誰しもが「自分も憧れたヒーローのようになりたい」という願望を抱いたことがあるはず。そしてヒーローの中でも、『ドラゴンボール』の孫悟空は、国を超えて、世代を超えて愛されている。本作は、漫画原作とアニメシリーズ『ドラゴンボールZ』の世界を追体験できる「悟空体験アクションRPG」という、まさに夢のようなゲームだ。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 260(2020年4月号)からの一部転載となります。

TEXT_最上真杜
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada(CGWORLD)

『ドラゴンボールZ KAKAROT』好評発売中
プラットフォーム:PS4、Xbox One
※Xbox Oneはダウンロード版専売
ジャンル:悟空体験アクションRPG、価格:7,600円(税別)※ダウンロード版同価格/プレイ人数:1人、CERO:B区分、開発:サイバーコネクトツー、発売元:バンダイナムコエンターテインメント
© バードスタジオ/集英社・フジテレビ・東映アニメーション
© BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

「原作の魅力を追体験できる!」その骨子を初志貫徹する

本作のコンセプトは、とにかく「原作体験」。アクションRPGとして、ドラゴンボールならではのド派手なバトル、そしてオープンフィールドの中で冒険できるといった、原作のストーリーをなぞるだけでなく、その世界に没入できるようになっているのが特徴だ。開発を手がけたサイバーコネクトツー(以下、CC2)では、2014年2月に代表取締役・松山 洋氏の呼びかけに応じた木本一輝氏と宮 田真依氏を中心とした有志の"部活動"として企画スタート(CC2としても異例とのこと)。そんな部活動で企画が練られ、バンダイナムコエンターテインメント(以下、BNE)に提案。そこからさらにBNEと共に企画を練り上げていき正式にプロジェクト化、その翌年には技術検証を主としたプリプロ版を作成。本制作に入る頃には100~150名程度の人員で取り組んでいたという。マスター提出がされるまで、様々な試行錯誤とブラッシュアップがくり返されたが、最初に掲げたコンセプトはぶれることなく完遂。「ドラゴンボールというビッグタイトルを扱うということで、全ての世代に違和感のないものをつくるのがすごく大変でしたね。悟空は最初から強いので、RPGとしてどのようにゲーム性に落とすのか、悟空の成長をどう表現するのか、終始考え続けました。物量もあったので、ある程度の自動化はしていたのですが、まだまだ効率的に制作するためのしくみとかフローを組み込む余地はありました。それらを解決して、クリエイターが制作に注力できるようにするのが今後の課題ですね」と、プロジェクトリーダーを務めた木本一輝氏はふり返ってくれた。

<前列>左から、ディレクター・穴井昭廣氏、プロジェクトリーダー・木本一輝氏、アシスタントディレクター・宮田真依氏/<中列>シネマティクアニメーター・魚川貴央氏、シネマティクアニメーター・大財強平氏、VFXアーティスト・大塚航輝氏、背景モデラ―・島川大輔氏、キャラクターアニメーター・藤井理恵氏/<後列>VFXアーティスト・鬼橋 潤氏、キャラクターモデラ―・久保良一氏、テクニカルサポート・芦塚慧祐氏、テクニカルアーティスト・小田一宏氏。以上、サイバーコネクトツー
www.cc2.co.jp

プリプロダクション

本作のビジュアルコンセプトは、次の3点。
1.『ドラゴンボールZ』らしさ
2. わかりやすいリッチ感
3. ゲームならでは


......一見、相反するベクトルをキャラクター、シネマティクス、エフェクト、背景の融合で実現することを目指した。

彩色の検証

開発初期の、漫画のタッチの良さが出るような画づくりを目指していたときのもの。カラー原稿の塗り方や、紙質のざらつき感、重ね塗りの際にできるにじみなど、原作者・鳥山 明先生の絵柄を追求したという。だが、実際に動かしてみると、近景と遠景の情報量がゲームとして上手く成り立たなかった。そして、ざらつき表現はスクリーンスペースのため、画面が動いていてもその挙動に合わせて動かず、違和感が大きかったそうだ。最終的に漫画調の画づくりから、アニメ原作の良さを融合させたビジュアルへとシフトした結果、本作のグラフィックが誕生。「ビジュアルコンセプトとゲーム性の融合に苦労しました。プレイした人の思い出が拡張されるポジティブな感覚になる世界観づくりを目指した結果、今のルックになりました」と、開発ディレクターを務めた穴井昭廣氏

初期に試作されたイメージ動画

プリプロ時には、ゲーム性をイメージしやすくするために「誰もが憧れる悟空の超絶パワーを完全体験できるゲーム」をコンセプトとした動画が制作された。1ヶ月という短期間で制作されたものの、「広い空間で思いっきり敵を吹き飛ばして闘える豪快なバトル」、「フィールドを使ったゲーム性」、「フィールドの変化や破壊」など、大事にしたい要素のイメージが共有できるようになっている

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キャラクターモデル

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キャラクターモデル

原作漫画とTVシリーズ『ドラゴンボールZ』のビジュアルを融合することで、本タイトル独自の新たなビジュアルを実現。それと並行して、キャラクター総数とバリエーションを効率的に管理するためのワークフローが構築された。

プレイヤーキャラクター(孫悟空)の完成モデル

孫悟空の完成モデル



  • 完成形(シェーダ、ポストアウトライン、ライティングあり)



  • ライティングなし



  • テクスチャの基本色のみ



  • ポストアウトラインのみ

ワイヤーフレーム。頂点数は36,278。ポリゴン数(三角)は41,128。ボーン数は338。マテリアル数は11。セルシェーディングは、ディファードレンダリングにて実装されている。衣装デザインやヘアスタイルによる差はあるが、メインキャラクターはバトルで一度に登場するキャラクター数を加味して、おおよそ3~5万ポリゴンを指標としているという。なお、最も多かったのは超サイヤ人3の悟空で、ポリゴン数は51,270とのこと。「自分も子供の頃から観ていた原作なので、このプロジェクトに参加できたことが嬉しかったです。絶対にファンの期待を裏切ることはできないというプレッシャーを感じながらも、納得できるクオリティに仕上げることができました」と、キャラクター制作をリードした久保良一氏

主要テクスチャ

悟空の主なテクスチャ例



  • ボディ(肌)用ディフューズ



  • 衣服用オクルージョン



  • 髪の毛用ノーマル



  • 衣服用ディフューズ。サイズは基本的には2,048×2,048か1,024×1,024で作成し、Unreal Engine 4(以下、UE4)に読み込む際にサイズを圧縮している

UVマップ

UVマップは用途ごとに次の4つに分けられている



  • マップ1:ディフューズ(オクルージョンとノーマルも同じカテゴリ)



  • マップ2:ライン描画用



  • マップ3:ダメージ表現用



  • マップ4:ポストアウトライン調整用。ノーマルを使用している部位は少なく、悟空やベジータの髪の毛、サイヤ人アーマー等に使われている程度とのこと

ダメージ表現

擦り傷や汚れを表現するハッチングの表現は、汎用のダメージテクスチャを段階に応じて表示



  • ダメージなし



  • ダメージ3(最大)



  • ダメージ用テクスチャ(その1)。ダメージパターンをタイル上に配置したもの。高解像度のため、メモリ節減のために全キャラ共通の汎用テクスチャにされてい



  • ダメージ用テクスチャ(その2)。【画像左】をマスクするためのもの。ダメージ表現を3段階で表すために、各ダメージパターンが格納されている場所と同じ位置にRGB情報を格納。そのカラー情報を参照して段階ごとにどのパターンを表示するかの判定を行なっている。どの段階でどこにダメージを表示するかはアーティストがUVを調整することで設定している

NPC(ブルマ)完成モデル

フリーザ編に登場するブルマ(NPC)完成モデル



  • 完成形(シェーダ、ポストアウトライン、ライティングあり)



  • ライティングなし



  • テクスチャの基本色のみ



  • ポストアウトラインのみ

ワイヤーフレーム。頂点数は15,452。ポリゴン数(三角)は20,654。ボーン数は254。マテリアル数は7。NPCも衣装のデザインやヘアスタイルによる差はあるが、15,000~28,000ポリゴンを指標として作成されている

モブキャラ完成モデル

モブキャラ「中肉中背の男性」の完成モデル



  • 完成形(シェーダ、ポストアウトライン、ライティングあり)



  • ライティングなし



  • テクスチャの基本色のみ



  • ポストアウトラインのみ

ワイヤーフレーム。頂点数は5,018。ポリゴン数(三角)は4,332。ボーン数は56。マテリアル数は3。モブキャラは、街に多数登場するため、5,000前後を指標として作成された



info.

  • 月刊CGWORLD + digital video vol.259(2020年3月号)
    第1特集:ハイエンド・ゲームグラフィックス 2020春
    第2特集:CG×ファッション
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2020年3月10日