福岡市内のクリエイティブ企業へのU/Iターン転職プロジェクト「福岡クリエイティブキャンプ 2015」。先だって開催された東京会場に続き、10月24日(土)には大阪電気通信大学(寝屋川キャンパス)でCGWORLD CREATIVE MEETING(大阪)が開催。福岡市の魅力や働き方に関する紹介もからめられた東京会場に対して、大阪会場では最新の開発技術が深掘りされ、より実践的な内容となった。参加者は大阪・京都・奈良・兵庫・滋賀と関西全域から約150名にのぼり、多くのクリエイターと学生が会場に訪れた。

イベントは福岡市企業誘致課の内田沙弥香氏による挨拶から始まった。福岡市による無料の転職サポートや移住後のフォローが受けられ、移住者(応援金交付対象要件を満たしている移住者)には40万円の応援金も支給される本制度。現時点では約100名の登録があり、すでに7名(10月30日現在)の内定者も出ているという。「福岡クリエイティブキャンプには、日本だけでなく世界で活躍する約50社からの求人申込みがあり、皆さんのチャレンジを待っています。福岡市としても全力をあげてバックアップしていきます」と意気込みを語った。

セッション1:
スペシャル対談「消えるクリエイターと伸びるクリエイター」

▼登壇者
サイバーコネクトツー
松山 洋氏/代表取締役
フロム・ソフトウェア
竹内 将典氏/専務取締役
ゲームジャーナリスト・NPO法人IGDA日本理事長
小野憲史(モデレーター)

福岡に本社を持ち「NARUTO−ナルト− 疾風伝 ナルティメットストーム」シリーズなどで知られるサイバーコネクトツーと、東京に本社を持ち「DARK SOULS」シリーズなどを手がけるフロム・ソフトウェア。サイバーコネクトツーは5年前に東京スタジオをかまえ、フロム・ソフトウェアは来春より福岡スタジオを新設と、互いに共通項も多い。本イベントはそんな両社の「顔」ともいえる松山洋氏と竹内将典氏のスペシャル対談でスタートした。

▲(左)フロム・ソフトウェア 竹内 将典氏 (右)サイバーコネクトツー 松山 洋氏

ともにゲーム業界歴が約20年というベテランクリエイターだが、意外にも本格的な顔合わせは今回が初めてだったという二人。事前打ち合わせもそこそこに開催されたが、十年来の友人のように息のあったトークが繰り広げられ、会場をわかせた。モデレーターは筆者(小野憲史)が担当した。

「伸びたクリエイター」の代表でもある両名。美大出身だがゲームデザイナーとして入社したという竹内氏は「20代後半のころ、演出やプログラムなど一通りの仕事を経験できた時期があった。『アーマードコア』などのタイトルで、会社の規模も小さく、一番成長できた」とコメント。一方、建築業界を経て友人とゲーム会社を立ち上げた松山氏は、「30歳のころ社長が逃げて会社が倒産し、自分を中心に再建した。第一作『.hack(ドットハック)』の開発も含めて、何でもやらざるを得なくなり、人生の節目だった」と回想。ともに成長要因として、20代後半から30歳前後における環境の変化をあげた。

これに対して「消える(=伸び悩む)」クリエイターの特徴には、「素直じゃない人」「考えていない人」(竹内氏)、「本当の意味でゲーム作りが好きではない人」(松山氏)などの特徴があるという。また松山氏は「ゲーム作りの大規模化とともに、組織力の勝負になっているため、クリエイターがやりがいを実感しづらくなっている点もある」と分析。もっとも、その中でも自ら「成長スイッチ」を入れられる人はいると回答した。竹内氏も同意見で、会社はクリエイターに対して「成長するための環境やきっかけを提供できるだけ」だとコメント。松山氏も「ピンチとチャンスと環境は平等に与える」と補足した。

最後に「クリエイターを延ばすためのスイッチの入れ方」では、松山氏は繰り返してメッセージを伝えることの重要さを説いた。「20人程度では簡単に伝わることでも、200人以上になると伝わらない。紙に書いて張り出すくらいで丁度良い」(松山氏)。一方で竹内氏は面談をはじめ、各々へのフォローを重視しているといい、1人につき年間3ー40時間はさいているという。「悩みを聞くことで、自分が本当に何がしたかったのか取り戻し、のびるクリエイターもいます」(竹内氏)。松山氏も同意しつつ、「学校ではなく企業なので、全員に平等にケアはできない。結局は自分次第」と釘を刺していた。

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セッション2:
exsa流ビジュアルコンセプト作成術

▼登壇者
exsa
山口 一夫氏/制作部 ディレクター
海老澤 広樹氏/制作部 副部長・プロデューサー

札幌・東京・名古屋・福岡の各拠点をネットワークで結び、有機的なプロジェクト進行を進めるexsa。地方スタジオが主導して東京スタッフが制作することもあり、地方在住でも東京と変わらない仕事ができる点が、社員のモチベーション向上にも貢献しているという。そんな同社ではスタッフ間やクライアントとの意思疎通を深めるために、ビジュアルコンセプトの制作を重視。ディレクターの山口氏がそのノウハウを披露した。

▲(左)exsa 海老澤 広樹氏 (右)山口 一夫氏

「ビジュアルコンセプトで最も重要なのはインパクトで、これが乏しいと関係者のモチベーションが高まらない」と語る山口氏。今回はゲーム系の依頼を想定し、みずから「古い甲冑・不死鳥・ボスキャラ」という題目を設定した。その後「リファレンス(資料)収集」「イメージラフの作成」「ベースモデルの制作」「エフェクト制作」「背景の制作」「コンポジット」と続く一連の流れについて解説した。

ベースモデルは3ds Maxで制作され、静止画にもかかわらずボーンが入れられている。これは早い段階でポーズとレイアウトを設定し、その後の修正も容易にするため。山口氏は「ポーズはキャラクター性を表現する上で最も重要な要素で、ボーンを入れておくと後から微調整がききます。チームやクライアントからの要請に迅速に答える上でも重要です」と語る。ポーズとレイアウトが決まると、ZBrushでディティールを追加。テクスチャーもZBrushで出力したマップを重ねて使用しており、彩色はPhotoshopで行われている。

背景をAfter Effectsで作成している点も本作の特徴だ。これにはベースモデルが3Dで制作されており、解像度の拡大などがしやすい点と、コンポジットワークが専門という山口氏の専門分野も大きい。雲はFumeFxを使用して素材を作成し、After Effects上でレイアウト。「背景で重要なのはスケール感の表現。手前に密度のある雲、奥に細かい雲を配置するなどして、視線誘導にも配慮しています」(山口氏)。太陽の表現にはOptical Flaresを使用しているが、単純に光源を配置すると平面的になりがちなので、雲を重ねてリアルに見えるような配慮も行われている。

最後にAfter Effects上でキャラクターを配置して、コントラスト・色味・被写界深度などを調整。一連のポストエフェクトと共に、全体的なブラッシュアップをすませれば完成だ。手前に細かい炎のエフェクトを追加するなど、絵としてのメリハリも強調されている。

  • 「ビジュアルコンセプトでは、どこを見せたいかポイントを絞ることが重要です。それによってインパクトも出てきます」と山口氏は強調していた。

セッション3:
次世代機におけるリアルタイムアニメ表現への取り組み

▼登壇者
サイバーコネクトツー
芦塚 慧祐氏/業務部 制作推進課 技術支援室 テクニカルアーティスト

ゲーム機の性能向上が表現力の増加に不可欠なゲームビジュアル。その一方でゲーム機のライフサイクルにより、開発工程が影響を受けることもある。もともとPlayStation(PS)3世代とPS4世代のマルチタイトルとして開発が始まり、途中でPS4世代の専用タイトルに変更された「NARUTO−ナルト− 疾風伝 ナルティメットストーム4」は好例だ。ステージやキャラクターデータなど、過去のリソースを引き継ぎながら、どのように最新のビジュアル表現が行われたのか、芦塚氏が解説した。

▲サイバーコネクトツー 芦塚 慧祐氏

物理ベースのフォトリアルな絵作りが主流の中、同社がめざすのはセルシェードがベースの「超アニメ表現」だ。中でも重要な要素がパーティクルで、ボス戦では画面あたり2〜3000個ものパーティクルをとばしたという。これに伴い従来の描画システムではCPU負荷がかかりすぎることが判明。背景にはパーティクルの総量もさることながら、ゲーム機がPS3からPS4に移行し、CPUのコア数は増えたものの、クロック数が低下した点があった。そのため描画処理をマルチスレッドに移行し、乗りきったという。

新たにキャラクターの負傷表現なども加わった。もっとも既存キャラクターでは過去作のモデルを流用し、傷や汚れなどのデカールを表面にのせることで、約800時間(8時間×100体)の作業時間短縮を実現している。背景に落ちる影の計算による描写(セルフシャドウの自動化)や、フリンジ(色収差)の表現、魚眼レンズによるダイナミックな絵作りなども行われており、次世代らしさを演出している。ステージの色相調整やトーンカーブ設定などをツール上で効率的に行う仕組みも、Photoshopの機能を生かす形で追加された。

このようにゲームビジュアルの進化はプログラマーの協力なしでは実現できない。講演ではグラフィックAPIがDirectX9世代からDirectX11世代に移行したことで発生した、シェーダーモデルの移植作業についても解説された。また傷デカールの表現では、アーティスト側からDCCツール(3ds Max)上で使えるような、直感的なツールに対する要望が多く、今後の課題になったとことも紹介。プログラマーとアーティストをつなぐポジションとして、さらなる環境整備に取り組みたいと抱負も聞かれた。

  • 「PS3世代のリソースとPS4世代のパワーをくみあわせ、既存のワークフローを大きく変更することなく、最新のゲームビジュアル表現が実現できたと振りかえる芦塚氏。もっとも、まだまだハードの性能をフルに生かしているわけでなく、さらなる技術の追求を進めたいという。そのうえで「画面の情報量の増加」と「空間をいかに変化させるか」が、「次世代らしさ」を表現する上でのポイントだと指摘した。

KOO-KIが再登壇、展示コーナーでは参加企業との直接交流も

このほか東京会場でも豊富な知見を披露したKOO-KIが再登壇。ディレクターの池田一貴氏とアニメーションディレクターのVito La Manna氏が、「仕事は頑固な職人気質、仕上がりは芸術的かつエンターテインメント。KOO-KI流CGとは?」と題して講演を行った。池田氏はハイクオリティなCG映像が短期間で実現できたポイントの一つに、広告代理店が介在することなく、クライアントと直接クリエイティブのやりとりができたことをあげた。

▲(左)KOO-KI 池田 一貴氏 (右)Vito La Manna氏

またVino氏は「その色では(日本では)食べ物が美味しく感じられない」「その表情では(日本では)キャラクターが魅力的に感じられない」など、日本人と外国人クリエイターとの間で、文化的な衝突が数多く発生したとあかした。解決方法はシンプルで、互いに信頼して「accept(受容)」すること。これが国際間での共同制作では不可欠だったという。

  • 展示コーナーでは東京に拠点をかまえ、福岡とロサンゼルスに支店をかまえる映像制作会社のD・A・Gも参加した。タイミングよく新刊「熱狂する現場の作り方 サイバーコネクトツー流ゲームクリエイター超十則」を出版した松山洋氏のサイン会も実施。来場者との記念写真にも気さくに応じるなど、和気あいあいとした雰囲気が印象的だった。

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福岡市に拠点を持つゲーム・映像スタジオが東京に集結。さまざまなテクニックが公開されたCGWORLD CREATIVE MEETING(東京)をレポート。
http://cgworld.jp/feature/1510-cgwmtg-tokyo.html

■関連リンク
福岡クリエイティブキャンプ2015:http://fcc.city.fukuoka.lg.jp/