CGコンテンツを扱う企業に、1.基本情報(ツールやチーム構成)、2.仕事内容(ワークフローやスキル)、3.文化(スタッフの一日の過ごし方や学び方など)の3項目について共通でインタビューを実施。連載を通じて業界、職種、企業ごとに具体的にどんな違いがあるのかを解明していく。

今回は、サイバーエージェントの子会社でブランド領域における動画制作からAIや3DCG、バーチャルプロダクションなど最先端技術を活用した広告クリエイティブ企画・制作までをワンストップで手掛けるCyber AI ProductionsのCGディレクター、エンジニアに取材。

サイバーエージェントでは、2023年9月に広告効果最大化の追求に特化したクリエイティブ制作スタジオ「極(きわみ)AIお台場スタジオ」をオープンした。配信前に広告効果を予測する「極予測AI」を活用し、LEDスタジオで効果予測をしながら効果の高いクリエイティブ素材の撮影を行うなど制作現場でのAI活用も積極的に行っている。さらにスタジオ内には収録室や編集室など、撮影後のナレーション収録から編集まで一気通貫で制作出来る環境があることで、高品質な広告クリエイティブの効率的な制作を実現しているのが大きな特徴だ。

記事の目次
    極(きわみ)AIお台場スタジオ

    <1.仕事内容>チーム構成・使用ツール

    【チーム構成】

    Cyber AI Productionsは、4つの事業部で構成されている。動画広告制作プロダクション機能を持つProduction Force 、Virtualプロダクション機能を持つVirtual Force、デザイン領域に特化したDesign Force、企業YouTubeチャンネルの企画や運用を行うContents Force。今回のインタビュイーである中澤、守下が所属するVirtual Forceは、CGクリエイターグループ、エンジニアグループ、バーチャルプロデュースグループ、撮影グループに分かれており、以下のチーム構成になっています。

    ■CGクリエイターグループ
    CGディレクター 
    テクニカルアーティスト 
    VFX Supervisor 
    CGアーティスト 

    ■エンジニアグループ
    XRエンジニア 
    MLエンジニア 

    ■バーチャルプロダクショングループ
    プロデューサー 
    プロダクションマネージャー 
    テクニカルディレクター 
    照明技師 

    ■撮影グループ
    ディレクター 
    スタジオオペレーター 
    カメラマン 
    レタッチャー 
    スタジオアシスタント 

    【使用ツール】

    CG制作においては基本的に個々人が得意なソフトを使用。スタジオでの撮影、制作の基盤となるのはUnreal Engine

    ■CG制作

    BlenderやCinema 4D、Maya、Houdiniなど個々人が得意なソフトを使用

    ■エンジニア(ツール開発)

    Unreal Engine

    ■極(きわみ)AIお台場スタジオ

    LEDウォールや3Dスキャン、4Dスキャンなどの最先端設備、編集室、収録室まで完備。さらに「極予測AI」との連携により、より効率的な広告制作を可能としている。
    https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=29327

    ■極(きわみ)予測AI
    サイバーエージェントが開発した、AIを用いて広告効果の高いクリエイティブを予測しながら制作するクリエイティブ制作支援システム

    <2.仕事内容>ワークフローや求められるスキル

    インタビュイー紹介

    中澤 勤 Virtual Force (CGクリエイターG / CG Director)
    ばいそん(守下 誠) Virtual Force (エンジニアG / XR Engineer)     

     


    【仕事内容・ワークフロー】

    (中澤氏)中澤氏はCGディレクターとして、クオリティコントロールやスタッフィング、監督と現場の調整の業務など、制作過程で使われるCGデータのディレクションをおこなっている。また、ディレクション業務と並行して、AIと人間の指示をどう組み合わせて制作すれば効率を上げられるかというAIを活用した新たな制作方法の開発にも参加している。

    【ワークフロー例:15-30秒程の広告映像をLED撮影を用いて制作する際のワークフロー】

    ①クライアントからの依頼を受ける
    ②プランナーやプロデューサーがクライアントの要望をヒアリングして、どういうものを作ればいいか決定する
    ③企画がディレクターのもとに持ち込まれ、どのようにLED撮影を行うのか検討
    ④3Dで制作するか静止画で撮るべきか判断するなど、スケジュールや予算を考慮しながらCGのクオリティコントロールをしていく
    ⑤スタッフを配置してタスクを振り分ける
    ⑥撮影前にリハーサルを行う    
    ⑦イレギュラーな事態の発生に対応できるように、本番の撮影にも立ち会う

    【ワークフロー例:極予測AIを用いた広告映像制作のワークフロー】

    ①映像制作に取り掛かる前のラフの状態から極予測AIを使用し、高い広告効果を期待できる広告デザインを策定
    ②極予測AIによる予測結果をプランナーと共有して、3Dデータを制作
    ③プランナーやクライアントとコミュニケーションしながら、リアルタイムに近い形でその意見を広告映像に反映させていく


    (守下氏)守下氏はXRエンジニアとして、より効率的な撮影を可能にするために社内で使用するシュミレーションツールの開発をおこなっている。具体例としては、バーチャルLEDスタジオ(VLS)の開発が挙げられる。これはUnreal Engine上にスタジオのデジタルツインを構築し、その中で背景・人物・美術・カメラワーク等のシミュレーションを行うことで、撮影の検証や準備を効率化するツールだ。

    【ワークフロー例:VLSの開発のワークフロー】

    ①「LEDウォールでの撮影をするにあたって、こういうツールがあると便利なんだけど」という話が、撮影チームやプロデューサーチームなどから提案される
    ②エンジニアチーム内で開発のためのスタッフを選抜し、開発スケジュールを策定 
    ③ミーティングと開発の繰り返し

    また、長期スパンでの開発と並行して、「カメラの動きに合わせてライティングを変えたい」等の個別の要望が出たときに、柔軟に短期スパンで開発を行うこともある。


    【スタジオの特徴】

    まず大きな特徴として挙げられるのが設備面である。親会社であるサイバーエージェントがLEDウォールや4Dスキャン等の最新設備を備えた極(きわみ)AIお台場スタジオを有していることが挙げられる。バーチャルプロダクションスタジオは既に多数存在するが、単にバーチャルプロダクションとして映像制作をするだけでなく、広告効果を予測する「極予測AI」を組み合わせて活用することで、効果の高い広告を効率よく制作することができる。

    また、同社の強みは最新鋭の設備だけではない。

    「弊社が普通の映像制作会社と大きく違う点は、プロデューサーやプランナー、或いは予算を管理するような意思決定をする人たちと非常に近い距離で仕事ができるというところです。彼らとコミュニケーションを密にとった上で、プリレンダーでは不可能な、クライアントの意見をその場でリアルタイムに反映させることも可能です。映画は制作期間が長く、モデルを作ってレンダリングしたら終了で、作成されたデータもそれっきりなことが多いと思いますが、広告は効果が出ることが大事であり制作本数も多いです。そのため、前回のデータの不備やクオリティの足りない部分、効率化などをすぐに認識し次に向けて挑める機会が増え、結果としてワークフローが改善しやすく、資産として蓄積できたデータも常に反省点を入れて更新し続けるため、よりよい状態にしやすいと思います。こういった部分を上げ続ける体制は大変な強みだと感じます。」(中澤氏)


    さらに、若手であっても意欲のある人間には挑戦する機会が与えられる社風も同社の特徴だと言える。

    「新人にも色々任せてもらえることが多いのは弊社のいいところだと思います。例えばツール開発が好きですとか、AR系のことをやりたいですと事前に宣言しておくと、関連する案件が生じたときにはメンバーに入れてもらえたりするんです。それに一年目や二年目の人でも開発のリーダーを任せてもらえることも結構あって、そういう若手に大きめの裁量権を与えてくれるというのは独自の文化だと思います」(守下氏)


    【求められるスキル】


    (中澤氏)AIを活用した効率的な広告映像制作を掲げるCyber AI Productionsだが、その一方で、AIをより活用するためには扱う人の力もまた重要だという。「やはりまだ現状、AIだけではクライアントの要望に対応しきれない部分はあるんです。そんなときに、実直にモデリングやライティングをした経験が、AIでできることとアーティストがやったほうが良いことの取捨選択を可能にすると思います。AIは開発速度が非常に速いため、こういった知識や経験がないとただ情報として消化するだけになってしまうと思います。3DCGなどを使用した映像やゲームなどの制作経験や知識が身についている人ほど、AIでどこを高速化するかや、新しい取り入れ方の発想がよりしやすいと思っています。我々は極(きわみ)AIお台場スタジオのように最先端の設備・施設を持っていますが、それらも配線からカメラのセッティングまで基礎となる専門的で重要なスキルがないと稼働させることができません。地道な作業をしっかりできる、細かなことを学習できるというところはすごく重要だと思います」


    (守下氏)「エンジニアとしては、変化に柔軟に対応できる人が求められています。特にAIの変化はとても速く、3ヶ月後には状況が変わっている可能性もあります。また個人的な意見としては、開発の状況を巨視的に、俯瞰的に見て、この後ってどうなっていくんだっけ?と妄想して楽しめるような人は向いているでしょうね。それから弊社はスタジオがあって、バーチャルプロダクションをはじめとした様々な機材を実際に見たり触ったりできるので、ガジェット好き、ハードウェアにワクワクできる人にはとてもいい環境だと思います」

    <3.企業文化>スタッフたちの働き方や価値観

    【スタッフの働き方】


    (中澤氏)10:00始業、20:00終業というスケジュールが多いですね。午前中は開発の進捗等のデイリーチェック、午後は開発に向けてのCG、AI生成等の作業や案件などはディレクターとして必要なデータチェックやスタジオに行って撮影立ち会いなどを行っています。案件以外では、組織運営上の課題解決や、部門が掲げる年間目標達成のための施策の方向性や課題などプロデューサーらと議論と調整などを行います。」


    (守下氏)「余裕がある時期に限りますが、朝起きてから出社までの時間で、リサーチや個人制作に充てる時間を確保するように心がけています。弊社はエンジニアの評価軸として、「事業成果への貢献」という軸と「技術力の向上」という軸があり、エンジニアが外向きに個人の活動をすることも応援してくれる社風なので、個々人の技術研鑽のモチベーションを高く保てるんです。10時ごろに出社し、そのあとは開発が7割、ミーティングが3割といった割合で20時ごろまで業務を行います。帰宅後は、食事を摂ったり、家事をしたり、ダラダラしたり、元気が残っていれば朝の制作の続きをしたりして、0時ごろに就寝するといったイメージです。」


    【インプット方法】

    (中澤氏)ビジュアルインプットに関してはランニングや少し遠出気味の散歩、読書などで得られる一次情報をより大事にしています。業務に関わる技術などは開発会でのエンジニアとの雑談や社内の情報チャンネルが最新で刺激のある内容が多く、そこから取得することが多くなりました。XやInstagramで企業も個人もSNSに最新情報を上げることも増えたので、特定のサイトを毎日チェックする事はあまりないです。」

    GitHub
    「掲載されたプログラムやその内容を見ていることが多いです。」

    Midjourney
    「AIがらみだと生成もするのでやっぱりこの辺です。」

    LinkedIn
    「Linked InでフォローしているILM(Industrial Light & Magic)やPixar Sony picturesなど映像系メジャーのフォーラムでビューワー数の多いトピックを見たりしますね。」

    見えない都市 (河出文庫)
    「建築学科出身なので書籍に関してはAIやCGにあまり関係ないものが多いです。こういった書籍を生成AIにいれてビジュアル化する実験などをプライベートで行なっています。」

    (守下氏)「社内でAIの情報を投稿するチャンネルのようなものがあって、そこで出てきた面白そうな情報を深掘りしていくことにハマっています。コードが公開されていれば、使い方を調べたりしています」

    ・バーチャルプロダクションの教科書
    「あまり本など情報がまとまった媒体でインプットする機会は少ないですが、本書はおすすめできると思います。」