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    精力的に活動しているスタジオを実際に訪問し、彼らが実践する制作スタイルと、その意図を通じて、次世代に向けた "日本ならでは" の制作手法 について考えていく本連載。今回は、ハイクオリティな実写 VFX と 3DCG アニメーションに定評ある映像制作会社 デジタル・フロンティア を訪ねた。

    独立独歩で着実に進化し続ける

    フル 3DCG アニメーションから実写 VFX まで、ハイクオリティなヴィジュアルを生み出し続けている 株式会社デジタル・フロンティア(以下、DF) 。同社は、1994 年に 株式会社 TYO(ティー・ワイ・オー) 映像事業室の1セクションとして活動をスタートした。

    「当時の TYO は中核事業であった CM 制作からさらなる多角的な展開を進め始めたところで、DFはその中で 3DCG を用いた映像制作を担うことになったわけです。僕はDF設立から 9 ヶ月ほど経ってから参加したのですが、まずは CM や展示会映像などの 3DCG 制作から始め、機会を見つけては実写 VFX やゲームタイトル用プリレンダー映像など新たなジャンルに挑戦しながら少しずつ成長してきた感じですね」。

    そうふり返るのは DF 専務取締役プロデューサーの豊嶋勇作氏。その後、2000 年 5 月に TYO の子会社として株式会社デジタル・フロンティアを設立。3DCG 映像制作だけでなく、PlayStation 用ゲームタイトルの開発なども行なっていた時期もあったそうだが、"選択と集中"を重ねた結果、現在は 3DCG を武器とした映像プロダクションとして、実写VFXからフル CG アニメーションまで幅広く手掛けている。
    組織としては、CG 制作部、企画制作部、営業部の3つの部署と、バックオフィスである管理部に分かれて活動しており、大きくは実制作を行う CG 制作部と出資案件やオリジナル企画のプロデュース、制作進行の役割を担う企画制作部に分けられるだろう。前者については、R&D 部隊を設けるほか、2003 年にモーション・キャプチャスタジオを開設。後者としては、Web サイトやオリジナル DVD、TV 番組の企画制作でノウハウを蓄積させた後、映画 『APPLESEED』(2004) を機に劇場長編プロジェクトへの出資を行うまでに発展している。

    DF代表作01

    映画 『APPLESEED』(2004)
    © 士郎正宗/青心社 ・ アップルシードフィルムパートナーズ

    3DCG・VFX 工房としての強みと、プロデュース力の双方を活かした DF 独自の展開と言えるのが、フル 3DCG 長編アニメーションをコンスタントに制作し続けていることだ(上述の通り、一部の作品では資本参加もしている)。
    「2000年頃から、日本でもデジタルシネマが盛んに制作されるようになりましたが、そのブームに乗る形でまずは 『ぼのぼの クモモの木のこと』(2002) を皮切りに、昨年の 『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』 まで、おおよそ1〜2年周期でフル CG 長編プロジェクトを手掛けることができています。『ぼのぼの〜』のようなデフォルメキャラクター、『アップルシード』のようなトゥーンシェーディング、そして『鉄拳〜』のようなフォトリアル方向まで幅広く手掛けてきましたが、良い意味であまり肩肘を張らずにその時々の流行に乗りながら、できる範囲で最善を尽くしてきたことが結果的に良かったのかもしれません(笑)」(豊嶋氏)。
    もちろんフル CG だけでなく、実写作品のVFX制作並びに出資も継続して行なっているほか、『サマーウォーズ』のような作画ベースの劇場アニメーション長編向け 3DCG 制作の実績も有している。

    DF代表作02

    映画 『アタゴオルは猫の森』(2006)
    © 2006ますむらひろし・メディアファクトリー/アタゴオルフィルムパートナーズ 原作:ますむらひろし

    会社の規模としては、2000 年に株式会社化した時点では 10 名ほどの小さな組織だったが、制作実績を重ねていくのに応じて少しずつスタッフを増やしてきたとのこと。
    「ゲームタイトルの開発を行なっていた時期は 100 名規模にまで拡大したこともありますが、CG 制作部隊としては 30〜40 名規模の時期が数年続きました。その後、『APPLESEED』プロジェクトが始まったのを機に 70 名規模にまで一気に倍増しまして、そこからは年を重ねるごとに徐々に規模が大きくなっています。現在(※2011 年 11 月時点)は、CG 制作部として約 180 名。会社全体では 200 名を超える規模にまで成長することができました」(豊嶋氏)。
    2010 年 4 月に、親会社が TYO から フィールズ 株式会社 へ異動したが、DF 自体の活動方針が変わることはないという。フィールズグループとしての新たな動きという意味では、昨年11月にオフィスを長年続いた代官山から、ルーセント・ピクチャーズエンタテインメント 株式会社株式会社 円谷プロダクション など他のフィールズグループ企業が集まる渋谷へ移しており、今後はグループ間での新たな連携を模索していくのであろう。

    DF代表作03

    映画 『サマーウォーズ』(2009)
    © 2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

    今日では、日本トップクラスの組織にまで成長した DF 。手掛けるプロジェクトの割合は、おおよそ映画= 45%、ゲーム= 20%、遊技機= 35% とのこと。大型案件が主要 3 分野ごとに 1〜2 本ずつあり、より小規模だったり、短期のその他の案件が合間に入る形で常時 10 プロジェクトぐらいが稼働しているそうだ。
    「近年の特徴としては、ゲーム案件はプリレンダーではなくリアルタイム・パート用のモーションキャプチャやキャラクター制作などが増えましたね。つい先日も 『バイナリー ドメイン』(2012) に参加させて頂きましたが、現行機(HD規格)向けの開発ではますますリアルタイムの割合が高まっていくのではないでしょうか。実写 VFX については、ここまで大所帯になると 『GANTZ』 シリーズ『デスノート』 シリーズ のようなVFXヘビーの作品でないと我々の組織力を活かせません。これは邦画 VFX 制作全般に言えることだと思いますが、総制作費 1 億円規模の映画案件の VFX は、比較的小規模のプロダクションかフリーランス主体でないと採算が取れなくなっている気がしますね」(豊嶋氏)。

    豊嶋氏いわく、プリレンダーの 3DCG アニメーションを制作することを目的に誕生したのが DF ということで、企業活動の根底にあるのは 3DCG 表現並びに技術のレベルアップにあることは間違いない。それゆえに、実写 VFX は今後も積極的に手掛けていくが、実写撮影や特殊効果を自社で手掛けることは当面考えておらず、自社の強みである 3DCG を中心にしたデジタル制作スキルにさらなる磨きをかけていく方針だ。


    映画 『鉄拳 』ブラッドベンジェンス』 トレイラー
    © 2011 NAMCO BANDAI Games. Inc.

    DF は劇場長編を多く手掛けるだけあり、単一のプロダクションとしては、総勢 200 名以上という日本有数の規模を誇る。しかし、同社としてはさらなる拡大が急務だと考えている。
    「ハリウッド同等の VFX、フル CG アニメーションをまとまったボリュームでコンスタントに制作していく上では、やはり人材の確保が欠かせません。また、採算割れすることなくハイクオリティかつ大きな物量を制作する上では、即戦力を中途で採用するだけでなく、制作機能のさらなる海外展開、未経験者やキャリアの浅い人材を自前で育成していく予定です」(豊嶋氏)。
    そうした方針の下、DF は先日(2012年1月28日)会社説明会 を開催した。
    「設立当初から、できるだけ社内で一連の制作を行なっていくようにしてきたこともあり、少し前までは外部に向けた情報発信にそれほど積極的ではありませんでした。ですが、外から見た時に DF がどのような組織で、どのような方針で活動しているのかといったことが分からないと、誤解を招く恐れもありますし、優秀な人材の獲得をする上で非効率になっているのではないかと考え直したのです」。そう語るのは、テクニカル・ディレクターとして活躍する野澤徹也氏。先日の会社説明会のアイデアも野澤氏の発案だったとか。今後もイベントや所属スタッフによる ブログ 「DF TALK」 を通じて積極的に様々な情報を発信していくとのこと。また求人については、公式サイトの求人ページ を参照してもらいたい。

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    組織編成と海外展開

    ここからは、DF の組織編成について具体的にみていこう。同社は現在、男性 159 名、女性 42 名の 201 名(※2011 年 12 月時点)、平均年齢 30.1 歳のスタッフで構成されている。組織としては、先述の通り CG 制作部、企画制作部、営業部、管理部の 4 部署に分かれて活動しており、その中核となるのが CG 制作部だ。同部は、渋谷の本社とお台場(東京都江東区青海)にあるパフォーマンス・キャプチャスタジオ(後述)で活動しており、その他に関連会社として GEMBA(呼称:ゲムバまたはゲンバ)Digital Frontier (Taiwan) Inc.Fly Studio SDN, BHD が存在する。

    「GEMBA は子会社であり DF 本社と同じビルに入居してはいますが、活動自体は完全に独立しています。海外の 2 社は、Digital Frontier 台湾を昨年 7 月に設立した後、縁あってマレーシアの Fly Studio 株式を取得する形で、立て続けに DF グループに加わってもらいました。海外展開については、単純明快に国内だけでは仕事が回らなくなってきたからですね。制作コストの問題も大きいですが、日本の CG 業界規模では今までのやり方では中々良い人材が集まらなくなってきたので......」(豊嶋氏)。
    海外に制作拠点を設けると聞くと、中国(大連など)やベトナムへの進出がよく聞かれるが、台湾を選んだ理由は、コンプライアンス面の信頼度の高さと、日本人に適した生活環境だという(親日国家という利点も)。さらにDFは、台湾最大手の CGCG Inc. と長年にわたり良好な関係を築いていることも大きな後押しになったようだ。マレーシアについても同じく、コンプライアンスの高さと生活環境の相性、それに加えて同国が推進する IT 先進国政策に基づく税制面の優遇などの恩恵もあるようだ。

    DF 独自のキャリアパス

    昨年 10 月の渋谷への本社移転に伴い、CG 制作部はほぼワンフロアに集まることができたという。
    「当初の予定では、全ての 3DCG スタッフの席をワンフロアに集める予定だったのですが、ありがたいことに大きなプロジェクトが続々と入っていまして、現在も積極的にスタッフを採用しているため、引っ越して直ぐに席が埋まってしまいました(苦笑)。そのため、CG 制作の一部を別フロアに拡張させました」(豊嶋氏)。

    DF内観01

    photo by Mitsuru Hirota
    DF 本社(渋谷)メイン制作ルームのパノラマ内観。ワンフロアにほぼ全てのスタッフがいるため、情報共有や意見交換がスムーズだという

    CG 制作部のスタッフ内訳は、実作業を担う CG 室、R&D を行う開発室、プロジェクトの進行管理を行う制作室、そしてモーションキャプチャー室の 4 グループに分かれて活動している。また、同じフロアには企画制作部のデスクが置かれており、オリジナル作品を担当するプロデューサーやディレクターも在席している。
    「フル CG 劇場長編などの大規模プロジェクトを効率良く制作するために、このような編成で活動しています。15 年以上にわたって、少しずつ改善してきたので、200 名以上の大所帯でありながらスタッフの結束力は堅いと自負しています」(豊嶋氏)。

    さらに DF では、海外からの人材獲得にも意欲的で、現在 13 名の外国籍スタッフが勤務している。ゼネラリストや R&D スタッフなど職種は多岐にわたっているそうだが、彼らの多くは日本国内の専門学校などの卒業生のため、日本語によるコミュニケーションも問題ないそうだ。国別の割合は欧米圏が 3 名ほどで、後はアジア圏が大半とのこと。

    DF内観02

    photo by Mitsuru Hirota
    渋谷本社の休憩スペース

    CG 制作部では、各プロジェクトごとの制作工程としては分業制を採っているが、所属スタッフはプロジェクトに応じて職務を柔軟に切り替えるゼネラリストと、特定のタスクに注力するスペシャリストの 2 タイプに分かれて活動している。
    「デザイナーでスペシャリストとして活動しているのは、セットアップとエフェクト、そしてアニメーションになります。その他の工程は状況に応じてゼネラリストが担当するという形ですが、もちろん今後もこのままというわけではありません。例えばエフェクトチームの場合は、映画 『バイオハザード ディジェネレーション』 制作時に、エフェクトが複雑化してきたのに対応すべく発足しました。実は、3 年前(2009年)からキャラクター専門チームも始動しています。今後の構想としても BG チーム案が既に上がっていますし、『この分野は特化した方が良いね』と CG 制作部として判断すれば、どんどん実践していきたいですね」(野澤氏)。

    元々ゼネラリスト集団であったが、3DCG 技術の進化や求められる表現の高度化に伴い、必要に応じて部分的に分業制を導入してきたという DF 。ゼネラリストについては、明確なローテーション制ではないが、ある程度の期間で一通りの工程に携わるように業務がアサインされているという。
    「キャリアパスとしては、ゼネラリストからスペシャリストへ変わることもありますし、CG 制作部ではヒエラルキー構造を導入しています。これは、デザイナー、チーフデザイナー、シニアデザイナー、ディレクターという 4 つのランクに分けています。そして、独自に設けた数値による業務評価を年に 1 度行い、一定期間好成績を収める、もしくは上位のスタッフが『こいつは!』と射止めたスタッフを昇格させるという、いずれかのパターンでキャリアアップしてもらっています」(豊嶋氏)。
    DF では、劇場長編のような大型案件では 1 プロジェクトあたり約 70〜80 名のスタッフが制作に携わっているそうだが、このヒエラルキー制に基づいてバランス良くアサインされるように配慮しているとのこと。


    shot by Mitsuru Hirota DF 本社オフィスのメインフロアをデジイチ動画で撮影したウォークスルー。180 名を超えるスタッフがワンフロアで活動している様は圧巻だ

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    ワークフローと主要ツール

    続いて、DF の作業体制について紹介したい。訪問するまでは、フル CG 作品をコンスタントに制作し続けている同社だけあり、さぞや堅牢なパイプラインを構築しているのかと思っていたのだが、ハリウッドの大手スタジオのように、「ピクサーと言えば RenderMan、ILM と言えば Zeno 」といった確固たるパイプラインを構築しているわけではないとのこと。
    「業界の規模が違うので、ハリウッドのスタイルをそのまま模倣してもマッチしませんよ(笑)。先ほど、良い意味でその時々のトレンドに合わせて節操なく制作してきたと言いましたが、ワークフローも同じ事です。CG・VFX 制作をできるだけ効率的に進めるためにはどうすれば良いのか、その都度、少しずつ改善した結果が、現在の "ゆるやかな分業制" ですし、自前でパフォーマンス・キャプチャスタジオを構築した理由も長編プロジェクトに対応するためでしたから」(豊嶋氏)。

    そうした意味でも、市販ツールの進化による恩恵は大きいという。
    「ハリウッドの場合は、自分たちのニーズに合わせてインハウスでツールを開発するわけですが、日本でそれをやったら破綻してしまう。市販ツールの機能向上にあやかり、その上で必要に応じてカスタマイズしながら、クオリティアップを図っていく。それが、継続する秘訣ではないでしょうか」(豊嶋氏)。

    DF が現在主に使用しているツールは下表の通り。フル CG から実写 VFX まで幅広い映像制作を行なっているだけあり、使用ツールもバラエティに富んでいる。

    主要ツール表

    DF の主要ツール・リスト(2012 年 1 月現在)

    3DCG 制作のメインツールとして、Maya、Softimage、3ds Max、MotionBuilder を、コンポジット作業用に After Effects を主に用いているとのこと。
    「通常は汎用ツールとして、Maya と Softimage を使い、キャラクターアニメーションに MotionBuilder、エフェクト制作に 3ds Max RealFlow を主に使っています。Maya と Softimage の比率はおおよそ 7:3 ですが、傾向として Softimage はゲーム向けに特化して、Maya の割合を高めていくと思います。なお GEMBA では、3ds Max を中心に据えた独自のワークフローを導入していますよ」(野澤氏)。
    レンダラについては mental ray をはじめ、RenderMan for Maya や V-Ray for Maya などをプロジェクトに応じて使い分けているとのこと(群衆シミュレーション用の Masive については 3Delight を使用)。その他にも編集ルームを別途 4 室設けており、3 室が Final Cut Studio ベースのオフライン編集用、残りの 1 室が Smoke For Mac OS X による S3D 対応のオンライン編集室となっている。さらに、これから日本でも定着していくであろうリニアワークフローを構築すべく NUKE の導入も視野に入れているという。

    クオリティの向上は市販ツールの進化に頼るとは言うものの、R&D 室を擁する DF だけあり、シーンデータを自動的に構築できる Valkyrja(ヴァルキュリア)と呼ばれる、カスタマイズの域を超えた大がかりなインハウスツールの開発なども行なっている。このツールは、キャラクターモデルや BG、アニメーション、ライティングなど各工程で制作されたアセットを、Valkyrja の UI 上で選択するだけで目的に応じたシーンを自動的に構築(シーンファイルを生成)するというもので、現在は Maya と After Effects に対応しているとのこと(※詳しくは月刊 CGWORLD 157号 の特集『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』を参照)。
    「Valkyrja は、シーン構築に擁する手間と時間をできるだけ抑えて、画づくりに集中することを目的に開発したものです。ですが、自動化を優先させ過ぎた面があり、デザイナーがシーンの状態を把握するのが却って困難になってしまうという弊害が出てきてしまいました。限られたリソースを有効活用する上では、画づくり一辺倒になるのではなく、クオリティとコストをバランス良く意識できるワークフローを整えるためにも、Shotgun のようなプロジェクト管理ツールなども開発していければと考えています」(野澤氏)。

    DF のツール開発方針は「工数削減のために、現場が必要としているものを」だという。テクニカルスタッフは現在(※2012年1月末)、R&D が 6 名、野澤氏をはじめとするテクニカル・ディレクター( TD )として 7 名が活動しており、「R&D がツール開発をリードする一方で、TD が各プロジェクトの現場に張り付いて、プロジェクトを遂行する上でのボトルネックの割り出し、作業効率を上げるための具体的な提案やトラブルシューティングを行なっていく感じですね。要はデザイナーと R&D の橋渡しを行うのが TD というわけです」(野澤氏)。
    プロジェクトを円滑に進める上では TD は要の存在と言えるが、カバーする領域が非常に多岐にわたるため、野澤氏としてはデザイナー 10 名に対して TD が 1 名という割合がベストだと考えているとのこと。「まずは、TD を倍の人数まで増やしたいですね」。

    制作環境

    ツールを動かす土台となるハードウェア及びネットワーク面についてはどのような取り組みが行われているのだろうか。「現在は、エンジニア 3 名体制でシステム管理を行なっています。ただし、お台場のパフォーマンスキャプチャ設備は特殊な機材なので、モーションキャプチャ室にて独自に管理しています」とは、管理部システム室 室長を務める倉地忠彦氏。
    DF の作業用マシン並びにレンダーファームの基本スペックは下表の通り。

    ハードウェアの標準構成

    DF のハードウェア標準構成(※2011 年 11 月時点)。今年、早々に OS は Windows 7 移行予定とのこと。データ保管は、Linux ベースの HP 製サーバ( 4TB )× 4 台を中心に、補助的に 3TB のサーバ × 3 台を利用しているそうだ

    「常時、映画や遊技機など何らかの大型案件が進行しているため、機材のリプレイスのタイミングにはいつも悩まされています(苦笑)。そのため Windows XP をまだ使っていたりしますが(※近日、Windows 7 へアップグレード予定とのこと)、昨年11月の本社移転を機に、点在していたサーバを一カ所にまとめることができました。ネットワークについても、1 筐体で全マシンを賄える大型のスイッチングハブを使い、サーバと作業用マシンを Gigabit Ethernet(サーバ内部は Fibre Channel )で接続するといった具合に、よりシンプルな構成にすることができました」(倉地氏)。
    レンダーファームは 32 台のデュアル・クワッドコア PC(全 256 コア)で構成されている。中小規模のプロジェクトについては十分賄えるそうだが、フル CG アニメーション長編など、レンダリング負荷が高い案件の場合は、その都度、増強しているとのこと。「昨年の『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』制作時は、台湾の CGCG スタジオさんのレンダーファームをお借りしました。社内の体制としては、独 BinaryAlchemy が開発する Royal Render というレンダリングジョブ管理ツールを使い、夜間などに稼働していないマシンをノードに割り当てるようにもしています。サーバルーム自体は、十分な拡張性を確保しているので、必要に応じて増強していきたいと思います」(倉地氏)。

    データ保全の面では、サーバルームに UPS を配備しつつ、ローカル PC は RAID-1 で構成(=ミラーリング)してバックアップが行われている(終了したプロジェクトのデータは LTO5 テープにバックアップ)。デザイナーの作業環境としては、ディスプレイは 24 インチサイズで統一し、ディレクターはデュアルモニタ環境が割り当てられており、i1 DISPLAY PRO でキャリブレーションしているとのこと。
    「ハードウェアも日進月歩ですし、移転した直後に早くもメインフロアとは別のフロアに 30 名分の CG 制作部の席を新設しました。いたちごっこですよね(苦笑)。今後は海外のグループ会社とのデータ受け渡しも増えてくるはずなので、現在うちで用いている aspera のパフォーマンスを最大限引き出せるネットワークを構築することが、これからの課題だと考えています」(倉地氏)。

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    オパキス〜アジア最大級のパフォーマンスキャプチャ施設

    DF がハイクオリティの 3DCG・VFX 制作を実践できる理由のひとつが社内にパフォーマンス・キャプチャスタジオ オパキス を構えていることだ。
    「モーションキャプチャを自前で行おうと考えたのも、やはり "必要に迫られて" でしたよ。長編プロジェクトを継続して手掛けていくためには、その都度、外部のキャプチャスタジオにお願いしていたのでは割高になってしまいますから。2003 年 5 月に、キャプチャースタジオを構えたのですが、当初はニールセンビル(※昨年 11 月まで DF 本社が入居してい渋谷区代官山の建物)の近くにあった TYO ビル(目黒)の 1 室でカメラ 18 台からスタートしました」。

    2005 年 12 月に、現在のお台場に設備を移し、アジア最大規模のモーションキャプチャスタジオ「オパキス」として再スタート。翌年にはフェイシャルキャプチャにも対応した後、2010 年 11 月には従来比 4 倍の高解像度( 1,600 万画素)を誇る VICON T160 を一挙に 100 台導入し、競合他社とのリード差を広げることに成功した。

    DF〜オパキス01

    photo by Mitsuru Hirota
    お台場にあるパフォーマンス・キャプチャスタジオ全景

    「モーションキャプチャは完全に機材ビジネスなので、設備の規模とキャプチャ精度についてはできるだけ高いスペックを維持したいと考えています。お台場に設備を移した際には億単位の投資になり、それまでの利益を全て吐き出してしまう勢いでしたが(苦笑)、結果として、自分たちの CG スキルのクオリティアップにも繋げることできています。アジア最大規模を自負していますが、それゆえにうちを利用してくださるクライアントさんは、ゲームであればトリプル A タイトルだったりと、クオリティを求める方が多いのかなと思っています」(豊嶋氏)。

    「現在は、メインステージ(モーションキャプチャ用)に VICON T160 を 100 台、別に設けているフェイシャル専用スタジオに VICON MX40 を 20 台という構成で活動しています。メインステージは、理論上最大 20 人まで同時にキャプチャ可能です。以前は、キャプチャエリアが楕円形だったため、どうしてもデッドスペースができていたのですが、昨年から新システムに切り替えたことで縦 15 × 横 10 × 高さ 4.5m のエリアをフルに活用するすることができます」と、説明するのはモーションキャプチャ室の越田弘毅 TD 。

    DF〜オパキス03 DF〜オパキス04

    photo by Mitsuru Hirota
    (左)パフォーマンスキャプチャ用 VICON T160 光学式カメラ、(右)インタビューに応じてくれた越田弘毅氏(モーションキャプチャ室 テクニカル・ディレクター)

    お台場(江東区青海)を選んだ理由は、家賃も大きかったようだが、元々エアコンが完備されており、中柱のない広いスペースだったからだという。昨年 1 月から現行システムで稼働し始めたそうだが、カメラを 100 台に増強したことで、従来は大道具やプロップで隠れたり、複数人で収録した際に別のアクターと重なってしまったような動きでもキャプチャできるようになったとのこと。もちろんヴァーチャルカメラにも既に対応済みだが、まだ日の浅い技術だけに本格的な運用はこれからだという。ちなみに、オパキスの稼働は年平均で約 100 日ほどとのこと。収録がない日は渋谷の本社ビルでキャプチャデータの編集などを行なっているそうだ。

    DF〜オパキス04

    photo by Mitsuru Hirota
    隣接されたフェイシャルキャプチャの収録ブース。2 名まで同時にフェイシャルキャプチャが可能で、MA 機材( Avid ProTools )も用意されている

    さらに 3D スキャナも導入〜今後の展望

    可能な範囲で少しずつ機材も人員も増強しているという DF 。少しずつとは言うものの、今年で 1994 年の事業スタートから 17 年目(法人化してからは 12 年目)というだけあり、少しずつ積み重ねたノウハウと組織力は他の追随を許さないものになっている。
    「TD の役割のひとつとして、新しいツールの情報収集とその検証があるのですが、昨年 12 月からベルギー 4DDynamics 社の Mephisto 3D スキャナ を導入しました。一昨年の SIGGRAPH 2010 会場にて僕が見つけたのですが、キヤノン EOS(デジタル一眼)など市販の製品を上手く組み合わせてシステムが構築されているので、高い精度とコストパフォーマンスを両立しているのが最大の強みです。導入を検討する際には、現在の超円高も大きな後押しになりました」(野澤氏)。

    DF〜3Dスキャナ01

    photo by Mitsuru Hirota
    3D スキャナ「Mephist EX」セッティング例。移動組立式なので、屋内ならどこでも撮影できてしまう。空気式の柵は通常 2.5m 四方で設置するが、5m 四方まで広げることも可能(その分、若干スキャンの精度は落ちてしまうようだが)

    3D スキャナ導入を検討するきっかけとなったのは、『バイオハザード ディジェネレーション』制作時に、リアル系のキャラクターモデルを効率良く制作する目的で採り入れてみたところ、確かな効果が得られたことだったという。
    「ハイクオリティのリアル系キャラクター制作は常日頃から行なっているので、男女それぞれにベースとなる素体モデルを用意するといった取り組みはしているのですが、モブシーンなど物量が求められる場合は、3D スキャンが非常に有効です。実は当初、解像度 1,024×768/8bit)の CX 版を導入するつもりだったのですが、頭部用にカメラをもう 1 台追加することで、より高解像度(1,920×1,080/8bit)なデータが得られる EX という上位版を試したところ凄く良かったので、こちらに切り替えてしまいました(笑)。その意味でもどんどん実戦投入していこうと思います」(野澤氏)。

    DF〜3Dスキャナ02

    photo by Mitsuru Hirota
    「Mephist EX」を構成する機材(一部)。CX 版にカメラを 1 台追加することで、任意の部位のデータをより高精細に収集できる。Mephist は、スマートビジョンと呼ばれるモノクロの格子形状を DLP で被写体にプロジェクションした状態でデジイチで撮影したものから 3D 形状を取得。テクスチャはプロジェクション無しの状態で撮影データから取得するという仕組みだ



    実演デモ。カメラ 1 台あたりわずか 0.24 秒と、非常に高速なスキャニングが可能。4 方向から収録した形状とテクスチャ情報は、オープンソースの MeshLab によって、1 つの 3D モデルとして統合される(人体モデルで約 500 万ポリゴンとのこと)

    昨年、ついに社員数が 200 名を超えた DF 。「創業から少しずつだけど着実な進歩を心掛けてきました。ですが、不思議なことに 150 名に近づくと、スタッフの出入りが同じくらいになってしまい、なかなか 150 名の壁を突破することができませんでした。昨年ようやくその壁を超えることができたので、パイプラインを確立させて、各チーム単位で人材の拡充を実践したいと思っています」(豊嶋氏)。
    DF が組織の拡大を急ぐ背景には、既に現在の規模では日本単一のマーケットだけではスタジオ運営が難しくなっていることがあるようだ。言うまでもなく、現在の日本の映像業界規模では VFX ヘビーの実写作品やフル CG アニメーション長編プロジェクトは年に数本しかない。もちろん、これから増えていく可能性もあるが、自ら企画・製作も行える DF としては受け身にならずに、打って出ていこうと考えるのは当然のことだ。
    「とにかく海外でも売れる映像コンテンツを作っていくためにも "ファクトリー" としての基盤を固めたいですね。初めて制作したフル CG アニメーション長編である『ぼのぼの〜』の頃から、かけるコストに対する出来上がりのクオリティと回収できる目処については常に強く意識しています。例えば、『ぼのぼの〜』と『バイオハザード(ディジェネレーション)』では、規模も予算もおよそ 10 倍もの差があります。ですが、両作品ともコストを回収できたし、コンテンツとしても成立できていると自信を持って言えますよ」(豊嶋氏)。

    2002 年公開の『ぼのぼの〜』では、わずか 13 名のスタッフで半年ほどで制作したという。一方、『バイオハザード〜』や『鉄拳〜』では約 10 倍の規模になったが、制作期間は常に 1〜1.5 年に収めるようにしているとのこと。こうした配慮は、長年の経験則に基づいていることは言うまでもない。またコスト回収面でも DF は確かなノウハウを有している。例えば、『バイオハザード〜』では劇場公開はわずか2週間だったため、興収だけでは採算ラインには達していないが、その後のパッケージ販売ではワールドワイドで 170 万本以上のセールスに繋げることに成功させた。その実績が買われ、現在、続編となる 『バイオハザード ダムネーション』 を鋭意制作中だ。本作をはじめ、DF のさらなる展開に注目したい。

    TEXT_沼倉有人(CGWORLD)
    PHOTO_弘田 充

    DF中核スタッフ

    DF中核スタッフ

    右から、豊嶋勇作氏(プロデューサー、専務取締役)、倉地忠彦氏(システム室 室長)、野澤徹也氏(CG 制作部 テクニカル・ディレクター)

    DFロゴ

    ▼ About Company

    株式会社デジタル・フロンティア
    1994 年から活動する日本を代表する映像プロダクション。設立当初からハイクオリティな 3DCG 制作の実践を掲げ、R&D 部隊やアジア最大級のパフォーマンス・キャプチャスタジオを社内に設ける他、海外展開やコンテンツ制作への出資を積極的に行うなど多角的に活動している。

    公式サイト

    CGWORLD.jp×CG-ARTSリポートコラボロゴ

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    今回、紹介したデジタル・フロンティアにて、シニアデザイナーとして活躍中の元生晃司さんへのインタビュー記事を下記サイトにて公開中です。ぜひ、併せてご覧ください!
     
    CG-ARTSリポート「プロダクション探訪~第一線で活躍する先輩からのメッセージ~」第 5 回(前編):DF 元生晃司さん