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第一線で活躍するクリエイターの特別講義が聴ける「CGWORLDゼミ」。今回は株式会社JET STUDIOの近藤啓太氏が登壇し、「エフェクトはプロから学べ!CGエフェクトセミナー」と題して7月12日に開催された。

CGWOLD本誌にて連載中の「JETSTUDIO Effect Lab」の執筆者でもある近藤氏。講義も実際の作業風景がすべてビデオで上映されるという豪華なもので、会場となったヒューマンアカデミー東京校では約60名の聴講者が参加し、解説に聞き入っていた。


イベント情報

INFORMATION
CGWORLDゼミ「CGエフェクトセミナー」開講!
ジェットスタジオ近藤啓太氏によるCGエフェクトについての特別ゼミを開講します!
理系でも美術系でもない文系出身だった近藤啓太氏ならではの分かりやすいCG技術の解説で、今最も熱いCGエフェクトの最先端テクニックが学べます。 エフェクトアーティスト志望者は、ぜひご参加ください!

【東京会場】
■日時:2015年7月12日(日)13:00 ~ 15:00(受付開始:12:30~)
■会場:ヒューマンアカデミー東京校
【大阪会場】
■日時:2015年9月13日(日)13:00 ~ 15:00(受付開始:12:30~)
■会場:ヒューマンアカデミー大阪校
【名古屋会場】
■日時:2015年11月28日(土)13:00 ~ 15:00(受付開始:12:30~)
■会場:ヒューマンアカデミー名古屋校
■主催:総合学園ヒューマンアカデミー
■申込み:こちらから

近藤啓太/Keita Kondo (CGデザイナー)

3年制の専門学校を卒業後、株式会社ジェットスタジオに入社。5年目の現在は、エフェクトを中心に担当している。ゲーム・映画・遊技機映像など、幅広いジャンルの案件を手がけるため、制作するエフェクトにも幅広いテイストが求められるという。 www.jetstudio.co.jp

◆エフェクトは画面演出に華をそえる仕事

はじめに近藤氏は週刊少年ジャンプの人気キャラクターが集結する格闘アクションゲーム「Jスターズ ビクトリーバーサス」(バンダイナムコゲームス、PS3&PS Vita)のオープニングムービーを披露した。この映像は近藤氏自身がエフェクトを担当したもの。その後、同じ映像でエフェクト有り、無しのバージョンを比較しつつ、エフェクトの持つ意味を効果的に解説した。

実際、エフェクトのない映像ではCGキャラクターが攻撃などのモーションを繰り出すだけで、中には滑稽に感じられるものもあったほど。しかし、そこに衝撃波や土煙、エネルギーの流れ、キャラクターから発するオーラ、ディストーションによる画面の歪み、漫画チックなオノマトペ(擬音)による効果音などが加わり、画面の迫力が格段に増加。キャラクターに生気が宿った。

これ以外にも近藤氏は「Jスターズ ビクトリーバーサス」内のさまざまな映像で、エフェクトの有無を比較しながら効果を紹介した。モデラー・アニメーター・コンポジターと並ぶエフェクトアーティストの仕事について、近藤氏は「画面のあらゆる『演出』に華を添える仕事」だと解説する。


続いてエフェクトの種類と作り方が整理された。エフェクトは「自然現象(火・風・雨など)」「人工的な現象(爆発・マズルフラッシュなど)」「現実にないもの(魔法、ヒットエフェクトなど」「ロゴアニメーションなど」に分類できる。

一方で作り方には「物理演算によるシミュレーション」「多数のオブジェクトや粒子をコントロールするパーティクル」「3Dオブジェクトにテクスチャアニメを張り付けるオブジェクト」「手書き文字を加工して使用する手描き」の4種類があり、用途に応じた使い分けが大切とのこと。

またエフェクトは一つの画面に対して、火花や照り返し、エネルギーなどさまざまな効果が加えられた映像を何層にも重ね合わせて作られることが一般的だという。そのためにも作り手には豊富な「作り方の引き出し」が求められると解説された。


◆3ds maxで作る近藤流エフェクト術

概論が終了したところで、いよいよエフェクトの作例紹介が始まった。今回用意されたのは、地面から岩や土塊が巻き上がり、土煙がたなびく「爆発エフェクト」の作り方だ。近藤氏は「自ら3-4時間かけて制作した」という作業風景の一部始終を、3ds Studio MAXの作業画面をキャプチャした映像を再生しながら紹介した。

①レイヤーの用意

一つのエフェクトは「大きな石」「小さな石」「煙」など、さまざまなオブジェクトやパーティクルによって形成されている。そこで、これらを異なるレイヤーで作成するためのセットアップを行う。こうした下準備は集団制作を行う上で非常に重要になるという。 レイヤーに限らず、データの整理は後々複雑化していくシーンデータをスムーズに理解でき効率的な作業を行うことができる。多くの人が関わる3DCG制作ではデータの引継ぎが頻繁に起きるので、データ整理は必須のスキルでもある。


②破壊シミュレーション

ポリゴンの板に地面を表すテクスチャーを張り、破壊系プラグイン「Rayfire」で地面ポリゴンを分割する。このとき爆心地に近いほど細かく分割する。その後物理シミュレーションの設定を行い、爆発で飛び散る岩や土塊などの動きを作る。破片と地面の衝突判定や反射などの設定も重要だ。何度もプレビューして納得がいく動きができるまで設定を調整する。

爆心地の中心からエネルギーの強さを考慮して破片の大きさを調整していく。 中心は細かく、外に広がるにしたがって大きな破片に変化していくようにオブジェクトを分割する。Rayfireを使い、破片の動きをシミュレーションした

③ライトの配置とレンダリングテスト

光源を設定して、太陽光をオブジェクト全体にあてる。キーライトを破片全体に照らすように設定する。一通り配置が終わったらレンダリングのテストを実施する。

今回の動画では全体を照らすドームライト、光源としてのキーライトの二灯を用いて簡易的にライティングを行った

④パーティクルオブジェクトの準備

岩の破片のまわりには小さな石や土塊が飛んでいるはずなので、パーティクルでイベントを設定。岩の隙間からパーティクルが飛び出るように設定する。

小さな破片で使用するオブジェクトを用意。②で使用した破片をそのまま流用。シルエットの異なる破片オブジェクトを5つほど抜き出して次項のパーティクルで使用できるようにグループ化する。

⑤パーティクルオブジェクトの調整

Speed By Surfaceで爆発にそって山なりに破片が飛び散るように設定する。周りの衝撃波に影響された石の動きなども同時に設定する。カラーコレクションを用いて破片の色幅を変更し、平坦な印象を与えないように注意する。

④で用意したオブジェクトを適用し、大きな破片の各エッジ部分から発生させる。Speed by Surfaceを用いてマップのグレースケールで破片のスピードを調整し、自然な破片の飛び散りを表現する。

⑥煙を設定

フルイド(流体)シミュレーションのプラグイン「FumeFX」で土煙のパーティクルを設定する。これも同様に岩の隙間から煙が出るように調整し、Speed By Surfaceで山なりに煙が広がるように調整する。その後、煙のシミュレーションを行う範囲を設定する(処理負荷を考えてできるだけカメラで表示される範囲のギリギリに設定する)。煙が右方向から左方向にたなびくように風速や風向きの設定も行う。

基本的な爆発表現はパーティクルベースで、大きな石による筋煙は石のオブジェクトをベースに煙を発生させる。勢いや煙の動き等をパラメータで調整し、シミュレーションを繰り返して理想の爆発を目指す。

⑦シミュレーション開始

物理シミュレーションを実施し、煙の大まかなシルエットをつける。その後、色合いや細部の動きを調整して仕上げていく。
近藤氏は「土煙は爆発で上空に広がる煙と、岩の破片から発生する引きずるような煙と、地面近くを横方向に広がる衝撃波という、三種類の組み合わせからできている」と解説した。動画や写真といった参考資料(リファレンス)を観察した結果だ。同じように近藤氏はエフェクトを作成する際は、必ず事前にリファレンスを収集して、よく観察することが大事だと強調した。

◆人は自分が経験した範囲内でしか感動を伝えられない

最後に学生時代にやっておきたいことについても解説があった。近藤氏は「3DCG以外の経験をたくさん積む」「映像作品を1人で作り上げる」「誰にも負けない得意分野を作る」の3点を強調した。

「3DCG以外の経験の重要性」については、どれだけ綺麗な映像を作ることができても、最終的に人は自分の感じたことや経験したことの範囲内でしか人に伝えられないという思いから。近藤氏は「CG制作は会社に入ればたっぷりできる」とコメントし、時間が比較的自由に使える学生時代だからこそ、恋愛・アルバイト・イベント参加など、さまざまな経験を積んで欲しいという。

「映像作品を1人で作りきる」ことは、すべての工程を経験することで、最終的なルック(画作り)が想像できるようになるため。画作りができるようになることで、エフェクトについてもさまざまなアプローチができるようになる。なにより学生にとっては、ポートフォリオ作りに役に立つとのこと。近藤氏も個人制作の映像作品を中心にポートフォリオを構成したと振り返った。

最後に「誰にも負けない得意分野を作る」という点では、「得意分野を中心にすることで別分野への応用も広がる」という。また「何がやりたいのかわかりやすいので、企業側も採用しやすい」という事情も明かされた。最後に「エフェクトアーティストは業界内で人手不足が恒常化しているので、ぜひ挑戦してみて欲しい」と講演を締めくくった。

プロのエフェクト制作テクニックが動画を通して、たっぷり体験できた今回のセミナー。受講者にとっても、またとない機会になったようだ。終了後は講義時間を目一杯使って、活発な質疑応答も行われた。なお本セミナーは9月13日にヒューマンアカデミー大阪校、11月22日に名古屋校でも開催される。関西地区・中部地区の学生も、ぜひ参加してほしい。

TEXT_小野憲史