11月3日に開催された「CGWORLD 2019 クリエイティブカンファレンス」。ここでは、大友克洋監督の最新作『ORBITAL ERA』制作の中核スタッフYAMATOWORKSの取締役であり、第86回米国アカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされた『九十九』でCGI監督を務めた坂本 隆輔氏による、CGアニメーションにおける重要なポイントの講義の模様をリポートする。

TEXT&PHOTO_石坂アツシ / Atsushi Ishizaka
PHOTO(メインカット&登壇者)_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

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坂本氏はまずアニメ制作における主な工程の説明をし、その中でCGアニメーションの重要なポイントとなる要素を自身のつくった作例を参照しながら解説した。ここからは坂本氏の解説したポイントを抜粋して紹介する。

坂本隆輔 氏(YAMATOWORKS 取締役、アニメーションディレクター)/1984年、神奈川県生まれ。2006年、アニメーション制作会社SUNRISEにて日新カップヌードルとのCM、OVA企画『FREEDOMプロジェクト』にてリードアニメーターとして活躍。その後数々のOVA、MV制作に携わる。2010年、オムニバス作品『SHORT PEACE』全作品に参加。CGI監督として参加した『九十九』が文化庁メディア芸術アニメーション部門並びにアヌシー国際アニメーション映画祭2012コンペに選出され、第86回米国アカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされる。2012年、『FREEDOM』、『九十九』の監督、森田修平と共にYAMATOWORKSを法人化。以降、機動力のある会社をコンセプトに少数精鋭のアニメーション制作会社として数々のテレビ、CMPV、劇場のなどのCGアニメーションを制作している

YAMATOWORKSは「機動力のある会社」をコンセプトに数々のテレビ、CMPV、劇場のなどのCGアニメーションを制作している

<1>カメラ

まずは「カメラ」。このポイントは大きく分けて2つあり、ひとつはカメラのレンズ、もうひとつはカメラワーク。まずはカメラのレンズ設定だが、例えばCGキャラクターをアップで映す場合、カメラ設定に広角レンズを使用すると顔にパースがついて広がって見えてしまう。したがってアップショットでは望遠レンズを選ぶとフラットな顔になる。次にカメラワークだが、絵コンテなどで使われるカメラワークの種類をしっかり理解することが必要と述べた。具体的には、カメラを固定する「FIX」、カメラを振る「PAN」、カメラと被写体との距離を変える「Track」、被写体の動きを追いかける「Follow」などで、それに上下左右、速度、近づく、遠ざかる、などの要素が用語として加わる。さらに複雑なカメラワークでは複数の動きが組み合わさることもある。なので、これらの意味をしっかり把握していないと演出意図を正しく映像にすることができない。

カメラは焦点距離によって見え方がまったく変わり、パース消失点の位置によっても印象がガラリと変わってくる

コンポジット時にカメラの動きをつける場合はコンポジション内でカメラの動きの指示が出る場合もある

<2>キャラクターの表情

次はキャラクターに表情をつける際のポイントを解説。キャラクターに喜怒哀楽の表情をつける際は表情筋の動きを研究するべきで、そのために資料を見たり、鏡で自分の表情を確認すると良いという。また、顔の角度による輪郭や眉、目、鼻の距離の黄金比があるので、それも意識するべきと述べ、様々な角度から見た表情の作例を見ながらキャラクターのアウトラインやパーツの位置を意識しての表情のつくり方を解説した。またナチュラルなポーズでは、キャラクターがどれくらいの感じで息をしているのか? 声を出しているとしたらどれくらいの大きさで声を出しているのか? というイメージをもつとリアルになる。

YAMATOWORKSでは何人かのスタッフがシーンを演じ、その中から選出された表情がCGキャラに採用されるというユニークな手法をとっている

『L.S』Pilot Film

『L.S』Pilot Film 3DCG Breakdown

<3>キャラクターのポージング

キャラクターのポーズには筋肉の影響もあるので、ポージングをするときは単にボーンを曲げるのではなく、移動、回転、スケールを駆使してポーズを「絵」として成立させていく。また、ポーズで顔の次に目が行くのが手なので、手の形はとても重要である。基本となるパーとグーで力の入り方のニュアンスをどれくらい細かくつくれるかが大切になる。もうひとつ重要なのが重心で、ポーズをとっているときの体の重心はどのようになっているのか? 軸足が左右どちらなのか? を意識する。それは腰や足が写っていないバストショットでも同様で、重心を意識することによりポーズの説得力が格段に上がる。

<4>キャラクターの特徴を捉える

個々のキャラクターに個性をつけるために、例えば複数のキャラクターが同時に動いているときはポーズがかぶらないようにする、ポーズのタイミングをフレーム単位でずらす、といったことが効果的で、喜怒哀楽の表情をつけるときはそのキャラクターの声をイメージするとよい。

YAMATOWORKSが制作したキャラクターたちにそれぞれの個性に応じたポーズをつけた例

<5>動画について

動画はアニメーションを豊かにする。原画の間を埋めることが基本だが、単純な中割りではなく、動きのタメツメ(緩急)をつける。方法としては実際より多いフレームで中割りして、その中からポーズを選んでキーフレームに設定したのちフレーム数を元に戻してタメツメをつくる、といった手法がある。

さらに、振り向きの動きを「通常」、「怒り」、「恐怖」、「喜び」の4パターンで作成したものを見比べながら、そのポイントを解説した。

最後にアニメーションのフレームレートについて解説した。コマ数の少ないリミテッドアニメーションの動きにも違和感を感じないのは、これまでの日本のアニメーターたちが動きの情報整理とそぎ落としを行なって少ないコマ数でも感情移入できるようにしたからであり、そういった努力や技術を今後のCGアニメーションに関しても忘れてはならないと坂本氏は言う。CGアニメーションの表現力はまだ発展途上なので常に好奇心をもつことが必要であり、アニメーションはチームでつくり相互作用で輝くものだということも忘れてはならない。

アニメーションの中割りの説明では実際にフレームレートのちがう動きを見比べながら説明が行なわれた

さらに坂本氏は、CGアニメーターに必要な能力は役者であることだと言う。「存分に自分で演技してみてください。その自分の演技、芝居を100%画面に投影させることがアニメーターにとって最大のアプローチだと僕は考えています」と語りながらアニメーターに必要と思われる要素を画面に出すと、画力、造形力、観察力、洞察力、判断力..と数かぎりない。「考えたらいっぱい出てきちゃって」と苦笑する坂本氏だが、「この中から自分の強みを見つけてそこを自分の長所にして伸ばしてください、そしてそれが他人に評価されるようになればワンステップです」と、CGアニメーションに興味があり活躍したいと思っている受講者にエールを送ってセミナーの幕を閉じた。

YAMATOWORKSが参加する大友克洋監督の最新作『ORBITAL ERA』は今後も制作過程をレポートし続けたい