2012 年 10 月から、満を持してテレビアニメ化された『ジョジョの奇妙な冒険』。12 月まで放送された Part1「ファントムブラッド」に続き、現在は Part2「戦闘潮流」がクライマックスを迎えつつある。25 年以上も描き続けられている大作の映像化とは......。本作のオープニングムービーを担当した神風動画の挑戦を紹介する。

原作ファンの熱い思いから生まれた
王道のオープニングムービー

荒木飛呂彦氏が 1987 年に週刊少年ジャンプで連載を開始した『ジョジョの奇妙な冒険(以下、ジョジョ)。2005 年にウルトラジャンプへ掲載誌を変えつつ、現在まで長期連載を続ける人気漫画である。シリーズの単行本は 100 巻を越え、累計発行部数は 8,000 万部以上という超ヒット作の『ジョジョ』は、これまでに様々なメディアミックスを果たしてきた。そして 2012 年、ついに TV アニメ化されたのである。

  • 神風動画 水崎淳平氏
  • 本作のオープニングムービー(以下、OP)を担当したのは、数々のアニメーション企画・制作を手がけている神風動画だ。最初に話が来たとき、「ジョジ......」と頭の3文字を聞いただけで「やります!」と即答したというのは、第1部の OP ディレクターを務めた水崎淳平氏<左>。水崎氏自身『ジョジョ』が大好きで、これまでにも本 OP のような漫画のテイストを盛り込んだ作品を数多く手がけてきた。初となる TV アニメの仕事については「前から『ジョジョ』だけはやりたかったので、仕事内容や納期も聞かずに即答しちゃいました。『ジョジョ』でなければ受けていなかったかもしれません」とふり返る。

作品の世界観を演出する重要な役割を担う OP。25 年以上の連載という長い歴史を持ち、学生から大人まで幅広い目の肥えたファンがいる『ジョジョ』を映像化するにあたっては、コンセプトの提案から行われた。原作である荒木氏の描く世界観を再現し、作品の面白さや魅力を存分に引き出し、かつ、特定の層だけではなく誰もが楽しめること。つまり「アニメの王道」であることが求められた。そこで、難しい技術を使って特殊なことをするのではなく、演出にこだわり、原作の世界観に合わせて現場の空気を変え、持てる技術やアイデアを絞って「神風の王道」ともいえる「アニメの王道」たる OP が実現されたのだ。

原作ファンもアニメからのファンも魅了するこの OP を神風動画がいかにして作り上げたのか、制作の舞台裏を紐解いていこう。

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©荒木飛呂彦/集英社・ジョジョの奇妙な冒険製作委員会

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ゆとりある制作スタイルが
ディテールへのこだわりを実現

第1部と第2部でスタッフも演出も変える

原作のツボをきちんと押さえた"アニメの王道"であることが求められた本作。神風動画では、原作の理解を深めるために、原作を知らないスタッフにコミックスを購入して読んでもらい、制作スタッフを交代することで第1部と第2部の世界観のちがいを表現した。

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「当時は『ジョジョ』を読んだことのないスタッフもいたので、会社で第1部のコミックスを購入して読んでもらったところ、自分で全巻揃えてしまったスタッフもいました。それだけ魅力のある作品なんでしょうね」と水崎氏。第1部では、原作のどのシーンを抜き出すか、原作のコミックスに付箋を貼って検討が重ねられたという

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<左>第1部、<右>第2部
スタッフの交代や制作スタイルを変えることで、第1部と第2部の世界観のちがいが表現された。


第1部
第1部では水崎氏が OP ディレクターを務め、吉邉尚希氏が演出を、永田 奏氏が 3DCG アニメーションを、鈴木理恵氏がデザインワークを担当。TV アニメ『ジョジョ』のはじまりを世間に知らしめるため、インパクトを与えることを目標とした、熱くて自由度の高い画づくりがされた。「ジョジョの血縁」、「DNA」をテーマに、ジョースター家の螺旋階段を舞台としてカメラワークなどに「回転の演出」が盛り込まれ、ジョナサン・ジョースターディオ・ブランドーという因縁の2人がお互いを呼び合う場面を中心として、嫉妬と確執が渦巻くドロドロした世界観を感じさせる構成になっている。ところが、回転の演出を採り入れたことであらゆるものを 3DCG 化せねばならず、膨大な作業量になってしまい、制作現場でもドロドロした雰囲気が出ていたそうだ。しかし「その雰囲気が作品に吸収され、結果として良い感じにダークな映像に仕上がったと思います」と水崎氏は語った。

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第1部の OP では、「ジョジョの血縁」や「DNA」の二重螺旋とジョースター家の螺旋階段を結び付け、回転の演出が多く盛り込まれた。キャラクターのモデリングは中村麻衣氏に依頼。美術設定や壁画、テクスチャなどは鈴木氏が担当している。外注も含め、全ての作業を日本国内で完結することにもこだわったそうだ

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螺旋階段の中央に配置された慈愛の女神像。舞台が回転する際の流線エフェクトは作画で描くとなると至難の業だが、3DCG を用いることで奥行きとスピード感のあるエフェクトに仕上がった


第2部
第2部では時代背景が変わり、主人公も世代交代して軽快な世界観へと一転する。そこで、主人公に合わせて制作チームも世代交代させることになった。OP ディレクターと作画を吉邉氏が、3DCG ディレクターを永田氏が、デザインワークを中野友愛氏がそれぞれ担当。原作の表現の広がりと柔軟さを見せることを目標に、配色をガラリと変え、モーショングラフィックスを多用してオシャレな感じを押し出している。また第1部の膨大な作業量の反省からワークフローを見直し、「気持ちのゆとりが画面に反映される」という信念の下、原作の制作スタイルに合わせて徹夜作業や休日出勤を禁止し、定時に来て定時に帰るという、日本の映像業界ではなかなかできない「通常勤務時間内での健全な制作」をやってのけた。気持ちにゆとりが生まれたことによって、最後の一筆一色のディテールにまでこだわりぬくことができたそうだ。

吉邉尚希氏 中野友愛氏

スタッフの世代交代が図られた第2部のディレクターを務めた吉邉氏<左>とデザインワークを担当した中野氏<右>。神風動画の作品で、水崎氏の手が完全に離れたのはこの『ジョジョ』OP 第2部が初めてだという

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第2部ではグラフィックデザインを前面に押し出した、原作が描かれていた時代のアニメコンテンツを彷彿とさせるようなシルエットの表現が多用された。シルエットだけで、どのキャラクターがどんな動きをしているのか表すのは難しかったという。また、ストーリーの舞台がアメリカからイタリアやメキシコなどに変わり、配色でもカラフルでオシャレな感じに仕上げられた

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スタッフ間で「永田祭り」と呼ばれている第2部の 3DCG による演武。「動きも表情も細部まで作り込んだことで、1枚として同じ絵はなく、キャラクターが生き生きと動いています」と永田氏。コマ送りで見ても1枚1枚が単体の絵として成立する、神風動画史上最高レベルのクオリティを成し遂げた

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同じく第2部より、永田祭りに対して吉邉氏が作画での表現を追求した「吉邉祭り」。シルエットによるスタイリッシュな主人公の演出とは対照的に、敵のキャラクターは荒々しい作画で描かれた。鉛筆で描いた原画をスキャンし①、アナログ感のある色味を出すための水彩風のマスク②③や目のマスク④、エフェクトなどの素材⑤を作り、これらを重ねて撮影している⑥。さらにブラーなどを追加して完成


©荒木飛呂彦/集英社・ジョジョの奇妙な冒険製作委員会

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神風動画が LightWave 3D を選ぶ理由

中小規模の制作環境で高いパフォーマンスを発揮

神風動画では、3DCG ソフトウェアに LightWave 3D を使用している。第1部、第2部を通じて 3DCG を担当した永田氏は、「LightWave 3D は、日本のアニメーション業界における制作規模や予算の中で最大限に能力が活かせるソフトウェアです」と言い切った。他の 3DCG ソフトウェアを使った経験もあるそうだが、それらのソフトウェアは緻密にワークフローを組むことで初めてポテンシャルを発揮する。つまり、ソフトウェアを活かすためには、きちんとワークフローを構築する必要があるのだ。「そこに時間や予算を費やすくらいならば、作品制作に注ぎ込みたいです」と永田氏は続けた。LightWave 3D を使うメリットはほかに、シンプルで動作が軽いこと、Ver.11 からセルエッジに対応したビューポート・プレビュー・レンダラー(VPR)によって、最終出力に近いものを見ながら作業ができることなどが挙げられた。

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レイアウトでアニメーション設定などの作業を行いながら、ビューポート上で最終レンダリングに近い画質でのリアルタイムな確認が可能になるというビューポート・プレビュー・レンダラー(VPR)機能。これにより、テストレンダーを行うことなく最終出力に近いものを確認でき、ストレスなく作業を進められたという

アニメ制作会社で LightWave 3D が制作ツールの選択肢から外れる理由については、アニメ寄りのシェーディングプラグインが用意されていないことだと水崎氏は補足した。その点、神風動画では After Effects を用いてセルルックを作り上げるワークフローが確立されており、LightWave 3D 単体でセルを描き出す必要はない。3DCG アニメーション素材を出力できれば良いのだ。

第1部の OP では原作を目指すという意図から、原作の漫画のコマからキャラクターが動き出し、スクリーントーンを使ったモノクロの漫画調と色の付いたカラーのセル調のキャラクターが行き交うという演出が取り入れられている。この演出では、After Effects を使った神風式コンポジットをはじめ、今まで神風動画が培ってきた様々な技術が威力を発揮。原作の雰囲気を忠実に再現した映像に仕上げられている。


【ジョナサンの素材】

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表情は Morph Mixer を使用して調整された

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キャラクターの法線情報①を元にライティング用のマスク②を作成。カラー情報③と合わせてテクスチャ④で陰影が付けられた。ほかにマスクも用意されている。目・金属⑤、肌⑥、髪⑦、キャラアルファ⑧

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原作のタッチとラインの再現にはかなりの時間が割かれた。タッチは粗く太い線のテクスチャ<上左>と細い線で描き込んだテクスチャ<上右>の2種類が、ラインは太さの違う3種類<下左><下中><下右>が用意された

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線の太さの強弱は、グレースケールのマスクを用いて AE 上で調整されている

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LightWave 3D で作成した素材は、AE を使用して最終セルに仕上げる。そのためには、エッジの強弱や陰影処理など多くのレイヤーが必要だ

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完成した漫画調のジョナサン〈左〉とセルテイストのジョナサン〈右〉。モノクロとカラーが行き交い、原作漫画のキャラクターがそのまま動き出すような映像は見応えがある


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カメラアングルとその裏側

動画コンテを基に完成イメージを目指す

本作は紙のコンテは使わずに、AE を用いて感覚的に作られた動画コンテを基に制作された。ミュージックビデオの制作経験を多く持つ神風動画だけあり、楽曲に合わせた映像制作はお手のもの。制作開始時点ではまだ仮歌であったものの、曲に合わせて動画コンテを作成することで、必要なカットをあらかじめ洗い出すことができたという。また演出面では、『ジョジョ』のストーリーをテーマに書かれた歌詞が参考にされた。

原作の魅力をいかにして映像に落とし込み、視聴者に伝えるか......求める表現を実現するため、様々な工夫が凝らされた。「荒木先生は、普段は緻密な絵を描いているのに、大事なシーンでものすごい顔になったりするんです。そういった原作の味を 3DCG でも要所要所に採り入れました」(永田氏)。画面で見たときにどのように見えるのか、完成映像を最優先に考え、キャラクターの頭をうしろに伸ばして変形させることで悲壮感を醸し出したり、膨張や伸縮を伴う細やかな演技でキャラクターの感情を伝えたり、画面から見えない部分では様々な試みがなされている。ここでは3つのカットを例に紹介していこう。

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第1部では、「ズキュゥゥゥン」という有名な擬音を採り入れようと、ディオとエリナ・ペンドルトンのキスシーンが制作された。このカットのためだけにエリナを 3DCG でモデリングしたというスタッフの情熱には驚かされる。望まぬ口づけに対するエリナの悲壮感を、後方にしぼむ背景と、頭部が後ろにすっと引かれていくエリナで演出。このカメラのドリーのような効果は、エリナの頭部を大きく変形させることで表現された

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「ズキュゥゥゥン」の擬音は、単に文字を画面に貼り付けるのではなく、1文字ずつ 3D 空間内に配置してバランスやタイミングを整えている

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第2部終盤に登場する、思いを堪えながら耐えるように叫ぶジョセフ・ジョースターのカット。カメラアングル①②からは気付かないが、二の腕や肩、上半身を膨らませてジョセフの忍苦を表現している④⑤。さらに、叫びに合わせて今度は二の腕のボリュームを戻して顎と首を伸ばすことで⑥、視聴者にジョセフの感情をより強く印象付けている③

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続いても第2部より、シーザー・アントニオ・ツェペリとジョセフの決めポーズ。荒木氏が描く原作のポーズは物理的に再現できないこともあるが、そのポージングこそが『ジョジョ』の魅力のひとつでもある。画面上から迫力が伝わることを重視し<上>、画面に映り込まない部分の造形は気にせず大胆に変形させて<下左><下右>独特のポーズがとられた。角度を変えて見るとシーザーの腕が激しく変形していることがわかる


©荒木飛呂彦/集英社・ジョジョの奇妙な冒険製作委員会

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既成概念を打ち破り、様々な手法を採り入れる

効率化と表現への飽くなき追求

3DCG の作業量が非常に多かった第1部では、警官隊を 3DCG でイチからモデリングする時間の余裕がなかったという。そこで、アートディレクターの鈴木氏(写真右)に警官の絵を描いてもらい、これを 3D 空間に取り込み、ライティングから生まれる影やパース感を出すために、絵に沿って立体的に押し出してモデルを作成。警官には銃を撃たせなければいけなかったので、押し出したモデルにほかのキャラクターの腕を貼り付け、それらしく見せることに成功した。「実験的な挑戦でしたが、面白い取り組みになりました。自分でも気に入っているシーンなんですよ」と永田氏(写真左)は振り返る。

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第1部、第2部を通して 3DCG を担当した永田氏<左>と螺旋階段や壁画、キャラクターのテクスチャも手がけた第1部アートディレクターの鈴木氏<右>

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鈴木氏が描いた警官のイラスト。腕は後から 3DCG で加えるため、イラストでは描かれていない。なお、端の警官をこっそり「ジョジョ立ち」させているのは吉邉氏のオーダーとのこと

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鈴木氏が描いた絵を押し出し、ほかのキャラクターの腕を貼り付けて警官を作成<左>。カメラアングルからだと押し出したモデルだとはまったく気が付かない<右>

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このカットでは、石仮面を被って人間を超越したディオを演出するため、素早く跳ぶ銃弾をスローで動かし、リアルな金属の質感で表現された。全編を通して漫画調で描かれている中で、この銃弾だけを唯一リアルに描くことで、ディオの変化を強く印象付けている


第2部では、物語の鍵となるエイジャの赤石が登場する。この赤石は、作画のようなスタイリッシュなハイライトと 3DCG によるリアルな映り込みの両方を取り入れることになったのだが、3DCG の赤石にどのようにして作画のハイライトを取り入れるかが問題であった。思案を巡らせて辿り着いたのが、携帯電話などの広告でよく使われる下図のような手法。その応用で試してみると、作画のようなハイライトを思い通りの場所に入れることができた。「3DCG のキレイさと作画の格好良さがうまく合わさったら良いなと思ったので、わがままに両方取り入れました」(永田氏)。目指す表現を追い続けることこそが、それを実現させる鍵なのかもしれない。

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第2部のラストのカットで登場するエイジャの赤石は、石自体に鏡の質感を設定し、周りに貼った宇宙の絵を映り込ませている①。石のハイライトは白い球体を反射させることで表現②③⑧。球体自体はレンダリングを無効にしてカメラに映らないようにしつつ、反射物としての影響は出るように設定した。この球体を変形させたり④⑤⑦、ときには赤石自体を貫いたりさせながら⑥、作画と 3DCG 両方の良さを取り入れたハイライトに仕上げられている。「エイジャの赤石のハイライトの動きは、"25 年前の作品が 25 年前にアニメ化されたらどうなるか"というイメージで、古き良きアニメを踏襲して作りました。手法が作画から 3DCG に変わっても、作る人間が世代交代しても、目指すものはブレていないんだということが伝われば良いなと思います」と永田氏は語った


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緻密に構築される神風動画流の演出術

持てるアイデアを注ぎ込み視聴者を楽しませる演出

本作では、LightWave 3D、AE のほか、Photoshop を使ってスクリーントーンを作成したり、写真を加工してアニメーションを制作したり、イラスト・漫画制作ソフトの CLIP STUDIO PAINT を用いて効果線の素材を出したりと、3DCG だけでなく必要に応じて様々なツールが併用された。何をどう表現し、どのように制作していくか、作業前の設計を大切にして、求める表現のために知恵を出し工夫をこらし、常に様々な試みを追求する神風動画だからこそ、限られた制作時間を有効に活用し、良質な作品を生み出すことができるのかもしれない。

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第2部でエイジャの赤石を掴もうと複数の手が伸びていくカット。このカットは手をデジタルカメラで撮影し、Photoshop で加工した素材を基に描き起こされた。まず、撮影した素材をビデオレイヤーで Photoshop に読み込み①、ワープ機能を使って②腕の形を歪ませる③。これに作画の陰影をデザインし④、陰影を塗り分けた素材を作成⑤。特殊効果などを加え、実写のようでありながら独特のパース感を持ち、同時に気持ち悪さのある生々しい手となった⑥


また、クレジットからは妥協を許さない神風動画の姿勢を見ることができる。フォントにまでこだわり、作風に合うものを求めた結果、格好の良いフォントを基に1枚1枚手描きで作成することにしたのだという。第1部では、このクレジットを4枚に1枚の割合で少し別の内容に差し替える演出も施された。まるで宝物探しのようで、見ている者の心をくすぐる演出だ。

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クレジットひとつをとっても妥協を許さない神風動画。作風に合うフォントに辿り着くまでには苦労があったという。格好良いフォントを参考に、形を崩しながらより作風に合うように自分たちでフォントを作成。第1部では4枚のうち1枚をオマケとして遊びを加えた内容に書き換え、第2部ではさらに進化させてクレジット自体にアニメーションをさせる演出が施された


ほかにも、原作からのファンならピンとくる、Part3 を連想させるイバラのシルエットが登場したり、背景に文字が書かれていたり、コマ送りで見なければ見過ごしてしまうようなネタがいたる所に仕込まれている。原作ファンはもちろん、TV アニメをキッカケに『ジョジョ』を見始めた視聴者にも楽しんでもらえるよう、考えぬかれているのだ。スタッフの真摯さと遊び心、そして作品に対する並々ならぬ愛が其処此処からあふれ出ている本 OP。ぜひその目で見て、細部までこだわられた演出、様々な表現方法と完成度の高さ、そして神風動画が作り上げた「アニメの王道」たる映像を確かめてもらいたい。

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視聴者を飽きさせないネタは盛りだくさん。例えば第2部では、原作の Part3 を連想させるイバラ<左>やあぐらのままジャンプするシーザーとシャボンのシルエット<右>など、コマ送りで見なければ気付かないような一瞬の演出にもこだわっている。このようなネタはまだまだあるので、探してみるのも面白い

TEXT_秋山謙一(イメージアイ)
PHOTO_弘田 充

TV アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』スタッフ

スタッフ

左から、永田 奏アニメーター、鈴木理恵アートディレクター、水崎淳平ディレクター、中野友愛アートディレクター、吉邉尚希アニメーター。以上、神風動画

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原作:荒木飛呂彦
ディレクター:津田尚克
アニメーション制作:david production
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