2016年4月22日(金)、大阪のTKP大阪淀屋橋カンファレンスセンターにて「手付けモーション制作セミナー(大阪会場)」が開催された。講師を務めたのは、Mox-Motionこと株式会社モックスで活躍するアニメーターたち。セミナータイトルからおわかりのとおり、以前に東京で同様のセミナーを開催したところ好評だったため大阪での追加開催が決まったものである。キャラクターアニメーションに特化したプロダクションであり、トレーニングも精力的に行なっているモックス直伝のモーション術の一端をここに紹介しよう。

TEXT_坂本拓馬 / Takuma Sakamoto(Olu Pictures)
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
Special thanks to Mox-motion

<1>Mox直伝、手付けモーションの基本

今回登壇したのは株式会社モックス(以下、Mox)大阪オフィスの加藤英行氏、東京本社の川村 慧氏ならびに櫻井良輔氏だ。三者三様に、それぞれのアニメーターとしての特徴を活かした講演内容であった。
最初に講演したのは櫻井氏。「手付けモーションの基本」と題した初級〜中級者向けとして、ゲーム内で必要となる基本動作の作成方法が実演された。実際にAutodesk Mayaを起動し、ゲーム制作の基本モーション「両手剣を持った待機のモーション」制作について解説しながら進められたが、Moxではまず「動きのリファレンス」(以下リファレンス)を用いることが多いという。リファレンスを用いるメリットは、キャラクターのセットアップポーズから始めのポーズを決めるまでに迷う時間を極力減らすためだと櫻井氏。逆にデメリットはリファレンスに引っぱられがちになることだとも。

さらに実演を続けながら櫻井氏は「ポージングで心がけていることは、重い物は体の重心に近づけることです」と解説。大まかなポーズを付けた後は細かな調整を行なっていく。デモでは両手剣用にロケーターを3つ用意。それぞれのロケーターを親子付けと「コンストレイン」を行い、引っぱる腕に引っぱられる腕が付いてくるような仕組みが作られた。
仕込みが終わるとタイムスライダーの30フレーム目(ループの終わり)に1フレーム目のキーを全てコピーし、15フレーム目に戻り中間のポーズを付ける。ここからは「グラフエディター」を開き動きの調整に入り、ループモーションがつけやすよう設定変更を行い腰からの伝達を意識しそれぞれのキーの時間をずらして調整していく。モーションのベースとしてはこれでほぼ完成だが、このベースモーションを流用し「アニメーションレイヤ」の機能を使って、さらに手を加えることもあるそうだ。

Mox-Motionがキーフレームアニメーションの作法を伝授!「手付けモーション制作セミナー」レポート

セミナーの様子

次に櫻井氏は基本の「走り」のモーション制作に入ったが、ここでもやはり「リファレンス」を用意。先ほどのモーションと同じくキーポーズの作成から入り、片側が完成した後は自社ツールでポーズの反転を行う。腕の動きは特にアークを強く意識するし、最後に「グラフエディター」でそれぞれのキーの補間カーブをきれいに繋がるように修正を繰り返す。ここから先は場合によっては、それぞれのキャラクター性を意識した動きの作成に入っていくとのこと。
櫻井氏は動きを付ける際、最初のポーズを重要視しているとのことで出来るだけ格好良く仕上げることを心がけているそうだ。キーポーズについては、次にどういったポーズが来るかを意識すること、その上でどこに力が入っているか、なるべく直線的な動きは避け、ポーズやシルエットを意識することも重要だと語っていた。

<2>Mox流リミテッドアニメーション術

続いて登壇したのは、加藤氏。主にリミテッドアニメーションについての実演が行われた。加藤氏からの内容は「ゲームモーションとCGアニメーションの違い」、「コマ打ちについて」、「リミテッド特有のテクニック」、「画面に迫力を出す方法」となっていた。

Mox-Motionがキーフレームアニメーションの作法を伝授!「手付けモーション制作セミナー」レポート

まず語られたのが「ゲームモーション」は、360°どのアングルから見ても成立するように作るのだが、「(映像化された)CGアニメーション」の場合はカメラの見た目で成立していれば良いという点が根本的にちがうということ。フレームレートも大きく異なり、「ゲームモーション」が30もしくは60FPSなのに対し、「CGアニメーション」は24FPS(日本のアニメーション(アニメCG)の場合は8〜12FPSが多い)と異なる。

Mox-Motionがキーフレームアニメーションの作法を伝授!「手付けモーション制作セミナー」レポート

ここでいう8〜12FPSとは、秒間24コマ(フルコマ)のうち同じ画を2~3枚ずつ用いる、つまりわざとコマを抜くことで、日本のアニメーション独特のリミテッドアニメーションになるということだ。コマ抜きは主には動画編集ソフト(Adobe ArterEffectsがディファクトスタンダード・ツール)で抜かれるが、Maya上で動きをつける際にも注意が必要だという。
「Maya上では2コマにしたい所は奇数フレームに打ち、フルコマにしたい所は偶数フレームにキーを打っていきます」と、加藤氏。これはアニメーションのタイムシートが1frからスタートする決まりがあることにも関連しているように筆者は考えるのだが、Mayaでのアニメーション時にどこにキーを打つかをある程度決めながら作業を進めなければいけないそうだ。

加藤氏はさらに「嘘パース」の3D上での再現について語った。作画アニメーションではよくカットの迫力を出すために手前に来るものを大きくしたり奥のものを小さくしたりする事があるのだが、そういった味付けをMaya上で再現する事で3D空間上でも迫力のある絵作りができるという。また、背景や地面を湾曲させる事でも迫力を出せるそうだ。

Mox-Motionがキーフレームアニメーションの作法を伝授!「手付けモーション制作セミナー」レポート

また演出面では「三分割法」、「上手と下手」、「イマジナリーライン」にふれ、特に「三分割法」は交差点にポイントとなる見せたい部分を持ってくることで効果的にレイアウトを作成できると語っていた。

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<3>攻撃モーションの基本

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<3>攻撃モーションの基本

最後に登壇した川村氏は「攻撃モーション」についての実演デモを行なった。まずは解剖学的視点からモーション作成時の注意点が語られ「骨、筋肉の連動」、「動きのメカニズムを理解する」、「シルエットの重要性」の3つについての説明がされた。
まずは片手を上げる動きを例に人体の構造上必ず体はバランスを取ろうとすること。「手が上がったことにより肩の骨が引っ張られ、それに伴い胴体が傾きます。胴体が傾いたことで腰(重心)の位置が変わる......といった具合に、全身の筋肉を使っているのです」と川村氏。また「動きのメカニズム」について「ヒップファースト(=全ての動きは腰から始まる)」を挙げ、攻撃モーションとムチは同じメカニズムで動作することなどを紹介した。

Mox-Motionがキーフレームアニメーションの作法を伝授!「手付けモーション制作セミナー」レポート

Mox-Motionがキーフレームアニメーションの作法を伝授!「手付けモーション制作セミナー」レポート

そしてGIFアニメーションによる作例解説では、素早い動きの中にわかりやすいシルエットがあると人の目を惹くことについて触れ、Mox社内では「空気を入れる」と呼んでいる共通用語的なものがあり、物通しが重ならないようにシルエットへの意識を大切にしているとのこと。

Mox-Motionがキーフレームアニメーションの作法を伝授!「手付けモーション制作セミナー」レポート

ひと通りの説明の後Mayaでのモーションの実作に入る川村氏。まずはファイティングポーズのキーポーズの作成では右利きの人物は左足と左手が前(格闘技の基本)で顎を引き相手を見ることに注意すること。そこからまわし蹴りのモーションに入り、桜井氏と同様に「キーポーズの作成→調整→アレンジ(グラフエディターでの調整)」を繰り返しながらモーションを詰めていく。ポイントとしてインパクトを強く見せたい時は攻撃の直前に腰を少し上げて攻撃後に腰を少し下げるとリズムが出て良いそうだ。

さらに「ダメージモーション」の制作時では、少し大げさ(痛そう)に動きをつけることを意識すると良いと、川村氏。ダメージを受けた際は速い動きでだんだん落ち着いて収まるといった感じだろうか。動きの方向性などはディレクターの好みにもよるが最後に収まる(落ち着く)という点はあまり変わらず、当然ながらどのような攻撃を相手がしてきたかによりモーションも変わると語っていた。

最後に川村氏が動きを付ける上での心得として以下の3つのポイントを紹介した。

1.迷い始めた時はいったん間を置き、休憩を取ること。または別のカット作業に入り、目を慣れさせないようにすること。

2.Mayaのタイムスライダー上でアニメーションを再生をさせないこと。再生は必ずリアルタイムで確認するようにすること。

3.作業が進んできたら画面から離れて少し遠くから見て、全体のシルエットを見るようにすること。

3氏の講演から感じたことは、Mox社内では動きをつけるためにリファレンスを用いることや、ポーズや特にシルエットを大切にしていることが伝わってきた。それにはやはり普段からの動的観察力やセルアニメーションの基本知識、運動力学や人体構造に至るまで広い知識を身につけておくことがかかせない。モーション作業はテクニックだけではない知識とセンスが問われてくるのではないだろうか。

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セミナー修了後に設けられた懇親会の様子