10月3日(土)、吉祥寺シアターにて「第11回吉祥寺アニメーション映画祭」が開催された。これは同日から12日まで開催した「吉祥寺アニメワンダーランド2015」の一環。本稿では、その模様をお伝えする。

<1>力作ぞろいの受賞作

「吉祥寺アニメーション映画祭」が実施されている「吉祥寺アニメワンダーランド」は、1999年にJR吉祥寺駅が開業から100周年となったことを記念して始まった。吉祥寺近辺は在住・縁のあるマンガ家やアニメ制作スタジオに恵まれており、その絶好の立地を活かした施策である。

2004年に編集家の竹熊健太郎氏とアニメ特撮評論家の氷川竜介氏が「2004年アニメの最前線~2Dと3Dの融合の周辺」および「吉祥寺アマチュアアニメーション映画祭」で、「吉祥寺アニメワンダーランド」に参加。竹熊氏が後者の中で「毎年やろう」と提案したのを契機として今に至る。

「吉祥寺アニメーション映画祭」には竹熊氏、氷川氏のほか、アニメーション史研究家の津堅信之氏や吉祥寺近辺のアニメ制作スタジオや出版社が審査員として名を連ねている。そして、今回は『未来世紀ブラジル』などで知られるテリー・ギリアム監督も参加するとあって注目が集まっていた(※その後、来日は断念された)。

今回ノミネートされたのは16作品で、そのうち3作品はギャグアニメ部門に該当。当映画祭は部門別エントリーではなく、審査の過程でギャグと判断された作品が振り分けられるのが特徴だ。以下、グランプリから各賞までを紹介する。

一般部門グランプリ『共感覚おばけ』(牧野 惇)

ギャグアニメ部門グランプリ『ヌードバッター鉄雄』(谷口 崇)

優秀賞(スタジオディーン賞も受賞)『目』(邵 雪晴)

審査員特別賞(スタジオ4℃賞も受賞)『My New Animation』(平岡政展)

第11回 吉祥寺アニメーション映画祭レポート

審査員特別賞『きつね憑き』(佐藤美代)

コアミックス賞『カラスは真っ白「fake!fake!」』(植草 航)

第11回 吉祥寺アニメーション映画祭レポート

プロダクションI.G賞『かたすみの鱗』(石谷 恵)

このほかノミネート作品は、一般部門が『ゆめみるシロ』(KENPS)、『はくしょん!』(平川侑樹)、『Steel Gears Sheep Heart』(加賀遼也)、『澱みの騒ぎ』(小野ハナ)、『Colorful Lady』(池田篤史)、『HARBOR TALE』(伊藤有壱)、『その家の名前』(坂上直)、ギャグアニメ部門が『幻の蜘蛛 オオシロウサギグモを追え!』(井上満)、『そらとぶとけい』(清水翔太)であった。

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<2>ハイレベルな争い。ギャグアニメに期待

授賞式は、まず各審査員からの総評でスタート。
本年のゲスト審査員を務めた、森本晃司氏は「いつもより面白い作品が多すぎてどうしようかと。色んな観点でここが面白いとかポイントがあるけど、有力なクオリティの高い作品が集まって久々に面白いと純粋に思った」とコメント。

続けて、「例年、他の映画祭と比べてもクオリティの高い作品が集まってるけど、今年は特にズバ抜けてクオリティが高かったように思う」(森下勝司氏/プロダクションI.G)と言った意見が聞かれた。

それらを前提とした上で、櫻井 晋氏(コアミックス)は、10月期より自社作品から『北斗の拳イチゴ味』、『DD北斗の拳2 イチゴ味+』が放送開始となったことにちなんで次のようにコメント。
「ウチにはショートアニメの話ばかりが来るので、逆にそういったところに若い監督が入ってどえらい作品をつくってくれたら面白いのにと思う。長編だけがアニメではなくて、テレビアニメでも短い尺にどれだけ込められるかが面白い作品をつくれる監督なんじゃないかな。もっとギャグも増えてくれたら」。

第11回 吉祥寺アニメーション映画祭レポート

今回の審査員一同

続けて、「審査する方も本数を観るのがけっこう大変で、ギャグアニメがねらい目じゃないかと。ねらう人が少ないから、ギャグアニメをねらってもらえると賞の上位に来る可能性が高い」(野口和紀氏/スタジオディーン)。

「個々の作品の独創性やクオリティ、音の使い方だとか様々な作品の評価をしていく要素が一般論としてあるが、『吉祥寺アニメーション映画祭らしさって何だろう?』というのを考えて選んだ」(津堅氏)。

「文化庁メディア芸術祭や毎日映画コンクールでも審査に参加しているが、吉祥寺は独特。なるべく鋭く短くズバッと、ギャグでもギャグじゃなくてもザクザク斬り込んでくるような作品が、吉祥寺では有利じゃないかな」(氷川氏)と、当映画祭ならではの傾向が明かされた。

そして最後に、「数が集まるだけあって、その中には惜しい作品がたくさんある。泣く泣く絞って最終的にこのような受賞とノミネートになった」と竹熊氏。

『HARBOR TALE』などで知られる伊藤有壱氏(I.TOON)が東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻の教授でもあることから、「極端な例を言うと、マンガの新人賞に手塚治虫が応募してきたようなもの」と、審査の難しさに関しても触れていた。

第11回 吉祥寺アニメーション映画祭レポート

第11回吉祥寺アニメーション映画祭フォトセッション(吉祥寺シアターにて)

今回は「第69回毎日映画コンクール」のアニメーション部門で大藤信郎賞などを獲得している小野ハナ氏の『澱みの騒ぎ』など、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻の作品が目立ったが、その一方で『共感覚おばけ』の牧野氏がP.I.C.S.、『ヌードバッター鉄雄』の谷口氏がILCA、『My New Animation』の平岡氏がCAVIARと、著名な映像プロダクションに在籍しているところからも層の厚さを感じさせた。

TEXT & PHOTO_真狩祐志

  • 第11回 吉祥寺アニメーション映画祭レポート
  • 吉祥寺アニメーション映画祭(本選)
    日時:2015年10月3日(土)
    場所:吉祥寺シアター
    問:吉祥寺アニメワンダーランド実行委員会
    kichifes.jp/animation