PSP 用ゲームタイトルのスピンオフ企画となる、アニメーション作品 『武装神姫 Moon Angel』 。本作の映像表現は、作画特有のルックスと3Dならではのダイナミックなカメラワークが見事に融合されている。本記事では、アクションパートの制作をリードした井野元英二 3D 監督(オレンジ)、森 賢特技監督、キャラクターデザインを手掛けた碇谷 敦氏の 3 氏に、3DCG をはじめとするデジタルの利点をフル活用することによって可能となった、"ジャムセッションのような即興的なアニメ制作 " について話を聞いた。

『武装神姫 Moon Angel』

3DCG を中心に据えたアクションパートの制作

『武装神姫 Moon Angel』(以下、武装神姫MA)は、PSP 用アクションゲーム 『武装神姫 バトルマスターズ Mk.2』(2011年9月22日発売)から派生したアニメ作品だ。その映像は作画に加えてトゥーン・シェーディング 3DCG を使用したハイブリッドな手法で、高いクオリティに仕上げられている。アニメーション企画は、2010年10月頃からスタート。まずはゲームタイトル用の OP と ED の制作から着手したそうだ。2010年内は、ほぼプリプロに終始し、年が明けた2011年 1 月~ 3 月にかけて PV も含めた一連の制作が行われた。そして、4 月から本編の制作が始まり、7 月に完成したという。


『武装神姫MA』オープニング。80年代のサンライズ制作ロボットアニメを彷彿とさせる映像表現が実に魅力的である

『武装神姫MA』のアニメーション制作は、OVA 『.hack//Quantum』OVA 『英雄伝説 空の軌跡 THE ANIMATION』 で知られる キネマシトラス がリード。そして、本記事で主に解説する 3DCG をフル活用したアクションパートの制作は、アニメCG の第一人者として知られる オレンジ が手掛けている。本作では、何らかの形で 3DCG が介在するカットが150近く登場するが、その内訳は 3D ベースのカットが 100 強、2Dベースに 3D 要素を加えたカットや 40 強とのこと。特筆すべきは、やはり前者であり、冒頭のフライスルーの戦闘描写(後述)など、10秒を超える長尺カットや大胆なカメラワークによるハイクオリティな CG アニメーションは「さすがオレンジ!」といったところだ。

3DCG カットの基本的なワークフローとしては、監督の作成した絵コンテを元に、オレンジがレイアウトを作成。その後、カッティング(絵コンテに沿ってカットを編集して各カットの長さを調整し完尺にする)に向けてアニマティクスのようなラフなアニメーションを作成した後、MA に向けて細かいディテールを調整。レンダリングしたカットに必要に応じてレタッチしたり、作画によるエフェクトを乗せながら撮影して完成......という流れになっている。

『武装神姫MA』場面写真1 『武装神姫MA』場面写真2

一般的にレイアウト作業は、絵コンテを作成したアニメ制作会社の原画担当が作成することが多いのだが、3D のウェイトが大きいカットについては、作業効率も加味してオレンジがプリビズを作成、演出チェックを受けた上でそのままシームレスに本制作に入られた。
「エフェクトに関しても、日頃からできる限りオレンジ内で作画するようにしているのですが、難易度の高いもの(外連味など豊かな感性が求められる表現など)については、特技監督の森さんに描いて頂きました。二度手間を避けるため、こちらでできる範囲まで作業してから森さんにお渡しするといった感じですね。同様に、キャラクターの表情などについてもキャラクターデザインを手掛けられた碇谷さんに適宜レタッチして頂きました」(井野元氏)。

特技監督を務めた 森 賢 は今回初めてオレンジと共作したそうだが、「アニメーションの勢いや、格好良さといった部分は井野元氏に詰めてもらっているので、毎回予想以上にクオリティの高いカットが上がってきます。今回は、僕の役割はあくまでも井野元さんをはじめとするオレンジさんが作ってくれた素材を活かして、さらにクオリティをアップさせるということでした。さながら他の人の演奏に、いかに自分の演奏をかぶせて統一感をだしていくかという、ジャズセッションのような感覚で仕事を進めていましたね」とふり返った。本プロジェクトでは、3DCG と作画のコラボレーションが非常に上手くいったことが窺える。

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ゲーム用モデルをブラッシュアップ〜キャラクター CG 制作

3DCG カットの主役は、アーンヴァルとストラーフという 2 機の女性型フィギュアロボ・武装神姫。アニメ版のキャラクターデザインを担当しているのは『Fate/Zero』他、数多くの作品で作画監督や原画を手掛けている 碇谷 敦 。ベースのデザインは、島田フミカネ のデザイン画を踏襲しているが、元々はゲーム開発向けに描き起こされたものだったため、アニメ用にアレンジする必要があったという。
「島田さんの作成したオリジナルのデザインには、コナミさんが非常に思い入れを持っているので、なるべく崩さないようにアニメ用に描き起こすのが大変でした。キャラクターデザイン表の作成には最大限時間をかけましたよ」(碇谷氏)。

アーンヴァル設定画 ストラーフ設定画

碇谷氏によって描かれた、アーンヴァル(上)とストラーフ(下)のアニメ用キャラクターの設定図。ゲーム版のキャラクターや、フィギュアを参考にしながら、アニメにあったキャラクターデザインに修正されている。手足にも少し丸みが追加され、よりも女の子らしいデザインに仕上がっている

神姫の 3D モデルは、ゲームタイトル用の既存 3D モデルをベースにアニメ向けにブラッシュアップする形で制作。その際、ゲーム用のモデルはローポリゴンで制作されておりディテールに乏しかったため、フィギュアなどを参考にしながら 1 体につき 3 ~ 4 週間かけて、リファインされた。

アーンヴァル ストラーフ

3ds Maxでモデリングされた、ゲーム用のアーンヴァル(左)とストラーフ(右)のキャラクターモデル。アニメ版ではキャラクターのデザインがリニューアルされたため、このモデルを元に、一部のパーツを新しく作りながら細部の形状が詰められた。最終的にアニメのキャラクターとして見栄えがするように、プロポーションの調整やパーツの位置調整が行われている

また、本編では武装パーツが外れた素体の状態も登場するので、手足などの細かい部分も新たに作成。セットアップは 3ds Max の CAT でリグ組みされている。これは、アニメ作品ではカメラワークによって体のパーツの形状やスケールを変更しないといけない場合が多いため、ボーンのスケール調整が可能な CAT が使いやすかったためだという。また、2体の顔に関しては、目や鼻など、一応モデリングされてはいるが、最終的には碇谷氏が作画した絵素材を張り替えて表現している。
一方、背景モデルに関しても、ゲームで使用していた背景の3Dモデルをもらい、ディテールが足らない部分などをブラッシュアップする方法で、作成されているそうだ。

アーンヴァル最終モデル ストラーフ最終モデル

オレンジによってリファインされた、アーンヴァル(上)とストラーフ(下)の最終モデル。デカールの部分もテクスチャで表現するのではなく、アップのカットでもアラが見えないよう、ポリゴンで作り起こされている。細かく面取りされているような形状には、ポリゴンのエッジにスプラインを配置し、Pencil+ で効果的にラインがレンダリングされるよう工夫されている

アーンヴァルセットアップ ストラーフセットアップ

アーンヴァル(左)とストラーフ(右)のセットアップ。基本的に CAT でセットアップされているが、機械的なパーツにはヘルパーをリンクしている。また、関節の形状に応じて、スキンとリンクを使い分けているそうだ。また、ストラーフについている大きな機械の腕のようなパーツは、演技にも関わってくる部分なので、CAT で腕のリグを追加。アーンヴァルの髪の毛は IK とスプリングの設定を施し、モーションに追従してなびくようにセットアップされている

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3DCG 主導のカット制作

3DCG によるアニメーションが多いアクションパートの制作では、前述した通り、絵コンテを元にオレンジが 3DCG 上でレイアウトを作り、カッティング用のアニメーション(アニマティクス)を作成、そこからブラッシュアップしていくことで 3DCG チームが中心となって進められていった。これは、オレンジの 3DCG 制作スキルの高さがあってこそ可能なワークフローといえるだろう。
「アナログのワークフローを導入して 3DCG へデータを渡す際にワンクッション置くよりも、井野元氏の発想をそのまま採用し、それを増幅する形で僕が 2D と馴染ませていったほうがうまくいくだろうと」と森氏。オレンジが、このようにアニメの制作現場で信頼を得ている理由は、3DCG チームだけでもある程度、作画の領域にまで踏み込んだ画作りができるスタッフが揃っているからと言える。

実際にオレンジでは、基本的に各カットの担当デザイナーがアニメーションからコンポジットまでを受け持つ体制を敷いており、3DCG をレンダリングした後の 2D レタッチも各担当者が処理するため、作画技術を持ったスタッフが多いのだとか。
同社ではこのような技術を身につけるためスタッフ教育が徹底されており、アニメーターが作成したレイアウトを使い、2年程、訓練を行う場合もあるのだという。クオリティの高さは日々の努力のたまものなのだ。

絵コンテ1 絵コンテ2 絵コンテ3 絵コンテ4 絵コンテ5 絵コンテ6 絵コンテ7 絵コンテ8 絵コンテ9 絵コンテ10 絵コンテ11 絵コンテ12

本編冒頭の空中戦シークエンスの絵コンテ(※クリックで拡大)。これらの絵コンテ(森 賢氏が作成)を元に、まず、カッティング用のアニメーション(アニマティクス)を作成していく。演出的な要素以外はラフに描かれているので、オレンジでレイアウトを具体化していくことになる 絵コンテ13


絵コンテを元に作成された、冒頭シーンのアニマティクス(前半)。アニマティクスではあるものの、非常にクオリティの高いアニメーションになっている。被弾などのタイミングを決めるため、エフェクトも入っている。このレベルのアニマティクスを10日間強ぐらいのスケジュールで作成したそうだ


同じく、冒頭シーンのアニマティクス(後半)

背景

背景は当初、全て 2D 美術で作成する予定だったが、ダイナミック感やスピード感を考慮して、工場を舞台にしたシーンでは 3DCG 背景に変更された。そのため大胆なカメラワークが可能になり、迫力あるカット展開が実現できたという。工場のモデルデータは、オレンジが過去に作成したストックを利用するなどして効率化が計られている

レイアウト

キャラクターのフォルムが複雑であるため、アクションのポーズ、シルエットが認識しやなるよう、部分的なパーツの変形など、見た目重視のレイアウト作成がされている。CAT によるスケール調整の他に、FFD モディファイアを使ったパーツのパース変形も多様されている

レンダリング

アニメ作品の CG キャラクターは、頭部(特に表情)を 2D 作画にした方が違和感がなく、制作も効率的だ。そのためカットによって、頭部を外してレンダリングしたり、作画した素材をコンポジットしやすいように素材を分けている


撮影処理を施した冒頭シークエンスの完成形(前半)。高速にカットが展開していく中、キャラクターやカメラがダイナミックに動いていく。「パースの誇張」や「動きのため」など、アニメの文法に沿って表現されているため、CG 特有のどこを見ていいのかわからない感じがなく、見ていて気持ちの良いアニメーションになっている


同じく、本編冒頭シークエンス完成形(後半)

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巨大神姫アテナのモデル変形

日本のアニメ作品では、ダイナミックな動きを表現するため、カメラに近い部分のパーツを大きく描いて表現するという独特なレイアウト手法が採用される場合がある。3DCG を使ったアニメーションでは、設定と同じ等身にモデリングしたキャラクターモデルを動かしアニメーションを作っていくため、単純にカメラのレンズを広角にしてパースを強調するだけでは、アニメ作品で使われるような外連味のあるレイアウトにはならない。

そこで、3DCG キャラクターのモデルは足や腕、頭部などの末端にあるパーツのスケールを自由に変形できるようセットアップすることが多い。本作でも多数のカットでこのパーツ変形によるダイナミックな映像が見受けられる。このようなパース表現は、ゲームや他の映像ではモデルの作り方がまったく異なるので、CG デザイナーに "アニメならではの絵心 " がないと、なかなか難しい表現なのだと井野元氏は語る。
「たとえ絵が描けなくても、どういうものが良くて、どういうものが悪いのかを判断できないと仕事をしていく上ではなかなか厳しいですね。アニメ的な絵心だったり、アニメ的な気持ちよさを感じるラインなど。うちのデザイナーたちにはそうした感性を養っていってもらいたいと考えています」。

3ds Maxカメラビュー 3ds Maxサイドビュー 3ds Maxトップビュー


クライマックスに登場する巨大神姫「アテナ」が後ろに倒れるカットの作業画面(上)とショットブレイク(下)。カメラビューを見ると、非常にダイナミックで格好良いレイアウトになっているが、トップビューやライト(サイド)ビューからみると、デフォーマで足を何倍にも伸ばしていることが判る。このような場合はカメラのレンズを広角にするのではなく、望遠に設定し、一部拡大したパーツにカメラを近づけることで、パース感を強調している

巨大神姫 巨大神姫 巨大神姫

巨大神姫の場合、スケールが大きいのでアップになることが多く、モデリングしただけでは、ディテールが足りない場合が多い。そのような場合は、別パーツとして、傷やしわをモデリングして配置している。手のシワなどは Sculptris でスカルプトした形状を、元のモデルに乗せている

線のレタッチ 線のレタッチ 線のレタッチ

オレンジではラインをレンダリングするために 3ds Max 上で Pencil+ を用いているが、線の太さが作画部分と 3DCG 部分で差が出てしまう場合があるとのこと。そのような場合は、作画のペイントデータを After Effects 上に配置し、比較しながら 3DCG 側の線の太さをレタッチで調整するそうだ


巨大神姫「アテナ」のディテール追加&ライン調整例(ショットブレイク)


同カットの完成形

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シンプルな技法で生み出す表情豊かな 3D エフェクト

アクションシーンの多い本作のようなアニメ作品で頻繁に登場する、爆発や煙、閃光といったエフェクト。その作画については、その大半をオレンジのスタッフが作成しているそうだが、一部、動きや絵的に難しいものに関しては、森特技監督自信が担当した。
アニメ作品の場合、煙や炎などのエフェクトを 3DCG ソフトで作成してそのまま使うと、ディテールがどうしても貧弱に見えてしまうため、「一度レンダリングしたアニメーションに、後から 2D でエフェクトを描き足してブラッシュアップすることが欠かせません」(井野元氏)。

エフェクト例1 エフェクト例2

ミサイルから出る煙などは、AfterBurn のようなボリューム系のシェーダは使用せず、球体をパーティクルで発生させてぼかしたりレタッチすることで、リッチな表情を持った煙を作り出すことに成功している。

その秘訣は、オレンジには 約 5 年にわたってミサイル表現に特化したエキスパートが在籍していいること。本作でも彼の功績が大きいと井野元氏は語っている通り、作画に負けない見事な 3D ベースのエフェクトを目にすることができる。描き足しの手法も、連番素材に直接上からペイントしていく方法や、エフェクトをループする状態で描いておいて、その素材を 3DCG に貼り込むなど、カットによって様々な使い分けが行われているそうだ。

エフェクト エフェクト エフェクト エフェクト エフェクト エフェクト

ミサイルの軌跡は、まず 3ds Max の Particle Flow を使用して、エフェクトのベースとなるパーティクルを球で作成。レンダリングして書き出した素材を、After Effects のエフェクト処理で煙のように加工している。カメラに近づいてディテールが必要なエフェクト部分は、デジタルペイントで加工し、合成する

着弾エフェクト 着弾エフェクト 着弾エフェクト 着弾エフェクト 着弾エフェクト 着弾エフェクト

地面に着弾する際のエフェクト例。このようにエフェクトに 3 次元的な空間構成が必要なものの場合、一度 3ds Max で位置関係を作成してからプラグイン After3dsMax(現在は開発終了している模様)を用いて位置情報を After Effects に読み込み、そのデータに別作成した着弾エフェクトの素材をリンクさせてカメラに追従させるようにしている

エフェクトBefore エフェクトAfter エフェクトBefore エフェクトAfter

制作途中の仮エフェクト(左列)と完成形(右列)の比較

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絵描きとしてのデジタル・アーティスト

オレンジが担当した 3DCG によるアクションシーンが、2Dの作画と見間違えるほど違和感なく仕上がっているのは、井野元氏を中心としたオレンジの CG デザイナーたちが 3DCG だけではなく、2D ペイントによる技法も積極的に勉強している姿勢の賜物である。
日本特有のアニメ的表現を 3DCG で再現する場合、Pencil+ などを使ってルックをアニメ風にするだけだと、どうしても違和感が出てしまう。その違和感の部分を CG デザイナーが自らペイントして補正していくことで初めて、3DCG を混ぜても違和感のないルックとなっていくわけだ。

なおデジタルペインティングを行う際、現在オレンジではワコム Cintiq(液晶ペンタブレット)に下画を表示させ、TVPaint Animation を使って画面に直接描いているとのこと。TVPaint は 2D アニメーション制作に特化したペイントソフトだが、作画機能に優れており、3DCG のレタッチやエフェクト作画に便利なのだという。

中盤に登場するスクラップ置き場におけるアクションシーン用の絵コンテ(小島正幸氏が作成)。この絵コンテを元にカッティング用のアニマティクスが作られた


前述の絵コンテから作成したアニマティクス。背景はまだ入っていないが、画面動を含め細かいアクションまで作りこまれている。ストラーフの動きはキャラクターの腕の他にメカ腕がついているので、4 本の腕の挙動を整理しながらわかりやすいアクションになるように調整する必要があったという


ムービーは、スクラップ置き場でのアクションシーンの完成映像。背景はすべて 3DCG で構成されている。背景に配置された車は、オレンジのストックモデルに、錆びた状態のテクスチャを貼って古い感じを出している。テクスチャは美術に発注して作成。クルマを選ぶ際は時代設定になるべく近い年代の車種が選ばれた

TVPaint素材例

オレンジが作成した TVPaint によるエフェクトの作成例(※別カット用の素材)。3DCG のエフェクトでは、フォルムが難しい場合、このように 2D ペイントでエフェクトを作成している。シンプルな(と言ってもかなり高度な作画であるが)エフェクトはなるべく社内で作成するように心がけているとのこと

2D と 3D の利点を最大限に融合させるために〜新たな日本アニメの制作スタイルの追求~

これまで、『武装神姫 Moon Angel』における 3DCG の実例の一部を紹介してきたが、2D 作画と 3DCG のコラボレーションとして、非常に得るところが多いのではないだろうか。

現在、日本のアニメ作品では、3DCG の利用が進み、ほとんどの作品で使われていると言ってもよいほどだ。しかし、3DCG をアニメ制作のワークフローに組み込むには、各社様々な試行錯誤が続いている状態である。演出や 2D 作画側の 3DCG に対する理解の浅さや、3DCG 側のアニメ表現へのスキル不足などが原因で、現場が混乱してしまうこともしばしばである。
しかし本作の特技監督の森氏、キャラクターデザインの碇谷氏と、3DCG を担当したオレンジの座組では、2D 作画のスキルも身に付けている井野元氏とオレンジをワークフローの中心に据え、そこから上がってくる素材に対して、素材の持ち味を壊さないよう、さらなる味付けを森氏と碇谷氏が施していくという、即興性の高いジャムセッションのような制作スタイルが、クオリティを高める上で大きな原動力になったと言える。

これは、アニメ業界にとっては井野元氏が語るように "3DCG に精通した演出家 " が待望されていることの裏付けではないだろうか。本作では、3Dと作画双方のエキスパートが少数精鋭で制作する方式が採られたためジャムセッション的な画づくりが実現したわけだが、例えば劇場長編のような大規模な案件の場合はより組織的にワークフローを構築する必要がある。そうした意味でも、3DCG に精通した演出家がコンダクタとなり、2D や 3D のパートをひとつの交響楽団のようにコントロールしていくことができれば、大規模な作品においても 2D と 3DCG の調和のとれた作品を生み出すことができることだろう。今後、そのような演出家が 3DCG 畑から現れるのか、それとも作画出身者から登場するのか誰にもわからない。しかし、実写映画の業界では山崎 貴監督など VFX 出身者が監督として、相応の成果を挙げているのは事実である。


『武装神姫MA』第1話(現在、無料で視聴可能)。ダイナミックな空中バトルが繰り広げられる冒頭シークエンスは必見だ

インタビューの最後に、井野元氏、碇谷氏、森氏の3人は一様に「今回の制作で蓄積したノウハウを活かせるように、是非またこの座組みでやってみたいです」と語ってくれた。大いに期待したいところだ。

TEXT_大河原浩一(Bit Pranks
PHOTO_弘田 充

『武装神姫 Moon Angel』中核スタッフ

『武装神姫 Moon Angel』中核スタッフ

左から、3D 監督/井野元英二氏(オレンジ)、キャラクターデザイン/ 碇谷 敦氏、特技監督/森 賢氏

『武装神姫 Moon Angel』

『武装神姫 Moon Angel』Blu-ray&DVD

価格:10,290円(Blu-ray、DVD共通)
企画・原案:鳥山亮介
原作:コナミデジタルエンタテインメント
アニメーション制作:KINEMA CITRUS / TNK
監督:小島正幸
<OP>
2D演出:重田 智
映像監修・コンテ:福田己津央

発売・販売:コナミデジタルエンタテインメント

http://www.konamistyle.jp/sp/busou_moon_angel/
©2012 Konami Digital Entertainment