現実を伝え、別の戦い方を示すところまでが講師の役割
ケーツーの社長を長年勤めてきた児玉氏は、採用者としても学生と接してきた。「例えば背景デザイナー志望で、コンセプトアートも背景、3DCG作品も背景の学生は、ポートフォリオに目を通すだけで主張が伝わってきます。そういうポートフォリオになるよう、一貫性のある作品づくりをしなさいと伝えています」。メカが好きなら、キャラクターの課題ではロボットをつくる、背景の課題では近未来の宇宙ステーションをつくるというように課題内容を自分の方向性に合わせていけば、個性のあるポートフォリオにできるという。
「学生と話すときは『何でコレが好きなの?』という質問ばかりをしています。自分のこだわりを意識させ、分析させ、細分化させ、特化させることがねらいです。例えば多くの学生は美男美女を描くのが好きですが、そういう学生には『なんで美男が好きなの?』『女性が見てキュンとなるのはどんな美男だと思う?』『腐女子に愛される美男とどうちがうの?』といった質問を投げかけていきます。そこまで考え、バリエーションを増やし、個性を出せば、きっと採用担当者の目に留まると思うのです」。
学生1人1人の個性と向き合い、個別指導を心がけている児玉氏のアドバイスは、ときに真逆になる場合もあるという。「直感で上手く描ける学生もいれば、描けない学生もいます。直感で上手く描けないなら、考えて描くよう伝えます」。それでも描けない学生には、別の道を勧めることもあるという。「描けない学生に『下手やね』と言っても傷つくだけなので、『このままやったら、就職は厳しいかもなあ』『モーションちょっとやってみる?』『エフェクト興味ある?』といった話をします。『就職は厳しい』というのは現実なので、受け入れやすいようです。それと合わせて、別の戦い方を示すところまでが講師の役割だと思います」。
ゲーム業界のニーズに即した児玉氏の個別指導を大阪AMGも評価し、現在ではモーションやエフェクトに特化した講義も実施しているという。「最近は当社の第一線で活躍しているデザイナーたちにも講師業を経験してもらっています。私よりも専門的で最先端の内容を伝えられますし、教えることで自分の知識や技術が整理され、デザイナー自身も成長します」。学生はゲームのユーザーでもあるので、市場の流行を肌身で感じられるメリットもあるという。
「ゲーム業界で職を得て、最先端の技術を使った開発に携われば、衣食住も、給料も、休日も手に入ります。そういう人生を歩んだ方が学生は幸せになれると思います。『間違ってるかもしれんけど、俺はそれが真理だと思うよ』と言って、最後は学生自身に自分の進路を選んでもらってきました。そうやって多くの学生をゲーム業界に送り出してきましたし、今後も送り出していくつもりでいます」。
ドット絵の時代に仕事を始め、ゲームエンジンを使ったフル3DCG表現が当たり前になった現在にいたるまでハイエンドのゲーム開発に携わってきた児玉氏。長い経験に裏打ちされた話は含蓄に富んでおり、だからこそ学生の自主的な行動を促す力をもっているのだろう。今後も、児玉氏とケーツーのスタッフが学校教育に携わり続けてくれることを期待したい。
TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充