福岡市では現在、『福岡クリエイティブキャンプ2015』(以降、FCC)という、U/Iターン転職者の支援プロジェクトを推進している。主に首都圏のクリエイティブ分野(CG・映像・ゲーム・ITなどの分野)で活躍している開発経験者が対象で、福岡市内の企業に転職・移住した人には、クリエイティブキャンプ応援金(一定の要件を満たすことが必要)や、各種サポートが提供される。

「リスクをとってでもチャレンジする人は素晴らしい。そんな人たちを、福岡市は"本気で"応援します」と語る福岡市長 髙島 宗一郎氏に、FCCにかける思いや、福岡市の展望を語っていただいた。

福岡市にはクリエイティブな発想に最適な環境がある

福岡市は全国に20ある政令指定都市の中で、唯一、一級河川がなく、製造業など大規模な工場の建設には不向きな場所であることから、約153万人にのぼる市民の約9割がサービス業など第三次産業に従事している。髙島氏は市の戦略をこう語る。「国際競争力を高めていくためには、より付加価値の高い産業へと軸足を移していかなければなりません。そこで福岡市では、これからの成長をけん引するクリエイティブ、コンテンツといった知識創造型産業の振興、集積を中期的な成長戦略として推進しています。長期的な戦略としては、支店経済都市からの脱却を目指しており、2014年3月に獲得したグローバル創業・雇用創出特区などを活用し、ここ福岡を拠点にして世界で活躍する企業の活性化を目指しています。さらに、新しい価値を生み続ける街づくりにも取り組んでいます。」

市内企業の努力に加え、市の施策の効果もあり、ゲーム・映像・音楽・ファッション・デザインといったクリエイティブ関連産業の福岡市への集積は着実に進展しつつある。例えば、ゲーム分野では、『妖怪ウォッチ』のレベルファイブや、『.hack』『ナルティメットストーム』のサイバーコネクトツー。映像分野では、東京オリンピックの招致PR映像を制作したKOO-KIや、海外でも公開され好評を博した映画『放課後ミッドナイターズ』を制作したモンブラン・ピクチャーズ。さらに、インテルの次世代UI開発コンテストで世界一に輝いた しくみデザインなど、数多くの世界に通用する企業が福岡の地で誕生している。

こうしたクリエイティブ関連企業の集積には福岡市の暮らしやすい環境が大きく影響していると髙島氏は語る。「豊かな自然と充実した都市機能がコンパクトに集約された福岡市は、田舎的な生活もできるし、都会的な楽しみ方もできる街です。職場と住むところが近いから通勤も楽ですし、リフレッシュしたい時には数十分も移動すれば海や山に行けるというストレスフリーな環境があります。食べ物が安くておいしいのも魅力です。つまり福岡市にはクリエイティブな発想、イノベーションに最適な環境があるのです」。

前述のグローバル創業・雇用創出特区の獲得以降、福岡市では"リスクをとってでも,チャレンジする人は素晴らしい"というムードが生まれつつあるという。

  • 「新しい価値を生み出すことにチャレンジするには、それが応援される社会であることが大切です。今の福岡市の主役は、大企業ではなく、新たな価値をつくり出すスタートアップやベンチャー企業の皆さんです。行政が旗振り役となり、主役であるクリエイターを応援する雰囲気をつくり出しているので、福岡市に来れば"自分たちが主役なんだ"という気持ちを胸に、前向きなチャレンジができるはずです。加えて、首都圏で培ったキャリアを活かしつつ、クオリティ・オブ・ライフも満喫できます」。

福岡市であれば、今までできなかった大胆なチャレンジができる......。髙島氏の熱い語り口から、そんな期待が高まってくる。

福岡市は"刺激"となってくれるよそ者を待望している

住みやすい環境に加え、福岡市には優秀な若い人材が輩出される土壌もある。クリエイティブ系・IT系・理工系の大学や専門学校といった教育機関の集積によって、市内には約7万2千人の学生が在学し、人口千人当たりの学生数は全国政令指定都市の中で2位となっている。その一方で、これら若い世代を導く"経験者"の不足が目下の悩みだという。福岡市への進出を検討しているクリエイティブ企業からは、拠点の中核となる経験者の獲得が課題だとの声が寄せられている。

この要望に応える目的で起ち上げられたプロジェクトがFCCというわけだ。「東京には優秀な人材がたくさんいますし、その中で切磋琢磨し、バリバリと仕事をして自分を成長させていくことも素敵な人生だと思います。しかし、東京である必要があるのかと迷っているクリエイターの方たちもいらっしゃると思います。そういう皆さんは、ぜひ、福岡に来ていただきたいです。福岡に来れば、間違いなく重宝される人材になれます」。とはいえ、福岡市のレベルが低いというわけではない。都市の規模と人口密度のバランスが良い福岡市は、人と人の距離が近いため、お互いの顔を見ながら仕事ができるのだと髙島氏は続ける。「どんな個性があり、何を得意としている人なのか、一人ひとりのプレイヤーの顔を把握できる環境だからこそ、個々人がきらりと輝く個性を発揮できるのです」。

FCCを通して県外から福岡市に移住し、FCC登録の市内クリエイティブ企業で2ヶ月以上就業すれば、クリエイティブキャンプ応援金40万円が支給される。加えて、様々な転職・移住サポートの無料提供、移住後のコミュニティ形成支援などの手厚いサポートも受けられる。

  • 「物事を変えていくのは、"よそ者、若者、馬鹿者"だと言われています(笑)。今の福岡市には、よそ者が必要なのです。外からやってきた人に触れることで、地元の人や企業も成長できます」。

福岡市は"刺激"となってくれるよそ者を待望しており、よそ者と地元をつなげる"触媒"の役割をしっかりと果たしていきたい。福岡市で起きている"化学反応"を、どんどん加速させていきたいと髙島氏は語った。

東京のようなメガシティではなく、人と環境と都市活力の調和がとれたアジアのリーダー都市を目指すという福岡市は、「都市活力」を高めるべく経済施策に注力し、全国でも元気な都市として注目されている。実際、市長である髙島氏自身、とても元気に満ちあふれた人柄が印象的だった。新たな環境に身を置き、心機一転して、これまで培ってきた自分の力を活かしてみたい。あるいは、若い世代の成長や、地域社会の振興に貢献したい。そういった願いを内に秘めている人は、ぜひ、FCCという絶好の機会を活用してほしい。

EDIT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田充