今や日本のアニメ制作に不可欠な存在となった3DCG技術。しかしスタジオごとの個性や、実際の働き方についてはあまり知られていない。こうした中、日本のアニメCGを牽引するスタジオ5社のキーマンたちが集結したトークイベント「CGスタジオ5社が語る アニメーションの未来はどうなる!?」(主催:CG-ARTS協会)が2016年12月14日(水)、専門学校HAL名古屋で開催された。

TEXT & PHOTO_小野憲史
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
Special thanks to HAL名古屋 / HAL Nagoya College of Technology & Design

<1>同じアニメでも作画とCGで異なる雇用&制作環境

登壇したのは、オレンジ/井野元英二氏(代表取締役社長)。サブリメイション/須貝真也氏(取締役、CGIディレクター)。グラフィニカ/吉岡宏起氏(取締役 執行役員、チーフプロデューサー)。ラークスエンタテインメント/奈良岡智哉氏(CGプロデューサー)。サンジゲン/瓶子修一氏(想像部 統括マネージャー)の5名だ。普段から横のつながりが深く、情報共有などを積極的に行なっている間柄だけに、壇上では息の合ったトークが続き、大いに盛り上がった。

3DCGの導入でアニメはどう変わる!? サンジゲン、オレンジなど主要アニメCGスタジオ5社による白熱トークショー

(左)グラフィニカ 吉岡宏起氏(取締役 執行役員、チーフプロデューサー)/(右)ラークスエンタテインメント 奈良岡智哉氏(CG部 部長、プロデューサー)

今や年間200本近くの新作が放映されるアニメ大国・日本。その一方で現場スタッフの疲弊が続いている。特に2016年は制作が間に合わずに、地上波の放送中断が発生する事態もみられた。こうした中で、解決策のひとつとされるのが、デジタル作画や3DCG技術のさらなる導入だ。実際、近年ではアニメCG(3DCGを主体としたセル調の画づくり)が一般化し、多くの作品でデジタルアーティストが活躍している。

もっとも作画アニメに違和感なく溶け込む、高品位な画づくりが可能なCGスタジオは限られており、どこも人手不足の状況が続いている。とはいえ、今や「ブラック企業の代名詞」とまで囁かれるようになったアニメ業界に対して、不安を感じる学生も多い。こうした現状を踏まえて、トークライブはいきなり「アニメ業界は本当にブラックなのか」という異色のテーマからスタートした。

動画1枚数百円、初任給が数万円という事態も珍しくない日本のアニメ制作現場。背景にあるのがフリーランスのアニメーターと、海外の外注企業に支えられた業界構造だ。しかし、今回登壇した企業はいずれも(CGスタッフに関しては)業務委託ではなく、社員としての雇用を掲げており、固定給が支払われている。ここが作画アニメとCGの大きなちがいだ。

3DCGの導入でアニメはどう変わる!? サンジゲン、オレンジなど主要アニメCGスタジオ5社による白熱トークショー

(左)オレンジ 井ノ元英二氏(代表取締役、CGプロデューサー兼CGディレクター)/(右)サブリメイション 須貝真也氏(取締役、CGディレクター)

もっとも、社員を雇用する場合は「一定の品質を担保しながらカットを量産し、コンスタントに成果物を納品するための仕組み」が欠かせない。「歩合制なら成果物に応じて報酬を払えば良いが、固定給だと毎月決まった人件費が発生する。1カットも上がってこない状況が続けば会社が倒産してしまう」(ラークス奈良岡氏)からだ。そのためにはスタジオの制作環境に対する投資が重要な要因になる。

中でも鍵を握るのが進行管理だ。作画アニメでは制作進行がアニメーターの自宅まで、カット袋を抱えて車を飛ばして原画を回収するのが一般的。これがCG(デジタル)ならインターネットでの納品が可能になる。もっとも、手作業にたよった納品管理ではヒューマンエラーが多発し、一覧性も低い。そこで福音となるのが3DCG制作に適した制作進行ツールの導入だ。ラークスではプロジェクト管理ツール「SHOTGUN」をいち早く導入。奈良岡氏は「進行管理の無駄を排除し、クリエイティブに集中してコストがかけられるようになった」と語った。

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<2>変革期を迎えるアニメ業界で5社がめざす道

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<2>変革期を迎えるアニメ業界で5社がめざす道

アセットの再利用も3DCGならではの強みだ。作画アニメでも定番カットを再利用するバンクシステムはおなじみだが、3DCGではより多彩な活用が可能になる。グラフィニカ吉岡氏は『ガールズ&パンツァー』シリーズで、TVシリーズ、OVA、劇場版と細部を修正しつつ、同じ戦車モデルが再利用されている状況を説明した。背景にあるのが社内ネットワーク環境、ファイルサーバ、レンダーファームといった、デジタル環境の急速な進化だ。「作画アニメでは1台の戦車を数秒動かすカットが発生した場合、作業者選定や進行管理、カメラ演出などのクオリティチェックが大変で、その1カットが完成するのに数日かかってしまうが、3DCGで制作する場合は、モデリングやモーションアセットなどをちゃんと準備しておけば、新人アーティストが作業しても半日でカットを仕上げることが可能となる」(吉岡氏)。

インターネット回線の高速化で、地方スタジオとの連携作業も拡大してきた。サブリメイションは、東京・仙台・名古屋。サンジゲンは、東京・京都・福岡。グラフィニカは、東京と札幌にスタジオをかまえており、ラークスではベトナムにもスタジオを展開している。「12月に名古屋スタジオを開設しました。地元で働きたい人はぜひ応募してください」(サブリメイション須貝氏)。「当社ではファイルサーバを全スタジオで共有しており、地方でも東京と同じ環境で仕事ができています」(サンジゲン瓶子氏)など、各社とも地方スタジオの充実ぶりをアピール。人手不足解消につなげていきたいという。

3DCGの導入でアニメはどう変わる!? サンジゲン、オレンジなど主要アニメCGスタジオ5社による白熱トークショー

サンジゲン 瓶子修一氏(創造部 統括マネージャー)
(筆者撮影)


前述したように、作画アニメから3DCGへの過渡期にある日本のアニメ業界。フルCGの映画は日本ではヒットしないと言われてきたが、『STAND BY ME ドラえもん』(2014)、『ルドルフとイッパイアッテナ』(2016)などの商業的なヒットが象徴するように、状況が変わってきた。オレンジの井野元氏は「視聴者のCGに対する許容範囲が広がる一方で、『君の名は。』の新海誠監督など、作画アニメの制作経験がないクリエイターも登場してきた」と分析する。こうした中で同社は「内製ツールの研究開発などを通して、日本からCGを用いた新しい映像表現を創り出していきたい」と意気込みを語った。

ほかにも「作画アニメでは、"神アニメーター"の作品集がファンによって創られ、動画共有サイトにアップされている。3DCGでも同じようなながれを創り出し、もっとアニメーターに光を当てていきたい」(サブリメイション須貝氏)。「フリーランスではなく、スタジオワーク主導で作品制作が行えるようにして、これまで日本のアニメが壊せなかった限界点を突破したい」(ラークス奈良岡氏)。「アセット管理の効率化とデジタル作画の強化を進行中」(グラフィニカ吉岡氏)。「日本国内で争っていても仕方がない。世界で挑戦していきたい」(サンジゲン瓶子氏)と、各社から意気込みが語られた。

3DCGの導入でアニメはどう変わる!? サンジゲン、オレンジなど主要アニメCGスタジオ5社による白熱トークショー

(筆者撮影)

最後に求める人物像についての紹介もあった。「アニメが好きであること」(サンジゲン瓶子氏)。「創意工夫が楽しめること」(ラークス奈良岡氏)。「とにかく、あきらめないこと」(グラフィニカ吉岡氏)。「好き嫌いをせず、多様な仕事が楽しめること」(サブリメイション須貝氏)。「次世代の映像をめざす意欲がある人」(オレンジ井野元氏)。また、質疑応答では「3DCGでは多くのプロが自分のノウハウを公開している。そうした技法を積極的に取り入れて、自分なりのオリジナリティを加えていってほしい」(ラークス奈良岡氏)など、学生に対して実践的なアドバイスが数多くよせられた。

  • 3DCGの導入でアニメはどう変わる!? サンジゲン、オレンジなど主要アニメCGスタジオ5社による白熱トークショー
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このように業界が大きな変革期を迎える中、各社ともにひとりでも多くの優秀な新人を採用し、業務を拡大させていきたいという強い熱意が感じられるトークイベントとなった。業界の内情やCG制作の実情を、ときにマジメに、ときにおもしろおかしく語り合う5人のトークに、会場が盛り上がるシーンも見られた。様々な意味で、日本のCG産業の勢いが感じられるイベントだった。