余計なものをそぎ落とし、洗練されたカリキュラムを構築したい
半年以上にわたってアニメーション教育を受けていれば、当然ながら、学生ごとの向き・不向きが浮き彫りになってくる。「それは仕方がないことなので、無理に個々人の差を埋めようとは思いません。ただし、各々の力量や気持ちに応じた課題を設定することで、全員のワクワク感を持続させるよう気を配っています」。例えば、学習ペースの遅い学生には同じ地点でバウンドするボールの課題を出し、ペースの速い学生には移動しながらバウンドするボールの課題を出すといった工夫をしているという。
「これまでに2回、吉田学園を訪問して担任の先生の授業を見学しました。学生のペースに合わせた良い教え方をなさっていて、私自身も学ぶ部分がありましたし、安心もできました」。この先生は現役のデザイナーでもあり、教育現場と制作現場の両方の事情を理解しているので、住岡氏とも話が合うという。「私の手が回らない部分は、信頼してお任せしています」。
面白いことに、住岡氏が授業を見学した回は、学生がつくるアニメーション課題の品質が目に見えて上がったそうだ。「私がその場にいることが、学生の緊張感を高めたようです。"ネタに走らずに、自然でリアルなアニメーション制作を心がけてください"と釘を刺したことも功を奏したのだと思います。そういう本来やるべきことのなかから、楽しさを見いだせるようになってほしいと願っています」。
この見学の際、住岡氏は学生の目の前でMayaを操作し、自らアニメーションをつくってみせたという。「プロの作業スピードや手順をライブで見せることも大切だと思います。チュートリアル動画だと、ついつい自分のペースで見てしまうので、実体を掴みきれない場合が多いのです」。プロの場合は、アニメーションの品質に加え、一定レベルの作業スピードも要求される。「今後は"スピードトレーニング"も課していく予定です。同じ内容のアニメーションを何度も繰り返してつくることで、徐々に制作時間を縮めていくという練習です。ショートカット操作を覚えたり、無駄な手順を省いたりして要領を掴んでいけば、作業スピードは飛躍的に速くなります」。
現在の住岡氏自身の課題は、洗練された専門学校向けの"キャラクターアニメーションのカリキュラム"をデザインすることだという。「それを追求することは、モーションデザイナーである私の責任だと思っています。加えて、この経験を通して、私自信の人に教えるスキルを高めることができます。このスキルは、会社経営をするうえで必用なものです。その結果、優秀なモーションデザイナーを1人でも多く発掘できたら、これに勝る喜びはありません」。
年を追うごとに、3DCGの制作技術は高度化しており、学生が社会から期待されることは多様化している。それらに合わせて、学生が学ぶ範囲も広がっている。「あれも大事、これも大事と、大事なものがたくさんあり過ぎて、講師も学生も、一番大事なものが見えなくなっているように思います。2年間という限られた時間のなかで、本当に学ぶべきものは何なのか、何に時間を使うべきなのか、それを見極めて余計なものをそぎ落とし、さらに洗練されたカリキュラムの構築を目指していきたいです」。
住岡氏と吉田学園との関わり方は、非常に面白く、理にかなっていると筆者は感じる。情報収集や講師確保などの点で不利な立場にある地方の専門学校が、教育の質を高めるための取り組み方として、参考になる事例ではないだろうか。住岡氏のつくるカリキュラムが今後どのような発展を遂げるのか、引き続き注目していきたい。
TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充