点において、世界的にも非常に珍しい業界なのではないでしょうか。

野口:石井さんはプロダクションI.G に移られる前は、スタジオジブリにいらっしゃいましたよね。どんな仕事をなさっていたんですか?

石井:鈴木さんの仕事のサポートですね。7〜8年間、365日ずっと付いてまわって、鈴木さんがなさっていることを一緒にやってきました。鈴木さんのノウハウはとても勉強になりましたね。

野口庵野秀明監督 も細田監督も一時期はスタジオジブリにいて、はたと気が付くと存在感のある作り手になっている。鈴木さんという偉大なプロデューサーの仕事を間近でみてきたことが大きな影響を与えているのかもしれません。

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