SIGGRAPH 2010会期中の7月27日。SPI(ソニー・ピクチャーズ・イメージワークス)とILMがオープンソースによる新たなCGシーンのファイル共有フォーマット「Alembic」に関する共同発表を行なった。

異なるCGソフト間で作成したシーンファイルを完全互換

世界最大のコンピュータ・グラフィックスに関する学会かつ展示会であるSIGGRAPH 2010が、7月25日〜7月29日の全5日間にわたりロサンゼルス・コンベンション・ゼンターで開催された。そして開催中には、ソフトウェアベンダーや大手エフェクトハウスから様々な発表が行われるのが通例。今年話題を集めたのが、SPI(ソニー・ピクチャーズ・イメージワークス)ILM(インダストリアル・ライト・アンド・マジック)が27日に行なった、シーンファイル共有フォーマット「Alembic」に関する共同記者発表であった。

ハリウッド大作におけるVFX制作では、1本の映画に多数のエフェクトハウスが参加することは日常茶飯事であり、その度に異なるソフトやパイプラインを使用しているスタジオ間でのファイルやアセットのやり取りが、技術的な課題として長年指摘されてきた。これらはVES(Visual Effects Society、全米視覚効果協会)主催のVFXセミナーやパネル・ディスカッション等でもしばしば話題に上り、VFXスーパーバイザーたちからは業界標準のファイルフォーマットを求める声が出ていた。

今回発表された「Alembic(アレンビック、蒸留器という意味)」は、こうしたニーズに応える形で、SPIとILMが共同開発したシーンファイル共有フォーマットである。簡単に説明すると、異なる3Dアプリケーション間でシーンファイルをやり取りするための、互換性のある新しいファイルの規格ということになるだろう。そんなAlembicの最大の特徴はオープンソースであること。ソースコードを公開しているため、市販のパッケージソフトのみならず、自社開発ソフトをメイン・ツールとして採用しているスタジオでも、容易に既存のパイプラインにAlembicを組み込むことができるのだ。

これまで、外部とのファイルのやり取りに関して同じ悩みを抱えていた両社(しかも世界をリードするVFXスタジオ同士だ)が手を組んだことによって、複雑で膨大なデータを扱う大手スタジオならではの打開策が実を結んだ形となる。特筆すべきは、このAlembicを使えばシーンファイルに含まれるアニメーション情報を外部ファイルとして出力することができ、これらの外部ファイルは他のアプリケーションと共有することも可能なことだ。Alembicのコードは、米Google Codeのサイトからダウンロードできる。(詳細はhttp://www.alembic.ioを参照)。

今回の共同発表の席において、ルーカス・フィルムのCTO(最高技術責任者)リチャード・ケリス/Richard Kerris氏は「ハイエンド・プロダクションでの技術的な問題点を熟知しているSPIのチームと共同開発を進めることができたことによって、業界全体のワークフローにインパクトを与えるファイルフォーマットを誕生させることがきでた」と自信をみせた。その他、同日夜に開催されたSide Effects Softwareが開催したHoudini 11リリース記念イベントでも、このAlembicを紹介。この中でサイド・エフェクツのCEOキム・ダビッドソン/Kim Davidson氏は、Alembicを積極的にサポートしていく考えを示していた。

近年、オープンソースによる技術開発が大きなトレンドになっているが、これまでにVFX業界標準フォーマットを前提に公開されたオープン・ソースのフォーマットには、ILMが開発しハリウッドで定着した画像フォーマットOpenEXRや、SPIが開発したOpen Shading Language(OSL)が有名だ。特にSPIはオープンソースによる開発に熱心で、その他にもMaya ReticleField3DOpenColorIO、そしてScala Migrationsを開発しており、今回発表されたAlembicにも大いに期待したいところだ。