1900年の創業、東京タワーや東京スカイツリーなど、日本を代表するランドマークを数多く手がけてきた日建設計のビジュアライゼーション専門家集団「CGスタジオ」の事例を紹介しよう。その多彩な表現技法は、さらなる広がりをみせている。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 258(2020年2月号)からの転載となります。
TEXT_石井勇夫(ねぎぞうデザイン)
EDIT_沼倉有人 / Numakura Arihito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
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フルCGから実写まで、あらゆる技法を駆使する ~日建設計 CGスタジオ
左から、内田信隆氏、松枝大貴氏、渡邊和明氏、西川史朗氏、浅井千恵氏、二階智子氏、古山篤志氏、吉田 哲氏、山賀孝裕氏、北嶋嘉子氏、小松篤人氏、濵野智明氏、田中雅広氏、長橋孝一氏、澤良木公一氏、山村陽子氏、中川一晃氏、山崎正登氏、青山晴香氏、太田琢也氏、小林周平氏、和田浩平太氏、中尾寿利氏、宮川健太氏。以上、日建設計 CGスタジオ
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<1>一般向けPVから専門的な解説動画まで「COOL TREE」(太田琢也)
細部のデザインや質感までこだわりぬいた意欲作
「COOL TREE」は、公園等の屋外向け休憩スペースとして開発されたクールスポット。日建設計が、銘建工業、光栄、村田製作所といった他分野の専門家と知見を結集して共同開発したものであり、千葉県・柏の葉スマートシティの広場などに設置された実績をもつ。
CGスタジオは、COOL TREEのプロモーション動画、プロジェクト説明用動画、パネルなどのコンテンツを制作。最初に着手したというプロモーション動画の制作では、意匠、構造、設備の各担当者からアピールポイントをヒアリングし、それぞれから出てきたキーワードを結んでいくようにストーリーを詰めていったという。また、幅広い人に関心をもってもらうしかけとして、1分という短尺にまとめ、最初は象徴となるアップショットをつなぎ、徐々に全体像を見せていくという構成に仕上げている。そして、完成したプロモーション動画をベースに、設備の説明、構造の説明、実物大モックアップの組立・解体動画、ミストの流体解析といった、専門的なパートを追加することでプロジェクト説明用動画を完成させたという。
CGスタジオでは通常は意匠設計者と仕事をする機会が多いそうだが、本プロジェクトでは構造や設備の要素が強いこともあり、それらの設計者たちとも綿密にコミュニケーションをとりながらプロジェクトを進めたという。実際に意匠(間伐材の素材感や美しい印影等)、構造(組立・解体が容易な積層構造等)、設備(ミスト、アルミ板の座面、シリンダーの存在感等)という、それぞれのこだわりを3DCG表現に反映。安定した六角形の端正なフォルム、75mm角のヒノキ材を積み上げた単純かつ連続性のある構成、コンパクトにまとめられた設備機器類などをいかに美しく、わかりやすく、高いリアリティで伝えられるかを考えながら、普段なら作業の効率化のために省略する部分までつくり込むなど、細部までこだわって制作された。
意匠・構造・設備のアピールポイントを反映
完成したプロモーション動画より。アップショットからはじめ、徐々に全体を描きながら観る者の期待感、関心を高める構成となっている
『Visualize+』展示スライドより。意匠・構造・設備それぞれのアピールポイントをヒアリングし、PVに込めることがミッションとなった
商業施設に設置されたCOOL TREEの実物。本PVが実物を忠実に再現したCGアニメーションであることが伝わってくる
角材は間伐材を使用するため木のフシを表現する必要があったため、Vrayブレンドマテリアルを使いヒノキのベースマップとフシのマップを掛け合わせることで間伐材の存在感と自然さを意識
ウェルカムミストはパーティクルを用いて形をシミュレートしてミストマップを与えて表現
シリンダー内にも水滴やくもりを表現するために裏側にマップを貼っている
ベンチ座面はアルミ材のため、アルミらしさ、塊感を意識して反射に少しムラを出しつつ、質量を感じられるように調整された
<2>書物の量産化にRailCloneを活用「Varna Library-international Architecture Competition」(濵野智明)
本のモデル制作に丸二日を費やす
ブルガリアの首都ヴァルナにある図書館の国際コンペ向け制作物より。通常はカメラの画角は90度が限度だが、本に囲まれた感じを演出するために120度と超広角にして、構図内に消失点が2つ存在するトリッキーなアングルが採用された。「毎回、必ず新たな表現技法を採り入れるようにしています」と、本作を手がけた濵野氏。レンダリングイメージに対して、やや大げさにフォグをかけ、画像全体のコントラストを調整することで空間の奥行や立体感を認識しやすくしている。そして欧州を意識して、フォトリアルかつナチュラルな風合いに仕上げられた。
RailCloneで作成した書籍モデル
雑誌や一般書籍という3種類を用意。全集などのシリーズものにも対応できるように設定された
RailCloneノードの例。形状が異なる本のポリゴンデータを数個用意し、大きさと並び方をランダム化、そこへさらにランダムにテクスチャを与えている「使用したテクスチャは400枚以上。ID数150~200のマルチサブマテリアルをいくつか作成し、テクスチャ整理に全力を注ぎました」(濵野氏)
<3>既成概念を打破する「corridor(autumn)」(青山晴香)
習作を通じて創作力を高める
建築ビジュアライゼーションの世界で有名なCGarchitect.comが毎年開催している「Architectural 3D Awards」向けに制作された青山晴香氏の習作である。日頃の業務でも添景配置などのストーリー性を大事にしているという青山氏。少し肌寒い季節で全体のトーンはベージュやブラウンなど温かみのある、ナチュラルテイストのインテリアCGというイメージの下、制作を進めていたそうだが、偶然の操作ミスに端を発し、建築パースのイメージを大きく覆す大胆な構図のユニークな作品が完成した。
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初期の3ds Maxシーンファイル。整然としたシーンであることがわかる
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制作した青山氏いわく「何かひとつスパイスが加わると良いなあ」と考えながら作業をしていたところ、誤って3ds Max上のカメラを回転させてしまい、図のようにアングルが大きく傾いたという。このアングルを気に入った青山氏は、整然としたシーンから、猫がイタズラした瞬間を切り取った躍動的なシーンへと路線変更。「猫と花瓶の関係や、猫の表情、飼い主である奥の女性が何と言っているのかなど、観てくれた方が自由に想像を膨らませてほしいと思っています」