今年6月に発売された学園ジュブナイルRPG『Caligula2』(PS4/Nintendo Switch)。刺激的なシナリオと独自のバトルシステムで話題となった『Caligula -カリギュラ-』(PSVita)から続く、シリーズ最新作だ。開発に当たったのはUnreal Engine専門デベロッパーのヒストリア。今回は同社ならではの開発秘話とこだわりを取材した。

TEXT_石井勇夫
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
© FURYU Corporation.

『Caligula2』ゲームプレイトレーラー

  • 『Caligula2』
    ジャンル:RPG
    発売元:フリュー
    開発元:ヒストリア
    プラットフォーム:PS4、Nintendo Switch/Lite
    価格:初回生産限定版 14,800円(税込16,280円)/通常版 7,980円(税込8,778円)
    リリース:発売中
    https://www.cs.furyu.jp/caligula2/

日常感ある仮想世界にMVがながれるバトルシーン
独自の世界観を突き詰めた『Caligula2』の世界観

『Caligula2』(PS4/Nintendo Switch)は2016年に発売された第1弾RPG『Caligula -カリギュラ-』(PS Vita)から始まり、2018年のアニメ化、リメイク強化版の『Caligula Overdose』(PS4/Nintendo Switch/PC)の発売を経て、今年の6月に発表されたシリーズ最新作だ。前作から引き続き現代病理をテーマにした刺激的なストーリーはそのままに、本作では新たにバトル中にながれる楽曲のMVが背景に表示される演出が導入された。2009年からゲームをつくっているパブリッシャーのフリューとしても、初めて『2』のつく続編であり、継続したシリーズ化を目指して力をいれている作品だという。

開発を担当したのはUnreal Engine(以下、UE)のエキスパートでもあるヒストリアだ。初めて「カリギュラ」シリーズに参加した前作『Caligula Overdose』では、第1作『Caligula -カリギュラ-』のデータをUE4に移植しての開発だったが、本作では満を持して始めから全てUE4で開発している。「カリギュラ」シリーズは仮想世界が舞台の話だが、現実と同じように人々が生活する世界が存在しており、主人公もその世界の中の1人として、他の人々と一緒に生活しているという日常感が開発のキーワードとしてあったという。

  • 制作ディレクター:佐々木 瞬氏(ヒストリア)

「前作から戦闘が特徴的でおもしろいシステムだと思っていましたが、『Caligula2』ではそのエッセンスを残しつつ遊びやすくしていきました」と制作ディレクターの佐々木 瞬氏(ヒストリア)は開発の方向性を語る。テーマとなる音楽とバトルとの融合を強め、さらに戦略性を高めてゲームとしての面白さが再構築されている。戦略を立てて敵を思い通りにはめたときの爽快感が本作バトルの大きな魅力だ。

  • プロデュース・企画・シナリオ:山中拓也氏(フリーランス)

楽曲をゲームの軸にすることについて、プロデュース・企画・シナリオを担当した山中拓也氏は「第1作を発売した2016年の頃からファンの声も強く、続編が望まれた作品です。いわゆる"ボカロ曲"を主題にするのは早いもの勝ちなところもありますし、それをゲームで扱う責任もあります」と思いを語る。ただ単に流行りものに飛びつくのではなく、その界隈に対しての責任や貢献も考えて本作は制作されているのだ。今回はこうしたバトル中の演出をメインにメイキングを紹介する。

  • アートディレクター・黒澤徹太郎氏(ヒストリア)

UE4の特徴を活かした効率的で柔軟な制作体制

第1作『Caligula -カリギュラ-』のデータを引き継いでいた『Caligula Overdose』とはちがい(※)、本作では初めからUE4での開発手法にのっとって、全て新規でつくり上げている。「UE4だとアセットの扱いが自由なので、例えば線路もスプラインに沿って伸びたり変形したりできます。そのしくみもアーティストの方でつくっているのがヒストリアっぽいですね」とアートディレクターの黒澤徹太郎氏。そのほかにもライトを並べるなど、様々なしくみをアーティストがつくっていたという。

※『Caligula Overdose』の詳しいメイキングについては、『ゲームグラフィックス 2018』(ボーンデジタル)で解説しています

大規模なゲーム開発であればエンジニアが携わるところだが、こうした中小規模でアーティストが自らしくみをつくって効率化していくのはUE4の特性を生かした制作方法といえるだろう。アーティストだけではなく、プランナーも様々な部分でしくみを作成している。。

背景制作の面では、前作ではできなかった表現も取り入れている。例えば、吹き抜けがあったり、階下を見下ろしたりといった高低差の表現を積極的に使うなど、単純で箱のようなフィールドにならないように工夫がされている。

ワークフローの面でもUE4の特徴を活かしている。そのひとつとしてコンセプトアートや平面図を作成した後、グレーボックスを配置するのではなく、色の付いた大雑把な形状をした仮モデルをUE4にインポートして、全体をイメージできるような粒度で制作を進めている。完成したアセットしかゲームエンジンに入れない会社もあるが、ヒストリアでは早い段階で仮モデルを配置して確認をしていくフローを採用。いわゆるPDCAを早く回す現代的な方向性が採られている。また、こうした早めの確認によって、適切なマップの広さの把握にもつながったという。本作ではリアリティを出そうと天井を低くしたらカメラがキャラクターに寄りすぎてしまったり、同様にリアリティのために道の幅を狭くしたら敵とエンカウントしやすくなり過ぎることが判明するなど、早めのトライ&エラーで洗い出せた改善点も多い。

また、UE4では建物の室内を窓越しに見るインテリアマップなどで比較的容易にディテールアップができる。インテリアマップのためのマテリアル関数など、ゲーム制作の環境が整っているので最小限の手間とリソースで構築できる点が強みだろう。なお、UEのバージョンは途中で何回か上げつつ、最終的には4.24をベースとしている。

Unreal Engine 4による開発トピック① ~スプラインメッシュ

▲スプラインメッシュを使用して配置した線路の作業画面とノードが組まれたBlueprintの画面。直接アーティストがしくみをつくれるのがUE4とヒストリアの強みだ

Unreal Engine4による開発トピック② ~インテリアマップ

▲マテリアル関数により容易にインテリアマップを制作できる。ゲーム制作者向けの環境が整っているのもUE4ならではだろう

Unreal Engine4による開発トピック③ ~色の付いた仮モデルによる確認

▲ラフモデルをUE4にインポートした様子。単色のグレーボックスよりも早い段階で雰囲気がつかめるのがわかる

前作からの変更された天井高

▲天井高は前作『Caligula Overdose』よりも低く設定している。しかし、現実的な高さにするとカメラアングルが俯瞰になったときに問題となるため、バランスをとっている

バトルフィールドにMVを表示することで仮想世界を表現

本作の大きな特徴は、作中のバーチャドールが歌う楽曲がながれるバトルだろう。背景に表示されるMVはバーチャドールが支配している世界から抜け出せない雰囲気を表現しているという。この背景にながれるリリックなMVは10種類あり、実際に"ボカロP"と呼ばれるコンポーザーたちに依頼して制作している。

このMVを背景に表示したバトル演出のねらいを「その画を見たら『Caligula2』だよねという画面をつくりたかった。MVがながれた中で戦うゲームなんてないですから」と佐々木氏は語る。今までにないものをつくることで、『Caligula2』のブランドを確立したいというねらいがあったという。とはいえ、最終的な演出にたどり着くまでは多くの試行錯誤があった。初めはそのままストレートに背景でMVを使おうとしたが、画面がうるさくなってしまうのではないかと懸念して、隙間から見える程度にしたり、割れた鏡の破片に写るだけにしたりと、様々な試行錯誤を繰り返したという。結局、最終的にはMVを特徴的に強く出すために、後ろにそのままながすことに落ち着いた。しかし、背景にただMVをながせばいいというわけではなく、ループポイントを設定したり、切り替えのためバックグラウンドで複数ながしておいたりと、MVの再生は地味に苦労したという。

一方で、MVをつくる側も、通常このような使われ方はしないため、仕様を合わせるために苦労したという。MVを制作したボカロPも山中氏の知人で、何度か一緒に仕事をしているため、コミュニケーションがとりながら、問題を解決していった。

ボス戦についてはMVをながすのではなく歌詞が揺らめきながら立ちのぼり、バトルと音の同期表現に挑戦している。「歌詞の特徴的なワードを拾って、気持ちがあふれるような表現を意識しています。ヒットすると近くの文字が揺れたり大きくなったりします」(黒澤氏)。BGMがリミックスバージョンということもあり、通常のバトルよりも緊迫感があるボス戦にマッチした演出だ。

そのほか、バトルシーンの演出には地面をスクリーンに見立てて文字が表示されるという、モーショングラフィックス的な要素も意識して採り入れている。UIも同様で、デジタルな空間の中で戦っている雰囲気をどうやって出すかがポイントだった。「この作品はシステム的な理由と表現したいモチーフが一緒になっている珍しいゲームだと思います」と黒澤氏も語るように、通常のゲームではシステムと表現のどちらかを割り切ってしまうことも多い中で、ゲームの統一した世界観が確立しているのは本作の特徴だろう。

MVやモーショングラフィックスが浮かぶバトルフィールド

▲バトルフィールドを俯瞰から見た図。MVが表示され、さらにその外側はボロノイを視差に用いた屈折処理が施されている(この画像ではボロノイの屈折はわかりやすいように強くしてある)。バトルフィールドは円柱でくり抜かれ、邪魔になるものは見えないようになっている

▲MVが表示されているバトル画面

▲床に浮かぶバトル中の文字。モーショングラフィックス感を意識している

キャラクターのユニークな内面を表現するモーションとエフェクト

バトル中のキャラクターの特徴は、山中氏から提示されたパラメータや性能表などが書きこまれたテキストのコンセプトをベースに、ヒストリアが膨らませるかたちで制作された。テキストに書き込まれた数値が簡潔に山中氏の頭の中を表しているのがわかり、開発側は理解しやすかったという。「開発に全てを任せると、こちらの様子をうかがいながらになって進度が遅くなってしまいがちです。だから、多少乱暴でもはっきり明示おくことが大事です」と山中氏。一方的で理不尽な指示ではなく、きちんと理由も明記してあったため開発側も納得しやすい指示内容だったという。

本作でパーティーに加わるキャラクターは主人公も含めて9人。全員異なる武器を持っているが、前作でメジャーな武器を使い果たしていたこともあり、変わった武器が多い。例えば主人公は刃の短いナイフを使っているが、「ナイフのようにリーチが短い武器だと格闘色の強いアクロバティックな動きになる」と、具体的な動きはヒストリア側で考えた。

「僕の方で、動きに王道ではないこだわりがあるのでご面倒をかけてしまったという自覚はあります(笑)」と山中氏が言うように、アクションひとつひとつにキャラクターごとに内面に抱えているユニークなバックボーンがあり、企画側のキャラクターへの『愛』があるという。一例として、編木ささらというキャラクターは薙刀を使うが、一見すると攻め込む印象の強い武器でも、彼女は前に出てチームを守るタンク的な役割をする。その行動の理由には、「自分を犠牲にしてでも仲間を守りたい」という彼女のキャラクター性が関係している。

エフェクト制作については、当初はコスト削減のため、汎用的なものを組み合わせて構築しようとしたという。しかし、制作の途中で上手くいかなくなり、全てつくり直すことに決めた。複数が入り乱れて戦うシステムということもあり、エフェクトにはどのキャラクターが攻撃しているかがわかるように色や形で特徴が付けられた。さらに、ずっと同じエフェクトで飽きられないように、後半ではエフェクトが強化されてプラスアルファの表現が足されていく。

エフェクトの表現ではキャラクターごとに具体的なモチーフが取り入れられている。例えば、釣巻鐘太は相手を束縛する技があるが、その技をエフェクトで表現するのは難しく、なかなか上手くいかなかった。その中で鎖をモチーフにして相手を束縛するような表現をつくったところ、視覚の上でもわかりやすく良い感じに仕上がった。その方向で、全てのキャラクターに稲妻、文字、火球、花びら、蝶などのモチーフを追加することになっていった。「やりたいことをやっていたら、エフェクトもどんどん豪華になって、技も増え大変でした」と笑う佐々木氏。開発には想定以上の労力がかかったが、内容には満足しているとのことだった。

キャラクターの内面を意識したバトル中のモーション

▲山中氏によるキャラクターのパラメータリスト。キャラクターの性能だけではなく、9人のキャラクター性を表す武器の選定理由も明示してあるため、開発側の理解が深まる

▲モーションの内容をスタッフに共有するためのラフスケッチ。キャラクターの動きには、それぞれ意味がある

9人のキャラクター固有のモチーフを採り入れたエフェクト

▲「さすまた」を武器として使う釣巻鐘太のエフェクトデザイン画(上)と実際のゲーム画面(下)。強力な技のときには束縛をイメージする鎖をモチーフにしたエフェクトが表示される

▲同様に、短剣の一種「マインゴーシュ」を使う月島劉都のエフェクトデザイン画(上)と実際のゲーム画面(下)。才能をイメージするルーン文字がモチーフとなっている

これまでの信頼関係を力に描き出した最新「カリギュラ」の世界

「ゲーム開発はコンテンツの規模や会社によって予算はまちまちで、このシリーズはまだ新しいシリーズのため予算をかけられない部分もありました。しかし、ヒストリアさんは前作を一緒に作り上げた経験や、ミドルウェアであるUE4などのツールを使いこなす力をもっていることで非常に助けられました」と山中氏はヒストリアの開発力を高く評価している。

一方のヒストリアは、むしろUE4に強みがあると頼りすぎてしまうので、本作ではコンセプトワークを重要視し、まずはコンセプトを文字に起こしたり、アートワークを描いたりするところから始め、制作スタート後、すぐにはUE4を使わないように心がけたという。「山中さんからいただいたコンセプトをもとに、本来表現したいものを考え、それを実現する技術としてUE4を活用しました」と佐々木氏はふり返る。

表現のひとつの指針となったのが、初めに山中氏が提示したコンセプトをビジュアルでまとめたリファレンスだった。これがあることで、常にぶれがちになる制作に筋を通せたという。「具体的に『これをつくってくれ』ということではないですが、こういうテイストでいきたいというイメージがあったのは助かりました」と黒澤氏。両者の良好な関係性が本作のクオリティを高めた要因だろう。

制作の指標となった山中氏によるアートイメージ

▲キャラクターのアートイメージ。本作では暗くなりすぎない、ぼやっとしたネオンカラーが本作の大きな指針となった

今後についてたずねると、現在の社会で描きたいものはすべて表現しおえ、今は特に次回作のことは考えられないという。ただ、プロデューサーの山中氏は「前作から『Caligula2』に進化するに当たって、現実でできないことをゲームでやろうと思って『2』をつくったわけではありません。リアルの"ボカロ界隈"の表現の進化に合わせて再現しています。だから、もしいつか『3』が出るときには界隈では新しいことをやっていて、それを再現した『3』ができる。リアルな世界がこうだから、『カリギュラ』の世界もこうなると、そういうものをつくっていかなきゃと思っています」と最後に締めくくってくれた。

ますます発展していくリアルな世界とシンクロしていく「カリギュラ」の世界。本シリーズの今後の展開が楽しみになる取材だった。