日本における3DCG・映像教育の現状と課題を探るため、教育現場と制作現場、双方での経験をもつ方々に話を聞く本連載。今回はケーツーの代表取締役社長で、大阪アミューズメントメディア専門学校(以降、大阪AMG)の講師も務める児玉光生氏にご登場いただく。2000年に児玉氏が創立したケーツーは、大阪を拠点にコンシューマゲームを開発し続けるデベロッパーだ。2008年にカプコンのグループ会社となり、近年は『バイオハザード アンブレラコア』(2016)をはじめ、カプコンとの共同開発、開発協力タイトルを数多く手がけている。

その一方、児玉氏は2000年から現在にいたるまで大阪AMGでの講師を続けている。「学生のご両親と私とは、ほぼ同世代です。親であれば自分の子供には幸せな人生を送ってほしいと思うでしょうが、夢を見るだけでは幸せな人生につながりにくいのが現実です。ほとんどの人にとっての幸せとは、衣食住が整い、給料がもらえ、休日のある人生を過ごせることではないでしょうか。これらが整ってこそ良い仕事ができる。それが真理だと私は思います」。この真理を伝えることが自分にできる教育だと語る児玉氏に、これまでの道のりをふり返ってもらった。

一番アカンと思うのは、『何でもします』という姿勢

児玉氏が大阪AMGと出会ったのは、ケーツーの起業を決意する直前だった。「務めていた会社の近所に、大阪AMGの設立準備室ができたのです。当時は学校での教育経験などなかったのですが、『使ってくれませんか?』と門を叩きました」。頭で考えるより先に身体が動いていたと児玉氏は語る。「その頃はディレクターという肩書きで、中間管理職をやっていました。漠然と感じていた頭上の壁を突破したくて、きっかけになる何かを探していたのです。講師を経験すれば未来が開けるかもしれないと思って行動したら、すぐ採用が決まりました」。最初に受け持った講義はデッサンだったが、時代は2DCGから3DCGへの過渡期で、ゲーム開発も教育も、段階的に3DCGへ移行していったという。

  • 児玉光生/Mitsuo Kodama
  • 児玉光生/Mitsuo Kodama
    大阪府出身。1987年、アイレム株式会社にデザイナーとして入社。以後、株式会社エス・エヌ・ケイ(SNK)をはじめ、複数社でゲーム開発に携わる。2000年に株式会社ケーツーを創立。2008年には株式会社カプコンのグループ会社となり開発力を強化。『天誅』シリーズ、『バイオハザード』シリーズなど、コンシューマゲームを中心に手がけてきた。2016年8月現在の従業員数は約60名。2000年から始めた大阪アミューズメントメディア専門学校での講師は現在も継続中。ゲームグラフィックデザイナー学科で、学生の進路相談や作品指導に携わっている。近年は、ケーツーでゲーム開発に携わるスタッフたちが専門学校講師を兼任することも奨励している。

「当時も今も、多くの学生は2Dの絵を描きたいと思っています。しかもアナログ嗜好の人が多い。『描きたいなら、描かせてあげましょう』という姿勢の学校もありますが、2Dのデザイナーとして就職できる人は一握りです。プロとしてご飯が食べられるレベルの画力に達していない人が多い一方で、社員として雇ってくれる会社は少ない」。例えば、現在スマートフォンゲーム市場に溢れている2D絵の多くは、フリーランスのイラストレーターによって描かれている。3週間かけて描かれた細密な厚塗りイラストの買い取り価格が5万円というケースもあり、平均年収は決して高くない。

「もちろんプロとして堅実に仕事をなさり、家庭を築いている方々もいます。しかし、過酷で孤独な人生を歩む可能性も十分にあります。加えて、今のような2Dの絵が今後どれだけ必要とされ続けるかは未知数です」。10年後のスマートフォンは、PlayStation 4以上の性能を有しているだろう。その時代の"絵"は、3DCGを使ったセルルックレンダリングが主流になっているかもしれない。「そうなったら、アイコンだけを描いていた人、3頭身キャラだけを描いていた人は職を失うかもしれない。踏み込み過ぎかもしれませんが『最先端の技術を身に付けられる進路を選びなさい』『消耗品にならないように』と1年生の夏くらいから話して聞かせています」。

児玉氏は大阪AMGで毎年20〜30人の1年生と向き合う中で、ゲーム業界の最新事情を伝え、就職に向けた作品制作を指導している。「まずは『職種を決めなさい』『方向性を明確にしなさい』と言うのが通例です。ほとんどの専門学校生は少し前まで高校生だったので、受け身な姿勢の人が多い。中学から高校、高校から専門学校へ進学したときと同じように、学校の講義に出て単位を取れば、自動的に就職できるだろうと考えています」。

しかし現実には、講師に言われた課題を漫然と並べただけのポートフォリオをもって就職活動をしても採用にいたらない場合が多いという。「私が一番アカンと思うのは、『何でもします』『何でも良いです』『とにかく入社さしてください』という姿勢です。正直な気持ちを話してくれる点は嬉しいのですが、方向性の定まった人と比べられたときには存在が霞んでしまいます」。

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現実を伝え、別の戦い方を示すところまでが講師の役割

ケーツーの社長を長年勤めてきた児玉氏は、採用者としても学生と接してきた。「例えば背景デザイナー志望で、コンセプトアートも背景、3DCG作品も背景の学生は、ポートフォリオに目を通すだけで主張が伝わってきます。そういうポートフォリオになるよう、一貫性のある作品づくりをしなさいと伝えています」。メカが好きなら、キャラクターの課題ではロボットをつくる、背景の課題では近未来の宇宙ステーションをつくるというように課題内容を自分の方向性に合わせていけば、個性のあるポートフォリオにできるという。

「学生と話すときは『何でコレが好きなの?』という質問ばかりをしています。自分のこだわりを意識させ、分析させ、細分化させ、特化させることがねらいです。例えば多くの学生は美男美女を描くのが好きですが、そういう学生には『なんで美男が好きなの?』『女性が見てキュンとなるのはどんな美男だと思う?』『腐女子に愛される美男とどうちがうの?』といった質問を投げかけていきます。そこまで考え、バリエーションを増やし、個性を出せば、きっと採用担当者の目に留まると思うのです」。

学生1人1人の個性と向き合い、個別指導を心がけている児玉氏のアドバイスは、ときに真逆になる場合もあるという。「直感で上手く描ける学生もいれば、描けない学生もいます。直感で上手く描けないなら、考えて描くよう伝えます」。それでも描けない学生には、別の道を勧めることもあるという。「描けない学生に『下手やね』と言っても傷つくだけなので、『このままやったら、就職は厳しいかもなあ』『モーションちょっとやってみる?』『エフェクト興味ある?』といった話をします。『就職は厳しい』というのは現実なので、受け入れやすいようです。それと合わせて、別の戦い方を示すところまでが講師の役割だと思います」。

ゲーム業界のニーズに即した児玉氏の個別指導を大阪AMGも評価し、現在ではモーションやエフェクトに特化した講義も実施しているという。「最近は当社の第一線で活躍しているデザイナーたちにも講師業を経験してもらっています。私よりも専門的で最先端の内容を伝えられますし、教えることで自分の知識や技術が整理され、デザイナー自身も成長します」。学生はゲームのユーザーでもあるので、市場の流行を肌身で感じられるメリットもあるという。

「ゲーム業界で職を得て、最先端の技術を使った開発に携われば、衣食住も、給料も、休日も手に入ります。そういう人生を歩んだ方が学生は幸せになれると思います。『間違ってるかもしれんけど、俺はそれが真理だと思うよ』と言って、最後は学生自身に自分の進路を選んでもらってきました。そうやって多くの学生をゲーム業界に送り出してきましたし、今後も送り出していくつもりでいます」。

ドット絵の時代に仕事を始め、ゲームエンジンを使ったフル3DCG表現が当たり前になった現在にいたるまでハイエンドのゲーム開発に携わってきた児玉氏。長い経験に裏打ちされた話は含蓄に富んでおり、だからこそ学生の自主的な行動を促す力をもっているのだろう。今後も、児玉氏とケーツーのスタッフが学校教育に携わり続けてくれることを期待したい。

TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充