「まんが映画」という言葉が使われなくなって久しいが、コミック原作を映像化する手法はこれまでアニメの独擅場だった。しかし近年の日本映画を俯瞰すると、不思議なぐらいコミックの実写版が増えていることに気づく。それはプロデュース的な要因も大きそうだが、とりわけ今世紀に入ってデジタルムービー、CG技術の発達がこれを加速させたことはまちがいないだろう。

そんな状況の中、佐藤信介監督が大ヒット映画『DEATH NOTE』(デスノート)シリーズから10年後を舞台に、まったく新しい続編をつくり上げたという。『GANTZ』や『アイアムアヒーロー』などコミック原作を数多く手掛けてきた佐藤監督が、いま映画づくりをどう考えているのか。最新作『DEATH NOTE Light up the NEW world』(以下、デスノートLNW)について話を聞いた。

INTERVIEW_桑島龍一(さかさうま工房) / Ryuichi Kuwajima (Sakasauma Inc.
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota



映画『デスノート Light up the NEW world』本予告

<1>人気作の続編として、誰も知らない映画を創造する

ーー本作はどのような経緯でスタートしたのでしょうか。

佐藤信介監督(以下、佐藤):『GANTZ』(2011)プロジェクトが終わった後、何かオリジナルでやりませんかと佐藤貴博プロデューサーから提案があり、次の企画をいろいろ考えたんですよ。そのときに、数年後に『DEATH NOTE』が公開10周年を迎えるという話が出て、(佐藤)貴博プロデューサーが「それで、もう1回やってみようか」と、それからですね。ただ、アイデアとしてはそこまでで、原作はない。だから、それをゼロからつくるという壮大な始まりだったわけです。

  • 野心作『デスノート Light up the NEW world』はいかに再誕したのか。コミック原作の実写映画化で考え続けたこと。(監督:佐藤信介)
  • 佐藤信介/Shinsuke Sato
    1970年、広島県出身。映画監督、脚本家。武蔵野美術大学在学中に制作した短編がぴあフィルムフェスティバル94でグランプリを受賞。その後、インディーズでは知られた存在となり、2001年に『LOVE SONG』(2001)で監督デビュー。同年、釈由美子主演のアクション映画『修羅雪姫』で話題となる。主な監督作品に『ホッタラケの島 〜遥と魔法の鏡〜』(2009)、『GANTZ』(2011)、『GANTZ PERFECT ANSWER』(2011)、『図書館戦争』(2013)、『図書館戦争 -THE LAST MISSION-』(2015)、『アイアムアヒーロー』(2016)がある。次回作もコミック原作の実写映画化で『BLEACH』が2018年公開予定。

    anglepic.com


ーー夢のような話ですが、迷いはありませんでしたか?

佐藤:『GANTZ』で貴博さんをはじめ、プロデューサーのみなさんや現在のスタッフの大半と出会っているんですが、彼らがそもそも『デスノート』の座組で、継承している人たちなんですね。そこに僕らのスタッフが合流して、以後このチームでいろいろやってきたわけですが、『デスノート』は発端から参加している人ばかりなので、この企画にはひとかたならぬ想いがあったりする。だから、僕の方がどちらかというとそこに乗せてもらった感じです。

野心作『デスノート Light up the NEW world』はいかに再誕したのか。コミック原作の実写映画化で考え続けたこと。(監督:佐藤信介)

ーー今回、原作サイドの関与はどれぐらいあったんでしょう。

佐藤:アイデアをいただいたり、こちらから書いたものにご意見をいただいたり、そういうことはありました。しかし、原作のどこかを描くのではなく、前作の映画の10年後という設定でつくっているので、ほとんどオリジナルストーリーになりました。

ーー先行する2部作や原作コミックをかなり研究した感じですか?

佐藤:金子(修介)監督の『デスノート』2部作(※1)は、当時観客として観てますが、傑作ですよね。代表作のひとつと言っていいと思います。ただ、新しい『デスノート』をつくろうという方針が最初の時点でありましたから、僕らは金子監督のスタイルを物真似するのではなく、自分たちのスタイルでつくろうと。特に映像的にはまるでちがったものに見えた方が良いと思いました。一方で物語の方は、死神という突拍子もない存在がいて、でも人間の方がもっと突拍子もないというお話じゃないですか。ノートに名前を書いたら人が死ぬというシンプルなルールがあって、それを使おうとする人間たちが数多のルールに翻弄されて、私利私欲に溺れたり、それに抗おうとする。そういう骨格というか『デスノート』らしさみたいなものを、常に意識しながらやってました。

※1:2006年に公開された、『DEATH NOTE』と『DEATH NOTE the Last name』のこと。2作合計で興収80億以上のヒットを収めた。
『DEATH NOTE』公式サイト


野心作『デスノート Light up the NEW world』はいかに再誕したのか。コミック原作の実写映画化で考え続けたこと。(監督:佐藤信介)

ーー脚本の開発はかなり大変だったと思います。

佐藤:1年以上はやってました。前作との整合性もあるし、ルールが本当にたくさんあるので、こういう物語にしたいと言っても何度もルールで阻まれることがありました。でもそれを放り出さずに済んだのは、『デスノート』ファンでもある脚本の真野(勝成)さんが徹底的に原作を研究してくれたおかげです。

ーー物語の鍵となる「人間界に存在していいノートは6冊まで」というルールを発見したのは?

佐藤:それも真野さんです。あれは扉に書いてあるルールのひとつで、原作の中では使用されてないけど、それがいいんじゃないかと。冊数の限界があって、それを全部封印すればデスノート事件はもう起こらないというところに人類の活路を見出して戦うストーリーは、10年後の物語としてなかなか面白いと思ったんですよね。

野心作『デスノート Light up the NEW world』はいかに再誕したのか。コミック原作の実写映画化で考え続けたこと。(監督:佐藤信介)

『デスノートLNW』で新たに登場する死神「ベポ」。人間界に存在できるデスノートは6冊であることを三島(東出昌大)たち、デスノート対策本部の捜査官に教える

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<2>コミック原作の実写映画化という大きなうねりの中で

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<2>コミック原作の実写映画化という大きなうねりの中で

ーー本作で象徴的なのは死神リュークの存在です。リアルに描くか、戯画的に描くか、まさにコミックを実写化する上で、そこが肝なんじゃないかと感じました。

佐藤:まず目標としてわれわれのスタイルで『デスノート』をつくろうと考えたとき、死神を表現するならスーパーリアリズム的な何かだろうと。そこに本当にいる感じ。息が吹きかかってきそうな、近寄ってみたら鳥肌が立つような、そういうリアリズムを出せないだろうかと、造形物やCGを組み合わせて試行錯誤を重ねました。最終的にはCGにしましたが、映像の中のそこだけ凄すぎても困るので、人間もリュークも同じ世界に存在してみえるという部分はこだわったところです。

野心作『デスノート Light up the NEW world』はいかに再誕したのか。コミック原作の実写映画化で考え続けたこと。(監督:佐藤信介)

死神「リューク」。『デスノートLNW』に登場する死神たちは、フルCGで表現された

ーー死神のモーションも佐藤監督が演出されているのでしょうか。

佐藤:そうです。舞台裏を言うと、まず人間だけで仮撮影して、あるシーンを撮るんですよ。そのときは全員人間で演じる。撮影前にそれを撮るのは、僕の中ではCGの準備というより、あくまでもお話の流れの中でこうしたいという確認なんですけれども。

野心作『デスノート Light up the NEW world』はいかに再誕したのか。コミック原作の実写映画化で考え続けたこと。(監督:佐藤信介)

ーーそれはビデオコンテのようなものですか?

佐藤:ええ、ビデオコンテです。いつもやってるやり方なんですけど、実際の撮影ではリューク役の動きと演技をやる方がいらっしゃって、その方と、リュークの相手をする役者のお芝居を普通に撮ります。当然リュークが入るところは3DCGに置き換わるので、次はリューク役の役者なしで撮ります。その後、リファレンス(光の当たり方など、参考)になりそうなものを、撮っていく。CGを合成してからは、モデルを合わせたり、演技を合わせたり、光を合わせたり......。やっぱり光がすごく重要なので、CGカットの最後まで僕も撮影監督も、みんなでつぶさに見ながら合わせていくというのをやってました。

ーー実写班とVFX班、いわゆるA班とB班という編成ではないんですね。

佐藤:ちがいますね。完全に一緒にやってます。最初のコンセプトのところだけは自分でやりますが、そこからどう撮るのかはいろいろ分岐します。今回はやりませんでしたが、あるときは特殊造形など作り物が入ってきたり、操演とか特撮的なものも含めて実際に物を撮るかどうか、様々な可能性があるわけです。それらを特撮監督の神谷(誠)さん、あるいはCG・VFXワークを手がけるデジタル・フロンティアさん、撮影監督や美術や操演みんなで、ひとつひとつのカットをどのように撮っていくのかを細かく話し合う。現場も時間がないので、誰が何をするのか、どう準備するのかを、具体的に詰めながらやってる感じですね。

野心作『デスノート Light up the NEW world』はいかに再誕したのか。コミック原作の実写映画化で考え続けたこと。(監督:佐藤信介)

ーー最近、監督の作品に限らずコミック原作が多く、ブームと言えるのかどうかわかりませんが、そういう企画が増えているように感じます。それについてはどう思われますか?

佐藤:もちろん僕もコミックだけを映画化しようと思っているわけではないんです。企画というものは権利の問題をクリアにしながら、予算をつけて、地盤整備と言いますか、そうしたことが行われてから動き出すものですし、企画に関わるタイミングもいろいろです。だから、コミックの原作が多いというのは僕の場合たまたまで、特にそうしようと意図したわけではないんですよ。

ーー監督としては偶然であると。

佐藤:ただ、なぜそうなのかなと思うと、ひとつには僕自身が、今までなかったものを映画で表現したいということはあるかもしれません。僕自身が映画的なものを観たいし、観せて興奮したい。普通に考えると映画になるんだろうかって疑問に思えるものも、映画流に捉えて花開くことだってある。なので、よりフィクション性の高い企画をこの数年間あえて選んできた結果、コミック原作が多かったというのは事実だと思います。

野心作『デスノート Light up the NEW world』はいかに再誕したのか。コミック原作の実写映画化で考え続けたこと。(監督:佐藤信介)

死神「アーマ」。原作に登場する死神「シドウ」がベースとなっているが、男性系から女性系へと大胆なアレンジが施された。そのエレガントな演技を、ぜひ劇場で確かめてもらいたい

ーーコミック原作の実写映画化に臨む上で、どんなところを大事にしようと考えていますか?

佐藤:一番は、映画流のやり方を貫きたい。映画として面白い、映画だから楽しい、ということに尽きます。原作が素晴らしいと思うから映画化するわけですけど、この原作ならこうなるんじゃないかという観客の期待を、「あ、こんな風になるんだ!」と想像をはるかに上回って超えていく感じを目指したい。同じストーリーでありながら、原作と映画のちがいはどこにあるのか。その差分が映画そのものというか魅力だと思うので、いつも僕はそこに注力しています。

ーー最後に読者へ向けて、監督からひと言いただけますか。

佐藤:『デスノート』は映画やドラマのほか、ミュージカルもあるぐらい、いろいろ世界が広がってる原作です。そんな中で、新しくこんな映画もあるんだと。タイトルは知ってるけれど、物語を知ってる人は映画を観た人しかいないという珍しい展開をしているので、なるべく他の人のネタバレを聞かないで観てもらえるとワクワクできるんじゃないかと思います。僕らもいろんなことを仕かけているので、楽しんでいただけたらうれしいです。

野心作『デスノート Light up the NEW world』はいかに再誕したのか。コミック原作の実写映画化で考え続けたこと。(監督:佐藤信介)

作品情報

  • 野心作『デスノート Light up the NEW world』はいかに再誕したのか。コミック原作の実写映画化で考え続けたこと。(監督:佐藤信介)
  • 映画『DEATH NOTE Light up the NEW world』
    10月29日(土)丸の内ピカデリー・新宿ピカデリーほか全国でロードショー

    出演: 東出昌大、池松壮亮、菅田将暉、川栄李奈/戸田恵梨香/中村獅童、船越英一郎ほか
    原作:大場つぐみ・小畑 健(集英社ジャンプコミックス刊)
    監督:佐藤信介
    脚本:真野勝成/企画・プロデュース:佐藤貴博/撮影監督:河津太郎/GAFFER:小林 仁/特撮監督:神谷 誠/CGプロデューサー:豊嶋勇作/CGディレクター:土井 淳
    制作プロダクション:日活・ジャンゴフィルム
    配給:ワーナー・ブラザース映画

    © 大場つぐみ・小畑健/集英社 © 2016「DEATH NOTE」FILM PARTNERS

    deathnote2016.com