はじめに

TEXT_大口孝之 / Takayuki Oguchi

現在、ネット配信やホームシアターの普及により、映画館に行く人が減りつつある。実際、米The Hollywood Reporter誌が2015年3月13日に報じた調査によると、25~39歳の観客層におけるチケットの売り上げ枚数は、2012年には990万枚あったものの、2014年は710万枚まで減少していたということである。わずか2年で30%も減ってしまったのだ。

実はこういった現象は初めてではない。ラジオが登場した1920年代やテレビが急速に普及した1950年代にも起こっている。その結果、映画産業側が対抗措置として、1920年代にはムービーパレスと呼ばれる豪華絢爛な劇場を建設したり、大型フィルムや2色カラーなどを生み出した。1950年代には3D映画や、シネラマ、シネマスコープ、70mmなどのワイドスクリーン、立体音響などを誕生させている。

そして現在においても、もう一度観客を取り戻すべく、世界の映画館がかつてない勢いで変貌を遂げている。そこで試みられている改良点は、音響、画面のサイズと数、映像のダイナミックレンジ、フレームレート、S3D(Stereoscopic 3D/立体視)、4Dなどと、五感全てに渡っている。そして2009年に『アバター』が、一気にデジタルプロジェクタと3D映写システムの普及を推し進めたように、各興行チェーンは昨年12月18日(金)の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』公開に合わせて、最新劇場システムの導入を競っている。今は、かつてない映画館戦国時代なのだ。
前置きが長くなったが、本稿ではそうした状況をふまえ観客側にとって、また製作者やクリエイター側も知っておくべき最新の映画館の上映システムに関する情報を、国内未導入のシステムも含めて紹介していく。

<1>立体音響(サラウンド)

映画館のサラウンド(Surround)とは、ステレオよりも多くのチャンネルを有する音響システムを言う。最初のサラウンドは、1940年のディズニー作品『ファンタジア』において米国8館の劇場で試みられた、「ファンタサウンド」(Fantasound)システムである。これはRCAの協力で開発されたもので、独立した35mmシネテープ(フィルムと同じ幅で、同様のパーフォレーションを持った磁気テープ)に、前方3ch(左・中央・右)とコントロールトラックの4トラックが記録されていた。

1952年に開発されたワイドスクリーン・システム「シネラマ」(Cinerama)の音響は、6ch(前方5ch+サラウンド1ch)で同時録音され、7トラック(音響6ch+コントロールトラック)の35mmシネテープにダビングされた。再生装置は3台のプロジェクタに同期する仕掛けで、専用オペレーターを必要とした。
シネラマに対抗して1956年にソ連で開発された「キノパノラマ」(Kinopanorama)では、9トラックのシネテープが用いられている。全てが音響用で、前方5ch、左壁面1ch、右壁面1ch、後方壁面1ch、天井1chという、現在の目で見ても本格的なサラウンド設計だった。
やはりシネラマに対抗して1953年に開発された「シネマスコープ」(Cinemascope)では、35mmフィルム自体に3chステレオの磁気トラックが設けられ、翌年にはサラウンド用トラックを追加した4chとされた。
同じく対シネラマとして1955年に生まれた「Todd-AO」では、70mmフィルムに6本の磁気トラックを設け、プロジェクタだけで6ch(前方5ch+サラウンド1ch)を実現させた。

1970年代には、家庭用オーディオにおいて4chステレオブームが巻き起こり、各メーカーが独自技術を競っていた。その中の1社であった山水電気の「QSマトリックス」は、1975年に英国のロックオペラ映画『トミー』「クインタフォニック・サウンド」(Quintaphonic Sound)用に応用された。これは、35mmフィルムの光学トラック3本だけを使い、QSデコーダーを通して5ch(前方3ch+後方2ch)に分離するというものだった。
この山水電気のQSマトリックス回路は、米ドルビーラボラトリーズも採用し、1975年に「Dolby Stereo」として発表される。そして映画『リストマニア』(1975)で前方3chのみが使用され、『スター誕生』(1976)ではサラウンド1chが追加された。そして『スター・ウォーズ』(1977)で全世界に普及し、1979年からは独自開発のマトリックス回路を使用するようになった。

1988年には、「IMAXデジタルサウンドシステム」(IMAX Digital Sound System)が登場する。これは、米ソニックス・アソシエイツ(Sonics Associates、1999年にIMAXが買収)によって開発されたもので、70mm 15Pフィルム映写機に連動させて、3台のオーディオCD-ROMプレーヤーから6chのサウンドを再生するものだった。ちなみにソニックス・アソシエイツは、IMAXシアター向けのバイノーラル音響システム「IMAX PSE」(IMAX Personal Sound Environment)も1993年に開発しているが、対応する作品が登場せず活用されなかった。

1990年には、米デジタル・シアター・システムズ(Digital Theater Systems、現DATASAT)社が一般劇場向けに「dts」を発表する。これもオーディオCD-ROMを35mmフィルムに同期させて上映する方式で、前方3ch+サラウンド2ch+サブウーファーの合計5.1chとなり、『ジュラシック・パーク』(1993)で初使用された。

その前年に公開された『バットマン リターンズ』(1992)では、ドルビーのデジタル録音規格である「Dolby SRD」が採用されている。その構成は、前方3ch+サラウンド2ch+サブウーファー(0.1ch)の合計5.1chで、データはパーフォレーションの間に記録された。
1993年の『ラスト・アクション・ヒーロー』では、ソニーとソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントが共同開発したデジタル圧縮録音規格「SDDS」(Sony Dynamic Digital Sound)が採用された。前方5ch(左・中央左・中央・中央右・右)+サラウンド2ch(左・右)+サブウーファーの合計8chの音響データは、フィルムの両端に記録されている。

『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999)からは、Dolby SRDを拡張した「Dolby SRD-EX」が登場する。これによりサラウンドが3chとなり、合計6.1chになった。するとライバルのdtsも、6.1ch化した「dts-ES」を同年に発表し、『ホーンティング』(1999)で初使用された。さらに『トイ・ストーリー3』(2010)においては、デジタルシネマ用の規格「Dolby Surround 7.1」が採用され、サラウンドが左・後左・後右・右の4chとなり、合計7.1chとなった。
このように映画館の音響は、徐々に水平方向のチャンネル数を増やす形で発展してきた。だが最近は、これに高さ方向の音場を加えた新方式の導入が盛んになっている。これによって、音の移動や空間における定位を正確に描写することが可能になった。

1−1.Auro-3D(Auro11.1)

ベルギーのバルコ(Barco)社が2005年に開発し、2011年より劇場に導入されている立体音響システム。従来の水平層にハイト(上層)とオーバーヘッド(天井)を加えた3層のサラウンド音場を、11.1chで表現するもの。このフォーマットを最初に導入した映画は、ルーカスフィルム製作の『Red Tails』(日本未公開, 2012)である。国内の映画館では、「シネマックスつくば」のADMIXシアターや、「安城コロナシネマワールド」などが採用している。

今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

「Auro-3D」

1−2.imm sound

スペインのimm sound社が2010年に開発した。音響を14.1~23.1chに分けて録音し、天井を含む劇場全体に配置されたスピーカーによって、周囲の音まで忠実に再現する。ヨーロッパ、南米、アメリカを中心に採用され、国内では「シネマサンシャイン平和島」のアメイジング・サウンドシアターに導入されている。現在はimm sound社がドルビーに買収されてしまったため、これ以上新しく導入劇場は出てこない。

1−3.ドルビーアトモス(Dolby Atmos)

ドルビーラボラトリーズが2012年に発表したシステム。音響データを、「ベッド」と呼ばれる静的な要素と、位置と時間の情報を持った「オブジェクト」の組み合わせで構成し、特定の空間に音を配置させたり移動させることを可能にした。チャンネルの制限がなく、観客の頭上を音が飛んで行くような表現も可能にしている。

今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

「ドルビーアトモス(Dolby Atmos)」

導入した全世界のスクリーン数は1,200以上で、国内でも「TOHOシネマズららぽーと船橋」「イオンシネマ幕張新都心」「シネマサンシャイン平和島」「TOHOシネマズ六本木ヒルズ」「TOHOシネマズ日本橋」「TOHOシネマズ新宿」「USシネマ木更津」「TOHOシネマズららぽーと富士見」「イオンシネマ名古屋茶屋」「TOHOシネマズくずはモール」「イオンシネマ京都桂川」「アースシネマズ姫路」「イオンシネマ和歌山」「イオンシネマ岡山」「TOHOシネマズアミュプラザおおいた」「シネマサンシャイン下関」において稼働中。2015年12月5日には「TOHOシネマズ梅田」にも導入される。

1−4.IMAXイマーシブ・サウンドシステム

加IMAXコーポレーションが、2014年に発表した次世代サウンドシステム。従来のIMAXシステムでは、フィルムでもデジタルでもソニックス・アソシエイツの6ch方式を採用していたが、新たに開発されたシステムでは、独立した12のチャンネルにサブ・バスを加えた12.1chとなっている。
採用した国内の劇場には、「TOHOシネマズ新宿」「109シネマズ二子玉川」「109シネマズ大阪エキスポシティ」などがあり、「東池袋1丁目新シネマコンプレックスプロジェクト(仮称)」(2017年開業予定)にも導入される予定である。

  • 今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム
  • 「東池袋1丁目新シネマコンプレックスプロジェクト(仮称)」の完成予想図


<2>大型スクリーン

ここからは、大型スクリーンという切り口から、現在の主流に加えて、新たに登場した注目システムを紹介していく。

2−1.IMAX

現在、世界の映画館システムにおける最大のスターは、IMAXと呼んで過言はないだろう。1970年の日本万国博・富士グループ館用に、70mm 15パーフォレーション(フィルムの送り穴の数。この数字が大きいほどフィルム面積も大きくなり、解像度や粒状性が向上する。以下Pと省略)という、通常の映画の10倍以上の面積のフィルム(下図)を使用し、巨大なフラットスクリーンに2D投影する「IMAXシステム」を開発した。カナダのマルチスクリーン社は、社名をIMAXシステムズ・コーポレーション(現在は、IMAXコーポレーション)と改め、その後も全世界の博覧会やテーマパーク、公共教育施設向けに、システムとコンテンツを提供し続けた。

今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

フィルムサイズの比較。通常の映画は35mm 4-perf。IMAXは70mm 15-perf(画像提供:日本大型映像協会/IMAGICA)

さらに1973年には、魚眼レンズでドームスクリーンに2D投影する"OMNIMAX"(現在の名称はIMAX DOME)が登場。続けて1985年のつくば博・富士通パビリオンには、アナグリフ方式による立体3D映像"OMNIMAX 3D"。1986年のカナダ・交通博・カナダパビリオンには、フラットスクリーンと直線偏光メガネによる大型3D映像"IMAX 3D"。1990年の大阪・花の万博には、富士通パビリオンにフルカラーの立体3D映像"IMAX SOLIDO"と、三和みどり館に前面と床下面の2面スクリーンに2D投影する"IMAX Magic Carpet"。1991年にはオーランドのユニバーサル・スタジオにOMNIMAXとモーションベースを組み合わせた"IMAX Simulator Ride"。1992年のセビリア万博・カナダ館には、通常の倍の48fpsで2D撮影・映写を行う"IMAX HD"など、様々なバリエーションが設置された。

今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

現在は日本では稼働していない、フィルム式IMAX 3Dプロジェクタ(サントリー・ミュージアム【天保山】にて撮影)

90年代後半に入り、シネマコンプレックスにIMAXシアターが導入されるケースが増えていく。だが70mm 15Pフィルムでは、作品の製作費が莫大にかかる上、上映館側にとってもプリント代、フィルムの輸送と保管の費用、劇場運営の手間などに反映される。長編映画1本のIMAXフィルムのプリント代は、2万~2万5,000ドルで、IMAX 3D作品ともなるとL/R2本のプリントを必要とするため4万5000ドルにもなる。そのため、35mm作品のように頻繁に新作のフィルムを掛けるわけにはいかず、同じソフトがいつまでも上映されているといった形になりがちだった。

その後、日本国内ではシネコン併設のIMAX館が全て閉鎖になり、現在も70mm 15Pフィルムの上映設備を用いている施設は、「所沢航空発祥記念館」(IMAX 2D)、「さいたま市宇宙劇場」(IMAX DOME)、「浜岡原子力館」(IMAX DOME)、「名古屋港水族館」(IMAX 2D)、「鹿児島市立科学館」といった公共館と、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン『バック・トゥ・ザ・フューチャー・ザ・ライド』(IMAX Simulator Ride)と、スペースワールド『ギャラクシーシアター』(IMAX 2D)のテーマパーク・アトラクションだけになってしまった。

2−2.IMAXデジタルシアター

IMAX社は、シネコン併設IMAX館からの要求に応えて、これまでの短編ドキュメンタリーのみというコンテンツ形態を改め、通常の劇映画をIMAXプロジェクタで投影する試みに挑戦した。そして35mmフィルムを8Kでスキャンニングし、デジタル・エンハンス処理(グレインの消去、シャープネスの向上、カラーコレクション、傷やゴミの除去など)を施し、65mm(プリントは70mmになる)15Pのネガにレコーディングすれば、初めからIMAXカメラで撮影したのと同等の画質が得られることを2002年に実証し、この技術にIMAX DMR(Digital re-Masterd Release)という名称を与えた。

さらに2008年には、IMAXデジタルシアター・システムを発表した。従来の70mm 15Pフィルムに代わり、2台のDLP Cinemaプロジェクタを用いるもので、画質をある程度維持しつつ、大幅なコストダウンを実現させた。そしてこのシステムは、3D上映時に大きな強みを持つ。2台のプロジェクタがLRの映像をそれぞれ専門に受け持ち、常に同時発光している。そのためLRを切り替え発光する、アクティブステレオのシングル・プロジェクタ式3Dシステムと比較して倍以上画面が明るくなる。スクリーンは、3D上映を基本としているためシルバースクリーンが用いられ、メガネのフィルタは直線偏光を採用している。

今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

IMAXデジタルシアター・システム

このIMAXデジタルシアターは、国内では2009年より導入が始まり、現在「ユナイテッド・シネマ札幌」「シネマサンシャイン土浦」「109シネマズ菖蒲」「ユナイテッド・シネマ浦和」「109シネマズグランベリーモール」「ユナイテッド・シネマとしまえん」「TOHOシネマズ新宿」「109シネマズ木場」「109シネマズ二子玉川」「109シネマズ湘南」「109シネマズ川崎」「ユナイテッド・シネマ豊橋18」「109シネマズ名古屋」「109シネマズ箕面」「ユナイテッド・シネマ岸和田」「シネマサンシャイン大和郡山」「福山エーガル8シネマズ」「シネマサンシャイン衣山」「ユナイテッド・シネマキャナルシティ13」「TOHOシネマズ二条」などが稼働中で、さらにTOHOシネマズの9館への導入が決定している。これらは基本的にシネコン内に組み込まれている。ただし「成田HUMAXシネマズ」は、IMAXデジタルシアター専用の建物を作っている。

2−3.次世代IMAX(IMAX with Laser)

IMAXデジタルシアターの多くは、既設シネコンを改造する形式を採っていた関係で、小さなスクリーンサイズしか確保できないケースが少なくなかった。また2KのDLP Cinemaプロジェクタを用いていた関係で、70mm 15Pフィルム式に比べ解像度に限界もある。そのため米国では"Liemax"(偽IMAXの意味)と揶揄する声もあった。

IMAX社はこの問題に対処するため、コダックが持つレーザー・プロジェクタの120以上の特許を2011年に買い上げ、バルコ社と共に2015年に次世代IMAXシステムを完成させた。解像度は4Kのため大型スクリーンに対応でき、レーザーの欠点であったスペックルノイズ(ツブ状のギラつき)も、まったく感じられない。またRGBのレーザー光源ならではのコントラストや、コッテリした色彩を実現させている。将来的に、UHD(4K/8K)の国際規格となっている広色域の表色系ITU-R勧告BT.2020に準ずる予定で、ディズニーの『ザ・ジャングル・ブック』(2016)から使用される予定だということである。

当然S3Dにも対応しているが、ツイン・プロジェクタ式であるため、3Dメガネを掛けていても、裸眼状態とほぼ同等の明るさが実現された。これだけ画面が明るいと、不思議と3Dメガネの存在が気にならなくなるし、邪魔なクロストークも一切感じられず、同じ視差量の映像でも立体感がより明確に感じられる。
ちなみにDCI(Digital Cinema Initiatives)が推奨しているスクリーン輝度は14フートランバートだが、現在S3D映写の多くは3~4フートランバートで行われており、理想的なシアターでも5~6フートランバートほどしかない。したがってS3D映写でも14フートランバートで映写できれば、従来のS3D映画のような見辛さや、立体感の不足を払拭できると考えられる。次世代IMAXシステムでは、ピーク輝度22フートランバートを実現させた。

次世代IMAXシステムの第1号機は、2015年3月よりシネプレックス社が運営するトロントの「Scotiabank Toronto & IMAX」で公開された。その後「TCL Chinese Theatres IMAX」「Boeing IMAX, Pacific Science Center」「Airbus IMAX, Stephen F. Udvar-Hazy Center」「Sunbrella IMAX 3D Theater, Jordan's Furniture Reading」「Empire Leicester Square IMAX」「VOX Cinemas & IMAX」などで運営されており、世界71カ所に導入される事が決定している。国内では、大阪府吹田市で2015年11月19日(木)に開業した「109シネマズ大阪エキスポシティ」でお目見えとなった。スクリーンは横26m×縦18mと、フィルムのIMAXシアター並みのサイズになっている。また、2017年にオープン予定の「東池袋1丁目新シネマコンプレックスプロジェクト(仮称)」にも導入予定である。

今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

「東池袋1丁目新シネマコンプレックスプロジェクト(仮称)」の次世代IMAXシアター

<3>マルチプロジェクション

1950年代に大流行した劇場システムに、3台の35mmプロジェクタを用い、水平画角146°(最前列中心の席が基準)の円弧状スクリーンに上映する「シネラマ」があった。
その高いイマーシブ(Immersive、没入感)効果から全世界に大きな反響をもたらし、各地に常設館が次々と作られた。しかし残念ながらシステムの複雑さやコストが災いし、より簡素なシネマスコープや70mmフィルムにその座を奪われてしまう。だが最近、デジタル映写技術を用いた"21世紀版シネラマ"と呼べるシステムが、相次いで登場している。

3−1.バルコ・エスケープ(Barco Escape)

バルコ社が2014年に発表した劇場システム。3台のDCI準拠のデジタルシネマ・プロジェクタを用い、3面のスクリーンに水平画角270°で投影するというシステムである。
第1作となったのは、20世紀フォックスの『メイズ・ランナー』(2014)で、米国の5館の「シネマーク」(Cinemark)とベルギーの「キネポリス」(Kinepolis)が2館において、劇中の10分間をアスペクト比5.95:1で投影した。

今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

バルコ・エスケープのシアター

この成功を受けて20世紀フォックスは、今後もエスケープに対応した作品を手掛けるという5年契約をバルコと締結した。そして続編の『メイズ・ランナー2: 砂漠の迷宮』(2015)では、対応劇場がメキシコの「Cinépolis Bucareli」を含む20館以上となり、劇中の20分間が3面スクリーンで上映された。

現在は、「Lincoln Square Cinemas」「Cinema West - Village Cinema」「Cinema West - Palladio 16 Cinemas」「Cinemagic Hollywood 12 Theatres」「Roxy Stadium 14」「Century at Pacific Commons and XD」「Camera 12 Cinema」「United Artists Sierra Vista 6」「Cinemark Legacy and XD」、「Santikos Palladium IMAX-San Antonio」(http://www.santikos.com/locations/theatre?house_id=10367)、「Santikos Silverado 16-San Antonio」「Santikos Silverado IMAX-Tomball」「Santikos Palladium AVX-West Houston」「Cinépolis Bucareli」「Kinepolis Antwerpen」「Kinepolis Kortrijk」に導入されている。

今後対応劇場が増えるためには、この方式を採用する作品が継続的に現れる必要がある。そこでバルコは、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズで有名なプロデューサーのジェリー・ブラッカイマーを、エスケープの諮問委員会に加えた。ブラッカイマーは、自身がプロデュースした旧作映画、ならびに今後制作する新作映画のエスケープ・フォーマットへの対応を約束した。

またバルコは、エスケープの3つの画面に別々の映像を投影する、マルチスクリーン表現を積極的に提唱している。2015年2月にサンノゼで開催された「シネクエスト映画祭」(Cinequest Film Festival)では、ヘロイン中毒の娘とその父親を複数の視点から描いたビジェイ・ラジャン監督の『Withdrawal』や、『Escape to Burning Man』『Lady Gaga and Tony Bennett In Concert』など、エスケープに対応したマルチスクリーン短編が数本上映された。
筆者の私見だが、現在このシステムの話題性や認知度は、他と比べて高いとは言えない。そこで3面全てを3D映写することで、劇場全体に巨大なCAVE的な立体空間が生まれると思われ、それは従来の映画館をはるかに超越するイマーシブ体験をもたらすだろう。実現の可能性は十分考えられる。

3−2.Screen X

CJグループの運営する韓国最大の興行チェーンCJ CGVが、2012年よりKAIST大学と共同開発してきたマルチプロジェクション・システム。3台のDCI準拠のデジタルシネマ・プロジェクタ(クリスティ・デジタル・システムズ製)を用い、3面スクリーンに270°で投影するという構造はバルコ・エスケープと共通する。
対応した第1作は短編の『The X』(2013)で、2015年には3本の長編『차이나타운(Coinlocker Girl)』『Odysseo』『검은 사제들(The Priests)』もつくられている。そして中国の万達集団(Wanda Group)と契約し、中国の超大作ファンタジー『鬼吹灯之尋竜訣(The Ghouls)』(2015)に採用した。
現在46館、79スクリーンが稼働しており、韓国の他にロサンゼルス、ラスベガス、バンコクにある。CJ CGVは2020年までに、世界1000スクリーンへの導入を計画している。

今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

Screen Xのシアター

<4>画質の改善

映像の質という面において、どうしても4Kや8Kといった解像度に注目が集まりやすい。だが、改良すべき点は他にもたくさんある。その代表が、ダイナミックレンジやフレームレートの問題で、ようやくこういった要素にもメスが入り始めた。

4−1.ドルビーシネマ(Dolby Cinema)

ドルビーラボラトリーズが2015年に発表した次世代映画館システム。画面のピーク輝度やコントラスト、色域などを大幅に拡大した高画質化技術"ドルビービジョン"(Dolby Vision)と、音響のドルビーアトモスを組み合わせている。また、壁や入口、座席、スクリーンなど、劇場トータルのデザインも同社が手がけた。
ドルビーシネマに対応するコンテンツは、これまでに『トゥモローランド』『インサイド・ヘッド』『カリフォルニア・ダウン』『ピクセル』『ミッション: インポッシブル/ローグ・ネイション』『エベレスト』『ハンガー・ゲームFINAL:レボリューション』『The Perfect Guy』『メイズ・ランナー2: 砂漠の迷宮』『オデッセイ』『PAN ~ネバーランド、夢のはじまり~』『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』『白鯨との闘い』などがある。

今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

ドルビーシネマのシアター

まずこのシステムは、米国の興行チェーンであるAMC Theatersに採用され、同社の最上級PLFである「DOLBY CINEMA at AMC PRIME」として10館で稼働している。
またオランダの「JT Hilversum」「JT Eindhoven」、スペイン・バルセロナの「Cinesa La Maquinista」、オーストリア・リンツの「Cineplexx Linz」などでも導入されている。

4−2.ハイフレームレート(HFR)

映画フィルムのフレームレートは、サイレント時代は"ほぼ16fps"というアバウトなものだったが、ウエスタン・エレクトリック(Western Electric)社のスタンリー・ワトキンス(Stanley Watkins)は、映写機と蓄音機を同期運転させるサウンド・オン・ディスク方式のトーキー・システム「ヴァイタフォン」(Vitaphone)のために、映写速度の厳密な規格化が必要だと感じ、1926年に従来の1.5倍のフレーム数となる24fpsを基準値に定めた。

ちなみにフィルム式の映画カメラに用いられるロータリーシャッターは、半円形の2枚の板を重ねたものを機械的に回転させている。この2枚の成す角度によって開口部の面積が変化し、開角度を狭くすれば光量を必要とするが、スチルカメラのシャッタースピードを速くしたように動く被写体もシャープに撮れる。
しかしこれを映写して見た場合、速く動く腕などが複数本に見えるストロビング(Strobing)という現象が発生したり、ジャダー(Judder)と呼ばれるギクシャクした動きが生じてしまう。逆に開角度を広くすれば、少ない光量にも対応でき、動きは滑らかになるものの、今度はモーション・ブラー(Motion Blur)というブレが目立つようになり、画面のシャープさが失われてしまう。

そこで、映画監督/VFXスーパーバイザーのダグラス・トランブル(Douglas Trumbull)は、1974年に撮影速度を様々に変えたフィルムを用意し、被験者の脳波、心電図、筋電図、皮膚反応などを測定。その結果を基に、70mm 5Pフィルムを60fpsで撮影・映写する「ショースキャン」(SHOWSCAN)システム【図11】を開発した。そしてこれをビジネス化するため、1985年にショースキャン・フィルム・コーポレーション(Showscan Film Corporation)を設立し、博覧会映像やシミュレーション・ライドに活用していく。だが劇映画に用いると、観客の心理をフィクションの世界に留めていたイリュージョンが消えてしまい、過剰に生っぽく見えるのである。そのためセットはセットに、カツラはカツラに、メイクはメイクにしか見えなくなり、造り物の不自然さを際立たせてしまう結果となった。そしてトランブルは、1989年にこの分野から撤退してしまう。

  • 今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム
  • 「ショースキャン」システムを国内で初めて導入した、『科学万博‐つくば'85』・「東芝館」のパンフレット


1992年には、加IMAX社が『セビリア万博』・「カナダ館」の『Momentum』向けに、48fpsで撮影・映写を行うIMAX HDシステムを開発した。だが制作・運営のコストが大きいため、全部で3作品にしか採用されなかった。
そして20年後にピーター・ジャクソン(Peter Jackson)監督が、『ホビット 思いがけない冒険』(2012)、『ホビット 決戦のゆくえ』(2014)、『ホビット 竜に奪われた王国』(2013)の三部作を、S3Dの48fpsでデジタル撮影した。
これらは、HFR対応のインテグレーテッド・メディア・ブロック(IMB)を導入した劇場において、48fpsのS3D上映が行われている。だが観客の多くが、「スタジオ収録したTVドラマみたい」という感想を抱いたようだ。つまり、ショースキャンと同様に過剰なリアリティによって、逆にお芝居感が強調されてしまったのである。だが筆者は、通常モーション・ブラーで不明瞭になってしまうような素早く移動しながらのモブシーンでも、1人1人がきちんと見分けられることに感心した。また被写体の輪郭が鮮明になった分、立体視も容易になっている。

4−3.120fps

その後トランブルは、2010年より再びHFR技術に取り組み始め「ショースキャン・デジタル」(Showscan Digital)という名前で研究を開始した。現在は「MAGI」(発音はマジャイ)という名称になっている。基本的に4K、120fpsのデジタルS3D映像をベースに、48fpsや60fps、120fpsの映像を作り出すというもの。
動きの質感に関しては、ショットごとに被写体を分析し、24〜120fpsの間で自由にフレームレートを変える手法で対応する。さらに同一画面中でも、激しく動く物体だけHFR化する方法も検討されている。この技術を用いた最初の作品は、トランブルの監督による短編『UFOTOG』(2014)である。

『UFOTOG』トレイラー

このMAGIと同じシステムかどうかは不明だが、アン・リー監督が制作中のイラク戦争を風刺した中国・アメリカ・イギリス合作映画『Billy Lynn's Long Halftime Walk』では、4K、ネイティブS3Dに加えて120fpsのデジタル撮影が行われている。カメラはSony CineAlta F65が用いられており、米国公開は2016年11月11日の予定になっている。

またニコラス・ウィンディング・レフン監督による、フランス・アメリカ・デンマーク合作のホラー映画『The Neon Demon』(2016)では、60fpsが用いられるという情報がある。さらに現在、ジェームズ・キャメロン監督が取り組んでいる『アバター2』(2017年後期公開予定)でもHFR 3Dの採用を検討中ということで、効果次第では爆発的な普及が期待できる。

機材的には、クリスティから120fps(120Hz)対応の4Kプロジェクタ「Mirage 304K」「Mirage 4K35」「Mirage 4K25」が発売されている。そしてテレビの世界においても、現在NHKが研究開発を進めているスーパーハイビジョンでは、59.94pや60pに加え、120pというフレームレートも規格化されている。
しかしHFR化は、フレーム数が増えた分だけ、データ管理やVFXの手間、CGのレンダリング時間も増加する。これはロトスコープを必要とする合成や、2D/3D変換の手作業の工程では大きな問題となる。したがって現在は、ある程度は予算の大きな作品でない限り、おいそれと手が出ない手法であることは間違いない。だがいずれは、コンピュータの速度向上やストレージの容量アップによって、徐々に当たり前のことになっていくのかもしれない。

<5>プレミアム・ラージ・フォーマット(Premium Large Format/PLF)

IMAXデジタルシアターの成功の影響で、各興行チェーンは自社ブランドで特別な大型スクリーン・フォーマットを展開し始めた。Film Journal International(Oct 28, 2015)によると、2014年末までに世界で1,623スクリーンに達しており、アジア太平洋地域における成長が著しい。その中で代表的なものを紹介する。

5−1.AMC ETX / DOLBY CINEMA at AMC PRIME

「AMC ETX(Enhanced Theatre eXperience)」は、米国で2番目に大きな興行チェーン「AMC」が2012年2月に導入したPLF。
4Kプロジェクタによる映写と、12chのサラウンド音響システム(現在はドルビーアトモス)が特徴。現在は「AMC Metreon 16」「AMC Ontario Mills 30」「AMC Orange 30」「AMC Flatiron Crossing 14」「AMC Aventura 24」「AMC Disney Springs 24 with Dine-in Theatres」「AMC Randhurst 12」「AMC Garden State 16」「AMC NorthPark 15」「AMC Tysons Corner 16」「AMC Loews Alderwood Mall 16」に導入されている。
なお、AMCは2012年9月に、中国の万達集団(Wanda Group)に26億ドル(約2080億円)で買収された。この結果、万達集団は世界最大の興行チェーンとなり、AMCは潤沢な資金で開発が可能になった。

そして2015年より導入が始まった「DOLBY CINEMA at AMC PRIME」は、4Kレーザー・プロジェクタによるドルビーシネマ上映を、シートトランスデューサとパワーリクライニングシートを装備した豪華な客席で鑑賞できるというシステムだ。

今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

「DOLBY CINEMA at AMC PRIME」のロゴ

現在、「AMC Burbank 16」「AMC North Point Mall 12」「AMC Hawthorn 12」「AMC Town Center 20」「AMC BarryWoods 24」「AMC Empire 25」「AMC Deerbrook 24」「AMC Village on the Parkway 9」に導入されているほか、「AMC Century City 15」と、「AMC Willowbrook 24」への導入も決定している。

5−2.LUXE

S3D上映システムを提供している米RealD社が、2014年から展開しているPLF。
2台のプロジェクタを用いており、2DはDCI推奨の14フートランバート、S3Dでも最低6フートランバートの輝度を持っている。3Dメガネは当然RealDの円偏光方式が用いられているが、スクリーンは2D上映時でもムラ(スクリーン両端部での輝度低下)が発生しないように特別開発された、プレシジョン・ホワイト・スクリーン(Precision White Screen)を採用している。
これは乱反射を抑えて偏光情報を失わないように設計された、シルバーとホワイトの中間の性質を持ったスクリーンで、幅は最小でも16mメートルのものを天井から床まで張っている。

今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

「LUXE」のシアター

現在はロシアの「Karo Reutov」「Karo Vegas 22」「Karo Schuka」「Karo Aviapark」「Cinema Park」「Kinomax Ural」「Mori Cinema Kuntsevo」、ブルガリアの「Cinemas Arena Sofia West」、中国の「天津百麗宮影城」で稼働中。今後もロシアの1館、中国の2館に導入が決定している。

5−3.RPX(Regal Premium Experience)

全米最大の興行チェーン「リーガル・エンターテインメント・グループ」(Regal Entertainment Group)のブランドの1つである、「リーガル・シネマズ」(Regal Cinemas)のPLF。
壁面一杯のシルバースクリーン。豪華な座席。40個のスピーカー。ダブルスタックのクリスティ社製4Kデジタルプロジェクタによる3D映写などが特徴。現在87館に導入されている。

今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

「RPX」のシアター

5−4.Cinemark XD

米国で3番目に大きな興行チェーンである「シネマーク・シアターズ」(Cinemark Theatres)のPLF。
壁面一杯のシルバースクリーン。真新しい豪華な座席。カスタムメイドのJBL音響システム。バルコ社のプロジェクタによるデジタル映写システム。RealDによる3Dなどを特徴としている。114館(未開館2館を含む)に導入。

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「Cinemark XD」のシアター

5−5.Big D

米国で4番目に大きな興行チェーンである「カーマイク・シネマズ」(Carmike Cinemas)が、2013年より展開しているPLF。現在26スクリーンに導入。幅24m×高さ10mの壁一杯に張られたスクリーン。4ウェイスピーカーと7.1chのカスタムQSCデジタル・サラウンド・システム。クリスティの2D/3Dデジタルプロジェクタなどを特徴とする。

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「Big D」のシアター

5−6.AVX

米サン・アントニオとヒューストンに展開する興行チェーンの「サンティコス・シアターズ」(Santikos Theatres)が、2013年より運営しているPLF。
壁一杯に張られたスクリーン、4Kプロジェクタによるデジタル映写、ドルビーアトモスが特徴である。「Santikos Palladium IMAX -San Antonio」「Santikos Silverado 16-San Antonio」「Santikos Mayan Palace 14」「Santikos Silverado IMAX-Tomball」「Santikos Palladium AVX-West Houston」に導入されている。

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「Santikos Palladium IMAX -San Antonio」のAVXシアター

5−7.中国巨幕(China Film Giant Screen: CFGS)

中国電影科研所(中国映画研究所)と中影集団(中国映画グループ)が、2012年に開発したPLF。当初はDMax(Digital Max)と呼ばれていた。
独自開発のマスタリング技術。バルコ社のDP2K-32Bデジタルプロジェクタを2台使用するS3D映写システム(2D映写時は同一画面をスタック)。20m×12m、ゲイン2.4のシルバースクリーン。5.1、7.1、9.1、11.1、13.1chシステムなどと互換性のあるサラウンド。豪華な座席などを特徴とし、ライセンスはフリー。現在73スクリーンに導入。

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「中国巨幕」のシアター

5−8.X-Land

万達集団(Wanda Group)が中国で展開する「万達影城」(Wanda Cinemas)のPLF。
大型スクリーン、4Kプロジェクタによるデジタル映写、ドルビーアトモスなどを特徴とする。また3D映写に関しては、米RealDと合意を結び、常に輝度が6フートランバート以上になるように定期健診を受ける、RealD 6FL認定と呼ばれる品質管理プログラムをアジアで初めて採用している。現在37スクリーンに導入している。

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「万達影城」のシアター

5−9.Polymax

Polymaxは、「保利影業投資有限公司」(Poly Film Investment Co., Ltd.)が運営する劇場、「保利国際影城」(Poly International Cinema)のPLF。「保利影業投資有限公司」は、企業グループ「中国保利集団公司」(China Poly Group Corporation)の文化事業分野である「保利文化集団股份有限公司」(Poly Culture Group Corporation Limited)の完全子会社である。
基本はバルコのDP4K-32Bプロジェクタ2台映写で、バルコないしクリスティのレーザー・プロジェクタへの対応も可能。音響は自社開発の13.1chサラウンドの他、ドルビーアトモスやAuro11.1も対応できる。スクリーンサイズは幅18m。現在14スクリーンに導入されており、今後3年間で30館への展開を計画している。

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「保利国際影城」の上海祥騰店

5−10.UltraAVX

トロントに本社を置き、カナダ全土に162館の劇場を運営するシネプレックス社(Cineplex Inc.)が開発したPLF。大型スクリーン、ドルビーアトモス、豪華な座席などを特徴とする。現在26スクリーンに導入。

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「UltraAVX」のシアター

5−11.Laser Ultra

ベルギーを中心に、フランス、オランダ、スペイン、ポーランド、スイスなど、ヨーロッパに35館の劇場を所有する興行チェーン「キネポリス」(Kinepolis)のPLF。バルコ社の4Kレーザー・プロジェクタによるデジタル映写、ドルビーアトモスなどを特徴とする。現在9スクリーンに導入。

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「Laser Ultra」のロゴ

5−12.VueXtreme

欧州最大の興行チェーンである、英国の「ヴュー・インターナショナル」(Vue International)のPLF。現在12スクリーンに導入。

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「VueXtreme」のロゴ

5−13.Vmax

オーストラリアを中心に、シンガポール、米国に展開する興行チェーン「ヴィレッジ・シネマズ」(Village Cinemas)のPLF。
最大幅28m(Village Cinemas Knox)のスクリーン、豪華なシートが特徴。現在「Village Cinemas Crown」「Village Cinemas Doncaster」「Village Cinemas Fountain Gate」「Village Cinemas Jam Factory」「Village Cinemas Knox」「Village Cinemas Southland」「Village Cinemas Karingal」で稼働中。

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「Vmax」のシアター

5−14.CinemeXtremo

メキシコの興行チェーン「シネメックス」(Cinemex)のPLF。大型スクリーン、ドルビーアトモス、豪華な座席などを特徴とする。
現在「Cinemex Boulevares Querétaro」「Cinemex Santa Fe」「Cinemex Mundo E」に導入されている。

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  • 「CinemeXtremo」のポスター


5−15.ADMIX

「シネマックスつくば」が2013年に導入。壁面一杯のシルバースクリーン。Auro11.1。RealD XLを採用。4Kやハイフレームレートにも対応している。

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「ADMIX」のHP

5−16.TCX

「TOHOシネマズ」が2013年より導入を進めているPLF。同規模座席数の劇場よりも約120%拡大させた壁面一杯のスクリーンと、ダーク系に統一して光の反射を軽減させたシートが特徴。

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  • 「TCX」のHP


「TOHOシネマズ市原」「TOHOシネマズくずはモール」「TOHOシネマズ日本橋」「TOHOシネマズ新宿」「TOHOシネマズ六本木ヒルズ」「TOHOシネマズららぽーと船橋」「TOHOシネマズららぽーと富士見」「TOHOシネマズアミュプラザおおいた」に導入。

5−17.ウルティラ(ULTIRA)

旧「ワーナー・マイカル」(現「イオンシネマ」)が2010年に開発。壁面一杯のシルバースクリーンと、高音・中高音・中低音・低音域の4ウェイ立体音響、RealDの3D映像を組み合わせたもの。

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「ウルティラ」のシアター

現在、「イオンシネマ幕張新都心」「イオンシネマ春日部」「イオンシネマ港北ニュータウン」「イオンシネマ大高」「イオンシネマ名古屋茶屋」「イオンシネマ和歌山」「イオンシネマ京都桂川」「イオンシネマ岡山」に導入されている。

<6>S3D上映システム

ひと頃の勢いも収まり、落ち着いてきたように思われがちなS3D(立体視)だが、ここでも新しい技術が生まれようとしている。

6−1.RealD

2003年に米国で創業したRealD社は、S3D技術によるビジネスを目指した。そして2005年に、この分野で数多くの特許をもつステレオグラフィックス(Stereo Graphics)を買収する。
ステレオグラフィックスが持っていた技術のひとつに、「Zスクリーン」がある。これは高速スイッチングが可能な液晶を、直線偏光板と1/4波長版によって挟んだ構造をしており、通過した光を右回り円偏光か、左回り円偏光に切り替えることを可能にしていた。これをDLPシネマ・プロジェクタと組み合わせることで、プロジェクタ1台での映画館向けのS3D映写システムが可能になる。スイッチング周波数は144Hzとし、24fpsのフレームを3回ずつ左右交互に映写するトリプルフラッシュ式にしたことで、フリッカーはほとんど知覚できないレベルとなった。光効率は15%ほどになる。

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Zスクリーンを取り付けたDLP Cinemaプロジェクタ

RealDのシステムは順調に普及していき、2009年の『アバター』では世界の約5,000スクリーンがRealD方式でS3D上映していた。現在は、世界26,500スクリーンにも達し、最も普及したS3Dシステムとなっている。
国内では「イオンシネマ」の83館、「ユナイテッド・シネマ」の22館、「コロナシネマワールド」の6館、「TOHOシネマズ」の3館、「フォーラム八戸」「シネマックスちはら台」「シネシティザート」「シネプラザ サントムーン」「シネマイクスピアリ」「品川プリンスシネマ」などに用いられている。

そして同社は、PLFなどの大型スクリーンでも十分な輝度を実現させるため、2011年に「RealD XL」システムを発表した。
これはZスクリーンを2つ用い、ビームをプライマリパスと、排除された光(従来は熱として放出)を再利用したセカンダリパスに分けることで、光効率を28%に改善したものである。これによって、従来は幅スクリーン13.7mが限界だったものを、20m以上でも可能にした。

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RealD XLシステム

国内では「ユナイテッド・シネマ豊洲」「シネマックスつくば」に導入されている。
また同年に、RealD XLで2台映写する「RealD XLW」システムも発表しており、「ヘイスティングズ自然・文化史博物館(Hastings Museum of Natural and Cultural History)「ピンク・パレス博物館」(Pink Palace Family of Museums)などが導入した。
さらに劇場全体の設計も手がけるLUXEや、画質改善ソフトウェアTrueImageなども開発している。同社は2015年11月に投資ファンドRizvi Traverse Managementに買収されたが、CEOはRealD創業者のマイケル・V・ルイス(Michael V. Lewis)がひき続き務めている。

6−2.Sony Digital Cinema 3D

ソニーの、反射式液晶デバイスSXRD(Silicon X-tal Reflective Display)を用いた1台の4Kプロジェクタ「SRX-R515P」または「SRX-R320」と、RealDが提供する円偏光フィルタを装着した3Dプロジェクションレンズユニットを組み合わせたシステム。4K液晶を上下に分割して、それに左右の映像を割り当てるトップ・アンド・ボトム方式によって、それぞれを2K(2048×858画素)で投影する仕組み。アクティブステレオのような左右の切り替えは不要なため、フリッカーは発生しない。

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  • 3Dプロジェクションレンズユニットを装着した4Kデジタルシネマプロジェクタ「SRX-R220」(販売終了製品)


国内では、「TOHOシネマズ」の15館、「109シネマズ」の3館、「札幌シネマフロンティア」などに用いられている。

6−3.Master Image

韓国のマスターイメージとKDC情報通信社が2006年に開発したシステム。1台のDLP Cinemaプロジェクタのレンズ前で、機械的に毎分4,320回転する円偏光フィルタを通し、駆動周波数144Hzのアクティブステレオをパッシブステレオに変換して、シルバースクリーンに投影する仕組み。
まず韓国CJ CGVの14館に採用された他、香港、台湾、インド、フィリピンなどアジア地域に広まり、2009年から拠点を米国に移して全世界に普及が始まった。

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  • Master Imageの回転式円偏光フィルタ「MI-CLARITY 3D」


現在は、100カ国、8,200スクリーン以上で稼働しており、国内では「TOHOシネマズ」の47館、「109シネマズ」の14館、「品川プリンスシネマ」「シネマサンシャイン池袋」「シネマサンシャイン大和郡山」「シネマサンシャイン大街道」「ディノスシネマズ旭川」「フォーラム盛岡」「中央映画劇場」「山形フォーラム・ソラリス」「チネチッタ」「シネックスマーゴ」「ジストシネマ和歌山」などに用いられている。

同社は現在、液晶偏光モジュレータを用いる「MI-WAVE3D」を主力商品としている。これは、RealDのZスクリーンと同様の技術によるものだが、光効率は19%とより高効率を謳っている。また「MI-HORIZON3D」と呼ばれるシステムは、RealD XLと同様に液晶偏光モジュレーターで捨てられていた光を再利用するものだが、光路を3つに分けるトリプルビーム光学系を用いて光効率を34%に改善し、大型スクリーンに対応させている。また、これを2台用いる「MI-HORIZON3D DUAL」では、光効率67%を実現させた。

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  • Master Imageの液晶偏光モジュレータ「MI-WAVE3D」


今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

Master Imageのトリプルビーム式液晶偏光モジュレータ「MI-HORIZON3D」

6−4.XPAND

スロベニアの金融大手KDグループのエンターテインメント部門であるKolosej社と、米エドワード・テクノロジーズ(Edwards Technologies)社の合弁会社として設立されたX6D社は、2005年にXPANDブランドを立ち上げ、産業分野向けに液晶シャッターメガネ「NuVision」を提供してきた米マクノートン(MacNaughton)社の技術を買収し、3Dデジタルシネマ事業に進出した。

通常のホワイトスクリーンがそのまま利用でき、設置にあたっては駆動周波数144Hzの同期パルスを放射する赤外線エミッターと、シンクディストリビューションモジュールを取り付けるだけなので、集客状態に合わせてサイズの異なるスクリーンに移動する際もすみやかに対応できる。しかし、液晶シャッターメガネ内に電子回路や電池を内蔵しているため、初期モデルの「X101」は71gと多少重く、液晶の透過率も35%で、それ自体に薄く色が付いていた。だが、2012年に発売された改良型のX103cシリーズでは、重量が56g(子供用は39g)まで軽量化され、液晶も透過率が37%、コントラストが300:1から700:1まで向上し、ほぼ無色になった。最新モデルの「X105」シリーズでは、37gとさらに軽量化され、充電式、透過率38%、コントラスト1100:1、駆動周波数を最大240Hzから320Hzに高めた。

  • 今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム
  • 今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

(左)XPAND初期モデル「X101」/(右)XPAND最新モデル「X105-IR-C1」

また2013年に同社は、パッシブステレオ式劇場システム「XPAND Passive 3D Polarization Modulator MS110C2」を市場に投入。2014年には改良された「XPAND Passive Polarization Modulator Gen2 MS210C2」も発売している。これはRealDのZスクリーンと同様に、プロジェクタのレンズ前に液晶偏光モジュレーターを設置してシルバースクリーンに投影するもので、光効率は16%。観客は15.4g(子供用は8.7g)の円偏光メガネを掛けて鑑賞する仕組み。さらに大型スクリーン用に、光効率28%のトリプルビーム偏光モジュレータ「Trinity 3D Superlight Polarizer」も提供している。

今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

XPAND Passive Polarization Modulator Gen2 MS210C2

国内では、「シネプレックス」の11館、「松竹マルチプレックスシアターズ」の24館、「新宿バルト9」「梅田ブルク7」「横浜ブルク13」「T・ジョイ蘇我」「こうのすシネマ」「広島バルト11」「T・ジョイパークプレイス大分」「鹿児島ミッテ10」「シネマサンシャイン平和島」「シネマサンシャイン土浦」「シネマサンシャイン沼津」「シネマサンシャインかほく」「シネマサンシャイン下関」「シネマサンシャイン衣山」「シネマサンシャイン重信」「シネマサンシャインエミフルMASAKI」「シネマサンシャイン大州」「シネマサンシャイン北島」「ディノスシネマズ苫小牧」「ディノスシネマズ室蘭」「ミッドランドスクウェアシネマ」「ミッドランドシネマ名古屋空港」「シネマ・リオーネ古川」「プレビ劇場ISESAKI CINEMA」「渋谷シネパレス」「シネティアラ21」「サンモールシネマ」「岡谷スカラ座」「なんばパークスシネマ」「OSシネマズ ミント神戸」「OSシネマズ神戸ハーバーランド」「姫路OS」「佐世保シネマボックス太陽」などに導入されている。

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XPAND Trinity 3D Superlight Polarizer

6−5.Dolby 3D

独ダイムラーの研究所で自動車のVR設計用に開発された技術をベースに、そこから独立した独インフィテック(Infitec)社が開発した特殊フィルタを用いる、ドルビーラボラトリーズのS3D方式
3Dメガネには50層を超える干渉膜がコーティングしてあり、プロジェクタの光源をRの高/低、Gの高/低、Bの高/低の6波長域に分割し、交互に左右に振り分けることで立体視を実現させる。映写時は、DLP Cinemaプロジェクタのランプハウスと光学エンジンの間にフィルタ・ホイールを設置し、144Hzのトリプルフラッシュとなる速度で機械的に回転させる。

  • 今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム
  • Dolby 3D用メガネ


国内では、「T・ジョイ大泉」「T・ジョイ新潟万代」「T・ジョイ長岡」「T・ジョイ京都」「T・ジョイ東広島」「T・ジョイ出雲」、「T・ジョイ博多」「T・ジョイ リバーウォーク北九州」「鹿児島ミッテ10」などに導入されている。
またテーマパークの3Dアトラクション用や、ホワイトスクリーンが使用できることから、映画配給会社の試写室に広く用いられている。今後は、ドルビーシネマの普及に伴い、映画館への導入例を増えるかもしれない。

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  • DLP Cinemaプロジェクタの内部に取り付けられたDolby 3Dのフィルタ・ホイール


6−6.6P(6原色)レーザー3D

バルコ社が4Kレーザー光源プロジェクタ「DP4K-60L」「DP4K-45L」「DP4K-30L」「DP4K-22L」の機能として、2014年に導入した3D方式のひとつ。Dolby 3Dのように、ランプハウスと光学エンジンの間に回転するフィルタ・ホイールを設置するのではなく、最初からRGBと、20nmずつずれたR'G'B'という6原色のレーザーを光源とする。

今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

バルコ「DP4K-60L」

S3Dメガネは、インフィテック社のフィルタを用いるが、Dolby 3Dと互換性はなく、Color3D(Barco Laser3D)方式にチューニングされたものを使用。輝度が最大60,000ルーメンの「DP4K-60L」は、観客が3Dメガネをかけた状態で、標準的な裸眼の2D上映並みの明るさ(1.8ゲインの幅24mスクリーンで7フートランバート以上。幅17mスクリーンで14フートランバート以上)が得られる。
またクロストークが一切なく、スペックルノイズも感じられない。さらに2500:1という非常に高いコントラストと、深みのある色彩も特徴である。

そしてクリスティ社も、同様の機能を持つレーザー・プロジェクタ「Mirage 4KLH」を2014年より発売しており、最大120HzのHFRにも対応している。
また、イタリアの映写機メーカーであるシネメカニカ(Cinemeccanica)が提供しているレーザー光源「Cinecloud Lux」は、任意のDLP Cinemaプロジェクタに装着できる製品で、20,000~60,000ルーメンまで9種類のモデルがあり、デュアル構成で115,000ルーメンまで対応可能。やはり6Pレーザー3Dの機能を持っており、XPAND社と戦略的パートナーシップを結んでいる。

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  • クリスティ「Mirage 4KLH」


今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

シネメカニカ「Cinecloud Lux」の広告

6−7.ネストリ3D (Nestri 3D)

韓国のNestri社が開発した、液晶シャッターメガネを用いる3Dシステム。充電式で電池交換が不要。重量はバッテリー込みで47gと軽量。液晶も透過率40%、コントラスト500:1で、ほぼ無色である。国内では「大阪ステーションシティシネマ」「ディノスシネマズ苫小牧」「シネマ太陽帯広」「シネマ太陽函館」「MOVIX亀有」などが採用している。

今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

ネストリ3D

<7>4Dシステム(体感システム)

従来の3D上映システムに、新たな体感的要素を加えたものを一般に4Dシステムと呼ぶ。そのきっかけとなったのは、ダグラス・トランブルが1975年に特許を取得した12人乗りの"シネライド"だった。
トランブルはその実用第1号として、カナダのIEI社と共同で6軸油圧駆動のキャビン型モーションベース「マジックモーションマシン」(Magic Motion Machine)を開発。1985年にトロントCNタワーのアトラクションspan『ツアー・オブ・ザ・ユニバース』(Tour of the Universe)を発表する。
このマジックモーションマシンは、1987年にアナハイムのディズニーランドのアトラクション『スター・ツアーズ』(Star Tours)にも採用されている(※ただし、トランブルはタッチしていない)。

  • 今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム
  • 世界初のシミュレーション・ライドである「ツアー・オブ・ザ・ユニバース」の広告


1988年にトランブルは、スイスのインタミン(Intamin)社製の開放型モーションベースにショースキャンを組み合わせた「ダイナミック・モーション・シミュレータ」(Dynamic Motion Simulator)を開発し、世界各地に売り込んだ。続けてトランブルは、OMNIMAX(IMAX DOME)と開放型モーションベース組み合わせた"IMAX Simulator Ride"を設計し、1991年にユニバーサル・スタジオ・フロリダに導入された『バック・トゥ・ザ・フューチャー: ザ・ライド』(Back to the Future: The Ride)を演出した。

その『バック・トゥ・ザ・フューチャー...』の前年の1990年には、世界初の4Dシステムが日本で生まれている。それは東京のサンリオ・ピューロランドと、大分のハーモニーランドに設置されたアトラクション『夢のタイムマシン』だった。米ランドマーク・エンターテインメント(Landmark Entertainment)と三菱重工、サンリオの共同開発によるもので、70mm 5P ツイン・プロジェクタの偏光式3D映像と、ムービングシート、レーザービーム、立体音響、3種類の香りなどの要素を加えている。最初に公開されたコンテンツが『Into the 4th Dimension』という題名のフルCGアニメで、この段階で4Dというコンセプトが出来上がったのがわかる。

今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

モーションベースに70mm 5P 60fpsのショースキャンを組み合わせた「ダイナミック・モーション・シミュレータ」

こういったことがきっかけとなり、80年代後半~90年代に、世界各地のテーマパークや遊園地、大型ゲームセンター、あるいはラスベガスのホテル&カジノなどに、数多くの4Dシステムが設置される。特にSimEx-Iwerks Entertainment(旧IEI社とIwerks社が合併して生まれた会社)は、盛んにライバルのアトラクション映像企業やシミュレーション・ライド企業を買収して成長し、4Dシステムを定着させていく。
しかし次第に飽きられ、かつてほど人々の注目を集めなくなっていたのも事実である。だが最近になり、新たな市場として映画館への導入が進み、第2の流行期を迎えたと言えよう。

7−1.D-BOX

航空、軍事、医療、交通、産業などの分野にモーション・シミュレータを提供している、カナダのD-BOXテクノロジーズ(D-BOX Technologies)が、2001年開発したシステム。座席がシーンに連動して、前後・上下・左右に動いたり、バイブレーションを作り出す。

  • 今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム
  • 「D-BOX」のシート


現在、世界300スクリーンで稼働しており、国内では2010年に「ワーナーマイカルシネマズ大高」(現・イオンシネマ大高)に導入され、その後「イオンシネマ幕張新都心」「イオンシネマ春日部」「イオンシネマ港北ニュータウン」「イオンシネマ和歌山」「イオンシネマ名古屋茶屋」「イオンシネマ京都桂川」「イオンシネマ岡山」にも導入された。

7−2.4DX

韓国CJグループの子会社CJ 4D PLEXが、2009年に開発した4Dシステム。座席が前後・上下・左右に動いたり、風、雨、水飛沫、泡、ストロボ光、煙、香り(追加で雪と嵐)の効果が加えられる。
そして韓国を皮切りに、メキシコ、ロシア、ブラジル、チリ、ペルー、ベネズエラ、ハンガリー、ポーランド、チェコ、日本、米国、香港、イギリス、スイスなどに普及し、2016年前半までに世界33の国と地域の300館以上での採用が決まっている。

今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

「4DX」の広告

日本では2013年に「中川コロナワールド」に採用され、その後「小倉コロナワールド」「福山コロナワールド」「小田原コロナワールド」「豊川コロナワールド」「大垣コロナワールド」「安城コロナワールド」「金沢コロナワールド」「シネマサンシャイン平和島」「シネマサンシャイン沼津」「シネマサンシャインエミフルMASAKI」「ユナイテッド・シネマ豊洲」「ユナイテッド・シネマ札幌」「ユナイテッド・シネマ前橋」「ユナイテッド・シネマ春日部」「ユナイテッド・シネマとしまえん」「ユナイテッド・シネマ新潟」「ユナイテッド・シネマ入間」「ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13」「ユナイテッド・シネマ橿原」「USシネマ木更津」「USシネマ千葉ニュータウン」「シネプレックス水戸」「シネプレックス枚方」「シネマックスつくば」「シネマックスちはら台」「シネマックスパルナ稲敷」「イオンシネマ四條畷」「イオンシネマみなとみらい」などに導入された。
さらに2017年には「東池袋1丁目新シネマコンプレックスプロジェクト(仮称)」にも導入されることが決まっている。

7−3.MediaMation MX4D

米国のメディアメーション(MediaMation)は、1991年に設立され、テーマパーク、ホテル、博物館などの、シミュレーション・ライドや噴水、ショー・コントロール・システムなどを手がけてきた。同社が2005年に開発した、映画館向け4Dシステムが「MX4D」である。座席が前後・上下・左右に動いたり、バイブレーション、風、ミスト、ストロボ、煙、香り、背もたれや首筋、足元の触覚など、11種類の効果が加えられる。

今、劇的に変わりつつある映画館の上映システム

「MX4D」の広告

まず2012年より、メキシコの興行チェーン「シネメックス」(Cinemex)の12館(内1館は2016年)に導入された。続いてコロンビアの「シネ・コロンビア」(Cine Colombia)の5館。中国の「万達影城」(Wanda Cinemas)。オマーンの「シティシネマ」(City Cinemas)、キュラソーの「The Cinemas Curaçao」。中国で5番目に大きい興行チェーン「金逸電影」(Jinyi Cinemas)の「金逸光美」に導入されている。

日本では2015年より「TOHOシネマズ六本木ヒルズ」「TOHOシネマズららぽーと富士見」「TOHOシネマズ新宿」などで稼働している。
さらに『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』公開に合わせ、「TOHOシネマズ岡南」「TOHOシネマズ宇都宮」「TOHOシネマズららぽーと船橋」「TOHOシネマズららぽーと横浜」「TOHOシネマズ川崎」「TOHOシネマズなんば」「TOHOシネマズ西宮OS」が導入を予定している。

7−4.ウィンブルシート

「ユナイテッド・シネマとしまえん」のNo.8スクリーンや、「ユナイテッド・シネマ岸和田」のNo.7スクリーンのほぼ全席に導入。上映作品の衝撃音や効果音に合わせ、シートの背面と座面が振動する。

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  • ウィンブルシート


7−5.5D/6D/7D Cinema

中国の広州滝沢電子科技有限公司(Guangzhou Longze Electronic Technology)が提供。座席が油圧ないし電動で、3軸または6軸で動いたり、風、雨、水飛沫、泡、ストロボ光、煙、香り、雪、炎、背もたれと座面の振動、レッグスイープ(足のくすぐり)といった効果が組み合される。
またHMDと回転する座席を用いた、9D VR egg Cinemaというタイプも新たに加わった。劇場用の他に、テーマパークのアトラクション用や、車載型の移動システムなどもある。

7−6.Dymatic 5D

こちらも中国の広州数祺数字科技有限公司(Guangzhou Shuqee Digital Tech)が提供しているシステム。座席が、空気圧か油圧ないし電動で、3軸または6軸で動いたり、風、雨、水飛沫、泡、ストロボ光、レーザー、煙、香り、雪、炎、背もたれと座面の振動、レッグスイープなどの効果が組み合される。システム構成によって4D、6D、7D、XDなど多数のバリエーションがある。

いかがだろうか? このように、いかに現在の映画館用テクノロジーが激しい開発競争をくり広げているかがおわかりいただけたと思う。ただ、その中核を成している国は、カナダ、アメリカ、ベルギー、韓国などで、日本の存在感が薄いのが残念である。