近年、ヴァーチャル・アイドルの存在がまた盛り上がりを見せている。そうした中で新たなアイドルが誕生。それが、ここに紹介する "meaw(メーウ)" である。8月24日に待望のニューシングル『pair*』が発売されるが、特筆すべきは同梱されるDVDには、あのスタジオカラー デジタル部が制作したミュージックビデオ『pair* Factory MIX』が収録されているのだ。CGWORLD.jp では今回から全2回にわたり、本作のメイキングをお届けする。
企画から制作までの全工程を、スタジオカラー デジタル部で内製
スタジオカラー デジタル部(以下、KDB)と言えば、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』 シリーズ のメカや背景描写が象徴するように、精細な作り込みとある種のフェティシズムすら感じてしまう構造物の造形を得意とする印象が強い。しかし、本作では KDB にとって初の試みとなる 3DCG によるキャラクターアニメーションというジャンルに挑戦した。
「KDB らしさを作品に付加し、最高の素材を惜しげなくコンポジットしていく。個人でも CG アニメーションの制作が可能な時代にプロがチームを組んで取り掛かる以上、観る人を圧倒する映像を作りたい。素晴らしい先駆者、ライバル達にも後出しで負けるわけにはいきません」。
そう、瓶子修一氏(KDB 部長)が語る通り、これまでのプロジェクトで培ったノウハウと新たな考察とが絶妙に絡み合っており、KDB 初のキャラクターアニメーション作品とは思えない。
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© King Record. Co., Ltd.『pair* Factory MIX』PV より。公式サイト にて、プロモーション用の短尺バージョンが視聴可能
上に載せた『pair* Factory MIX』PV(以下、『pair*』PV)からの抜粋カットをご覧の通り、そのクオリティの高さが窺い知れるが、本作には原案イラストを漫画家/イラストレーターとして有名な コザキユースケ 氏、ダンスの振付に人気急上昇中のアイドルグループ、桃色クローバーの振付も担当する YUMI 氏という強力なパートナーの存在も作品の魅力であろう。
同時に映像制作においては社内のみで完結し、若手を中心として制作する事も目標のひとつとしたと言う。CG ディレクションを務めた鈴木貴志氏をはじめとする4人の若手が各ポジションでリーダーとなり、約3ヶ月(2011年3月から6月)の制作期間で、トータル72カット(約3分)という作品作り上げた。コンテ演出(KDB の小林浩康氏が演出を務めた)から、モデリング、アニマティクス用モーションキャプチャ、アニメーション、背景美術、コンポジットさらにはパッケージデザインなど一連のアートディレクションまで全て KDB のみの制作という、非常に実験的かつ挑戦的なプロジェクトとなった。
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© King Record. Co., Ltd.
メーウは、ピンク色の髪がトレードマークの「メー」と、水色の髪の「ウー」の2人組のユニットである。今回は、デビュー当時に描かれたこのイラストをベースに、キャラクターを 3DCG 化させるところからスタートしたという
作画アニメにおける特効表現を 3DCG で再現〜ルック・デベロップメント〜
キャラクターのモデリングは、女の子の姉妹ということで、参加スタッフ(特に男性)それぞれの思い入れが強く、モデルの完成までには何度も試行錯誤が繰り返されたという。「キャラクターの3面図や表情集等の設定資料は特に用意されていなかったので、昨年11月のメーウデビュー時に描かれた1枚のポスターグラフィック(前頁参照)をガイドに、そのイラストが持つ魅力を CG キャラクターモデルに反映させることを心がけました」(鈴木貴志 CG ディレクター)。
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image courtesy of khara, inc.
メーのモデル(全身)。自然なキャラクターの絵を作り出すためにプロポーションには細心の注意を払われており、特に手足が無機質な棒に見えないようシルエットのアウトラインに気遣ったそうだ
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image courtesy of khara, inc.
ウーのモデル(バスト)。作り易さや動かし易さを重視して分割数を必要最小限に抑えながらも、Pencil+ 3 によるライン描画が最適になるようポリゴンメッシュの配置やスムージンググループ分けは厳密に行われている
続くルック開発の工程では、今年4月から KDB に参加した新メンバー、松井祐亮氏がリードする形で新たなシェーディングの手法が構築された。メーウのシェーディングは、既存のセルシェーダではなく、Adobe After Effects(以下、AE )上で細かく調整できるように、基本色や影の色、影の範囲、グラデーションの濃度と範囲など多くのエレメントが出力されてる。
「キャラクターのルックに関しては、通常のセルシェーディングよりも、本作ならではのCGの機能を生かし、女の子キャラクターの魅力をグラデーションや様々な素材で負荷する「イラスト調シェーディング」を採用しました。特に陰影などは重要な要素で、肌等の「やわらかい部分」とアクセサリー等の「固い部分」などでは影のタイプを変えてます。また、肘や膝の赤みや、髪や足もとなどにもプラスすることによって、華やかさを演出しました。影素材やハイライト、ラインなどを個別に出力しているので、最終的なルックをコンポジット(AE CS5 を使用)で細かくコントロールすることが可能なため、影の付き方や色味などに変更する場合でも、Autodesk 3ds Max(以下、3ds Max )側に戻って素材を再レンダリングするといった手間がなく、表現に時間を割くことができました」(松井氏)。もちろん、エレメントが増えれば AE 上での調整の手間なども増えコンポジットに負荷が掛かってしまうが、KDB ではそれらの手間を軽減するためのスクリプトなども社内で作成しているとのこと。
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image courtesy of khara, inc.
髪の毛の色グラデーション調整用モデル(ベースモデルに対して、調整したい箇所ごとにパーツ分けした素材を貼り付けライトなしでレンダリングしたもの)。シェーディングに関しては、イラストで描かれたルックを再現するために各所にグラデーションが入れてある。基本色や影の色、影の範囲、グラデーションの濃度と範囲などを AE 上で細かく調整できるように多くの素材が出力された
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image courtesy of khara, inc.
髪の毛のグラデーション調整例。レンダーパスが細分化されるためコンポジット時に相応の負荷が掛かるが、色味の修正などが発生した際にも 3ds Max 側に戻ることなく素早い対応が可能である
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AE上の調整パラメータ UI 。2D イラストのグラデーションを再現するための本手法は、髪の毛以外にもスカートの落ち影(後述)や尻尾のルック調整にも利用された
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image courtesy of khara, inc.
脚へのスカート落ち影の調整用モデル。トゥーンシェーディングを使用していても、リアルな落ち影を入れてしまうと意図しない陰影が多くなり、手描きアニメ特有の持ち味が損なわれてしまう場合がある。さらにライトの影響で落ち影が伸び縮みすることを避けるため、各パーツにオリジナルで作成した素材を貼り付けたり、複数の素材を混ぜ合わせるといった工夫が施された
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image courtesy of khara, inc.
脚に落ちるスカート影の調整例。髪の毛のグラデと同じ要領で設定されているが、それだけだと影の形が不自然になるため、さらに別のグラデーション素材を組み合わせているという
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image courtesy of khara, inc.
頭部(髪の毛)のハイライトも可愛さ増すためには必須のアイテム。だからと言って単純にテクスチャを貼り付けるだけでは、「貼り付けた感(フラットな印象)」が露骨に出てしまうため、キャラの動きに合わせてハイライトにも表情が出るよう、ここでも複数のグラデーション素材が組み合わされている。AE 上でリアルタイムに調整できるので重宝したそうだ
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image courtesy of khara, inc.
キャラクターの陰影を調整するためのモデル。デフォルトのモデルにライティングを施したもので、基本ライトは顔用と全身の2種類。セルタッチの場合、影が多く入ると意図しない陰影がついてしまいがちのため、特に顔用のライトはなるべく影を落とさないよう強めにライティングされた。全身用のライトについても、カットに応じて各パーツ(顔、腕、体、小物など)ごとに分けてライティングを行なったりもしているとのこと
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陰影の調整例。シャドウを素材として個別に出力しておくことで、AEのレベル補正などで影の色味や面積率を調整することが可能だ。さらに2号影スイッチを独自に開発し、ボタン1つで、作画特有の2号影(ベースの影よりも暗い影)を入れることも可能になった
実用性に重きを置いた セットアップ
本プロジェクトでは、CG 制作のメインツールとして Autodesk 3ds Max 2011 Entertainment Creation Suite が採用された。
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image courtesy of khara, inc.
メーのセットアップ。ボーンは MotionBuilder 用の基本構造をベースとしているが、手足のひねりをスムーズにするために追加の Roll ボーンを配置されている。また、ハイポリゴンのモデルに直接スキンモディファイヤを適用するのではなく、ローポリゴンのスキンラップオブジェクトを介することで、ウェイト調整の省力化や変形具合の改善も図られた
キャラクターの基本的なセットアップは MotionBuilder の構造をベースに作成。モーキャプデータは飽くまでもリファレンス(アニマティクスでの利用)に止め、アニメならではの動きへと昇華させるべく最終的には全て手付けでブラッシュアップされたが、一連の手付けによるアニメーション作成も MotionBuilder を用いたことで、モデルの差し替えが発生した場合も手軽に対応できたという。「ビューポートの再生がリアルタイムで表示できるのでモーションの確認や調整が正確に行えますし、タイムワープを使いスローにしたり、ステップをフルモーションから2コマ打ちや3コマ打ちへと、即座に変更可能です。モーションの切り貼りや再生タイミングの調整なども簡単な操作で行えるのが MotionBuilder の強みではないでしょうか」と鈴木氏。
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メーのセットアップ(上半身)。肘や膝を曲げた際のフォルムを整えるため、スキンラップオブジェクトにスキンモーフを仕込んである。さらに、肩や手足には捻じれによるメッシュの痩せを軽減するために、イタリアのゲームデベロッパ Raylight S.r.l. 社が開発したXRayBlendSkin プラグインが新たに導入された
スカートなど、ユレもの
基本のセットアップ以外にも、スカートにはボーンとクロスの両方が設定されており、アニメーターが自由に選択できるようになっている。さらに尻尾などの揺れを表現するために Spring Magic というフリーで配布されている3ds Max 用スクリプトが利用された。このスクリプトは親の動きを拾って、ワンテンポ遅れたセカンドアニメーションを自動生成するが、重力やオブジェクトの接触などは判定できないため、細かな動きはモーションレイヤーを追加するなどして調整を行なったそうだ。
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image courtesy of khara, inc.
キャラクターの尻尾や髪の毛などの動きは「Spring Magic」をベースにしつつ、手付けて細かな調整が施された
フェイシャルの設定
フェイシャルについても参考となる設定資料がなかったため、キャラクターモデリングと並行して必要な表情が逐次作成されていった。豊かな表情付けが行えるよう、かなりの数のターゲットが作成されている。
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キャラクターの表情はモーフによって付けられている
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モーフ パターン集。豊かな表情を出すために用意されたモーフターゲットの数は優に 50 を超える。それらを制御する上では、3ds Max 用プラグイン Morph Sliders が利用された
モーションキャプチャを用いた アニマティクス
本作では KDB の新たな試みとして、モーションキャプチャを用いたアニマティクスの作成も行われた。ヴァーチャル・アイドルのミュージックビデオということで、アイドルの振り付けを多く手掛けている人気コリオグラファー(振り付け師)に本作向けの振り付けを新たに作ってもらったという。
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image courtesy of khara, inc.
モーションキャプチャ収録時の様子。ダンススタジオを貸し切り、コリオグラファーにその場で振り付けを考えて貰いながら収録が行われた
「全編ダンスシーンで構成されているため、モーションキャプチャを利用することにしました。ですが、あくまでもリファレンス用途なのと、本プロジェクトでは"新たなことへの挑戦"というテーマもあったので敢えて本格的な MOCAP システムではなく、今年発売された Desktop MOCAP iPi を採用しました」(鈴木氏)。アニマティクス制作の流れは、まずキャプチャしたデータを CG モデルに流し込み、どのアングルからキャラクターを捉えれば効果的かを考えながらカメラを配置し。それらを繋げた映像を絵コンテ代わりのアニマティクスとしてスタッフ間で共有したという。先述の通りキャプチャデータはアニマティクスやレイアウトの作成、アニメーションのガイドとして利用されたが、KDB の持ち味である作画のダイナミズムが溢れる CG アニメーションに仕上げるべく、最終的には全ての動きが手付けベースで作り替えられた。
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image courtesy of khara, inc.
USB カメラの映像(上段)とキャプチャデータ(下段)の比較。iPi システムでは、USBカメラから得た2次元の画像情報を元に3次元のキャプチャデータが生成される
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image courtesy of khara, inc.
キャプチャデータの編集加工を行う「iPi Studio」のUI。本システムは市販の USB カメラ3台(またはKinectセンサ1台)からキャプチャ可能、さらにアクターは普段着もままでOKかつ収録スペースも屋内外どこでも可能という非常にコストパフォーマンスの高い製品だ。もちろん、手軽な分だけ相応のデータ精度に止まるので、商業制作の場合は本プロジェクトのような使い方が有効だろう
いかがだっただろうか? 後編では、背景美術制作とキャラクター・アニメーション以降の工程について解説していく予定だ。
TEXT_村上 浩( 夢幻PICTURES )
PHOTO_弘田 充
KDB メインスタッフ
左から時計回りで、鈴木貴志氏(CG ディレクター)、宮城 健氏(3D 背景美術)、松井祐亮氏(シェーディング チーフ)、福澤 瞳氏(コンポジット ディレクター)以上、スタジオカラー デジタル部
最新 CD+DVD『pair*』
ジャケットのデザインも KDB が手掛けている。同梱 DVD には『pair* Factory MIX』PV に加え、メイキング Ver.も収録されているので必見だ。
発売日:2011年8月24日
価格:1,800円
品番:KICM-3235
公式サイト「Star Child:メーウ」
※諸般の事情により、『pair*』の発売日は当初予定していた8月10日から8月24日に延期となりました。予めご了承ください
希望者には メーウ限定プロモグッズもプレゼント!
「Suite で GO!」キャンペーン実施中!
現在(株)Too にて Autodesk Suite 製品の期間限定キャンペーンとして、定価から20%OFFのキャンペーンを実施中である(対象は、新規ライセンスの購入と単品製品からのアップグレード)。特に単品製品からのアップグレードは大きく値引きされているので、この機会に検討してみてはどうだろう。
キャンペーン期間 :2011年9月30日(金)まで(※メーウ限定プロモグッズは、無くなり次第終了となります)
Too「3DCG 製品キャンペーン情報」ページ
Autodesk 3ds Max Entertainment Creation Suite Premium 2012
定価:997,500円(スタンドアロンライセンス)
対応OS:Windows 7/同Vista Business(SP2)/同 XP x64 Edition(SP2)/同 XP Professional(SP3)他 ※動作環境に関する詳細は こちら
問い合わせ先:Too デジタルメディアシステム部
TEL:03-5752-2855
e-mail:dms@too.co.jp
Too デジタルメディアシステム部