昨今、ゲーム業界のみならず映像や建築・製造をはじめ多岐に渡る分野で活用や注目されているUnreal Engine 4(以下、UE4)。7月21日(日)、バンタンゲームアカデミー大阪校にて開催された「UE4 業界人パネルディスカッションセミナー in 大阪」ではゲーム、映像、建築それぞれの分野で活躍するパネリストから、UE4の魅力や可能性、ゲームに限らない業種においても学習することのメリットなど、様々なトピックが共有された。その模様をレポートする。

TEXT&PHOTO_森口史章 / Fumiaki Moriguchi(moz
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

リアルタイムレンダリングが各分野にもたらす恩恵とは?

本セミナーでは、ゲーム系の参加者が半数を占める一方、建築系が約1/4、残りが映像系・その他分野の参加者となっており、ゲーム用途にとどまらないUE4の需要の高さが感じられた。中でも建築分野からの参加者の多さには驚かされた。

参加者の所属分野の内訳

ディスカッションに登壇する各人の自己紹介の後、司会を務めるIndie-us Games 坂井 真氏より最初のトピック「リアルタイムレンダリングについて」がアナウンスされた。

グラフィニカ京都スタジオ代表の小宮彬広氏は、映像分野におけるリアルタイムレンダリングとプリレンダー方式とのちがい、優位性について「UE4の導入により、従来の映像制作方式で制作にかかっていた時間を大幅に削減でき、クリエイティブに費やす時間の増加やクオリティアップに繋がる可能性が大いにある」と語る。

特にプリレンダー方式では毎フレーム静止画をレンダリングして制作する都合上、ものにもよるが1フレームあたりのレンダリングに平均して3〜4時間かかり"待ち"の時間が発生すること、出力された画像の情報量によっては容量の激増といった問題がある。今後、4K/8Kの映像規格が常識化する上で、前述の制作時間・容量面の問題から従来の制作方式で対応できるかどうかはこれまで現実的ではなかったが、リアルタイムレンダリングなら光明が見える、と具体的なメリットを語った。

「これまで高速といわれるDCCツール付属のレンダラをいくつか試してきたが、速くなるとしても現状では限界がある。映像制作はレンダリング時間がクオリティに直結する分野であること、最終コンポジットにいかに時間をかけるかが肝になるため、リアルタイムレンダリングの恩恵は大きいと思います」(小宮氏)。

続いて、建築分野でAR/VRコンテンツの制作などを手がけるHAB.Incの梁河 雄氏は、建築分野におけるリアルタイムレンダリングの恩恵について、次のように語った。「プリレンダー方式の場合、最終出力結果がわかるのはレンダリングをかけて数時間後になる。画像出力後にミスが見つかったり、修正が必要になることは良くある。リアルタイムレンダリングが業界主流になれば、これが少なからず効率化される可能性を感じます。他にも業界ならではのメリットとしては、例えば照明の配置計画や明るさの調整など、従来図面上の数値で想像していたことも、その場でリアルに、かつクイックに確認することができます」。

  • 梁河 雄/Takeru Yanagawa
    HAB Inc. CEO

直近ではリアルタイムレイトレーシングが実装されるなど建築・製造用途に利用できる機能が増えているUE4だが、まだまだエラーが多く現状はプリレンダー方式と併用での制作が多いとの見識だ。

これに対し、Epic Games Japanの斎藤 修氏は「リアルタイムレンダリングに手軽に触れられる時代になったことで、例えばアウトラインだけを書き出したり、静止画用途に利用したりとこれまで時間のかかっていた作業が高速化され、多様な用途で利用されています」とUE4の用途の広がりについて補足した。

  • 斎藤 修/Osamu Saito
    Epic Games Japan テクニカルアーティスト

ただし、現状リアルタイムレンダリングにも弱点があるとIndie-us Gamesの中村匡彦氏は続ける。「映像用途でUE4を用いるには、必要なレンダリングパスを出力するための専用マテリアルシェーダや専用機能の制作が必要なこと、リアルタイムレイトレーシングについても欠点や厄介な面がまだまだ散見され、すぐには完璧な機能とはならないが、今後のアップデートで良くなると思っています」。

  • 中村匡彦/Masahiko Nakamura
    Indie-us Games代表

ゲーム、映像、建築分野におけるUE4の可能性

続いて、それぞれの分野での「UE4でできること」が語られた。映像分野でのUE4の可能性について、小宮氏は次のように述べた。「4K/8Kの規格が当たり前の中で人間の目に近いフレームレートの映像が制作できること、さらにこれまで一方通行だった映像に視聴者が参加できる、インタラクション性をもった体感型の映像づくりが低コストで実現できる可能性を感じる」。また、フレームレートの増加は映像の外連味を損なう可能性も予期されるが、映像の質の向上にはそれ以上の恩恵があり、純粋に映像の楽しさが向上するとも付け加えた。

また、建築分野においては「紙の図面を読み込み、想像しながら制作した建築物が必ずしも図面通りに行かないことがあるが、UE4を用いて事前にシミュレーションを行うことで建築前にあらかじめ要所のチェックができ、イメージの差異を減らすことができる」と梁河氏。

斎藤氏より、UE4はインタラクションが可能な点が最大の強みであり、例えば映像なら、マルチエンディング方式の映像作品の制作難度も下げることが可能であると補足された。「これまで各社が力を入れて開発していたインタラクション部分をUE4は一般化することができます。ゲーム分野だけでなく建築や自動車等の製造分野、ニュースなどの映像分野、既に多岐にわたって利用されており、今後も需要が見込まれるのでぜひ触ってみてほしい」。

中村氏はUE4の可能性は無限だと話す。「ゲーム用途だけで使用するのはもったいない。実際に建築や製造、マンガなど、多分野で使われている。リアルタイムはどんなことでも利用できる可能性を秘めているので、特定の用途に限定するのではなく幅広い視点で利用してほしい」。

各分野ともにUE4の導入でこれまで高コストだった部分が低コストに、かつ簡略化され自由度が増加することで、表現の幅を広げたり、工程の確度をより高められるなど期待を寄せている様子だ。

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他のゲームエンジンと比較したUE4のメリットは?

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他のゲームエンジンと比較したUE4のメリットは?

ここで、司会の坂井氏から投げかけられた「他ゲームエンジンと比べてのUE4の優位性とは」との議題に対し、中村氏は「BluePrint(以下BP)に初めて触れたときは衝撃だった」と答えた。「コンテナ同士を繋ぐだけで簡単に処理が書け、想定しうる機能はBPだけで制作できる。むしろできないことを探すほうが難しい。ゲーム制作で困ることがないほど機能が充実している。BPだからこそできたことも多い」(中村氏)。

一方、簡単に、自由につくることができるゆえに負荷が高い処理になってしまうケースも見受けられるため、規模によってはあらかじめエンジニアに見てもらい判断することを斎藤氏は勧めていた。その後斎藤氏より直近で追加されたUE4の新機能について紹介がなされ、各分野のパネラーはそれぞれ、Niagara、Chaos、PixelStreamingなどUE4の新機能への興味を示していた。

建築分野では、Unreal Studioの出現が業界の常識を大きく変えようとしていると梁河氏は話す。「建築分野で利用されるBIMソフトRevitで設定したパラメータやマテリアルは驚くほど素直に、破綻なく読み込みが可能です。BIMで制作したデータには、例えば机であれば大きさ、高さ、材質、制作工場など様々な情報が付属している、照明器具の割付や設置位置など、根拠をもって計画された情報をそのまま読み込むことができる」。

続いて建築分野で話題のビジュアライゼーションツール、Twinmotionにも言及。「UIがとてもシンプルかつわかりやすく、天候の変更など簡単な操作で制作できる。ただし実行ファイルで書き出した場合容量が大きくなりがちな点や、UE4との連携が弱いと感じる」と梁河氏が使用感を語り、「UE4と比べても学習コストが低い点は大きなメリット」だとメーカー側の視点から斎藤氏が言い添えた。

また、UE4におけるVRコンテンツ制作については、「UE4製のVRコンテンツは多く、高クオリテイのVRコンテンツ制作なら選択肢に入りやすい。Epic Gamesが提供している『Robo Recall』などのコンテンツサンプルや、チュートリアルが充実しており敷居は低いと思う」(中村氏)。

質疑応答

セッションの後半は、事前に参加者からあらかじめ募集した質問に、パネリストが回答する形式で行われた。

Q:BIMや点群からのモデリングについて

「点群のインポートは可能。自動生成ソフトはあるが、点群の精度向上とともに 自動生成の難易度も上がっていると感じる、そのままモデルとして使用できるかは難しいところ」(梁河氏)。

「映像分野では点群データを撮影現場のアタリとして用いたり、IBL(イメージベースドライティング)として利用することもある」(小宮氏)。

似たような技術で、フォトグラメトリを映像のシーン設計に活用する場合もあるという。SNS等で点群を用いた表現が散見されることから、参加者も各分野やUE4での活用方法に注目している様子だ。

Q:各分野で今後活かされると感じるUE4の機能は?

「UE4は機能が豊富でどれも有効利用できると考えているが、特にComposureによるリアルタイムコンポジット機能には注目している。これまでゲーム内で動画にせざるをえなかった部分をリアルタイムで実現可能になるかも」(中村氏)。

「海外のニュース番組で気象情報等を扱う際に、デジタルセットとしてUE4を用いている例がある」(小宮氏)。

また、UE4のVersion 4.23ではMicrosoft HoloLensへの対応が予定されており、HoloLensのコンテンツ開発にUE4を利用する例が増加するだろうというパネラー陣の見解も示された。

Q:映像制作において、プリビズ以降の工程にリアルタイムレイトレーシングを用いることは可能?

「これまでDCCツールでプリビズのシミュレーションを行う際はカメラリグなどを制作する必要があり大変だったが、UE4ではマーケットプレイスでプリビズ用アセットが販売されており、併せてライティング計画も可能で非常に有効性を感じる。また現実世界でプリビズを行う場合は天候や日照など環境要素にも気を遣う必要があったが、UE4内でよりリアルなシミュレーションができることは画期的」(小宮氏)。

未知数の実力をもつリアルタイムレイトレーシングの今後の活用事例が期待される。

Q:映像を学ぶ学生がUE4を学習するメリットは? UE4を使えることに需要はある?

「UE4を用いた仕事は多数ある。映像分野に限らず多種多様な制作に関われる可能性がある」(中村氏)。

パネラーが共通して口にしたのは、UE4は目的ではなく手段であり、選択肢の1つにすぎない。ツールに囚われず、将来を見据えて学びを広げれば良いのではないか、ということだった。

Q:3DCG制作において技術発展が足りない工程、自動化されてほしい部分は?

「30年以上前から制作方法に劇的な変化がない、未だに頂点を編集して制作を行なっている」(坂井氏)。

「3DCGに共通して言えることだが、ファイルのフォーマットが発展途上で技術発展のネックになっているように感じる」(中村氏)。

「例えば紙に対して間取りを書き数値を与えれば自動でモデリングができるようになれば嬉しい。3Dのモデリングが建築分野の人間にとって参入障壁になっていると考えている。また、同じくファイルフォーマットの共通化を望んでいる」(梁河氏)。

「シナリオを読ませると物語が自動で出来上がってほしい(笑)。ビッグデータを活用して映像の盛り上がりをヒートマップで表し、制作に反映させることなどは既に行われているので、データを利用したしくみで制作が捗ると嬉しい」(小宮氏)。

他にも、UE4の出版業界での利用事例に関する内容や建築コンテンツ利用の方法など、ゲーム以外の業界での利用に関する質問がみられ、会場の関心の高さが窺えた。