>   >  Virtual Experiences in Reality:第2回:「Canon EXPO 2015 Tokyo」
第2回:「Canon EXPO 2015 Tokyo」

第2回:「Canon EXPO 2015 Tokyo」

<4>8K映像収録システム -8Kライドによる移動感-

周知のごとく「イメージング(画像化・視覚化)」はキヤノンの基盤・根幹を成す事業であるが、今回の展示においてとくに際立っていたのが、8K映像技術だ。すでに4Kは一般的に流通し、多くの家庭で利用されている段階にあり、キヤノンもCINEMA EOS SYSTEMなどを通して4Kのデモンストレーションに取り組んできた。本展示では技術デモンストレーションとして、8Kセンサーを搭載したCINEMA EOSカメラの試作機を登場させた。

展示会場ではガレージを模した精巧なスタジオに本物のバイクが設置されており、それを8Kカメラで撮影。観客は、同社で開発されたHDR対応8Kディスプレイに映し出された画像と現実のバイクを比較することができる。この8Kカメラは、表面上はEOS C300 MarkIIと同じだが、8K-60FPSでの伝送および収録(外付けレコーダー)が可能だ。この8K収録およびリアルタイムデモ展示は、おそらく8K放送がロードマップにある日本国内の放送局とコンテンツプロデューサーに向けたものだろう。


リアルなガレージを再現した8Kカメラのデモンストレーション展示

また、この8K映像技術によって実際にその場にいるかのような没入感をもたらすライド映像も展示されていた。映像を通してまるで乗り物で移動しているかのように、ヨーロッパの街並みや景色をめぐるこの小さなツアーは、キヤノンの8Kカメラで撮影された一人称視点の車窓映像を、8Kプロジェクション(4つの4Kプロジェクタを使用)することによって実現されている。ディスプレイを通してではなく、実際に車窓から景色を眺めているかのような移動感を体験することができた。


一人称視点の8Kプロジェクション映像によるライド映像コンテンツ

<5>VRへの取り組み

近年の大きな潮流にあわせて、キヤノンもHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を発表した(ただしその他の多くの展示技術と同様に、いつ世に出るかは今のところはっきりとは分からない)。キヤノンは、現在市場に流通しているスマートフォンとカードボードによるVRシステムよりも大きく、ユーザーが両手で操作するハンドヘルドのデバイスを開発した。このように大きなデザインになったのは、盗難へのセキュリティ対策に加えて、鮮明な高画質や広い視野角を重要視したことが理由だろう。ハンドヘルドのディスプレイは、5.5型パネル2枚、解像度は2,560×2,880(538ppi)、視野角は120度と、現在流通しているHMDの中でも最も高精細、広視野角に分類される。色彩豊かなシンガーやダンサーの踊る360度ビデオコンテンツが、ヘッドトラッキングを通したVRによる没入感をもたらす。高精細、広視野角を重視してハンドルを再考案したキヤノンのVRへのアプローチは、イメージの重要性に焦点を当てたハイエンドなVRの市場を開拓し始めている。


高解像度ハンドヘルドディスプレイ

「Canon EXPO 2015 Tokyo」で示されたデジタル・イメージングの未来は、ディスプレイにあった。現実を忠実に捉えてそのエッセンスを映し出すといった展示がメインに展開され、その場にいるような臨場感を感じられる演出がたくさん並ぶ中、キヤノンが伝えるはっきりとしたメッセージには「存在感」「移動感」のキャッチコピーがあった。これらのメッセージは、印刷物やモニタ、プロジェクタなどの2次元ディスプレイで高いリアリティを持つコンテンツとそれを支える技術のためのものであったが、その"高リアリティ"の延長線がVRであるかのように、高解像度HMDが公開されていた。

また一方で、BT.2020規格での最大解像度である8K解像度のカメラおよびディスプレイの試作機にも大きな可能性が見られた。8K解像度の映像は、映像と認知に関わる心理実験や8Kスーパーハイビジョンを実現するハードウェアの開発により、NHK放送技術研究所により牽引されてきた。このキヤノンの8K試作機は、その中で唯一足りなかったUHDTV(Ultra High Definition Television)映像制作や2020年の東京オリンピックでの8K放送の可能性を示していた

今回の「Canon EXPO」で取り上げられた高解像度を中心とした技術が、今後どのように市場やメイントトリームにおいて展開を見せていくのか。また現在、ハイダイナミックレンジ(HDR)がトレンドになりつつあるUHDTV映像制作におけるパラメータ選択(高解像度、ハイフレームレート、ハイダイナミックレンジ)にどのように影響をおよぼすのか、非常に興味深い。

TEXT_ジャナック・ビマーニ博士(メディアデザイン学/株式会社ロゴスコープ リサーチャー)
翻訳・編集:橋本まゆ

Written by Janak Bhimani, Ph.D., Researcher/Producer, Logoscope Ltd.
Translated by Mayu Hashimoto



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    株式会社ロゴスコープは、Digital Cinema映像制作における撮影・編集・VFX・上映に関するワークフロー構築およびコンサルティングを行なっている。とりわけACES規格に準拠したシーンリニアワークフロー、高リアリティを可能にする BT.2020 規格を土台とした認知に基づくワークフロー構築を進めている。最近は、360 度映像とVFXによる"Virtual Reality Cinema"のワークフローに力を入れている。また設立以来、博物館における収蔵品のデジタル化・デジタル情報の可視化にも取り組んでいる。

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