日本における3DCG・映像教育の現状と課題を探るため、教育現場と制作現場の双方で活動している方々に話を聞く本連載。今回は、株式会社モックスの代表取締役として、ゲームを中心とするキャラクターアニメーション制作に特化した事業を展開する住岡義和氏に登場いただく。以前から国内の慢性的なアニメーター不足を問題視していた住岡氏は、2015年4月以降、母校である吉田学園 情報ビジネス専門学校(北海道札幌市)でのアニメーションのスペシャリスト教育にも力を注ぎ始めた。東京在住の住岡氏が、北海道の専門学校とどのように連携しているのか、その取り組みを伺った。

人は夢中になるほど上達するので、ワクワク感の持続が何よりも大切

ここ最近、吉田学園情報ビジネス専門学校 コンピュータグラフィックス学科(以降、吉田学園)では、3DCGキャラクターアニメーションの教育に力を入れている。2015年4月入学の学生は住岡氏が監修したカリキュラムで学んでおり、入学直後からMayaを使ったアニメーション制作に取り組んでいるという。これは非常に個性的な教育方針といえる。多くの教育機関は3DCGの制作工程を最初から順番に実践していくため、まずはモデリングから始め、次にテクスチャ制作・マテリアル設定・リギングをやり、それらが済んだら、ようやくアニメーションに取りかかる。続いて、エフェクト・コンポジットもやっていると、時として、どれもが中途半端な学習で終わってしまうこともある。

「3DCG未経験の学生が、2年という限られた在学期間内で、プロの目に留まるクオリティのポートフォリオやデモリール(就職活動用の作品集)をつくるためには、どこかに的を絞った方が良いというのが吉田学園の先生方の方針です。私もこの考えに賛成します。しかも、キャラクターアニメーションに特化したいから協力してほしいといわれれば、断る理由はありませんでした」と住岡氏はふり返る。

  • 住岡義和/Yoshikazu Sumioka
  • 住岡義和/Yoshikazu Sumioka
    株式会社モックス 代表取締役/モーションデザイナー。吉田学園 情報ビジネス専門学校(北海道札幌市)にて3DCGを学んだ後に上京。株式会社ナムコ(現:株式会社バンダイナムコスタジオ)ほか、複数社でゲーム開発に携わった後、2007年にモックスを起業。 日本の3DCGキャラクターアニメーションのレベルを底上げし、ゲーム・アニメーション産業の世界的競争力強化に貢献するという理念のもと、キャラクターアニメーション制作に特化した事業を展開。2015年4月からは母校の吉田学園情報ビジネス専門学校 コンピュータグラフィックス学科(2年制)のカリキュラム制作・学生作品チェックにも従事。アニメーションのスペシャリスト教育に力を注いでいる。

2015年11月現在、吉田学園の1年生は札幌在住の担任講師のもとでアニメーションを学んでおり、住岡氏は学生が制作したアニメーション課題を定期的に遠隔からチェックしているという。「まずは床の上でバウンドするボールから始まり、振り子などの"揺れもの"、足だけのキャラクターによる歩行アニメーションなどをやってきました。今後は人型のキャラクターによるパンチやキックのアクション、実写映像のロトスコープ(実写映像を1フレームずつトレースして作るアニメーション)などにも挑戦してもらう予定です」。

これらの課題は、どれもデモリールに入れることを想定した内容になっているという。「デモリールの尺(長さ)は1分あれば十分で、そのなかに作り手の力量が伝わる数秒のテストアニメーションが数多く入っているものが理想的です。採用する側は限られた時間のなかで何本ものデモリールを審査するので、長尺のものは往々にして早送りされます。また、物語仕立ての映像作品だと、何を見てほしいのかがハッキリしません」。余計なものをそぎ落とした、洗練されたデモリールの制作を目指してほしいと住岡氏は語る。

「先生に聞く。」第5回・住岡義和先生

"動いた!"というだけで満足するのではなく、動きの品質に対する探究心をもってほしい。そのために、物理法則やアニメーションの原則を教えることに注力していると住岡氏は続ける。「......とはいえ、3DCGを始めたばかりの学生なので、モデリングに心を寄せる人もいれば、物理法則を無視した動きで"ネタに走る"人もいます(苦笑)。それらを頭ごなしに否定してしまうと、モチベーションまで奪いかねない。人は夢中になるほど上達するので、つくる楽しさを実感してもらい、ワクワク感を持続させることが何よりも大切です。どう伝えればアニメーターとしての成長につながるのか、一番悩んでいるのは"伝え方"ですね」。

住岡氏はこれまでにも、自社の新人や、業界志望の学生に対する教育に従事してきた。そこでの教育ノウハウや教材が、吉田学園のカリキュラムのベースになっているが、まったく同じ教育を実践するわけにはいかないようだ。「当社の新人に相対するのと同じ感覚で、高校を卒業したばかりの学生に接しても逆効果になる場合が多い。相手の"耐性"に合わせた力加減の調整が難しいです」。

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余計なものをそぎ落とし、洗練されたカリキュラムを構築したい

半年以上にわたってアニメーション教育を受けていれば、当然ながら、学生ごとの向き・不向きが浮き彫りになってくる。「それは仕方がないことなので、無理に個々人の差を埋めようとは思いません。ただし、各々の力量や気持ちに応じた課題を設定することで、全員のワクワク感を持続させるよう気を配っています」。例えば、学習ペースの遅い学生には同じ地点でバウンドするボールの課題を出し、ペースの速い学生には移動しながらバウンドするボールの課題を出すといった工夫をしているという。

「これまでに2回、吉田学園を訪問して担任の先生の授業を見学しました。学生のペースに合わせた良い教え方をなさっていて、私自身も学ぶ部分がありましたし、安心もできました」。この先生は現役のデザイナーでもあり、教育現場と制作現場の両方の事情を理解しているので、住岡氏とも話が合うという。「私の手が回らない部分は、信頼してお任せしています」。

「先生に聞く。」第5回・住岡義和先生

面白いことに、住岡氏が授業を見学した回は、学生がつくるアニメーション課題の品質が目に見えて上がったそうだ。「私がその場にいることが、学生の緊張感を高めたようです。"ネタに走らずに、自然でリアルなアニメーション制作を心がけてください"と釘を刺したことも功を奏したのだと思います。そういう本来やるべきことのなかから、楽しさを見いだせるようになってほしいと願っています」。

この見学の際、住岡氏は学生の目の前でMayaを操作し、自らアニメーションをつくってみせたという。「プロの作業スピードや手順をライブで見せることも大切だと思います。チュートリアル動画だと、ついつい自分のペースで見てしまうので、実体を掴みきれない場合が多いのです」。プロの場合は、アニメーションの品質に加え、一定レベルの作業スピードも要求される。「今後は"スピードトレーニング"も課していく予定です。同じ内容のアニメーションを何度も繰り返してつくることで、徐々に制作時間を縮めていくという練習です。ショートカット操作を覚えたり、無駄な手順を省いたりして要領を掴んでいけば、作業スピードは飛躍的に速くなります」。

現在の住岡氏自身の課題は、洗練された専門学校向けの"キャラクターアニメーションのカリキュラム"をデザインすることだという。「それを追求することは、モーションデザイナーである私の責任だと思っています。加えて、この経験を通して、私自信の人に教えるスキルを高めることができます。このスキルは、会社経営をするうえで必用なものです。その結果、優秀なモーションデザイナーを1人でも多く発掘できたら、これに勝る喜びはありません」。

年を追うごとに、3DCGの制作技術は高度化しており、学生が社会から期待されることは多様化している。それらに合わせて、学生が学ぶ範囲も広がっている。「あれも大事、これも大事と、大事なものがたくさんあり過ぎて、講師も学生も、一番大事なものが見えなくなっているように思います。2年間という限られた時間のなかで、本当に学ぶべきものは何なのか、何に時間を使うべきなのか、それを見極めて余計なものをそぎ落とし、さらに洗練されたカリキュラムの構築を目指していきたいです」。

「先生に聞く。」第5回・住岡義和先生

住岡氏と吉田学園との関わり方は、非常に面白く、理にかなっていると筆者は感じる。情報収集や講師確保などの点で不利な立場にある地方の専門学校が、教育の質を高めるための取り組み方として、参考になる事例ではないだろうか。住岡氏のつくるカリキュラムが今後どのような発展を遂げるのか、引き続き注目していきたい。

TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充