オープンワールドのニューヨークをスパイダーマンが自在に飛び回る「Marvel's Spider-Man」シリーズの最新作。Insomniac Gamesの主要スタッフにその技術的なチャレンジについて聞いた。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 307(2024年3月号)からの転載となります。

    より広大なニューヨークをより高速に飛び回る

    『Marvel's Spider-Man 2』は、『Marvel's Spider-Man』(2018)と『Marvel's Spider-Man: Miles Morales』(2020)の真の続編を目指して開発された。

    『Marvel's Spider-Man 2』
    発売:ソニー・インタラクティブエンタテインメント/開発:Insomniac Games/リリース:発売中/価格:8,980円(通常版)/Platform:PS5/ジャンル:アクションアドベンチャー
    www.playstation.com/ja-jp/games/marvels-spider-man-2
    ©2023 MARVEL. ©2023 Sony Interactive Entertainment LLC. Developed by Insomniac Games, Inc.

    「本作の最もエキサイティングな要素のひとつは、2人のスパイダー・ヒーローを中心にゲームが構築されていることです。マイルズとピーターの関係がどのように成長し、変化していったかを示したかったのです。以前はピーターが指導者でありマイルズが学ぶ立場でしたが、本作ではパートナーシップを築いた2人のスーパーヒーロー。このことがゲームのあらゆる面に影響を与え、最終的に彼らは協力してヴェノムに立ち向かいます」と語るのは、Insomniac Gamesのシニアゲームディレクター、ライアン・スミス氏。

    上段左から ライアン・スミス氏、マイク・フィッツジェラルド氏、ダスティン・ブラウン氏、ボビー・コディントン氏、エド・ルイズ氏、下段左から アンナ・ローアン氏、サブリナ・オオイ氏、ジン・ジン・リウ氏、ジョナサン・ビショップ氏、マイク・ディメオ氏、ハリソン・アイラーズ氏、写真なし ブライアンナ・リンゼイ氏、エリオット・グロスマン氏
    以上、Insomniac Games

    開発のもうひとつの焦点としては、スパイダーマンに寄生する生物「シンビオート」が挙げられる。作中には多様なシンビオートが登場するが、チームはこれを見事につくり上げた。シンビオートは作中で重要な役割を担い、その悪の影響力はゲーム内の多くのストーリーと世界の進化を牽引した。

    さらに、過去作でも注目されたオープンワールドを、本作では2倍に拡張。そこにはコニーアイランドのようなランドマークから、ミッションや戦闘シーンにユニークな雰囲気を与える住宅街まで、新たな素晴らしいロケーションが含まれている。広大なワールドと、新開発のトラバーサル(高速移動)システムによる前作の2倍に及ぶ移動速度など、本作はPS5のパワーを最大限活用して開発された。

    レイトレーシング等のレンダリング機能により環境の見映えが向上したほか、オーディオチームが担当したコントローラの触覚反応により、戦闘やミッションの没入感を高めている。

    リアリズムを追求したキャラクター制作

    肌と髪のシェーダ改良に注力

    前2作によってリアリズムをベースとしたアートの方向性を確立した本シリーズだが、本作でもそれを引き継ぎ、レンダリング技術の面でリアリズムをさらに推し進めた。キャラクターについては、顔や体の筋肉をより正確にシミュレーションし、顔のレンダリング機能の向上を目指している。

    「初期のテストでは、キャラクターの顔に焦点を当て、ヘアグルーミング・レンダリングの新しいテクニック、肌のうぶ毛、肌や歯の光透過率を推定するシェーダの改良などを行いました」(ディレクター/コアテクノロジーマネジメント マイク・フィッツジェラルド氏)。

    キャラクター制作は、テンプレートアセットをオーサリングすることで、強力な基礎が固まった状態でスタートできる。プリプロ段階でユニバーサルなボディトポロジーとUV、さらにスパイダーマンのテンプレートジオメトリ、一般的なパーツ一式(ファスナー、ボタン、バックル、クリップなど)を入念に準備して本開発を開始した。

    「まずテクニカルアートチームと協力して三角ポリゴンの予算範囲を決定します。『範囲』と言ったのは、キャラクターによって重視する部分やニーズが異なるため、ある程度柔軟に対応できる目標をアーティストに提供したいからです。

    さらに、TAと緊密に協力して、期待されるクオリティを達成しつつパフォーマンスと適度なコントロールのバランスがとれたキャラクターシェーダを開発しました」(シニアキャラクターアーティスト ダスティン・ブラウン氏)。

    最適化とパフォーマンスが重要になる分野としては、Hairのパイプラインが挙げられる。スプラインベースはHairカードよりも重くなる傾向があり、コニーアイランドでのピーター、マイルズ、ハリー、MJのように複数の主要キャラクターが同時に画面に登場する場合には瞬時にパフォーマンスを悪化させる。

    そこで本作ではHoudiniを用いてストランド数とCV数を最適化し、内製エンジン側には、ベースストランドから軽量なインスタンス化ストランドを生成したり、毛の形状から毛先までのカラーなどを入力できるツールを用意。HoudiniでのCV最適化は、グルームのエンジン組み込み後のトライアングル数削減に直結し、劇的なパフォーマンス改善を実現した。

    「各部門の代表者が出席するパフォーマンス最適化ミーティングがあり、各チームがショットやプレイアブルセクションを目標フレームレートに戻すためにどのように貢献できるか、全員で意見を出し合いました」(ブラウン氏)。

    キャラクター制作のプロセス

    キャラクターデザインは多岐にわたり、制作プロセスも多様となった本作。そのためキャラクターチームは全員様々なツールに精通している必要があり、布ならスキャンからMarvelous Designerの併用、ZBrushによるリファインなど柔軟に選択。

    社内にコスチューム用・頭部用のスキャナがあり、内製するアセットはできるだけスキャンを実施した。前作から引き継いでいるのはピーターの頭部のみでそれ以外は新規モデルとのこと。

    またピーターの頭部についても、リマスター版で改良されていたことを受けての流用であり、最新のスキンシェーダを適用してライティングに反応するようになり、テクスチャ更新、ポリッシュなどが行われている。

    Houdiniの活用

    実在しないキャラクターはスキャンができず、ZBrushやHoudiniなどを用いた、クラフト中心の職人的プロセスとプロシージャルなパイプラインの組み合わせで制作された。画像は本作の敵キャラクター、クレイブン・ザ・ハンター。大量のHairはHairカードではなくスプラインベースのグルーミングを採用。本作ではXGenからHoudniに切り替えられた。

    「パイプラインチームは強力なHoudiniブリッジツールを制作し、XGenを使用していたときよりもはるかに迅速にグルーミングをエンジンに組み込み、効率良くイテレーションを回すことができました。XGenではカーブが増えてくるとイライラするほど重くなりましたが、Houdiniはプロシージャルのツールセットだけでなくビューポートも優れていました」(ブラウン氏)。

    スパイダースーツの質感表現

    各スーツには制作のスタートラインとなるテンプレートモデルが存在し、第1作の開発中に作られたバージョン1から、本作のプリプロダクション中にアップデート版が制作された。

    各スーツ制作では、テンプレートモデルに対してSubstance 3D Painterで素早くペイントしてレビューを受け、賛同が得られたらパイピングやパネルなどのサポートモデリングを追加してつくり込みを行う。

    さらに、ゲーム解像度のベーステクスチャでは担保できない情報量をディテールマップで追加する。シェーダはUVセットを2つ使用し、ひとつはベーステクスチャ、もうひとつはダメージやVFX等に使われる。

    • ピーターとマイルズ
    • ピーターとマイルズ
    • バイオメカニカル・スーツ
    • 特撮スーツ
    アギマット・スーツ
    25世紀スーツ

    ヴェノム

    本作の敵キャラクター・ヴェノム。他のキャラクター同様ヴェノムも大規模な共同作業となり、コンセプトを経て、プロポーション、とりわけ頭部が画面中で上手く視認できるよう、かつ要求される創造的・技術的要件を全て満たすよう、改良がくり返された。

    ヴェノムは極端な表情をすることがあるクリーチャーであり、その演技・感情表現には高い説得力が求められる。そのためモデルからリギング、アニメーションまで部門横断で緊密な共同作業となった。

    「スカルプトやリグは本当にたくさんのレビューをしました。完璧なプロセスではありませんでしたが、私たちはチームとして多くのことを学びました」(ブラウン氏)。

    インタラクティブな体験を強化するモーション

    シンビオートからサンドマンまで多彩で自由な動きを生み出す

    全てのキャラクターのモーションは、複数のクリエイティブな視点から実験が行われ、イテレーションをくり返して仕上げられる。特に触手を含むブラックスーツ、シンビオート関連のモーションは本作の焦点となった開発のひとつ。このためのバーティカルスライスで実験をくり返してスタイルを模索し、実制作に入ってもひき続き多くの発見と改良に取り組んだ。

    「キャラクターは触手をどのように使って攻撃するのか、物理的にはどのように動作するのかについて、私たち戦闘アニメーションチームは驚くべき境地を拓き続けているように感じました」(シニアアニメーションディレクター ボビー・コディントン氏)。

    多くの場合、プリプロでの初期技術開発にあまり時間をかけない同社だが、シンビオートのアニメーションとレンダリング技術については、研究開発は困難を極めたという。

    「Insomniacのコア・テクノロジー・チームは、1つのチームが同時に複数のゲームに取り組んでいます。このチームは常に開発現場を意識しており、別のゲームのプリプロダクション中に1つのゲームを完成させ、1つのタイトルの実験に専用の時間を費やすのではなく、共有されたエンジン技術ベースに継続的に新機能を追加しています」(フィッツジェラルド氏)。

    大量の触手や蔓をアニメーションするための内部ツール、実機で60fpsでレンダリングするための新しい描画手法の開発には多くの時間が割かれ、本作の開発に貢献している。

    さらに、本作の冒頭に登場するサンドマンの制作は、その巨大さからまずプリビズムービーがつくられ、これをインタラクティブな体験にするには? という観点で取り組まれた。建物のような大きさのサンドマンには移動と戦闘に多くの課題があり、解決のために多くのアイデアが費やされた。

    「初期のアイデアとして、彼をビルの大きさの砲台として機能させる、というところから出発しました。存在感があり、インタラクティブで、基本的にパフォーマンスも良好。あるエリアから別のエリアへのトランジションも追加し、スパイダー・ヒーローが彼を追いかけながらスイングする楽しい体験をつくることができました」(コディントン氏)。

    オープンワールドでのアクション

    オープンワールドで違和感なくキャラクターとオブジェクトがインタラクションするためには、例えばドアを開けるアニメーションは見た目の異なる多数のドアに対して同じアニメーションを使うかもしれない。それは椅子、階段、テーブル、乗り物についても同様で、さらにプレイアブルキャラクターだけでなくエネミーやNPCにも及ぶ。

    「彼らの小道具や乗り物など、全て限られたアニメーションセットで賄う必要がある。つまり私たちアニメーターはデザイナー、モデラー、エンジニアと協力して、ビジュアルの必要性を解決し経済的にも問題のない、最善な解決策を考えなければならないのです。事前に小道具やセットがある場合は、可能な限りリアルなインタラクションを得るために、それらのモックアップを使ってモーションキャプチャを撮影します」(コディントン氏)。

    トラバーサル(高速移動)アニメーション

    マンハッタンからブルックリンへの横断にあたり、街中を高速で移動するトラバーサルシステムに挑戦。スーツを翼のように広げて滑空するウェブ・ウイングや風洞、上昇気流による新たな高速移動が可能になった。

    さらにヒーロー・トラバーサル・アニメーターを務めるエリオット・グロスマン氏は次のように語る。

    「非常階段はニューヨークの象徴的な部分であり、このためのカスタムトラバースを作るのに特別にコストを割いています。階段登りやその他の環境的な課題を解決したりするために新しい技をひらめく。そのために環境を利用するというのは、街の個性がヒーローの個性を引き出す方法でした」。

    ウェブ・ウイング
    ウェブ・ウイング
    • ウェブ・スイング
    • 移動中に見られる美しい風景

    ブラックスーツのモーション

    シンビオートが寄生したブラックスーツのモーションは、バーティカルスライスで短いシネマティックをいくつか作成し、ヒーロー然としたものではなく乱暴なポーズや態度、また触手などを実験した。止まり木に飛び乗る方法さえもよりスパイディらしくないものを目指し、さらに戦闘では怒りに満ちた、容赦のない攻撃的な表現となった。

    「キャラクターに命を吹き込み、完全なゲームプレイ体験とストーリーを実現させるということは、デザイナー、脚本家、声優、モーションアクターやクルーとの協力を意味します。その全てが美しいモデルに乗り、リグ、VFXの助けを借りてシンビオートの触手が完成する、それらの努力の積み重ねが、最終的な体験に貢献するのです」(コディントン氏)。

    前作の2倍の広さを誇る新たなニューヨーク

    プロシージャル技術を活かした都市の構築

    前作までのマンハッタンにブルックリンとクイーンズが加わり、街の規模がこれまでのほぼ2倍となっている本作。その全域に対してグラフィックの強化やシステム改善、ゲームプレイのフックなどを適用していく作業量は膨大であり、またテストにも時間がかかる。

    当然ながらプロシージャル面での継続的な進化は不可欠であり、大規模作業を助ける多くのツールが開発された。オープンワールドのための新開発のほとんどは、オフラインのプロシージャルなオーサリング、データをディスクに収めるためのベイクと圧縮、レイトレース有効で60fpsでレンダリングするためのランタイム計算を、慎重にバランスさせたものとのこと。

    「われわれのプロシージャルレイアウトツールは、都市全体で多くの作業を行うために使用されました。Houdiniにジオメトリックな都市データを完全に取り込み、それを使用して、都市エリア周辺に小道具や植物をレイアウトしたり、オーディオシステムの伝搬ボリュームを定義したりすることができます」(フィッツジェラルド氏)。

    何万もの建物の壁の汚れや、汚れのボリューメトリックなディテールマップを、手作業ではなくプロシージャルなツールを使ってベイク。また、道路や歩道に多くの位置データをベイクし、よりスマートなランタイム・サーフェス・シェーダが、時間帯の変化に基づいて摩耗や濡れをプロシージャルに処理できるようなしくみを構築した。

    「本作のような巨大なオープンワールドを構築する場合、パイプラインの効率が最重要です。グラフィックを妥協せずオープンワールドを構築する方法に知恵を絞りました」(エンバイロメントアートマネージャー マイク・ディメオ氏)。

    窓や日よけ等はトリムシートでテクスチャリングされ、レンガや漆喰のような壁はワールドスペースにタイリングテクスチャを貼れるモジュラーチャンクを使用して建物を構築。マテリアルには全ての外観を変更するための多くのパラメータを設け、オープンワールドの隅々まで機械的でない外観を担保し、道路や歩道は全てHoudiniでプロシージャルに生成され、複数のレイヤーマテリアルを使用して描画されている。

    最適化にはインポスターとAutoLODシステムが貢献し、前者はPS4版『Marvel's Spider-Man』でも使用されていたが大幅に品質を向上、後者はアルゴリズムによってトライアングル数を削減でき、自由に空間ディテールを追加しつつ最適化の時間を減らすことができた。

    広大でオープンなニューヨーク

    作中ランドマークの一例。これらの作成にあたっては、プレイヤーにとって印象深く、興奮するような場所に焦点を当てて選出。新エリア「クイーンズ」「ブルックリン」については、前作までのマンハッタンとは少し異なる、新しく興味深いゲームプレイを提供できるかどうかも検討された。

    「例えばクイーンズの新しい住宅街は、ハンターと戦うときにまったく異なる感覚を与えてくれます。また、トラバーサルモーションにも異なる感覚を提供し、低層ビルの間でウェブ・ウィングやウェブ・スリングショットの動きをもう少し使いたくなるかもしれません」(スミス氏)。

    新エリアを結ぶ橋を渡る体験は、ついに川を渡れることで素晴らしい気分になれる以外に、トラバーサル・システムの新たな機会にもなった。「私たちは水面を少し滑空する新しいしくみも追加し、さらに川のボートからのポイントランチングでこれらのしくみを連鎖させました」(スミス氏)。

    道路と歩道のシェーダ

    都市全体に存在する「道路」と「歩道」についてはシェーダを大幅に見直した。道路は5つの異なるレイヤーからなり、ベーステクスチャでは反復感をなくすためにワールドスペースのセル・ボムUVを利用。次に汚れレイヤーが3層あり、アスファルトのパッチと車線のウェザリングではタンジェントスペースUVを利用して個々の道の向きに合わせている。

    もう一層の汚れレイヤーではワールドスペースのセルボムUVを使用。最後にグローバルなスプラットマスクを用いた水たまりレイヤー。時間帯や天候によって動的に制御される。歩道では、タンジェントスペースを用いたマクロテクスチャのセットをベースと汚れレイヤーにブレンド。各タイルはモデリングされ、HoudiniでランダムなUVを生成している。

    次世代機クオリティを意識したエフェクト制作

    ゲーム内の環境を進化させる様々な挑戦

    本作では、エフェクト素材へのレイマーチングの使用、新しい破壊システムの構築など、ゲーム内の環境を進化させるためのエフェクト面での挑戦が数多く行われた。

    「このゲームでは、『次世代ゲームをつくる』ということに集中しました。特にシンビオート関連のテクノロジーは、チームにとってチャレンジングでやりがいのあるものでした。戦闘エフェクトはこのゲームのお気に入りの要素のひとつで、前世代より多くのジオメトリを扱えるようになったので、パーティクルエフェクトは今でも私たちのパイプラインの重要な部分ですが、メッシュパーティクル(3Dジオメトリ)も多用して動きや攻撃をよりリアルに感じさせています」(エフェクトアートマネージャー ブライアンナ・リンゼイ氏)。

    シンビオートのFXメッシュも、液体が動くシミュレーションを作成し、ディテールが加えられている。

    エフェクト制作には、Houdini、MayaEmberGenSubstance 3D DesignerPhotoshopといった業界標準のツールを多数使用。その上で、アーティストがコア・チームと緊密に協力し、これらのソフトからゲームエンジンへ、特にシンビオートの触手など、より興味深いコンテンツを生み出していった点が真のイノベーションとなっている。

    さらに、VFXチームは、コアチームとカスタムパイプラインを構築する必要のある、シネマティクスでのシンビオートのシミュレーションも数多く行なった。これらには、アモルファスから解き放たれたシンビオートが最初に登場するときのシミュレーションや、ピーターの体からブラックスーツが引きちぎられるときのシミュレーションなどが含まれる。

    「これらのシミュレーションはHoudiniで作成され、社内で構築したパイプラインを使用して当社のエンジンにインポートされましたが、全てリアルタイムでレンダリングされました。社内システムのカスタムコントロールにより、蔓のサイズや長さなど、スプラインを使ってシンビオートの触手を動かすことができました」(リンゼイ氏)。

    戦闘エフェクト

    技の発動に合わせて、プレイヤーに何が起こっているのかを伝えるのが戦闘エフェクトの役割だ。VFXチームだけでなくデザイン、アニメーションとのチームワークが必要で、どの技もフィーリングを正しくするために何度も調整をくり返している。

    • マイルズのヴェノム・パワー
    • スパイダー・アームによる攻撃
    ブラックスーツのシンビオート。戦闘エフェクトの多くはメッシュを用いて次世代的な立体感を演出

    環境エフェクト

    サンドマンの竜巻の構築には、Houdiniのレイマーチを用いた深度とモーション情報を付与している。さらにVFXチームはシネマティクスでのシンビオートのシミュレーションも多数対応。コアチームと協力してカスタムパイプラインを構築し、Houdiniで作成しエンジンへインポート、全てリアルタイムで描画されている。このように、パーティクルと次世代技術を許される限りミックスして作成している。

    美しさと遊びやすさを両立させるライティング

    新たに2種類のライトシステムを実装

    「私たちはどの時間帯も理想的な姿を捉えようとしました。適切な色づかいとコントラストに気を配ることで、美しさだけでなく遊びやすさにも配慮しています」と語るのはアソシエイトアートディレクターのエド・ルイズ氏。本作ならではのオープンワールドのルックを構築するにあたり、映画やプロの写真家によるニューヨークの情景などからも多くのインスピレーションを得たという。

    ライティングチームは、社内のエンジニアリング・チームが長年開発してきた内製ツールを使用して画づくりを行う。キーライト(太陽・月)、ライトベイク、トーンマッピング/露出、カラーコレクション、ボリュームフォグ、ベースレベルフォグ、天候変化などは一連のダイヤル操作で制御可能となっている。

    また、映画制作で使用されるパイプラインにマッチするようなカラーグレーディングを推し進め、これにより、迅速なイテレーションが可能になったとのこと。「ポストプロセスは、グローバル及びボリュームによるローカルでのオーバーライト、またシネマティクスでのショット単位・フレーム単位での調整に対応しています」(ライティングアーティスト サブリナ・オオイ氏)。

    ライティングにおける大きな進歩のひとつとして、「プロキシライト」システムが挙げられる。これによって、動的ライトを非常に投射距離が長く、低負荷で最適化されたものに置き換えることができたという。

    「これまでの『Marvel's Spider-Man』では遠景を照らすためにはライトベイクに頼っていましたが、このシステムで、距離に関係なく常に街全体を動的に照らすことができるようになりました。街灯からベイクド・ライティングがほぼ取り除かれたことで、キャラクターから小道具までライティングのコントラストがよりリアルになりました」(シニアライティングアーティストジョナサン・ビショップ氏)。

    さらに追加されたライトとして、「トラッキングライト」がある。これはプレイヤーを追尾するオプションのライトで、ライティングのコントラストを高め暗いエリアでもキャラクターの見映えを確保するのに貢献した。

    HDRトーンマッピングも過去作より改善、より明るい太陽光を提供しつつ、ゲームプレイのためにシャドウ部分も見えるように調整した。また新しくローカルトーンマッピング機能を追加し、より広い露出範囲で空の彩度を維持してブルームが視界を圧迫するのを防いでいる。

    ニューヨークの昼と夜

    雲はスカイボックスとボリューメトリックを併用し、深度だけでなく街の空の美しさも演出。各時間帯の色を注意深く参照し、視覚的にだけでなく精神的にもプレイヤーが作品世界を実感できるような色づかいに。「夕日の温かみのあるゴールド、日の出のピンクがかったウォッシュ、曇り空の冷たいグレーとブルーなどは、適切に表示されてこそ実感できるのです」(エド・ルイズ氏)。

    「眠らない街・ニューヨークの夜を、暗い場所でも活き活きと描くのは私にとってこのプロジェクトでの最大のチャレンジでした。広大な都市を描くためどこでも通用する解決策はなく、魅力的な暗闇でありつつヒーローは常にハッキリ視認できるという完璧なバランスを見つけることが課題でした」(シニアライティングアーティスト アンナ・ローアン氏)。

    街中に大きなライトを置き、近づくにつれて暗くすることで都市の光害を演出。さらに、スクリプト化されたヒーローライトや「プロキシライト」というライトを新たに用意し、ライトを遠くまで伸ばしてもパフォーマンスに支障がないよう対応した

    シャドウ

    MJがピーターを探す緊迫したミッションでは、ホラー映画の伝統的な影の使い方でピーターに何か異変が起きていることを伝えた。

    リザードが登場するミッションでは、大きな影を落としてストーリーの変化やキャラクターの能力に関する重要なディテールを強調。これも伝統的なライティング手法だ。このほか、あるミッションでは壁に落としたサメの頭の影で注意を引きつつ、魚市場の複雑なディテールは影の中に隠すなどプレイヤーの誘導にも使われた。

    「影を効果的に使えば、ゲームのムードを高めストーリーテリングに貢献します。プレイヤーを意図したルートへ導き、ネガティブな空間をつくり出して全体的な構図を改善します」(シニアライティングアーティスト ジン・ジン・リュウ氏)。

    CGWORLD 2024年3月号 vol.307

    特集:『ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー』ティザートレーラー
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年2月9日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_岸本ひろゆき
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada