>   >  映画への愛と3DCGエキスパートとしての絶妙なバランス感を武器に、日本のCGアニメーションを新たなステージへ 〜映画『GANTZ:O』川村 泰監督〜
映画への愛と3DCGエキスパートとしての絶妙なバランス感を武器に、日本のCGアニメーションを新たなステージへ 〜映画『GANTZ:O』川村 泰監督〜

映画への愛と3DCGエキスパートとしての絶妙なバランス感を武器に、日本のCGアニメーションを新たなステージへ 〜映画『GANTZ:O』川村 泰監督〜

死んだはずの人間たちと謎の星人との壮絶な死闘を描いた奥浩哉原作の大人気マンガ『GANTZ』(ガンツ)。これまでTVアニメ、実写映画と映像化されてきた作品だが、ついにフルCGによる長編映画化が実現し『GANTZ:O』としてスクリーンに映し出された。これまで不可能と思われていた数々の描写がこの作品で描かれ、原作者はもちろん、すでに作品を観たファンからも絶大な支持を得ている。そんな本作をつくり上げたのは、デジタルフロンティアと、同社の川村 泰監督。彼らの長年にわたる技術の蓄積と知識が成果となって現れたかたちだ。プロジェクトの全貌からひとつひとつの表現までどのようにして生み出されたのか、川村監督にその舞台裏を聞いた。

INTERVIEW_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota



『GANTZ:O』本予告

<1>原作者に「これをつくった人に監督をしてほしい」と言わしめたパイロット版

――『GANTZ:O』のプロジェクトはいつ頃スタートしたのでしょうか?

川村 泰監督(以下、川村):2011年の夏頃でしたね。当社プロデューサーの豊嶋(勇作氏、デジタル・フロンティア専務取締役兼プロデューサー)から本プロジェクトをアサインされ、まずはパイロット版の1~2分の短編映像を制作しました。同時並行で進んでいた各種案件の合間をぬって少人数でやっていたので、僕がCGディレクターとして、実作業から演出までの大半を兼務していました。そのときに作成したキャラクターモデルは、玄野(計)、加藤(勝)、レイカ、鈴木(良一)。そして星人は、ぬらりひょんのサタンのような形態のモデルと牛鬼。あとは岡(八郎)が操る巨大ロボですね。

映画への愛と3DCGエキスパートとしての絶妙なバランス感が創り出した、新世代のCGアニメーション〜映画『GANTZ:O』川村 泰監督〜

川村 泰/Yasushi Kawamura

1974年、神奈川県生まれ。デジタル・フロンティア所属。『APPLESEED』(2004)のアニメーション・ディレクター、ゲームシネマティクスなど数多くのプロジェクトにおけるCGディレクターを経て、『GANTZ:O』(2016)で映画監督デビュー。SFを得意とする。

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――『GANTZ』の原作コミックには様々なエピソードがありますが、大阪編にすることは当初から決まっていたのでしょうか?

川村:そうです。原作で映像化されていないエピソードとしては大阪編が最適だろうと。プロデューサーともそれは一致していました。ただ大阪編だけでもボリュームが大きいので、それを今回のバジェット内でどのように収めるか不安な部分もあったので、まずはパイロットを作成してみた次第です。その後、2012年の春に奥(浩哉)先生の元にお届けすることができました。これは伝聞ですが、奥先生はパイロットを拝見されるとすぐに「これをつくった人に監督をしてほしい」とおっしゃってくれたそうです。奥先生はマンガ制作に3DCGも採り入れていらっしゃいますし、後日、映画にも精通されていることを知り、パイロット版をご覧になっただけで、いろいろとくみとってくださったんだと思います。この時点で奥先生に「面白いです」とおっしゃってもらえたことは、制作中ずっと心の支えになっていました。

――川村監督は以前から「映画を撮りたい」という思いを抱かれていたのですか?

川村:はい。常日頃から「映画をやりたい!」と、まわりに意思表示をしていました。長年の思いをようやく実現できるチャンスがきたと思い、本編の監督にも手を挙げさせていただきました。そこでコンテを描いたのですが、最初はやりたいことを詰め過ぎてしまって(苦笑)。

――3DCGアニメーションは最初のグランドデザインがコストに直結するので、どうシェイプアップするのかは重要になりますよね。

川村:そうですね。頭の半分では登場するキャラの数や工数など、現実的な問題(コスト負荷など)を考えていました。ですが一方では、大阪編の魅力やポイントはどこにあるかをしっかりとおさえてつくらなけれねばとも思っていました。最初の指針として重要視したのは、「100点の敵がいて、それを倒し生きて帰ること」というストーリー。『GANTZ』という作品全体でいえば玄野という絶対的な主人公がいますが、彼がどんな人物でどう生きてきたかを説明しようとすると、総尺の半分(前半)だけでひとつの物語を成立させなければなりません。東京編と大阪編という2本立ても考えてみたのですが、それだとバジェット的に難しく大阪編1本に絞ることになりました。脚本の黒岩(勉)さんも『GANTZ』が大好きだったので、なんとかギリギリまとめてもらいました。そうして出来上がった脚本を元に、僕なりの演出的な要望を織り込ませていきました。

映画への愛と3DCGエキスパートとしての絶妙なバランス感が創り出した、新世代のCGアニメーション〜映画『GANTZ:O』川村 泰監督〜

東京チームのリーダー、玄野 計(くろのけい)。原作漫画『GANTZ』の主人公だが、『大阪編』以前に行われた渋谷を舞台としたミッションに参加した際に死亡してしまう
© 奥浩哉/集英社・「GANTZ:O」製作委員会


――監督による要望とは、どのようなものですか?

川村:例えば脚本上でアクションシーンは「激しいバトル」といったト書きだけで済ませてあります。それに対して、「Yガンを落として拾ってから撃つ」といった具体的なアクションを付け足したり、(山咲)杏が天狗と戦うときに自転車を投げたり、クルマのドアを盾として使ったりと、アクションの中でのほかのキャラとのやりとりを入れるようにしました。治安に来た自衛隊の隊員たちが返り討ちに遭い、血がバシャとなる場面であれば露骨に見せてしまうとグロくなるし(=映倫規定に抵触する恐れが高まる)、コストもかかってしまう。それならばガラス越しに描くようにすれば、より映画的に臨場感を高められる上にコストも抑えられるはずだと。そうした演出的な意図を、ビデオコンテ(以下、Vコン)を作成しながら「こういうビジュアルにしたい」と、スタッフたちに提案していきました。CGアニメーションの場合、プリビズ(プリ・ビジュアライゼーション/Pre-Visualization)を作成するのが一般的ですが、相応にコストが増えてしまうので僕の場合は絵コンテを素材として、モーショングラフィックスの要領でVコンを自作することが多いです。ほかではあまり見られない手法かもしれませんね。

『GANTZ:O』ビデオコンテの一例。絵コンテの各コマを素材に、After Effectsでアニメーションさせているのだが、どのようにキャラクターを演技させたいのか、どのようなカメラワークを付けたいのかといった演出意図が非常に明確だ。CGディレクターとしての豊富な経験をもつ川村監督ならではの演出スタイルと言えよう

――(Vコンを拝見しながら)シンプルな絵でも動きがあるので何をやっているのかはわかりますね。

川村:そうですね。最低限、僕がわかればよくて、細かな点は口頭で説明すれば基本的には事足ります。やはりVコンの作業によって見えてきた部分は多いですね。これぐらいしっかりと動きを付けておくと、アニメーターに対しての説明も手短かで済みますし、尺も3CGアニメーションに仕上げたときの秒数に最大限近付けるように心がけています。つまり誰に言っても伝わるので、指示出しのハードルも下がるんですよ。紙のコンテだけだと、どうしても行間を伝えきれずに説得力に欠く表現になったり、仕上がりが属人的になってしまいがちです。Vコンまで作成することで3DCGの利点を活かした実写的なニュアンスに加えてテンポも伝えることができます。

――まさに"百聞は一見にしかず"ですね。

川村:テンポ具体的に伝えられることで芝居の間合いも決まっていきます。モーションキャプチャ(以下、MOCAP)は、基本的に専用スタジオ出収録するわけですし(=実写のようなロケ撮影は行えない)、キャラクターによってはアクターさんとのプロポーションや造形に大きなギャップがあります。これが実写との大きなちがいだと思います。MOCAP収録時に頭の中で想像しなければいけない要素が多々あります。だから想像する要素をできるだけ最小限にして(=スタッフ間でのイメージの共有をできるだけ高める)、尺やテンポをあらかじめ決めておく必要があります。そうすることで芝居の仕草に集中できる。Vコンで脚本のディテールに踏み込むこともできるので、ここが足りないなとか、こういうものがあった方が良いなと閃くことも多いですね。

――やりたいことをあらかじめ明確に絞っておく。3DCGアニメーションは2Dに比べると、工程が多岐にわたりますし、程度によっては後からの修正がコストの増大に直結してしまうので、そうしたCGアニメーション制作の特性もふまえた手法なのだと思いました。

川村:ええ。ピクサーのような理想形はありますが、日本でそんなことは到底できません。とはいえ、映画としてカッコ良く、面白く仕上げるということにはかわらない。そうした想いを現実的なレベルで成立させようとVコンをつくりました。デジタル・フロンティア(以下、DF)として一緒にやってきたスタッフであれば、これぐらいで十分伝わるだろうという信頼感もありますし、3DCGに必ずしも精通していないプロデューサー(製作委員会)の方々からの理解も得やすくするためというねらいもありました。正直、荒削りな面が多々あるのですが、それでも設計図として成立するギリギリのラインですね。

映画への愛と3DCGエキスパートとしての絶妙なバランス感が創り出した、新世代のCGアニメーション〜映画『GANTZ:O』川村 泰監督〜

© 奥浩哉/集英社・「GANTZ:O」製作委員会

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<2>デジタル・フロンティアが満を持して実戦投入したパフォーマンス・キャプチャが真価を発揮

Profileプロフィール

川村 泰/Yasushi Kawamura(デジタル・フロンティア/DIGIATL FRONTIER)

川村 泰/Yasushi Kawamura(デジタル・フロンティア/DIGIATL FRONTIER)

1974年、神奈川県生まれ。デジタル・フロンティア所属。『APPLESEED』(2004)のアニメーション・ディレクター、ゲームシネマティクスなど数多くのプロジェクトにおけるCGディレクターを経て、『GANTZ:O』(2016)で映画監督デビュー。SFを得意とする。

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