>   >  新卒社員がいきなりアートディレクター?!>>開発中止もいとわない、ディライトワークスの新卒研修とボードゲーム開発の舞台裏を徹底取材
新卒社員がいきなりアートディレクター?!>>開発中止もいとわない、ディライトワークスの新卒研修とボードゲーム開発の舞台裏を徹底取材

新卒社員がいきなりアートディレクター?!>>開発中止もいとわない、ディライトワークスの新卒研修とボードゲーム開発の舞台裏を徹底取材

スマホ向けRPG『Fate/Grand Order』の企画・開発・運営などで知られるディライトワークスは、2019年12月に新作ボードゲーム『シブヤ ストラグル』の発売を開始した。本作はボードゲームデザイナーのカナイセイジ氏(カナイ製作所)と、ボードゲームカフェJELLY JELLY CAFEオーナーの白坂翔氏による監修のもと、2019年4月にディライトワークスへ入社した6名の新卒社員が、同年5月から9月にかけての約5ヶ月間で開発した。

新卒研修の一環ではあるものの、トラブル発生はもちろん、開発中止の危機にも陥り、ゲーム開発の縮図を体験する機会になったという濃密な日々を、本作のアートディレクションを担当した新卒社員の松田冴映子氏と、そのメンターを務めた澤川幸子氏、グラフィックの研修を統括した田口博之氏にふり返ってもらった。以降では、インタビューを通して見えてきた、新卒研修において同社が重視するポイントと、学生時代から今にいたるまでの松田氏の成長を中心にお伝えする。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

今のところ、トラブル発生率100%でやっております

CGWORLD(以下、C):ボードゲームの企画・開発・販売を通して、新卒社員を育成するという試みは、今回で2回目だと伺っています。2018年4月入社の新卒社員は、同じくカナイ氏と白坂氏による監修のもと、『CHAINsomnia~アクマの城と子どもたち~』を開発していますね。日本を代表するボードゲームの第一人者たちに監修を依頼し、会社のプロダクトとしてしっかり宣伝・販売するという力の入れようは、ほかに類を見ないように思います。そもそも、どうしてアナログなボードゲームを開発するのかという点も含め、その意図を教えていただけますか?

田口博之氏(以下、田口):かつてのゲーム開発では、数人の開発者が、数ヶ月で終わらせるような小さなタイトルもありました。ところが最近はいろんなものが大型化し、開発期間が長くなり、3年経ってもリリースできないといったケースがざらにあります。運が悪いと、そのまま開発中止になったりもします。熟練の開発者でもゲームのリリースを経験する機会が減っており、まして新卒社員となると、リリースはもちろん、そこにいたるまでに起こる様々なトラブルや、その解決をどうやって経験すればいいのか、新卒採用をしている会社なら、どこも課題にしていると思います。

  • 田口博之
    ディライトワークス ディライトグラフィックワークス 副ジェネラルマネージャー。1992年に新卒でセガ・エンタープライゼス(当時)に入社。3D創世記のアーケード部門に配属され、『THE HOUSE OF DEAD』(1996)、『アヴァロンの鍵』(2003)、『三国志大戦』(2005)など、様々なタイトルの立ち上げを幅広く経験。カードイラストレーターとしての顔ももつ。2018年よりディライトワークスに所属し、ディライトグラフィックワークスの組織マネジメントとゲーム開発に従事。『シブヤ ストラグル』の開発時には、グラフィックの研修を統括した。


C:アサインされたプロジェクトAがポシャり、次にアサインされたプロジェクトBもポシャり、その次にアサインされたプロジェクトCもポシャり、結局1回もクレジットに名前が載らないまま30代に突入した運の悪すぎる元新卒がいる......、という残酷物語を、某ゲーム会社の開発者から聞いたことがありますね。

田口:ありえる話だと思います。多いんですよ、最近は。

C:そういう状況下だからこそ、コンパクトなボードゲーム開発を通して、ゲームのリリースを経験してもらう機会を設けたと?

田口:そうです。ただ、たとえリリースできなくても、良い経験になると思ってやっています。実際、去年も今年もトラブルが発生し、「このままだと、開発中止もありえるな」と思いながら見守っていました。今のところ、トラブル発生率100%でやっております(笑)。

C:なんか嬉しそうですね。

田口:トラブルは発生していいんです。ゲーム開発では、よくトラブルが起こります。新卒研修で最初のトラブルを経験してもらい、その痛みを記憶してもらう。これが大事です。

C:ゲーム開発を経験するからには、トラブルもセットで経験してもらうと......。田口さんは数々のトラブルを経験してそうですが、澤川さんも同様ですか?

澤川幸子氏(以下、澤川):そうですね。思い当たる節はいっぱいありますね(笑)。『シブヤ ストラグル』の開発は、ゲーム開発の縮図と化していました。

  • 澤川幸子
    ディライトワークス ディライトアートワークス アーティスト。ゲーム業界歴は10年以上。2017年よりディライトワークスに所属。現在は主に開発中タイトルの背景のイメージボード制作やデザイン、社内外のアーティストが手がける2D・3Dの背景監修を行う。『シブヤ ストラグル』の開発時には、松田氏のメンターを担当した。


田口:で、どうしてボードゲームなのかというと、当社はボードゲームに理解のある開発者が多く、社内には「DELiGHTWORKS ボードゲームカフェ」と称する社内施設もあります。開発中のプロダクトの大半はデジタルコンテンツですが、ボードゲームならではの個性的な面白さから多くの学びを得られることや、小規模なチームによる短期間での開発が可能なことから、ボードゲームを選択しました。また、デジタルの場合はギリギリまで中身を入れ替えられるので、締切に対してルーズな感覚の若手が増えているんです。その感覚を引き締める上で、アナログ媒体での入稿は良い経験になったと思います。実際、入稿後にカードの説明文が間違っていたことが発覚して、慌てて入稿し直すというドタバタがありました。そういうのが、忘れられない思い出になり、後の開発現場で活きてくるんです。

▲ディライトワークスの社内にある「DELiGHTWORKS ボードゲームカフェ」と名付けられた社内施設。壁際の飾り棚に加え、その下の収納内にも数多くのボードゲームが並んでおり、社員が自由にプレイして、ボードゲームならではの面白さを学べるようになっている
写真提供:ディライトワークス


松田冴映子氏(以下、松田):はい。忘れられない思い出です。チームの6人全員でチェックしたのですが、見落としてしまいました。開発終盤ということもあり、入稿時には全員が疲弊していて、時間もなくて、「読みました!(読めていません!)」「確認しました!(確認できていません!)」という感じでした。

  • 松田冴映子
    ディライトワークス ディライトアートワークス 新人アーティスト。美術大学で油画を専攻した後、2019年に新卒社員としてディライトワークスに入社。現在は開発中タイトルの背景レタッチ、参考資料集め、ゲームに登場する施設のレイアウト案作成などを行う。『シブヤ ストラグル』の開発時には、キービジュアルやキャラクターも含めた全体デザインのディレクションに加え、協力会社のアーティストとのやりとりも担当した。


田口:僕もボードゲームをつくったことがあるので「カードの説明文や取説(取扱説明書)は、ゲームルールが固まってないと書けないし、言葉を精査しなきゃいけないから、つくる時間をとっておくようにね」と事前に忠告はしました。でも、いざ本番となると「まだ時間がある」って甘く見て、ギリギリまで本体の開発を続けてしまったんです(苦笑)。その結果、入稿時にドタバタして、印刷会社さんにご迷惑をかけました。

C:入稿あるあるですね......。

松田:ゲームルールの詳細がなかなか決まらず、取説を書きながらルールが変わってしまい、表記揺れの精査ができず、必要な画像が決められず、ページ数が決められず、決まらないから決められない......という状況が終盤まで続いていました。そんな感じで、開発の最初から最後まで、終始オタオタしていましたね。

田口:松田はトラブルに弱いタイプで、トラブルが発生すると「ワッー」って、慌てて踊り出すんです。「何事にも焦らない。トラブルのときも優雅に」っていうのが僕の教えなんですけどね。

C:「優雅に」ですか。田口さんが時臣(※)に見えてきました(笑)。

※遠坂時臣のこと。『Fate/stay night』に登場するキャラクター。「常に優雅たれ」の家訓で知られる。


松田:教えは覚えていたんですが、常に焦っていましたね。

田口:何かにつけて松田が焦り、パニックにもなり、それを見た澤川が一緒になって焦っていましたね。

澤川:開発中にデザインが二転三転したので「これは間に合わないな」と感じていました。それでも「デザインなどの中身については出しゃばらない」と最初から決めていたので、松田から何か質問されたときには答えていましたが、明確な指示や、作業を手伝うなどの手出しはせず、あくまでアートディレクションについてのアドバイスのみに徹していました。デザインに関しては本人のセンスを尊重していましたし、作業が間に合わないのであれば、リソースを見直す必要があると考えていました。デザインの監修に加え、「実現可能なクオリティの担保」と「デザイン工数の確保」を両立させることも、アートディレクターの重要な役割です。ゲームマーケット出展という絶対にずらせない締切(※)がある中で、どうすればその役割を果たすことができるのか、折に触れてアドバイスしていました。

※2019年11月に東京ビッグサイトで開催された「ゲームマーケット2019秋」にて、『シブヤ ストラグル』の先行販売と体験会を実施することは開発当初から決まっており、そこから逆算して入稿の締切が設定されていた。


▲5月後半に松田氏が描いたデザイン案のひとつ。イチゴをモチーフにしたポップなジュエリーが描かれており、発売された『シブヤ ストラグル』の「覇権争奪ギャングバトルゲーム」というコンセプトからは、大きくかけ離れている


田口:松田には毎週の進捗や胸の内を「週報」というかたちで提出してもらっており、澤川はそれに対するアドバイスやコメントをすごく丁寧に書いていました。

澤川:失敗したら失敗したなりに学ぶことがいっぱいあるので、私も田口と同様、最悪、開発中止になってもいいと思っていました。ただ、松田が「つらい」とこぼしたときには、話を聞き、これまでの自分のトラブル経験を伝え「私も経験あるよ」「落ち込むことないよ」とフォローしていました。


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