セル調のフルCG作品が増えてきた昨今、エフェクト制作においてもセル調エフェクトの制作テクニックに注目が集まっている。本稿では、「3DCGセル調エヘクト読本」の作者ハラタオルこと名倉晋作氏に、煙、炎、水といった 基本的なエフェクトをセル調でつくる場合に陥りやすいポイントとその解決法を解説してもらった。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 219(2016年11月号)からの転載となります
TEXT_名倉晋作(ハラタオル)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
アニメ制作フローの特性に合致した3ds Maxでのエヘクト制作
はじめまして、ハラタオルと申します。普段はアニメCG界隈のアニメーター/ディレクターとして仕事をしています。個人的に出版している「3DCGセル調エヘクト読本」(以下、「エヘクト読本」)に端を発し、今回お誘いをいただいてエヘクト(本稿ではセルアニメ業界での呼称にならい、「エフェクト」を「エヘクト」と表記します)に関する記事を書くことになりました。改めてよろしくお願いいたします。
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名倉晋作(ハラタオル)
フリーのアニメCG屋。普段は主にセルアニメに絡むCGのアニメーター/アニメーションディレクターを兼務。2014年にセル調アニメに関わってきた経験を基に、「3DCGセル調エヘクト読本」を刊行。エヘクト作成の敷居を少しでも下げてとっつきやすくするのが目的(本業がエヘクト専門というわけではない)。過去に「B★RS 3DCG原画集」、「楽園追放3DCG原画集」等を企画編集。今冬には「エヘクト読本ver3.0」を刊行予定。既刊は主にコミックマーケット、BOOTH通信販売、Amazon Kindleで販売中です
twitter.com/harataworu
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左:「3DCGセル調エヘクト読本ver1.0」
右:「3DCGセル調エヘクト読本ver2.0」
harataworu.booth.pm
ここ数年で日本のアニメーション業界にもCGがセルに取って変わる機会が急激に増え、『楽園追放』、『蒼き鋼のアルペジオ』、『シドニアの騎士』等、セル調を主としたフルCGアニメのヒット作も生まれるようになってきました。以前は想像できなかったことです。
アニメのカットをつくる際に画面を占める主な要素は、筆者の経験から言うと「キャラクター」、「メカ」、「背景美術」です。そしてこれらをいかに作成、レイアウトし、動かすかといったことはアニメーションの教本や原画集、3DCGのソフトウェアに関する書籍等手がかりになるものがそれなりに出回っています。また、キャラクター、メカ、美術をいかにセル調として馴染ませていくかというノウハウも、各現場により多少の差異はあれどおおむね方法として固まりつつあるように感じます。
セル調エヘクトの制作方法
ただセル調アニメをつくる際にまだ方法や見せ方が固まりきってないように感じるのが「エヘクト」の分野。ひとくちに「エヘクト」と言ってもその解釈は多岐にわたるため、エヘクトのつくり方は[1]エフェクト専用プラグインを使用する、[2]実写素材を加工する、[3]3DCGソフトの基本機能でつくる、[4]動画として作画してしまう(デジタル作画、After Effects等)といった4つの方法に分けられます。それぞれのメリット・デメリットは下表の通りです。
こうしたいくつかの方法の中で、アニメにおける「低予算、短期間、度重なるリテイク」に対応するのに一番向いていると思われるのが[3]の方法。3ds Maxは偶然にもこの方法を採るのに向いたソフトです。その詳しい作成方法については「3DCGセル調エヘクト読本」を参照していただくとして、そのノウハウを下のスタッフたちに教えて実践させたときに陥りがちなポイントを、エヘクトの題材別にいくつか押さえて説明していこうと思います。
Point 01
形のはっきりした煙のエヘクト
煙のつくり方ひとつ取ってもいろいろありますが、ここでは3ds Max標準のSuperSprayとインスタンスオブジェクトを使った方法を紹介します。作品の傾向や演出意図によって表現方法は適宜変えていきます。
ディスプレイスマップに適用する「細胞」プロシージャルマップ
ここからはパーティクルに[D]のオブジェクトをインスタンスしたものを基本に、より煙エヘクトの表現の肝となる陰影の入り方にスポットを当てていきます。こちらは「エヘクト読本ver1.0」の方法を基に陰影を調整したもの。カットの光源方向に左右されるものの、個人的には光と影の見た目の割合が7:3もしくは3:7程度を目安としています。特殊な場面を除いてこのような陰影の入り方がセル調として馴染みやすい割合です
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[F]と比較してひとつひとつのボクセルの形を曖昧にしたもの。こうすると少し煙の形が曖昧になって質感が変わって見えます。量感のあまりないガスっぽい質感です
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現場でよく見かけたNG例。ライトの当て方が不適切で、ボクセルの形を正確に拾いすぎていることにより、影の形がセル調の煙としてありえない形になっています
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NG例その2。これはこれで遠目には使えるかもしれませんが、陰影の付き方が法線方向のみだとライトをカメラ方向ド真正面から当てているようで、完成度としてはいまひとつです
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NG例その3。おおむね良いですが、ディテールをつけるためのバンプマップのキメが細かすぎて梨地になってしまっています。作品の方向性によってはこういうのもアリかもしれませんが、汎用性は低いです。陰影とバンプマップのスケール感を合わせることが大事
NG例その4。パーティクルが散りすぎて、いわゆる「ダマ」状態に。これも避けたいポイント
質感を足す前[L]と後[M]の比較。セル調表現はそのままだと色数が少なくて情報量が足りない傾向にあるので、[M]のように「特効(特殊効果)」を乗せると、より煙としての質感が詰められて良いと思います
陰影の入り方やディテールを調整したもの
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Point 02
細いシルエットの煙エヘクト
ここまでSuperSprayとそれにインスタンスするオブジェクトの加工、陰影の入り方を調整するなどしてつくる「形のはっきりしたモコモコした煙」について記述してきましたが、経験の浅いCGアニメーターの陥りやすい罠として「なかなかセルに馴染むようなねらった形のエヘクトにしにくい」、「プラグインを使いこなせない」等、「教わったつくり方以外の方法になかなか昇華していけない」傾向がありました。
煙の形は一様ではなく、量感のあるものから、ほとんど実体のない霞のようなものまで際限なく姿を変えていきます。だからそれに合わせてねらった効果を得るために効果的な方法をその都度採るべきなのです。
例えば次の連番画像を見てください。これは「タバコの先から漂うような細いシルエットの煙」を想定してつくったものです。「煙の送り」といったものもキチンと見て取れてそれらしい煙になっているはずです。これを前述のSuperSprayを使った方法でつくろうものなら困難を極めるでしょうし、はたまた流体エフェクトプラグインを使ったとしてもそこにかかるトライ&エラーは大きな手間となります
結果これは、何の変哲もない平面オブジェクトにノイズモディファイヤで送りをつくり、シェルモディファイヤでわずかに厚みをつけてFFDで変形、パス変形をかけて数十分程度で作り上げた簡単なものです。これでも十分に「それらしく」見えるのがわかると思います
Point 03
火・炎のエヘクト
「エヘクト読本」で紹介している火・炎のつくり方では、こちらも基本的にはSuperSpray(これに限らず他のパーティクルエミッタを使用してもOK)に炎の「火の粉」のシルエットとなるオブジェクトをインスタンスしてボンボンと火を起こすながれで作成しています。
平面オブジェクトにBendモディファイヤを2つ、2方向に折り曲げたものをインスタンスしています。なぜこの形か、と言われると答えに困りますが、下手にディテールのあるテクスチャを貼り込んでしまうと、パーティクルで発生させたときにキメが細かくなりすぎる印象があるからです。大量に発生させるのだから、思いきりシンプルにこのくらいスッキリしたシルエットのものの方がちょうど良いと考えます。曲げるのは、どの角度からでも何かしら形が見える形状になるからです
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変形させた平面オブジェクトをパーティクルにインスタンスします
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レンダリングしたもの。質感はデフォルトのまま。むしろ質感はあまり関係なく、気にするべきはシルエットです。セル調の画というのは(私的解釈ですが)描線やシルエットの方に重きを置くことが多いので、正確な質感等は二の次という気がします。だからといって簡単かというとそういうことはありませんが......
[C]の素材をAfter Effectsに取り込んでポスト処理を施したもの。ここまでおおむねセルアニメに見た目が馴染むつくり方ですが、作品によってはもう少し炎の表現に質感を足したほうがいい場合もあります。一度削った情報量をまた改めて整理して足し込むという普通CGではやらないプロセスだと思うのですが、ねらった表現にできるなら手間は惜しみません
通常、炎のシルエット内にディテールを足すとなると、撮影処理の段階でノイズを貼り込んでいく方法もありますが、これはそれを3Dの作業工程でつくってしまおうというもの。[F][G]は、パーティクルエイジマップを使って、発生から消滅まで温度変化に相当するテクスチャアニメーションの作成過程です
[E]の画のコントラストを上げるとこんな感じになります。白→黄色になっているところまでは燃焼していて、赤くなっているあたりはAfter Effectsでキーイングして削除します
[E]の画と[H]の画を合成。[D]の画と比較して一番燃焼して見える付近がより明るく発光し、さらに[E]の画のノイズのテクスチャ部分も加味されてディテールがほどよく入った炎になっていると思います。今回はCGにAfter Effectsによるポスト処理を経てセル調に落とし込むやり方をベースに説明しましたが、実写映像や流体プラグインのレンダリング画像に同様の処理を施すやり方でも何ら問題はないと思います。セルアニメ作品を観ていても炎の動画にグロー処理を加えただけのものもあれば、テクスチャを貼り込んでいるもの、実写映像をはめ込んだものなど、表現は多様です。火・炎のCGをカットでつくる必要がある=3DCGで作成というながれに無理矢理はめ込むのではなく、カット内容に応じた最もやりやすい方法を採るのがベストだと思います
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Point 04
水エヘクト
前述の煙、火・炎と比較して難易度が高めな水エヘクト。おそらく前2つが気体であるのに対して、水関連は液体を扱うゆえに、難しく敬遠されがちなのではと思います。ただ、それだけに動きを意図通りに制御できたときの達成感はひとしおのはず。仕事で求められる頻度はそれほど多くはないかもしれませんが、筆者のやり方は「エヘクト読本ver2.0」で記載しているので詳しくはそちらも参照してください。
水エヘクトのつくり方の基本は、「水=流体プラグインが必須」といった考えからいったん離れて、水の流れの要素をいくつかに分けてつくった後、それぞれを最終的に合成させることです。いたって単純なようですが、これは高度な合成を必要とするCGであってもおそらく同じようなつくり方をするはず。要は出来上がった画が「それらしく見えれば問題ない」のです
これは水の弾けた滴のシルエットをパーティクルインスタンスを使って作成しているのですが、水のスケール感を出すためにキメを細かくすればするほどメッシュの数が輪をかけて増えてしまうため、シーンが重たくなってしまいます。ここで水のスケール感を出そうとする場合は、よりキメの細かい飛沫を飛ばす必要があるのですが、それをやる場合「よりサイズの小さい飛沫をパーティクルでつくる」のは得策ではないと思います。例として巨大な滝壷の動画などを見て観察してみると、滝の落差やスケールが大きいほど水の飛沫は霧状→ほぼ煙状になり、粒としての実体を留めなくなります
なので、大きさを出す場合はとてもキメの細かい粒もしくはガス状のもので問題ないわけです。ここでパーティクルインスタンスオブジェクトではなく、はじけ(splat)を合成して作成した「タタキ」マップ[D]をパーティクルタイプの四辺形(Facing)にアサインして飛ばします
レンダリング結果。ここでは少し色味を足しています
[E]の素材を合成。別途ぼかした素材等も足して雰囲気を出します。もちろん見た目だけでなく、動きも併せてスケール感を出すことも忘れずに
こちらは「エヘクト読本」に掲載している「船の波の掻き分けエヘクト」を表現したもの
これらの素材をそれぞれ組み合わせることで作成します
[H]の方法で作成しても問題ないと思いますが、ちょっと重くなりがちな方法のため、カット内に同様のエヘクトが多数存在(艦船が多数あるなど)すると制御が大変になってしまうので、連番テクスチャとしてコンバートしてしまうか[D]で作成したタタキマップを足すだけでも十分見映えがすると思います
合成結果。この感じの質感だと多分潜水艦の潜航などのガボガボする表現等にも十分使えます
総括
今回セル調エヘクトに関連することを、とお題をいただいて正直悩んだのですが、結果、別にセル調に限ったことではなくおそらく他のCG映像をつくる際にも留意すべきことを書いてみました。基本的にはできる限り簡単に、それでいて上手く組み合わせてそれらしく見せるポイントを押さえることです。
また、セルアニメの動きは元をたどれば実写の動きを記号的に落とし込んで表現しているものなので、セル画の見え方だけに囚われすぎると出来上がった画が単調で物足りないものになりがちです。そこはCGの利点である情報量の多い素材を活かすのもまたひとつの手だと思います。あとは他の人が作ったシーンファイルを(可能であれば)覗いて解析してみるのも効果的です。普段使っていないモディファイヤやマテリアル等を改めてひとつひとつ試してみると、「これはあの表現に使えそうだ」といった発見にもつながります。要は、馴染んで見えれば方法は何でもいいのです。そのくらいのスタンスでエヘクトづくりに向き合うのがコツかもしれません。