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自治体が旗をふる人材育成の最前線〜富山県魚津市「UOZUゲームハッカソン 夏の陣」に参加してみた

自治体が旗をふる人材育成の最前線〜富山県魚津市「UOZUゲームハッカソン 夏の陣」に参加してみた

世界各地で進む、産官学連携によるゲーム開発人材の育成策。富山県魚津市で2017年よりスタートした「つくるUOZUプロジェクト」も、その1つだ。2019年6月29日(土)~30日(日)に開催されたゲーム開発イベント「UOZUゲームハッカソン 夏の陣」では、学生から社会人まで42名の参加者が集い、12本のゲームが開発された。その模様を体験レポートする。

TEXT&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

富山県魚津市で始まったゲームによる街おこし

ゲーム産業の育成に自治体が予算をつける動きが加速している。鍵を握るのが人材育成で、30〜48時間程度でゲーム開発を行う「Game Jam」イベントはその1つだ。ここで開発されたゲームをもとに内容を磨き上げ、リリースやマーケティング支援に予算をつけるのがセオリーとなる。他に業界団体や大学などと連携してゲーム開発者会議やゲームイベントを開催したり、企業誘致などに助成金をつけるなどの施策は、世界中で行われている。鍵を握るのが自治体のリーダーシップで、日本でも福岡市の例などが知られている。

参考:官主導によるゲーム・IT産業支援の取り組み〜ケベック・シティーのデジタルコンテンツ産業レポート

こうした中、ゲーム開発者の育成支援を通して地域活性化を進めているのが、「蜃気楼が見える街」として知られる富山県魚津市だ。富山湾をのぞむ人口4万2千人の地方都市で、首都圏から北陸新幹線を経由して、約3時間の距離に位置している。北陸街道の宿場町として古くから栄え、現在でも漁業が盛んで、北洋漁業の拠点となっており、晴れた日には南側に立山連峰も望める。立山黒部アルペンルートや黒部峡谷鉄道などの玄関口でもあるため、乗り換え客や観光客も多い。

もっとも海岸から山岳地までの距離が短く、広大な工業適地が少ないという地理特性上、大規模な企業誘致が難しい。就業のために県外に転出する若者が多く、人口減少が進んでいる点も課題だ。そこで注目されたのが、首都圏から離れた狭小な土地でも展開でき、幅広い世代から関心が高いゲーム産業というわけだ。県庁出身の村椿 晃氏が2016年5月の市長選に無所属で出馬し、初当選。その後「つくるUOZUプロジェクト」として予算がつき、翌年から具体的な取り組みが始まった。

本プロジェクトは市の産業振興策の新分野産業育成事業に位置づけられ、人材育成、企業誘致、創業支援を通して「若者や働き盛りの世代に、ふるさとで好きな仕事をしてもらう」ことを目的に掲げている(公式ホームページより)。その上で市役所・商工会議所・北陸職業能力開発大学校などが産学官で連携し、首都圏から著名ゲーム開発者を招いての「ゲームフォーラム」、ゲーム関連イベント「GAMEサミット」、地元の産業フェア「まるまる魚津」へのブース出展など、様々な試みが行われてきた。

実施3年目となる平成31年度(令和元年度)の予算案では、前年度の900万円から倍増となる940万円を予算計上(当初予算は450万円だったが、地方創生推進交付金(1/2補助)に採択され、6月補正予算で倍額の900万円に変更された)。概要書には「ゲーム開発者人材の裾野拡大・掘り起こしを目的としたイベントとして、フォーラム及び富山県・高岡市などとの連携によるeスポーツ大会を開催」、「市内への事業所誘致に向けて、首都圏の情報サービス関連企業に対し、広報活動を実施」といった文言が並ぶ。

参考:
平成30年度 当初予算案 概要
平成31年度 当初予算案 概要

人口流出は多くの自治体が共通して抱える課題であり、これをゲーム産業の支援で克服しようとする魚津市の取り組みは、興味深いテストケースだと言えるだろう。

東京や大阪からも参加者が集まったGame Jam

こうした経緯を踏まえて6月29日・30日に魚津市片貝公民館(旧・魚津市立片貝小学校)で開催されたのが、「UOZUゲームハッカソン 夏の陣」だ。参加者が即席チームをつくり、決められたテーマでゲームをつくる開発イベント(いわゆるGame Jam)で、「つくるUOZUプロジェクト」の主催で開催されるのは、2017年12月に続いて2回目となる。前回の参加者は36名だったが、今回は42名に増加し、コミュニティの着実な成長が感じられた。

本Game Jamは一泊二日で開催され、希望者はJR魚津駅までの往復送迎のほか、簡易宿泊設備の利用や、食事や軽食の提供などのサービスが受けられる。源泉かけ流しで知られる金太郎温泉までの無料送迎もあり、温泉でリフレッシュした頭でゲーム開発ができるのも、本イベントならではだ。これらを地域ボランティアの活用や、地元企業からの協賛などを通して、1人1,000円という安価な参加費で実現。参加者は社会人が6割、学生が4割で、富山市や石川県、さらには大阪や都内からの参加もみられた。

今や日本でも毎年1月末に世界規模で開催される「Global Game Jam」(以下、GGJ)を筆頭に、様々な規模のジャムが全国で開催されている。目的も純粋にゲーム開発を楽しむものから、企業が人材採用目的で開催するもの、大学や専門学校が教育の一環として開催するもの、オンライン上で開催されるものなど、様々だ。しかし、本イベントはその中でも、もっともユニークなものの1つとなった。以下にその特長を説明しよう。

1:テーマがあらかじめ決まっている

Game Jamでは通常、参加者全員が同じテーマでゲームを開発する。テーマは開会式で開示され、チームメンバーが相談しながら、具体的な企画を煮詰めていく例が一般的だ。メンバー全員でテーマを決めることで当事者意識が高まると共に、短時間で企画をまとめるという行為自体が、重要な教育効果をもつと考えられるからだ。

しかし本イベントでは1週間前の6月21日(金)に、Web上で2つのテーマが発表された。それが「ゲートボールのプレイヤーを増やすことに繋がるスマホゲーム」「オリジナルゲームをVTuberで配信する」というものだ。これに伴い公益財団法人日本ゲートボール連合と、誰でもスマートフォンでVTuberになれる「カスタムキャスト」を開発したS-courtが審査員を派遣した。なお、どちらも興味がない場合は、フリーテーマでゲームをつくることもできる。

本ジャムは他のGame Jamと異なり、企業誘致や産業育成につながる人材を育成するというねらいを当初から掲げている。そのため特定の企業や団体とコラボレーションを行うことも、自然なながれだと考えられる。テーマにあわせてゲームのアイデアを事前に考えてきた参加者もおり、企画会議の円滑化に貢献していた。

2:チームをその場で編成する

日本のGame JamではGGJの草分け的存在となった東京工科大学を筆頭に、教育機関が主催する例が多い。そのため申込み時にアンケートをとり、それにもとづき主催者側でチーム編成を行う例が一般的だ。これには「社会人と学生の割合をはじめ、各チームの実力を均等にする」、「知らない者どうしでゲーム開発を行うことで、コミュニケーションスキルを伸ばす」、「プログラマーが1人もいない、などの事態が発生するリスクを避ける」などのねらいがある。

これに対して海外では「参加者同士で即席チームをつくる」、「友達同士で事前にチームをつくって参加する」、「ジャムと言いながら1人で開発する」など、様々な例が見られる。善し悪しではなく、ジャムのねらいをどこに置くかで変わってくるのだ。本ジャムでもはじめに企画ワークショップを2時間かけて行い、参加者全員で企画案を作成した上で、人気投票をもとに即席のチーム編成を行うスタイルが用いられた。ワークショップは参加者の緊張をほぐすねらいもあり、和やかな雰囲気でゲーム開発が始められた。

3:メンターを用意する

多くのGame Jamでは「挑戦」を裏のテーマに掲げている。そもそも2000年代後半にGame Jamが始まった当時は、ゲームエンジンが今のように普及しておらず、数十時間でゲームを完成させる行為自体が、いささか向こう見ずな挑戦だと捉えられていた。実際に初期のGGJではゲームを完成させられずに終了する例も多かった。ゲームエンジンの普及でゲーム開発の負荷は下がったものの、ゲーム開発の初心者(特に学生)にとって、短時間でゲームを1本開発するのは大きなストレスとなる。

特に「UOZUゲームハッカソン夏の陣」では、ゲーム開発の裾野を広げるために、初心者歓迎のメッセージを当初から打ち出していた。しかし、これによってゲームが完成しないリスクもあり得る。良くある落とし穴が「企画がいつまでも固まらずに、作業時間が減る」、「プログラマーの技術力不足で企画内容が実装できない」ことだ。そのため本ジャムでは地元在住のUnityエンジニアがメンターにつき、要請にもとづいてチームを回り、開発やデバッグなどを支援。各チームの進捗に大きく貢献していた。

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ジャムの初心者向けに開催された企画ワークショップ

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