2015年11月22日(日)、文京学院大学 本郷キャンパスにて催された「CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス」。そのうちダンデライオンアニメーションスタジオは、「CGアニメーションとデジタル作画の協業 ~今できること、これからできそうなこと~」を行なった。そのレポートをここにお届けする。

<1>これまでのアニメと3DCGの関係性

本講演では、ダンデライオンアニメーションスタジオ(以下、ダンデライオン)代表であり、ディレクターの西川和宏氏とアクション作画監督の河島裕樹氏(同社デジタル作画ユニット所属))がセッションで登壇した。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:ダンデライオン

西川和宏氏(手前)と河島裕樹氏(奥)

西川氏がCG業界に入ったのは1997年頃のこと。「だいたい2000年前後の5年間くらいだと思うんですけど、当時その部分がデジタル化して、平行してCGが作品の中で使われ始めてきた時期かなと」。
ちょうどアニメ業界で色彩・仕上げ・撮影の工程においてデジタル化が進み始めていた頃である。「フローが確立されていなかったので、レイアウト・原画が終わったカット袋がそのまま当直の机の上に置かれてたりとか」。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:ダンデライオン

それから西川氏は、「どういう風にやりとりをしたらいいのかを手探りの状態から始めて、作画とか美術でやれること以上に『もっとこういうのをやりたい!』とか、効率化も含めて実験的にどんどん(アニメCGを)やり始めていった時期でした」と続け、「現在のアニメとCGの関係を改めて見つめ直したときに、この15年ほどアニメ制作のシステム自体あまり変わってないんだなと思うところがあった」と、ふり返った。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:ダンデライオン

続いては、CGレイアウトについて。「どちらかというと変化している部分はCGの求められる表現幅とか物量とか。前は100カット未満ぐらいだったのが数百カット規模に変化してきたし、レイアウトを起こすときはまずCGで(表現する)といったことを作品(業界)が受け容れてくれるようになりましたね」という西川氏の発言に対して、河島氏は「演出家さんのこだわりが強い作品が多くて、CGレイアウトって2Dからしたらやりづらいなと思うときもあります」と応じた。

これには西川氏も「CGでレイアウトする方も、これを作画でやったらどうなるかなとわからないながらやってる部分もあるだろうなと思います。もうちょっとこうしたいと思っても、なかなか原画レベルではCGに差し戻しができないので」と同感。
「CGでレイアウトを出してもらっても、結局『ここおかしいから』って紙でなぞらないといけないとか」との河島氏に、西川氏は「やり方の工夫とかでスタッフの経験値は上がっていくんですけど、(ワークフローなど)根本的にはあまり変わってる気がしませんね」と返した。

また西川氏は、「CGディレクターがライン(輪郭線)をどうするかとか、制作進行と近い立場の人と一緒になって制作さんとか演出家さんとかと関わり持ってて、ここ10数年でこなれてきた感じはあるけど、作品ごとにゼロからワークフローを構築しなければならない場合は今一歩って、ところはありますね」と、取り仕切る立場の存在の大きさを指摘。
それに応じて河島氏は、「作品を観る側にとっては『変化してるんだ』って思うかもしれないけど、現場レベルでは『まだこんなことやってるの?』ってことですよね」と、業界内外の意識差にも触れた。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:ダンデライオン

実制作における2DとCGの割合については、「それぞれの作品でCGが求められることだけでなく、作成している要素もそれぞれですが、昔からCGでモブを作るのはスタンダードなので、そうしたものをCGが担当するケースが多いですね。キャラクター以外では背景やエフェクトなど、作品によって何で作るのが良いのかと、毎回考えるんですけど、2Dが主体になってるときにはそういう要望が多いかもしれません」と西川氏。
さらに西川氏は、「キャラクター全体がCGという作品も増えてきてますが、それはそれで全部をCG化すれば良いのかというと(日本のアニメーション表現においては)微妙なところがあると考えていて、CGのカットもあれば作画のカットもあると混在させながらできると、むしろストレートかな」と続けた。

それに対して河島氏は、「本当はCGでやった方が良いのに2Dで作ったりとか、けっこうすれちがいを感じるときもありますね。僕は2D畑なんでCGのことがよくわからないところがありますけど、なかなか伝わらないです(苦笑)。(2Dと3Dとで)お互いに誤解している部分だとか、もっと共有できれば映像を全体的にレベルアップさせられるのにと思いつつ、誰がそれやってくれるの?」と、ここでも取り仕切る立場の人に関する話題に。

西川氏は、「作画メインの会社の中にCGの部署があるというのが多かったですけど、CGをメインとした会社の中に作画の人が入ってくるということも、ここ最近は増えてきたように感じます。その中でお互いがやりやすくなることや一致しないことが見えてきたように思います」と話を継いだ。

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<2>ダンデライオンがデジタル作画を導入した経緯

さらに続けて、西川氏は社内での取り組みとして「じゃあ、今後はどうやっていくのかということを考えながらやり始めているところなんですけど、ゲームムービーなど短尺の案件で、なおかつ社内で完結できるものを手始めにデジタル作画とアニメCGとを組み合わせて制作する上ではどのようなワークフローが効率的なのかを試行錯誤中です」と、実例を示していった。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:ダンデライオン

最初の実例として、「先日、CLIP STUDIO PAINTに動画機能が搭載された正式版がリリースされましたが、ベータ版の頃から実験をしています。社内で一括して2D(デジタル作画)と3DCGを組み合わせて制作する場合、予算に加えてアニメーターやプロダクションによってツールの選択肢は変わってくるとは思うのですが」と、西川氏。

河島氏は、現在のダンデライオンが取り組んでいるワークフロー(上図)を見ながら、「上の黒ベタの箇所を見てもらうとわかるんですけど、レイアウトや原画工程だけではなく動画や仕上げの工程まで広がっていますが、極端な話、ここまでやろうと思えば(デジタル化が)できるんです」と説明。
「分業化の反面、効率良くできるはずだったものが、お金だとか1人1人のやりがいだとかが分散しちゃってて限界があるのをどうにかしたいですね。紙(アナログ)からデジタルだけじゃなくて、デジタルの中でも、なるべく境界線を引きたくない」と、今後の目標を語った。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:ダンデライオン

CLIP STUDIO PAINTによるデジタル作画の例として、「CGアニメーターが付けているアクションがあったとして、そこから左の写真(上図を参照)のようなアクション修正を2Dで入れて、最終的に右側のCGアニメーターが修正したものへとブラッシュアップしています」と紹介。
河島氏は、「CGアニメーターがアニメ的なケレン味とかアクション的なコマ割りの考え方を、ある程度は独力でやってる部分はありますけど、実際に絵で描きながら指示を入れてもらう」こと(=百聞は一見にしかず)の必要性を説いた。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:ダンデライオン

デジタル作画によるポーズ参考と、それを下に作成した3DCGアニメーションとの比較

そして、2Dと3Dの比較映像(上図)を上映。「デジタル作画を用いることで、CGアニメーターとストレートでやりとりできてるので、比較的スムーズにやれていると思います。1回CGアニメーターが作ったものにCLIP STUDIO PAINTを通して河島さんが手を入れてるわけですが、タイムシートは用いていません」と、西川氏。
河島氏は「初めは使うつもりだったのですが、(タイムシートは)同じツール間でやりとりしてるから機能するのであって、複数のツールを併用するワークフローでは不都合もありますね」と補足した。

<3>自動中割りツールがもつ可能性

デジタル作画について、今年2月14日(土)にJAniCAが実施した「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF):『ペーパーレス作画の現状と未来予測』」内でも紹介のあったCACANiなど、自動中割りソフトも話題を集めている。
そうしたなか、河島氏はフリーの自動中割りソフト「Hanepen」を試しているとのこと。「(サンプル動画を再生しながら)これはベータ版(※現在はベータ版の配布を中断中)で作成したものなんですけど、原画は7枚。その間は70枚くらいあります。もしこれをまともに作画しようと思ったら、1枚30分で描くとしても15、6時間かかってしまいます。もちろん、中割りしやすいようにパーツ分けしておくといった相応の手間暇が求められるのですが」と、その潜在性を語ってくれた。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:ダンデライオン

最後に総括として「所詮、ツールは道具なんですよ。これまでのデジタル化は一部の工程に限られていましたが、アニメーション制作のワークフローが全体的に変わっていくのはまちがいないですね。業界全体なのか、限定的(=一部のプロダクション)になるのかはわかりませんが」と、西川氏。
河島氏も「紙ではこれ以上の高解像度に耐えられないですね。人の手(=アナログ)による作業の限界が来てると思うんです。そこをデジタル化させることによって乗り越えられるんじゃないかな」と、希望を示した。

CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス:ダンデライオン

ソフトウェアの導入コスト(特に従来のアナログによる作画にとっては)も悩ましいところだが、西川氏は「作画マンだけの話だけじゃなく、CGアニメーターでもCLIP STUDIO PAINTなら安価に導入できるので、自分の手元で3DCGソフトから書き出したアニメーションに対して、構図やタイミングなどをより手軽に試していくことができる」と(デジタル作画の利用を)促していた。
今後のCLIP STUDIO PAINTは、RETAS STUDIOの後継的な位置づけになっていくことが予想されているため、河島氏は「セルシスさんならCGソフトと連携して、2Dと3Dを繋ぎやすくしてくれるんじゃないかな」と期待をよせていた。

TEXT & PHOTO(講演スライド)_真狩祐志 / Yushi Makari
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota