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映画『ジヌよさらば~かむろば村へ~』

映画『ジヌよさらば~かむろば村へ~』

松尾スズキ監督の世界観を見事にフォローした、グリオグルーヴ3社が挑戦する 作品に寄り添ったVFXとは何かを紹介する

作品に溶け込むVFXを目指して

今回のVFXアナトミーでは、松尾スズキ監督作品『ジヌよさらば~かむろば村へ~』を紹介する。

都会でお金恐怖症になった青年・高見武晴がたどり着いた村、かむろば村で繰り広げられる騒動を、松尾監督が率いる個性的な俳優陣の演技と感性で描いた作品だ。

この作品の独特な世界観を支えるVFXはグリオグルーヴのシネグリーオ、リンダ、アニマロイドの3社が担当している。

▲左から、藤原源人VFXスーパーバイザー(シネグリーオ)、戸田貴之CGディレクター(アニマロイド)、今宮和宏テクニカルディレクター(アニマロイド)、西本昌弘CGプロダクションマネージャー(シネグリーオ)、後藤佑太CGアシスタントプロデューサー(アニマロイド)、林田宏之CGディレクター(リンダ)、パベル・スミルノフCGアーティスト(リンダ)、野沢敦子CGアーティスト(フリー)、是松尚貴CGデザイナー(フリー)、高橋良幸CGデザイナー(フリー)

「この作品は、グリオグルーヴのひとつグリオが企画、プロデュース、制作費を出資している作品で、5年前に企画立案したものです。内容的にCGを使うような作品じゃないように思われますが、1ヶ月にわたるロケにおいて現場費用のコストパフォーマンスを高めるためにCGを活用しています」とエクゼクティブプロデューサーの坂本雅司氏は話す。

作品の予算規模としては、中規模予算ということで、通常の製作方法では採算が難しい部類に入る製作予算だが、CGが得意な制作グループという利点を活かして、全社あげてのチャレンジとなったという。

3社がVFXを担当した作品は過去にもいくつかあったが、自社企画の映画を3社でコラボレーションしたのは、本作が初めてなのだそうだ。VFX制作の期間は2ヶ月程度であったというが、グループ会社の企画ということで、シナリオがアップする前の段階から監督とどのようなVFXショットが可能か現実的なプランを話し合うことができたため、予算やスケジュールを含め無理のない制作体制を採ることができたという。

「事前に原作の漫画を参照してVFXが必要そうなショットを検討し、監督にどのショットでVFXを使うか相談しました。監督自身があまりCGに詳しくなかったので、CGを使ってシーンをどう表現したらいいのか逆に相談されることもありました」とスーパーバイザーの藤原源人氏は監督とのやりとりを話してくれた。

「Houdiniを使ったスペクタクルなVFXショットもありますが、決してCGを売りにしている作品ではありません。なるべくシーンに溶け込んで見えないCGであることを目指しています。役者の芝居に寄り添い、映画に溶け込むというVFXの使い方がこの規模の日本映画でのVFXの正しい使い方なのではと思っています」と坂本氏は語る。

それでは、本作の代表的なショットのVFXメイキングを紹介しよう。

01:窓外の景観を合成する
撮影した背景素材を3次元的に合成

まず紹介するのは、武晴が運転するバスの窓外背景を合成したショットだ。

このシーンは作品の中で一番カット数の多いシーンだが、バスが大きく蛇行するなど背景の流し方が非常に難しいショットでもある。バス内のプレートはグリーンバックでバスを揺らしながら撮影したものが使われた。

背景素材は撮影期間中に一度撮影されていたが、ビデオミキサーなども用意されていなかったため、合成すると画角が合っていないなどの不具合もあり、後からシネグリーオのスタッフが再撮影を行なっている。

再撮影の際には軽自動車にスタッフが搭乗し、BlackmagicProduction Camera 4Kを使って撮影が行われた。

「実際にはバスはこんなに小回りが利かないので、こんな風には背景が流れないのですが、編集してみると違和感なく繋がったショットになっているため、ほぼ作成したショットがそのまま使われています。まさか監督がここまで長くこのショットを使うとは思っていなかったのですが(笑)」と藤原氏。

バスには乗降口に大きな窓があり、背景をかなり広い画角で撮影しないといけないため、魚眼レンズで撮影するなど工夫して撮影されている。撮影した背景素材はNUKEに3Dで配置され、バスが回転している動きにも背景が合うようにコンポジットされた。

撮影前には、街並みを3DCGで作成する案もあり、3Dスキャナを使ってテストをしてみたがあまり精度が上がらなかったため、実写素材を使うことになったのだという。

別撮りされた背景素材

  • ▲軽自動車に乗って撮影された背景素材

  • ▲バス車内の明るさとマッチするように色味を調整した素材

  • ▲NUKEの3D空間に背景素材を配置

  • ▲バスの動きに合わせてレイアウトを調整した素材

▲背景の傾きなどを調整した最終的な背景素材

  • ▲グリーンバックで撮影された実写プレート

  • ▲キーアウトした輪郭を馴染ませるためのマスク素材

  • ▲グリーンバックをキーアウトした素材

  • ▲最終的な画角や色を調整した素材

▲加工編集された背景と合成した完成ショット

02:事故現場を作り出す
マイクロバスの横転ショット

このマイクロバスが横転しているショットでは、横転しているマイクロバスが3DCGで追加されている。アニマロイドで作成したバスのモデルを、リンダで壊れた状態に加工・配置してシーンが作り上げられた。

「このようなカットではプリビズが必要な場合が多いのですが、横転する動きは見せずに、横転した状態から始まるということになったので、実写素材にバスのモデルを簡易的に合成した画像を監督に見てもらって確認しながら進めました。カメラに動きがあったりするとトラッキングなどが大変ですが、カメラが固定だったのでどうにでもできる感じでした」と、リンダのクリエイティブディレクター林田宏之氏は話す。

撮影時には、ラフなイメージを見せてエキストラの人たちに説明するなど、プリビズがなくても撮影は問題なく進められたという。作品の助監督がCGIに精通している方だったのも、VFXが絡むショットの撮影が上手く進んだ理由でもあるそうだ。

また、バスのモデルは、Mudboxで凹凸を付けて壊れた状態に変形し、窓ガラスのヒビは手描きのテクスチャを描き貼り込んで対応している。

「割れて穴が空いた状態の窓ガラスはないという設定だったので、手描きで対応しました。このようなヒビは手描きが一番上手くいきます。くっきりした線でもおかしいし、細かい線が入ったり少しぶれているくらいがリアルです。ガラスの映り込みは、撮影場所の周囲をHDRで撮影したもらって配置しています」とCGアーティスト野沢敦子氏はショット構築のポイントを話してくれた。

  • ▲アニマロイドで作成したマイクロバスのモデルデータ

  • ▲ノーマル状態のモデルデータをハイメッシュ化し、壊れた状態に変形できるように加工する

  • ▲Mudboxで加工したマイクロバスのモデル

  • ▲割れた窓ガラスなどのマテリアルを設定したマイクロバス

  • ▲窓ガラスのヒビ用テクスチャ

  • ▲実写プレートはGTRの実車を配置して撮影されているが、マイクロバスが衝突した状態ではないので、破壊されたモデルを作成し配置し直している

マイクロバス転倒シーンのショットブレイク

  • ▲実写プレート

  • ▲地面のスリップ痕やマイクロバスの影を追加

  • ▲GTRをCGに差し替えて、アニマロイドで作成された煙を足している。またGTRが激突した電柱も新たに足している

  • ▲マイクロバスを追加したもの

▲色調などを補正した完成ショット

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